文結節(S-node)と否定の諸相

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文結節(S-node)と否定の諸相
高 tt 孝 二
(英 語 学 研 究 室)
現在,変形文法理論が当面している最大の問題点は、言語事実(linguistic facts)を出釆る
だけ多く説明する方向に進むべきか、一般化(generalization)をあくまでもFP4>に置いて、
sourceを少なくする方向に進むべきかというところにある。このことを考えるとき、変形規則
が、どのような条件の下で、どのサイクルまで通用範囲を許されるかという問題は、変形操作を
加えたあとの派生句構造の変容の問題と共に、言語理論の重要な研究課題であることになるO
(Ross (1967)は、変項(variables)の制限という視点から考察した貴重な論文である。 )本
稿は、 major category としての文結節(S-node)を主軸としながら、英語の否定構造につい
て論考しまうとするものである。ネクサス否定、特殊否定という二分法をとったJespersen
(1917、他)以来、否定の研究は、いろいろな理論上のわく組みの中で論究されて来ているが、
これらを頓を迫って再考することはいたずらに混乱を招くだけでの結果に終ってしまう。従っ
て、本稿では、 S, NEG等の結節点(nodes)を軸として、否定構造の問題点のいくつかに、
筆者なりにrefer して行くという姿勢を維持しながら考えることにする。変形文法理論内での
いずれの立場をとるにせよ、このnodesからのアプローチは重要であると考えられるからであ
り、最近特に注目されている題目の一つである否定構造の研究のcrucialな面に、筆者なりに
commitすることを願うからである。
(-)
Klima (1964)の価値は、変形生成文法における否定の研究の出発点となっているところにあ
る Klimaは、否定の研究卓とあたって、何を考察の対象とすべきかについて次のことがらを挙
げている。
a)否定(negation)の形式的特徴は何か。
b)ある項目(items)がnegativeとして形式上同じならは(例えば、 never と
not ever)、これらは文法的にどういう意味を持つかo
c) これらをどのようなモデルで説明するのが一番良いか。
これらは要するに、 「否定とは何か」という問題に帰着する。今、次の例を考えてみると、
a) Oh my God!
b) Yes, give praise where praise is due, I always say.
c) Who buys this damned thing?
これらは何等かの意味で「否定」の表現ではあるが、否定要素としてのNEGを含んではいない
ので我々の考察の対象とはならないO 否定の表現形式に共通に現われる形態素NEGは、しか
文結節(S-node)と否定の諸相(高橋)
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し、文法的意味的素性の東(bundles of grammatico-semantic features)としての音形を
持たない素性にまで及ぶという立場をとるとき、次の各例は否定文となる.
a) They doubt that I need ever consider the problem. (NEG+doubtdoubt) (161a)
b) She's too weak to have another child until after the operation.
(NEC+too-too) (161c)
c) He was against doing anything like that. (NEG+against-agraォサs」)
(214a)
これらに共通な、 negative feature としてのNEGは、その機能として、一定の範囲内で共通
な文法上の作用を及ぼしていることが上例から知られるが、 NEGの持つ`aHective'な面もと
りあげるとすれば、 <stupid, ashamed, reluctant, deHicult, odd>等の`adversatives'
を含む文も対象の中に入ることになり、
afraid [adversative]
鳩m¥
(
ashamed [adversative]
'proud
to talk about it, much less write about
)
it. (215f)
<unlikely, impossible, dislike, pointless, useless>等の否定接辞(NEG AFF)を伴う場
合も、当然、対象とならなければならない NEGの、このような種々相は、 Kuwahara (1972)
に従って、次のように整理することが出来る。
1) Logical NEGH-・「統語的に`not'等が現われて来ず、発話の脈絡上、否定的
意味を持つと解釈される場合。 (Who knows? Be damned if I do.)
2) Constituent NEG-・-<not, nobody, no one, none, nothing, never,>
のように、 NEGが構成要素として現われて来る場合。
3) Feature NEG--・一種の機能として出て来る素性としてのNEG この
featuresがSyntacticなものであるか Semanticなものであるかによっ
て、立場が分かれる。
この否定要素NEGが文中のどの部分を否定するかによって、文否定(sentence negation),動
詞句否定、副詞句否定等の構成素否定(constituent negation),語い否定(lexical negation)
の三つを設定することが可能となる。命題(proposition)全体を否定する文否定の判定基準と
してKlimaは次の三つのわく組みを設け、これを通過したものが文否定であるとする。
1) either-clauseが生ずることを許す (either-conjoining)
usually
Publishers will
(
always
reject suggestions, and
not
not
scarcely
hardly
writers will
never
accept them, either. (43)
seldom
rarely
この構造が生じるた馴こは、 base sentence (Sb)に等位接続されるappended sentence (Sa)
文結節(S-node)と否定の諸相(高橋)
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が( 1円のような否定辞(negative pre-verb)を含んでいなければならない。
このことを要約すれば、 Sb-and-Sa-eitherのように示されるが、このSbとSaの噸序
_ニー_ ..・二_.
NEG
を逆にすると、次のような非文法的文となる。 (等位接続された後半の文は文否定にならないこ
とになる。)
Writers will never accept suggestions, and publishers
always
Will
surely
reject them, either. (45)
usually
commonly
この場合、 and-蝣eitherをand--tooとすれば文法的となるが、上の動詞<reject>が、先に
触れた<deubt, forbid, neglect, forget, dislike>等の動詞群に共通のinherent feature
としての NEGを含んでいるのであるから、 <scarcely, seldom>等の副詞群に共通な否
定のinherent feature との区別が必要になると思われる。等位構造の特質によるか、 lexical
categoryによる差なのか、いずれにしてもこの判定基準は、きめが荒いということになる。
2) negative appositive tag としてのnot evenが生ずることを許す。
not
The writer will
never
seldom
accept suggestions, not even (48g)
reasonable ones.
rarely
この場合も、 (48b)の<disregard]>がNEGに関して問題である。
3) notを含まないquestion tagが生ずることを許す。
Writers will never accept suggestions, will they? (53a)
この場合も <reject>のNEGが問題となるO
Publishers will reject suggestions,
fwilltheynot?I(5gb)
^won'ttlipv?'
won'tthey?
以上の三つのわく組みをpass した文否定は、次のような付加的な neither (neither-tags)
を許すかどうかによって、強い文否定(strong sentence negation)と、弱い文否定(weak
sentence negation)とに区分きれる (either-conjoiningのtruncated されinverted き
れた形式。)
Writers won't be accepting suggestions, and neither will publishers. (58)
これによって、文否定の強鍬こかかわる negative pre-verbsが、くnot, never> 群と、
<scarcely, hardly, rarely,>群とに区分されることにもなる。 Klimaは、強弱二つの文否
定の区別は、 pre-verbal particle としてのNEGがそのstatusをどこまでretainしている
か、他の成分に編入(incorporate)されてしまっているかによるとしているが、構成要素とし
て音形を与えられているNEGの区分の方向を示唆するものであると言える。しかしfeature と
してのNEGは依然として問題である Klimaのわく組みの不完全さは、他にも、構成累否定
文も瑚__ ( S-node) と'&蝣」&諸相(品楕)
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までが機械的に文否定に入ってしまうという点からも指摘されているが、本稿では素性として
の、 [AHect] GSFとしてのNEGを意識して行くことにする。
(ニ)
文否定のKimaの判定基準は、一つのわく組みにまとめることが可能であるとされている。
R. LakoH (1968)のNegation in Complementsによれば、 Lakoffは、否定文の深層構造
は、少なくとも二つの文から成り、上位の文(higher sentence)は、概略It Sis not soの
ようなものであり、下位の文(lower sentence)が否定されるべき文であると主張した。この
モデルの動機は、次のa)に対してb)が文法的でないという事実にもあった。
a) John is not happy, although the fortune teller predicted it. (15a)
b) *John is unhappy, although the fortune teller predicted it. (15b)
a)の深層構造は概略次のようなものであると考えられる(c)
c)
H^E
liii=:さ■l
although
itSaisnotso
-_
l+」
ここで、S4の支配するJohnishappyとS3の支配するJohnishappyはidenticalで
あるのでS3によってS4=は文消去規則(sentence-deletionrule)によってdeleteきれる
ことになる。深層構造に囲みの部分を設定したことは、変形文法内での別な立場から、例えば
JackendoH(1969)が「いい替え」というモデルから文否定を判定したことからも、本質的に
は正しいと思われる。文[sX-neg-Y]sが、itisnotsothat[sX-Y]Sといい替えられる
ならば、その文は文否定の例であるとする。
a)Thearrowsdidn'thitthetarget.
b)Itisnotsothatthearrowshitthetarget.
R.Lakoffらの基本的立場は、あらゆる場合に同一の深層構造を設定し、一つのSに一つの
NEGを持たせ、変形によって否定の表面構造を導くというものであるが、上のC)における
higherSとしてのSlがどのような変形を受けてIowerS(-83)のnotになるかが問題と
な・る.一つの提案として、NEGを一つ下のSに下げる変形(negative-loweringtransformation)が考えられる。C)に示した上位の文のVPは、-VP-V
Z豊+NEG芸素還;t震pro-adjective
s;(complex)㌶ISrSOI
L+NEG-1
塞結節(S-node)と否定の諸相(高橋)
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とする (unhappyのような語い項目否定は simplex S の happy と合体する negative
featureであるために、 negative higher Sの構造は許されないことになる。 )この素性の
complexが、下位の文に付加(adjoin)されると、 Chomsky-adjunctionによってその文の
上に新しい文結節(S-node)が作られ、そのあと、このcomplexは上位の文から消去される
とする。 (⑨がnew S-node)
Negative-Lowering規則
"Rs
I-S-is- [+NEG] ->〆-4十2-9-0
1 2 3
1) Chomsky-adjoin : 4 to 2
2) Delete 4
3) Deletel, 3
rsO-i
L+NEG-1∠ゝ
ここで、 4を2にチヨムスキー付加していること、下位の文の左に(一番左に)配置しているこ
とは、深層における否定要素の位置(どのような実体を持ったNEGであれ)という点から、
Klimaのpre-Sentential positionに酷似している Klimaはこの位置から一度Aux の位
置に下げ、その後でNEGを左右に分けるという方法をとるが、 NEGをpre-Sに置く配置の
仕方に問題が残るのも、 NEGそのものの性質によるものと思われるJackendoff (1971)を
否定中心に検討すると、 modal operator としてのNEGは、 <not, no nobody, never,
neither, nothing> 等の否定構成要素、ないしは否定形態素の中に含まれているばかりでな
く、 <few, little, seldom, doubt, dissuade>の中に否定素性(negative feature)として
も`implicit'に含まれているとしている Jackendoffの解釈規則の一つであるscope rule
(解釈範囲規則)は、意味解釈において、否定要素(NEG)を、それが表面構造レベルで所属し
ている結節(node) Xから、そのⅩを支配している他のnode X′に移動させる規則、つまり
移動をblockする数量詞(qucntifier)等が左にない場合には、 NEGを-節点ずつ上にあげ
るというものである。例えば、次のa)のnotは、
a) Not many of the arrows hit the target.
一つ上にあげられて、一番上の文結節に所属し、文全域がこのnotの否定の範囲(scope of
negation)に入ることになり、 [多くが当ったということはない]という解釈が与えられ、次の
b)のnotは、
b) Many of the arrows didn't hit the target.
一番上の文結節には、すでに数量詞manyが所属しているので、 notは移動されずに元のnode
のAuxにとどまることになり、 VP否定[多くが当らなかった]の解釈が与えられることにな
る NEGのスコープが表面構造で決定されるとするこの解釈規則は、意味論上の否定であり、
基本的には構成素否定であるが、意味解釈上文否定ということになる Klimaの統語上の文否
定は、ここでは出て来ないことになる。更に、 It is not so--=・でいい替えるとき、文否定と
構成素否定との区別が釆出なくなることや、文法的でないものも文法的になってしまうという弱
点も指摘されている (Kuwahara : 1972)本稿で注目したいのは、解釈意味論の立場から
は、統語上の変化を生ずることなく、 NEGが意味解釈上nodeを一つ上げられるというモデル
と、 R.LakoHらのNEG (complexとしての)をnodeを一つ下げるという、否定の変形に
よる導き方は、本質的に同じであると言えるのではないか、ということであり、両者ともに
文結節(S-node)と否定の諸相(高橋)
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nodeを重視しているということである。解釈規則と変形規則との接点をここにもうかがうこと
が出釆る.この接点は、別な見方をすれば、どの範囲内で否定を規定するかという ことになる
が、 Klimaの記述に一貫しているのはin construction with (- と構造をなす)という概念
であるoある句構造標識(phrase-marker)の結節Aは、もし結節BがAを直接支配する結
節Cによって支配されているならば、 Bと構造をなす、というものであり、 NEGの範囲内が
定義される。しかし、このICWのモデルは、 Ross (1967)によって、否定の節園を説明する
のに妥当な構造関係ではないとされた。例えば、次の例からこの条件は強すぎることが分かる。
a) That Jack sometimes slept is impossible. (5-125)
b) That Jack ever slept is impossible.
c) *That Jack ever slept is possible.
C)が文法的でないことから、 [+Affective]の素性を含み、 everに形態変化させているも
のは(不定編入) negative prefix im-であることになるが、この NEG は sometimes と
ICWの関係にないことが挙げられている。変形の勢力がどこまで及ぶかという問題で、通用制
限としてのBounding (境界づけ)の概念は、文中に否定辞があるとき、 someがanyに変え
られる規則には上限がある(upward bounded)ことも示すことが出来る。 (5-74;5.75)
a) Tom told spmebody that he wasn't sick.
b) *Tom told anybody that he wasn't sick.
c) That Sam sometimes didn't sleep must have pleased {somebody.1
*anybody.>
indeterminateがspecificな場合も、 someがanyに変えられない環境であるが、上の例
は、この編入規則が、 some-any changeを引き起す原因となっている要素NEGは、 source
から樹を際限なく下って影響を及ぼすことが出釆るが、 NEGの樹上にある上位の文結節にある
要素には働かないことを示していると考えられる。 C)の例は次のように考えられる。
lCWの概念よりもLangacker (1969)の
Sl
command(統御)の概念が優れ、 command
/ / ー\\、、
はRossのboundingで扱える現象をす
VP
ー S
NP
._‥二∴∴ "‥_
へく
Somebody
べて扱うことが出釆るとされているが、不
定編入変形を上限があると指定するかわり
に、 [十Affect]という特性を持つ要素
が、 [+indef]という特性を与えられる要
一 、
NP
VP
素を command Lなければならないと指
.. ・二二二一一二._
NEG
定すれば、同じ効果が得られることにな
る。これらのメカニズムには、 NEGの移
動変形[constituent NEG]と、素性を変える親則 [feature NEG]とが関係している。
(≡)
Jespersenの、否定し易い要素にnotがつく傾向に着目したNegative attractionは、 Klima
のNegative incorporationとして定式化されているが、 NEGの移動に関してKlimaの
文軌竪旦ode)と否定の諸相(轟昼)I
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Negative absorptionは重要である。次のa) b)のNEGは補文内にあったことは明らかで
Ural
a) They don't think that writers can help smiling at that. (158a)
b) It's^unlikely that he will get there until after the game. (158b)
P. Kiparsky & C. Kiparsky (1970)は、このNEG-raisingがfactive structuresでblock
きれる移動変形の一つであるとする factiveとnon-factiveの補文は深層で次のようになって
いると考えられる。
NP
NP
/へ
S
fact
Non-factive
Factive
c) *It doesn't bother me that he will lift a finger until it's too late.
d) *I don't regret that he can help doing things like that.
主文の<bother. regret> がfactive verbであるとき、複雑名詞句制限(complex NP
constraint)が働くため、 NEGはこの文結節を越えることが出来ないものと解きれている。文
境界(sentence boundary)を越えることを許す transportation verb も、しかし、主文に
everがある場合や、
e) *I didn't聖竺think that John would leave until tomorrow.
higher vorbがすでに否されている場合、
f) *I didn't not think John had come.
のように非文法的となり、否定要素は搬送されないo f)は更に、 transportation verbを支
配している動詞が feature としての NEGを持っている =inherently negative meaning
rbs'の場合にまで及ぶ R. LakoffはKunoの指摘によるとして、次の例を挙げている。
g) *I prevented John from旦些thinking that James was a spy. (56b)
h) *I doubted that John didn't think Bill was coming.
ここでも NEGの実体が問題になるが、否定要素の移動規則をR. Lakoffに従ってまとめてお
く。
Negative-Transportation規則
X s[NP Vit [NEG S]np] Y
2 3 4 5
Chomsky-adjoin 5 to 2 through 6
Delete 5 (従ってこの規則はchopping ruleということになる。 )
否定の構造は、文中に数量詞が含まれているとより複雑となり、 (二)で触れたように、否定
のscopeに関係する数量詞の検討は重要である。問題の第一は、 quantifierが入ると、 active
と passiveが対応しなくなる、という事実である。
a) Not many of the arrows hit the target.文否定)
b) Many of the arrows didn't hit the target.動詞句否定)
c) The target wasn't hit by many of the arrows. (?)
次に、上とは逆に、 activeの文に′ marginallyに存在する`extra reading'が受身文に現わ
文結節(S-node)と 、,<?・:二・・一,-*:ォ:・Il ':打い
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れて来ることがあるJackendoff (1971)によれば、
a) The cops didn't arrest many of the innocent bystanders. (48)
b) Not many of the innocent bystanders were arrested by thecops. (文
否定)
c) Many of the innocent bystanders weren't arrested by the cops. (動
詞句否定)
b)はa)のmanyの非特定的な読みを維持しているが、 C)はa)のmanyの特定的意味
を持って釆ているO このことはC)のmanyがNEGのスコープの外にあることを示し、意味
解釈は変形終了後の表面構造で決定されることの根拠になると主張するのであるが、 quantifier
があると、 NEG の現われ方に何等かの制限があるらしいことが分かる。このことは否定と数量
詞を、基底部門で、上位の文の動詞として生成するという生成意味論の立場からの吟味が必要な
ことを意味していると思われる。普通VPの否定は、意味解釈をすると文否定になる場合でも、
quantifierが入るとそうはならず、上のC)がspecificな読みを持っているということは、新
しい情報(information)を否定するという言語の特質を反映し、従って数量詞は新しさの度合
が高いという主張もなきれている。 (例えばAkiyama 1972)
a) Not many boys do not play tennis.
b) *We do not know旦旦t many boys.
C)些t many men'd marry you after`you had a baby (A. Wesker)
これらの例は、 quantifierがあって、 NEGが二つあるとき、 NEGの現われる位置に制約が
あることを示しているが、 Multiple Nagationを扱う場合、否定要素を探層構造のどの位置に
生じさせるか、 -か所にsourceを求めて、意味の差に応じてバラバラに配置するか、文否定と
構成素否定とを区別して行くかということが問塩となる。 sentence negation とconstituent
negation とを統語的に区別するものとして、文頭に NEG がある場合に、主語と Aux の
inversion, tagの性質、 any, some,ある種の書き換え等が考えられているが、
a) Not even two years ago was I there. (文否定)
b) Not even two years ago I was there. (構成素否定)
次のような場合、どうなるであろうか。
a)些one旦些say nothing and no one know.
b) No more she wasn't neither! (A. Wesker)
NEGを一つだけ認めその位置をpre-S とし、 NEGのmovementも許すとしても、上のa)
b)が一つのreading Lか、そして自然に、得られないとすると、構成素否定のモデルがある矛
盾を含むことになる。この解決の方向として、 higher verb としてのNEGを認めmultiple
なS とするか、 featureの分配というモデルを確立するか、が考えられるO
(四)
Klima とJackendoff とを統一し、それを超える否定の理論を構築するためには、次の三つ
が究砂られなければならないと筆者は考えているO
(1) feature としてのNEGを認めることO
文結節(S-node)と否定の諸相(高橋)
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(2)この(semantic) featureが文中の要素にどのように分配されるか、その仕
組みを究めること。
(3) NEGはnodeになり得るか、意味論的素性が統語論的実体を備えて行くい
わばfeatureの結晶化(crystallization)のメカニズムを究めることo
Ross (1967, P-172)の素性変更規則(feature changing rule)は、一般に、次のa)のJ:う
な構造指標を、 b) c)のように構造変化させるものである。
a)
.-・Ar -A2-・・・
ち) ・・-蝣A,=--
C) ・-〔
A1
93
〕
=-A2-'- (5.78)
一口にscopeと言っても、 Klimaのは統語上のスコープであり、 Jackendoffのは意味上
のスコープであるが、先の二つの課題が解決きれれば、両者は統一的に説明されることになるo
Chomsky (1970)年が深層構造だけでなく、表面構造(あるいはそれにかなり近い構造)ち
また、意味解釈に重要な役割りを果し得ると主張した中で、 negationとmodalとのかかわり
合いがある。今、次のa)b)から
a) John can't seem to get his homework done on time.
b) *John can seem to get his homework done on time.
NEG を含まない文はa)に対応する文として存在しないことが分かる。このことの説明の方向
として、次の二つが考えられていた。
(1) `can は`seem と関連して深層構造に存在するO このとき、 `can が理め
込み文の内容と関連していることを説明するには、表面構造から、意味解釈
の道が考えられなければならない。
(2) `can は埋め込み文の要素として深層構造に存在する。このとき`can が構
文から取り出されて母体文につけられる変形規則が考えられなければならな
い (extraction operation)
しかし、 (2)の取り出し、抜き出し(extraction)は、 `can'がabilityを示す場合にのみ可能
であって、 possibilityを示すときには不可能であると指摘されていた。この点を追求した論文
にLangendoen (1970)の「can't上昇変形」 (Can't-raising)がある。この変形は、埋め込ま
れた文から can't (ABLE+NEG)をseem toの前にcopy L、もとのcan'tを消去するこ
とによって上昇させるというものである Rossの素性変更には上限があるという制約と、この
上昇のメカニズムとの関係は補文の深層における位置づけによって抵触しないと思われるが、
can t-raisingは、許可および可能性の意味の場合は適用されない。筆者は、この点をより精密
にするために、 cannot possiblyのようなadverbialsを伴う上昇について発表したことがあ
るが、満足すべき結論は得ていない(1971)c ただ、 can [possi131y]6 という図式は基本的に
<assertion><presupposition>
正しいと考えられることだけを記しておく。さて、文結節を越えるものとして上のcan'tのの上
昇は、 copy変形によってなされたが、 copy操作には、 tree structureseの一部をそのまま
(category)写すものと、 featureを写す二つのタイプがある。この二つは、先に述べた二つの
課題に等しいことになるが、あるIexical itemにfeatureとしてのNEGがあるとき、 NEG
(S-node)と否定の諸相(高橋)
32
のscope と呼ばれる統語関係が関連しているが、このスコープの節関にコピー操作が行なわれ
るのではないだろうか。そうすると、 feature change, command; copy,
ト・・=pi.-; ..蝣・>',、 . 11二
扱えるのではないだろうか。ここでfeatureとしての NEGを分配ないしは配給するNakamura (1972)を検討しながら、このことを考えてみるo
Affectiveの効力の節園を決定するには、まず、否定の対象となるべき語句を指定し、統語上
何を否定するかを明確にしなければならないO このとき、 Fraser (1971)の`protected environment'的な考え方、 NEGと only, even等とのパラレルな関係が役立つに違いない。
a) You shouldn't even try the toadstools. (動詞がスコ-プ) (l.f.)
b) *I don't even suppose that John left until midnight. (63-c)
次に、指定された語句のどのような素性をどのように変更するか、意味上何を否定するか、直
接的に否定するのか、否定するレベルの段階があるのか、という大問題がある。今、負の要素
(any, no, nobody, nothing, yet, until, at all,--日等)を十Nで表わすと、 NEGの素性
杏+Nが担って、指定され語句に配給するO
S→+NEG
NP
AUX
(7) (この段階ではpre-Sの位置を
基本とする。 )
VP
+N SHARING規則
x } /+NEG X (8)
次に,指定された語句が本来持っているNegativeの+N, -N, uN (unmarked)の素性と
分配されて釆た素性とがfeaturesの束(bundle)を作ってから、具体的諾いを入れると き
に、 ±DEFを導入する規則が働くとする。
±DEF INTRODUCTION規則 (9)
a) John bought旦至聖竺candy.
(10)この文のsomeは、本来-Nであり、
+Nが配給されて釆ないからsomeの
ままである (--Nの素性からNP
someが生成された。 )
も) John didn't buy any halvah. any +N十N; halvah十N uN; (ll)
更に 十NEGそのものが、本来の+Nにつくこともあると考えられている。この+NEG
ATTACHMENT と(8)の配給規則とがうまくかみ合わないのは、 -NEGと +Nとの項目
にダブリがあるためであり、 Iexemeそのものと featureを混同し、その結合から新しいNP
の生成に向っているためであると思う。素性そのものの抽出と分類の作業が残されている。また
本質的にscopeを捨てきれないようにも思われるo
a) Nobody has been hit by anybody.
(16)
b) *Anybody has been hit by nobody.
Nakamuraの論述は、しかし、筆者の方向に酷似している。中でも(8)の分配規則で、
。Ⅹ-{x)
1+nJ)Xがnull
をも含み得るという指摘を発展させれば、 featureのNEGが、 S
の中味が消去された部分にも及ぶことになり、次のような例を説明出来る。 (Double Negation
となる。)
ぐ ・.S node- -Jrf'I-' !. '.'if-.
33
a) You can't be too careful [+NEG]s when driving on the streets of
Tokyo. ′ \
for you to drive
b) Can't soon enough for me,
これらの例はKlimaのdouble negativesの分析の仕方に関係して来る。次の文は(not)
(Adv(not)) (Adv)と分析されている。
a) He doesn't often reaWynot understand. 更に、 b)では、
b) He is too intelligent not to recognize her talents. (163a)
右に示すように、 It Sis not so `self-embedding'と考えられ、結局
NEGが Sを支配し得ることではな
いかと考えられる。これが正しいと
するとNEGはnodeたり得ること
It Sis not so
になる。
先に(二)で、 impossibleのNEGと sometimesのICW関係に触れたが、 RossはKlima
の否定要素をpre-predicate positionに配置する仕方から次のような構造を考えているが、
NEGは[十Affective]を担う結節(node)の地位を与えられている (5-126)
結局、深層あるいは意味表記のレベル
MV
で、 NEGが形態を持たない素性として生
成され、それが最終的に構成要素として実
/ /\--\\
be
現する中間に結節が結晶して来るメカニズ
ムの追求が否定研究の中心課題であること
になる。筆者は文法理論としての束論がモ
デルとして成り立つかの研究に向ってい
[+Affective]
る。
最後に、本稿の一応のまとめとして、今
後の研究の際、当然考慮されるべき否定の問題を挙げることにする。
1) Gappingに関連して。
ある動詞がgapするとき、 VPの中にあるすべての要素までがgapするとは限らな
いo例えばAuxのnegationはgap出釆ない KlimaはNEGを pre-Sに配置し、
Neg placementによってtenseが滑去きれていないならばAux の直前に移すが、
Gappingはこの変形の前に起る。
NEG Bill past eat the peaches, and NEG Harry past eat the grapes.
Gappingが二番目のclauseの里竺些_旦型をdelete L、 NEGはandにattach L
nor となる。
-Bill didn't eat the peaches, nor Harry the grapes.
従って、 NEGをhigher Sから導くという立場も、そのintial reductionによって、
Klimaのbase formに至ることになる (AND+NEG- NOR)
2) a) I wonder if there isn't一撃堕ing wrong with me.
[+NEG]
(S-node)
34
b) I wonder you've any blood left in your feet.
動詞の持つ -NEG,接続詞の持つ NEG,構成要素の+NEG同志のcancel
の問題。 (文脈特性とNEG)
3) a) He solves problems faster than旦聖賢of my friends ever could.
b) *Bill ran faster than I couldn't.
比較構造の根底にある構造と、 NEGと比較される要素とのcommandの制約。
4) a) I don't wait until it becomes necessary担I have a good wash.
b) I don't wait until it becomes necessary (for me) to have a good wash.
否定のスコ-プ内でのcomplementizerの問題0
5) a) They旦里prived hin of a visit to his parents.
l
A
b) i he wanted the visit j a)の神文のpresuppositionに対する、話者の eva1 1
luationを伝える、しかも +NEGを持つ動詞の分析0
6) Mary didn't clean the house.
a) 〔掃除しなかった〕 cause÷Sを否定。
b) 〔きっぱり、きれいにならなかった〕 get cleanを否定。
Iexicalized Sの否定と抽象動詞(abstract verbs)との関係。
以 上
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(1972年5月29日受理)
36
Aspects
of the
Grammar of Negation
Koji
Department
of the
Numerous
negation
English
have
in English.
phenomena
capacity.
This
crucial
issues
criteria
of
locating
NEG
tic
interpretation
of
negatives
relevant
To
in a single
paper,
definiton
in
as
in pre-S
(the
from
incorporate
deeper
amount
of course,
similarity
and
with
two competing
beyond
new models
CHMENT
During
cannot
such
as +N SHARING,
are reviewed,
this
be stated
though
discussion
in full
it
is a small
as a linguistic
step
theory.
has
generality
of feature
NEG becoming
ad-hoc way, together
with
paper
quite
between
the
transformational
respect
to
S-nodes
become
unless
'crystallized'
the syntactic
toward
the
±DEF
the
that
mechanism
of
three
possibility
of
of semanderivation
which
seem
to
of the
the
+NEG
limited
negative
and formal
ATTA-
space.
element
model
NEG
characterization
NEG is provided
in
status
of the S-node.
the
be
which
verb is marked
for the
of higher
sentences.
INTRODUCTION,
into constituent
and semantic
establishment
are the
the
NEG-transportation
because
clear
these
writer's
position
of
of
all
what
the
that
cursorily
of
the present
with
Japan.
intricacies
discussing
moves NEG in an embedded
S to the matrix
when the matrix
rule, and the validity
of considering
quantifiers
as predicates
The
the
as possible
negation"
formulations,
Nara,
of concepts
far
in essence
theory)
for
grammar,
"sentence
structures
the
forth
to make as clear
of
interpretive
in comparing
put
transformational
instances
position,
such
is,
attempts
the
of Education,
been
any
theory,
however,
of negation
Nara University
traditionally
adequate
'S-node'
Takahashi
Language,
explanations
Containing
of "feature-bundle"
nonThis