《書 誌》 提供 TKC 【文献番号】 28080353 【文献種別】 決定/最高

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《書 誌》
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28080353
決定/最高裁判所第三小法廷(上告審)
平成14年 7月 9日
平成14年(オ)第11号
平成14年(受)第7号
損害賠償請求事件
第一審
28062190
千葉地方裁判所佐倉支部 平成12年(ワ)第3
45号
平成13年 5月17日 判決
控訴審
28062189
東京高等裁判所 平成13年(ネ)第2970号
平成13年10月16日 判決
亡Aの相続人である上告人(兼申立人)らが、Aが下校のため、
小学校の正門前の横断歩道上を横断していたところ、被上告人
(兼相手方)運転車両がAに衝突し、同人に死亡した交通事故に
つき、被上告人に対し、損害賠償を求めたところ、原判決が、女
子労働者の平均賃金を基礎収入として亡Aの逸失利益を算定した
第1審判決を是認し、上告人らの控訴を棄却したため、上告及び
上告受理の申立をした事案で、本件上告理由は民訴法312条1
項又は2項に規定する事由に該当せず、本件は、民訴法318条
1項により受理すべきものとは認められないとされた事例。
〔TKC〕
1. 交通事故で死亡した女児の死亡による逸失利益の算定におい
て、基礎収入として賃金センサスの全労働者ではなく女子労
働者の平均賃金を用いて損害賠償額を算定した原判決には理
由の不備・食い違いがあるとして上告受理申立てをなした
が、その実質は単なる法令違反を主張するものであるとし
て、民事訴訟法312条1項又は2項所定の上告理由に該当
しないことを理由に棄却された。
2. 女児の死亡による逸失利益の算定において、基礎収入として
全労働者の平均賃金を用いず、賃金センサスの女子労働者の
平均賃金を用いた原判決は男女平等の法理に反し違憲である
としてなされた上告受理申立てが受理されなかった。
上告棄却、上告不受理
確定
金谷利広 奥田昌道 浜田邦夫 上田豊三
交通事故民事裁判例集35巻4号921頁
【文献番号】
【文献種別】
【裁判年月日】
【事件番号】
【事件名】
【審級関係】
【事案の概要】
【要旨】
【裁判結果】
【上訴等】
【裁判官】
【掲載文献】
《全 文》
【文献番号】28080353
最高裁判所第三小法廷平成14年(オ)第11号
最高裁判所第三小法廷平成14年(受)第7号
平成14年7月9日決定
決
定
上告人兼申立人 《甲1》
上告人兼申立人 《甲2》
上記両名訴訟代理人弁護士
鈴木諭
伊東芳生
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被上告人兼相手方 《乙1》
同訴訟代理人弁護士 柏木秀夫
上記当事者間の東京高等裁判所平成13年(ネ)第2970号損害賠償請求事件に
ついて、同裁判所が平成13年10月16日に言い渡した判決に対し,上告人兼申立
人らから上告及び上告受理の申立てがあった。よって,当裁判所は,次のとおり決定
する。
主
文
本件上告を棄却する。
本件を上告審として受理しない。
上告費用及び申立費用は上告人兼申立人らの負担とする。
理
由
1
上告について
民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1
項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,違憲及び理由の不備・食
違いをいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,明らかに上記各
項に規定する事由に該当しない。
2 上告受理申立てについて
本件申立ての理由によれば,本件は,民訴法318条1項により受理すべきものと
は認められない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
平成14年7月9日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三
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《書 誌》
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28062189
判決/東京高等裁判所(控訴審)
平成13年10月16日
平成13年(ネ)第2970号
損害賠償請求控訴事件
第一審
28062190
千葉地方裁判所佐倉支部 平成12年(ワ)第3
45号
平成13年 5月17日 判決
上告審
28080353
最高裁判所第三小法廷 平成14年(オ)第11
号
平成14年 7月 9日 決定
【事案の概要】
交通事故で死亡したA(女子)の父母である控訴人らが、加害
者である被控訴人に対して、損害賠償を求めたところ、女子労
働者の平均賃金の基礎とした損害賠償額で認容されたため、控
訴人らが控訴した事案で、賃金センサスに示されている男女間
の賃金格差は、現実の賃金の実態を反映したものであり、この
格差が近い将来に解消するとは認められないから、右解消する
ことを前提に、女子年少者について、賃金センサスによる全労
働者の平均賃金を基礎収入として逸失利益の額を算定し、不法
行為者にその損害賠償をさせることは、現段階においては、必
ずしも合理的な損害賠償額の算定方法ではないといわざるをえ
ないとして、控訴を棄却した事例。
【判示事項】
〔東京高等裁判所(民事)判決時報〕
交通事故で死亡した女子年少者の逸失利益について賃金セン
サスにおける女子労働者の平均賃金を基礎収入として算定し
た事例
【裁判結果】
控訴棄却
【上訴等】
上告
【裁判官】
浅生重機 西島幸夫 渡辺左千夫
【掲載文献】
判例時報1772号57頁
金融・商事判例1127号11頁
東京高等裁判所(民事)判決時報52巻1~12号16頁
交通事故民事裁判例集35巻4号931頁
交通事故民事裁判例集34巻6号1818頁
【参照法令】
自動車損害賠償保障法3条
民法709条
【評釈等所在情報】 〔日本評論社〕
城内明・早稲田法学79巻3号247頁
交通事故で死亡した女子年少者の逸失利益の算定にあたり,
賃金センサスにおける女子労働者の平均賃金が基礎収入とさ
れた事例
前田陽一・判例タイムズ1084号66頁
(1)今期の主な裁判例 (2)女子年少者の死亡による逸
失利益の算定にあたり男女の平均賃金を基礎とすることの可
否 民事責任(民法判例レビュー76)
【被引用判例】(当判例を引用している判例)
最高裁判所第二小法廷 平成14年(オ)第25号
平成14年 5月31日
【文献番号】
【文献種別】
【裁判年月日】
【事件番号】
【事件名】
【審級関係】
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《全 文》
【文献番号】28062189
損害賠償請求控訴事件
東京高裁平成13年(ネ)第2970号
平成13年10月16日第19民事部判決
判
決
控訴人(原告) 甲野春男
控訴人(原告) 甲野夏子
両名訴訟代理人弁護士 鈴木諭
被控訴人(被告) 乙川太郎
訴訟代理人弁護士 柏木秀夫
同 松吉威夫
同 鈴木邦人
主
1
2
文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)被控訴人は、控訴人甲野春男に対し、2,303万5,573円及びこれに対
する平成10年2月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人は、控訴人甲野夏子に対し、2,303万5,573円及びこれに対
する平成10年2月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人
控訴棄却
第2 事案の概要
1 本件は、交通事故により死亡した女児(花子)の父母である控訴人らが、加害車
両の運転者であり、かつ保有者である被控訴人に対し、民法709条または自賠法3
条に基づき、損害賠償を求めた事案である。
原判決は、控訴人らの請求をそれぞれ1,362万8,591円及びその遅延損害
金の限度で認容し、その余の請求を棄却したので、これに対して控訴人らが不服を申
し立てたものである。
2 以上のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のと
おりであるから、これを引用する。
(控訴人らの当審における主張)
原判決は、花子の逸失利益の算定にあたり、賃金センサスによる全労働者の平均賃
金を基礎とせず、女子労働者の平均賃金を基礎としたが、不当である。
まず、賃金センサスにおいてサンプルとされた女子労働者数が男子の半分以下にす
ぎないこと、サンプルとされた女子労働者の勤続年数が男子と比較して短いこと、女
子労働者には結婚退職が予定される一時的な労働者や子育て後の再就職者が含まれて
いること、家事労働が統計に反映されていないことからすると、賃金センサスは女子
労働者の収入の実態を反映していない。
次に、雇用機会均等法の施行、労働基準法の女性保護規定の撤廃、男女共同参画基
本法の施行など男女の雇用に関する法律は、男女の平等社会の実現を目指して変化し
ており,女子の逸失利益の算定にあたり、全労働者の平均賃金を基礎とした判決も出
されている。
さらに、現実の社会においても、男女賃金格差はなくなりつつあり、将来も男女間
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格差の是正が予測される。
また、花子は、学校の成績も良く、両親は共に留学経験を有する。したがって、花
子も将来的には国際社会で活躍することが、強い蓋然性で予測される立場にあった。
これらの点を考慮すると、花子の逸失利益は、賃金センサスによる全労働者の平均
賃金を基礎収入として算定されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求は、原判決が認容した限度で
理由があり、その余は理由がないものと判断する。その理由は、次に記載するほか、
原判決の理由記載と同一であるから、これを引用する。
2 逸失利益の算定について
(1)控訴人らは、花子の逸失利益の算定にあたっては、賃金センサスによる男女を
併せた全労働者の平均賃金を基礎収入とするべきであると主張する。
従来、損害賠償請求における幼児・年少者(年少者)の逸失利益の算定にあたって
は、裁判実務上一般に、被害者の性別に応じて、賃金センサスによる男女別平均賃金
をその基礎収入としてきた。最高裁判所もこのような算定を是認している(最高裁昭
和58年(オ)第331号同62年1月19日第2小法廷判決・民集41巻1号1頁
ほか)。本件においては、上記取扱いの是非が問われている。
この主張に対する当裁判所の判断は、以下のとおりである。
(2)年少者の逸失利益の算定は、過去において現実に一定額の収入を得ていた者の
逸失利益の算定と異なり、事柄の性質上、的確な数額の立証が極めて困難である。し
かし、この場合に立証がないとして請求を棄却するのは、被害者に対する救済を否定
することとなり、不合理である。反対に、逸失利益として、将来それを得られる蓋然
性が認められない収入・利益について、その賠償を命じることもまた不合理である。
そこで、裁判所は、当事者が提出するすべての証拠資料に基づき、経験則と良識を用
いて、できる限り蓋然性のある逸失利益の額を算定するべく努めるのである。そし
て、蓋然性に疑いがもたれる場合には、逸失利益の賠償を否定するのではなく、被害
者側にとって控えめな算定方法を採用することにより、不法行為者に過当な責任を負
わせる結果を避けつつ、被害者の救済を実現してきた。逸失利益算定についての従来
からの取扱いは、このような考え方に基づくものであるということができる。その根
底にあるのは、できる限り蓋然性のある額を算定することにより、不法行為者と被害
者の双方にとって、公平な結果を実現しようという考えである。
従来の判例・実務は、できる限り蓋然性のある逸失利益算定の方法として、賃金セ
ンサスの男女別平均賃金を基礎収入とする方法を採用した。後記のとおり、賃金セン
サスの数値は現実の労働市場における賃金の実態を反映していると解され、また、実
態を反映する統計的数値に基づく推認は、蓋然性の証明において通常用いられる方法
であるから、他により正確で利用可能な統計的数値等の資料がない場合には、従来の
算定方法は、逸失利益の算定方法として合理的なものであるということができる。
確かに、男女別平均賃金を基礎収入とすると、結果的に男女の逸失利益額に違いが
生じることになる。しかし、これは、年少者の逸失利益に限って生じる結果ではな
く、現に就労中(家事労働に従事することを含む。)であるが、その基礎収入の額を
的確に把握することが困難なため、その逸失利益の算定にあたり女子労働者の平均賃
金を用いる場合にも同様の結果を生じるのである。そして、その場合に、女子労働者
の平均賃金を基礎収入とすることは、蓋然性の高い数額の算定方法として、合理的で
ある場合が多いと考えられる。したがって、逸失利益の算定にあたって男女で異なる
数値を基礎収入に用い、その結果、男女で異なる逸失利益額が算定されること自体
は、避けることのできない事態なのであって、そのようなことがあることをもって、
男女差別であり、不当であるということはできない。
年少者の逸失利益の算定にあたり賃金センサスの男女別平均賃金を基礎収入とする
ことに対する最も大きな疑問は、それが女子も男子と同様の業務に従事しうるという
年少者の将来おける可能性を無視する結果をもたらすことから生じていると考えられ
る。確かに、現在の社会環境や法制度とその将来に向けての変化を考えると、将来の
就労可能性という点において、男女差は解消しつつあるといってよいであろう。しか
し、逸失利益の算定において考慮すべきことは、単なる可能性ではなく、蓋然性なの
である。年少者の一人一人に男女を問わず等しい就労可能性が与えられていても、そ
れが故に、一般的に女子が将来男子と同じ収入を得られる蓋然性があるということに
はならないのである。
統計的数値の利用にあたっては、より正確ないし蓋然性の高い数額を算定するため
に、できる限り対象者の属性に近い統計を使用すべきである。もちろん、対象者の属
性をすべて反映する統計を得るのは不可能であるが、より対象者の属性(例えば、性
別、学歴などが考えられる。)に近い統計の利用を放棄して、より一般的な統計を使
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用することが合理的であるとは考えられない。
平成12年賃金センサスにおける男子労働者の平均賃金は560万6,000円で
あり、女子労働者のそれは349万8,200円である。また、平成7年賃金センサ
スにおける男子労働者の平均賃金は559万9,800円であり、女子労働者のそれ
は329万4,200円である。これをみると、この5年間において、男子労働者の
平均賃金はほぼ横ばいであり、女子労働者のそれは約20万円の増加がみられるが、
男女の平均賃金の格差は未だ大きい。男女の平均賃金の格差はわずかずつ減少する方
向にあることは窺われるものの、これが近い将来に解消するとはいいがたい状況にあ
る。このように現に存在する数値の差は大きいのであって、この現実を無視して存在
しない数値を算定の基礎とするのは、統計の利用による算定そのものの基本を危うく
しかねず、賛同することができない。
控訴人は、賃金センサスにおいてサンプルとされた女子労働者数が男子の半分以下
にすぎないこと、サンプルとされた女子労働者の勤続年数が男子と比較して短いこ
と、女子労働者には結婚退職が予定される一時的な労働者や子育て後の再就職者が含
まれていること、家事労働が統計に反映されていないことを理由として、賃金センサ
スは女子労働者の収入の実態を反映していないと主張する。しかし、賃金センサスに
おいてサンプルとされた女子労働者数は、統計処理の母数として十分大きな数であ
る。また、勤続年数その他の点については、女子労働者の現実の勤務状況を反映した
ものであって、むしろ統計の正確性を示すものといえる。家事労働が統計に反映され
ていないことは、平均賃金の統計が現実に得ている賃金についての統計であることの
結果にすぎない。賃金センサスにおける女子労働者の平均賃金に関する統計が女子労
働者の収入の実態を反映していないことを窺わせる証拠はない。
以上のとおり、賃金センサスに示されている男女間の賃金格差は、現実の賃金の実
態を反映したものであり、この格差が近い将来に解消するとは認められない。
そうすると、上記格差が解消することを前提に、女子年少者について、賃金センサ
スによる全労働者の平均賃金を基礎収入として逸失利益の額を算定し、不法行為者に
その損害賠償をさせることは、現段階においては、できる限り蓋然性のある額を算定
することにより不法行為者と被害者の双方にとって公平な結果を実現しようという前
記の考えに照らして、必ずしも合理的な損害賠償額の算定方法ではないといわざるを
えない。
(3)また、控訴人らは、花子は、学校の成績が良く、両親共に留学経験を有するか
ら、将来的に国際社会で大活躍することが、強い蓋然性で予測される立場にあったと
主張する。
しかし、幼少期における人の属性によって、その人の将来をはかることは極めて困難
である。学校の成績が不良であるから、その人の将来の収入も低いと判定されるよう
なことが起これば、人々は納得しないであろう。人の属性によってその人の将来を判
定することには、おのずから限界があるのであり、この限界を無視して算定すること
はできないのである。
(4)以上のとおりであって、本件において、花子の逸失利益の算定にあたり、女子
労働者の平均賃金を基礎収入とすることは、合理的な損害額の算定方法であるという
ことができる。
3 以上によれば、控訴人らの請求をそれぞれ1,362万8,591円及びその遅
延損害金の限度で認容し、その余の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由
がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫
渡辺左千夫
LEX/DBインターネットに関する知的所有権その他一切の権利は株式会社TKCおよび情報提供者に帰属します。
http://www.tkclex.ne.jp/lexbin/PrintContents.aspx?pf=1&zb=28062189
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