EU法におけるワインの表示に関する規制――1999年 - 明治学院大学

49
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第5号
2006年
49-58頁
EU法におけるワインの表示に関する規制
1999年規則および 2002年規則の紹介を中心として
蛯
1
原
はじめに
介
の法的手段を確保する」
義務,または,
「行政上の
措置による実施を確保する」義務が生じることに
近年,オーストラリアや南アメリカなどの「新
なったのである。したがって,日本においても,
世界」におけるワインの生産が増加し,市場でも
行政的措置として,1994年 12月に「地理的表示に
注目を集めているとはいえ,
EUの代表的なワイン
関する表示基準」が定められ,翌年7月1日に施
生産国として知られるフランス,イタリア,スペ
行された。この基準によれば,
「日本国のぶどう酒
インは,ぶどう畑の面積および生産量では世界の
若しくは蒸留酒の産地のうち国税庁長官が指定す
トップクラスに位置しており,そのワインは今な
るものを表示する地理的表示又は世界貿易機関の
お高い評価を得ている。
加盟国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示す
さまざまな酒類・食品類のうちで,ワインほど
る地理的表示のうち当該加盟国において当該産地
厳しい法的規制を受ける産品はないであろう。消
以外の地域を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒
費者と善良な生産者を保護する観点から,フラン
について
スをはじめとするヨーロッパの伝統的な生産国で
示は,当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒
はワイン法が制定され,EUでもワインに関する
又は蒸留酒について
種々の規則や指令が定められてきた 。また,とく
「当該酒類の真正の原産地が表示される場合又は
に,ワインの地理的表示は,国際法レベルでも保
地理的表示が翻訳された上で
護の対象になっており,1994年の「世界貿易機関
くは『種類』,『型』,『様式』,『模造品』等の表現
を設立するマラケシュ協定」の附属書1C「知的
を伴う場合」も,表示は禁止される 。同様に,
所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協
TRIPS協定 23条2項 にもとづき,商標法にも
定)
」により,WTO加盟国における法的手段また
以下のような規定が新設された。
「日本国のぶどう
は行政的措置の確保が義務付けられた 。すなわ
酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定
ち,同協定 23条1項にもとづき,
「加盟国は,利害
するものを表示する標章又は世界貿易機関の加盟
関係を有する者に対し,真正の原産地が表示され
国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する標
る場合又は地理的表示が翻訳された上で
章のうち当該加盟国において当該産地以外の地域
用され
用することが禁止されている地理的表
用してはならない」。また,
用される場合若し
る場合若しくは『種類』,『型』
,『様式』
,『模造品』
を産地とするぶどう酒若しくは蒸留酒について
等の表現を伴う場合においても,ぶどう酒又は蒸
用をすることが禁止されているものを有する商標
留酒を特定する地理的表示が当該地理的表示に
であって,当該産地以外の地域を産地とするぶど
よって表示されている場所を原産地としないぶど
う酒又は蒸留酒について 用をするもの」
(4条1
う酒又は蒸留酒に 用されることを防止するため
項 17号)は「商 標 登 録 を 受 け る こ と が で き な
50
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第5号
い」 。このほか,一般的に地理的表示を保護する
それぞれの義務的記載事項を列挙しているが,他
法令の規定として,原産地の誤認を生じさせる表
方で,委員会規則 2002/753は,このような区別を
示に対して利害関係人の差止請求・損害賠償請求
前提としない。そこで,まず,理事会規則 1999/
を可能とした不正競争防止法2条1項 13号,3
1493に定められた,ヴァン・ムスー以外のワイン
条,4条,虚偽の出所表示をした製品の輸入を禁
に適用される義務的記載事項,ついで,ヴァン・
ずる関税法 71条,飲食料品の原産地または原産国
ムスーの義務的記載事項をみたうえで,委員会規
表示を義務付けるJAS法(農林物資の規格化及び
則 2002/753にもとづく規制,さらに,各加盟国の
品質表示の適正化に関する法律)
,
不当景品類及び
裁量にゆだねられる任意的記載事項をとりあげ,
不当表示防止法4条などがある。さらに,最近で
EU法におけるワインの表示に関する規制の特徴
は,2005年の商標法改正により,地域団体商標制
を明らかにしたい。
度が
設され,この制度が,農林水産品や食品な
どの特産品の地域ブランド化に資するものとなる
2
義務的記載事項
ことが期待されている 。ワインについても,フ
リーライドや模倣品を排除しつつ,各生産地にお
⑴
ヴァン・ムスー以外のワインの義務的記載事
いて,それぞれ個性豊かで高品質なワインづくり
項
が進められるために,今後,地域団体商標制度が
1999年5月 17日の理事会規則 1999/1493は,
一定程度寄与することが
えられよう。
ところで,
EUにおけるワインの表示に関する法
ヴァン・ド・ターブル(Vin de table=日常用テー
ブルワイン),VQPRD(Vin de Qualite Produit
的規制は,1999年5月 17日の理事会規則 1999/
dans une Region Determinee=地域指定優良ワ
1493,そして,この規則の適用様式を定めた 2002
イン),ヴァン・ド・リクール(Vin de liqueur=
年4月 29日の委員会規則 2002/753を 中 心 と す
ポートやマディラに代表される酒精強化ワイン)
,
る 。EU法では,ワインの記載事項は,最低限の
ヴァン・ペティアン(Vin petillant=2.5気圧以下
義務的記載事項と任意的記載事項に
類されてお
の弱発泡性ワイン),EU域外の第三国で生産され
り,後者については各加盟国の裁量で表示を義務
たワインに適用される義務的記載事項を列挙して
付けることも許される。従来は,限定列挙された
いる。すなわち,ワインの名称(denomination)
,
事項以外の表示を禁止する「ポジティヴ・リスト」
容量(volume nominal),アルコール度,瓶詰め
が原則とされていたが,理事会規則 1999/1493は,
元(embouteilleur),発送元(expediteur)または
ラベル表記に関し,
「これらの情報を受け取る人に
輸入業者(importateur)の名称,ロット番号がこ
誤認を惹起させる危険がないことを条件として,
れである(Annexe VII, point A) 。
他の表示によって補完されうる」と明示するにい
ワインの名称に関して,まず,ヴァン・ド・ター
たった。したがって,以前に比べると,表示可能
ブルの場合,当該加盟国のぶどうを
な事項は増えている。もっとも,このような規制
ンであって,他のEU加盟国や第三国へ輸出される
緩和には,フランス元老院の「セザール(Cesar)
ものには,≪Vin de table français≫など国名の
報告書」
(L avenir de la viticulture française,
併記が義務付けられる。また,複数のEU加盟国の
Rapport d information fait au Senat)のように,
ワインをブレンドしたものには,≪melange de
自由な表示を生産者に認めることは,消費者の誤
vins de differents pays de la Communaute eur-
認や混同を招くことになるという批判もみられ
opeenne≫という表示が,他のEU加盟国のぶどう
る 。
を
理事会規則 1999/1493は,ヴァン・ムスー(vin
,すなわち,シャンパーニュに代表さ
mousseux)
れる発泡性ワインとそれ以外のワインを区別し,
用したワイ
用したワインについては,≪vin obtenu en ...
a partir de raisins recoltes en ...≫という表示が
必要になる(Annexe VII, point A)。
VQPRDカテゴリーのワインには,原産地名の
51
EU法におけるワインの表示に関する規制
ほか,≪vin de qualite dans une region deter-
ワインのロット番号の表示は,1989年6月 14
minee≫,≪v.q.p.r.d.≫,≪vin de liqueur de
日の指令 89/396/EECによって義務付けられ,フ
qualite produit dans une region determinee≫,
ランスでは,1991年 12月 19日のデクレによって
≪ v.l.q.p.r.d.≫,≪ vin petillant de qualite
国内法化された。委員会規則 2002/753が発効する
produit dans une region determinee≫,≪v.p.q.
前は,ロット番号の記載箇所に関する規制は存在
p.r.d.≫,または,当該加盟国の国内法にもとづく
しなかったが,同規則の発効後は,原則としてラ
伝統的記載事項の表示が義務付けられる。2002年
ベル上に表示すべきことになっている
。
4月 29日の委員会規則 2002/753は,その 29条に
なお,表示言語に関して,理事会規則 1999/1493
おいて,国ごとに認められる伝統的表示を列挙し
は,
消費者が容易に理解することができるように,
ており,たとえば,フランス固有の伝統的表示と
一つ以上のEC 用語で表記すべきとしている。し
し て,≪ appellation d origine controlee≫,
かし,ヴァン・ムスー以外のワインについては,
≪appellation controlee≫, ≪ appellation d
原産地名の表示のみならず,伝統的記載事項,生
origine vin delimite de qualite superieure≫,
産者または協同組合の名称,瓶詰めに関する記載
≪vin doux naturel≫があげられ,スペインにつ
事項を表示するさい,当該ワインが生産された国
い て は,≪ Denominacion de origen ≫,
の
≪Denominacion de origen calificada≫, ≪ D.
輸出目的で,表示言語に関する制限は緩和される
O.≫,≪D.O.Ca≫,≪vino generoso≫,≪vino
場合もあり,実際には,フランスで生産されたワ
generoso de licor≫,≪vino dulce natural≫,
インについて,≪Produit de France≫だけでな
また,ドイツについては,≪ Qualitatswein≫,
く,
≪Produce of France≫という英語表記も認め
≪Qualitatswein garantierten Ursprungs≫,
られている
用語を
用しなければならない。もっとも,
。
≪Qualitatswein mit Pradikat≫( Kabinett,
Spatlese,Auslese,Beerenauslese,Trockenbeer-
⑵
ヴァン・ムスーの義務的記載事項
enauslese,もしくはEisweinの併記可)があげら
理事会規則 1999/1493にもとづき,ヴァン・ム
れ て い る。イ タ リ ア 固 有 の 伝 統 的 表 示 に は,
スーには,ワインの名称,容量,アルコール度,
≪Denominazione di origine controllata≫,
ロット番号に加え,ワインのタイプに関する表示
≪Denominazione di origine controllata e gar-
が義務付けられており,生産者または販売者の名
antita≫,≪vino dolce naturale≫,≪D.O.C.≫,
称もしくは社名,その本拠地が置かれるコミュー
≪D.O.C.G.≫があるほか,ドイツ系住民が多い北
ンおよび国名も義務的記載事項に含まれる。また,
イタリアのボルツァーノで生産された DOCワイ
EU域外の第三国で生産されたヴァン・ムスーに
ンに つ き,≪ Kontrollierte Ursprungsbezeich-
ついても,輸入業者の名称または社名,その本拠
nung ≫ の 表 示 が,同 地 の DOCG ワ イ ン に は
地が置かれるコミューンおよび国名のほか,生産
≪Kontrollierte und garantierte Ursprungsb-
者の名称または社名,その本拠地が置かれるコ
ezeichnung≫の表示が例外的に認められる。
ミューン お よ び 国 名 の 表 示 が 必 要 と な る
理事会規則 1999/1493によれば,第三国産のワ
インには,瓶詰め元の名称または社名,コミュー
(Annexe VIII, point B)
。
さらに,第三国のワインを用いた産品には,輸
ンおよび国名の表示,60リットルを超える容量の
入ワインを
用して生産された産品である旨の表
容器には,発送元の表示,もしくは,輸入業者の
示および当該国名の表示が義務付けられる。また,
表示が必要である。ただし,EC域内で瓶詰めされ
VM QPRD(vin mousseux de qualite produit
た場合,輸入業者名の代わりに瓶詰め元の名称ま
dans une region determinee=地域指定優良ヴァ
たは社名 を 表 示 し な け れ ば な ら な い(Annexe
ン・ムスー)については,原産地名とともに,フ
。
VII, point A, 3, b)
ランスの AOCなど各国固有の伝統的記載事項を
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『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第5号
併記しなければならない。ただし,委員会規則
えてはならない。ただし,瓶詰めされて3年以上
2002/753は,例外として,シャンパーニュには,
貯 蔵 さ れ た VQPRD カ テ ゴ リーの ワ イ ン,ヴァ
地域名のみからなる表示を認めている。
ン・ムスー,ヴァン・ペティアン,ヴァン・ド・
ヴァン・ムスーの名称については,≪vin mous-
リクールは,例外的に,0.8%までの差が許容され
seux≫,≪vin mousseux de qualite≫,≪vin
る。また,アルコール度を示す数字の後には≪%
mousseux aromatique de qualite≫,≪vin mous-
vol≫と表示しなければならない。そして,その文
seux de qualite produit dans une region deter-
字の大きさ(高さ)は,1000ccを超える容量の容
minee≫,または,≪v.m.q.p.r.d.≫のいずれかを用
器の場合には5ミリ以上,200cc∼1000ccの容器
いることになっているが,地域指定優良ヴァン・
の場合は3ミリ以上,200cc以下の容器は2ミリ
ムスーの場合,当該加盟国の法令にもとづき,地
以上と定められている。
域名または伝統的表示によることも可能である。
委員会規則 2002/753は,瓶詰め元または発送元
なお,ボルドー控訴院は,1998年2月 10日判決に
に関する詳細な規定を設けており,その 15条は,
おいて,イタリアやスペインのワインを用いてフ
≪viticulteur≫,≪recolte par≫,≪negociant≫,
ランスで生産されたヴァン・ムスーに≪ Produit
≪ distribue par≫,≪ importateur≫,または,
de France≫の表示を付することは,原産地の誤
≪importe par≫などの表示,とくに,瓶詰め元を
認を生じるおそれがあるとして,その表示の
指し示す≪embouteilleur≫,≪mis en bouteille
を禁止する判断を下している
用
。
par≫の
用について定めている。
また,理事会規則 1999/1493によれば,ヴァン・
なお,ワインの瓶の形態に関する規制として,
ムスーのタイプに関する表示には,補糖の程度に
委員会規則 2002/753は, の板や王冠の 用を禁
応じて,brut nature
(3g/ℓ以下)
,extra brut
(0
止し(8条)
,アルザス型の瓶(Flute d Alsace)
∼6g/ℓ),brut
(15g/ℓ以下),extra dry
(12∼20
など一定の特徴を有する瓶は特定の原産地呼称ワ
,sec(17∼35g/ℓ)
,demi sec(33∼50g/
g/ℓ)
インについてのみ用いられるとする
。
ℓ)
,doux(50g/ℓ以上)がある。ワインのタイ
また,食品の原材料表示に関する 2003年 11月
プに関して2つの表示が可能である場合,生産者
10日の指令 2003/89/ECにより,酸化防止剤とし
または輸入業者は,そのうちの一つを選択しなけ
て,1リットルあたり 10ミリグラム以上の二酸化
ればならない(Annexe VIII, point D, 3)。
硫黄(SO )が含まれている場合,その旨の表示が
付されることになった。同指令を国内法化するこ
⑶ 委員会規則 2002/753にもとづく規制
委員会規則 2002/753は,消費者が容易に記載事
項を理解することができるように,新たな規制を
とにより,各加盟国では,2005年 11月 25日以降,
すでに市場に流通しているワインを除き,二酸化
硫黄含有に関する表示が義務付けられている。
導入した。すなわち,同規則3条によれば,義務
的記載事項は,原則として,すべて表側のラベル
に集中させたうえで,明瞭,かつ,十
3
任意的記載事項
に大きく,
消去不可能で,判読可能な文字で表示しなければ
ここで紹介する任意的記載事項は,各加盟国の
ならない。ただし,義務的記載事項のうち,輸入
裁量によって,義務的記載事項に位置づけられた
業者の表示は,ラベル外でも認められる。
り,表示が禁止されたり,または,部 的に制限
委員会規則 2002/753は,同じく3条において,
される場合がある。2002年4月 29日の委員会規
アルコール度に関し,1%単位または 0.5%単位
則 2002/753によれば,EUに加盟するワイン生産
での表示を義務付けている。
析の結果得られた
国は,EU法における規制よりも厳しい規制を定め
実際のアルコール度とラベルに表示される数字と
ることができる。しかしながら,この規則には,
の差は,原則として,プラス・マイナス 0.5%を超
任意的記載事項の表示方法に関する具体的規定は
53
EU法におけるワインの表示に関する規制
置かれておらず,各加盟国の国内法しだいで,表
ればならず,2品種または3品種を表示する場合
側のラベル以外の場所に表示することも認められ
には,それらの
る。また,すでに言及したように,1999年5月 17
ならない
(同 19条)。ワインの生産方法に関する表
日の理事会規則 1999/1493は,ラベル表記に関し,
示は,加盟国の伝統的記載事項として,たとえば,
同規則に列挙されていない事項についても,それ
≪primeur≫,≪sur lie≫などの表示が可能であ
が正確であって,誤認を惹起するおそれがない限
り
り,その表示を認める方針をとっている
tion en bouteille≫,≪fermentation en bouteille
。
用割合の計は 100%でなければ
,とくに,ヴァン・ムスーには,≪fermenta-
ヴァン・ド・ターブル,地理的表示つきのヴァ
selon la methode traditionnelle≫,≪methode
ン・ド・ターブル(フランスにおけるヴァン・ド・
traditionnelle≫,≪methode classique≫といっ
ペイなど)
,VQPRD,VLQPRD(vin de liqueur
た表示が認められる
de qualite produit dans une region determinee=
各加盟国がその条件を定めることができる。なお,
地域指定優良ヴァン・ド・リクール),VPQPRD
2000年5月 16日の欧州司法裁判所判決(Aff. C
(vin petillant de qualite produit dans une
-388/95)は,スペイン法がリオハのワインの瓶詰
region determinee=地域指定優良ヴァン・ペティ
めが当該産地でなされること義務付けている点に
アン)の任意的記載事項として,各加盟国の国内
つき,このような規制は商品の自由移動を妨げる
法にしたがい,生産・流通に関与した人の名,住
輸出数量制限にはあたらないと判断した。スペイ
所および地位,産品のタイプ,ワインの色を表示
ン法によれば,輸入業者がベルギーにおいてリオ
することができる。また,
理事会規則 1999/1493に
ハのワインの瓶詰めをおこなった場合,リオハの
よれば,地理的表示つきのヴァン・ド・ターブル,
原産地名を表示することは認められない。しかし,
VQPRD,VLQPRD,VPQPRDは,以下の事項を
欧州司法裁判所は,このような規制はリオハのワ
記載することができる。すなわち,収穫年,ぶど
インの名声および品質を維持するために必要で
う品種名,コンクールやメダルの受賞
あって
,生産方
法,企業名,ワイン生産者または協同組合による
。瓶詰めに関する表示も,
衡 の と れ た 措 置 で あ る,と 解 し て い
る
。
4
各加盟国の伝統的記載事項
瓶詰めに関する表示,そして,後述する伝統的記
載事項,というのがこれである(Annexe VII,
。
point B)
委員会規則 2002/753によれば,産品のタイプに
伝統的記載事項は,2002年4月 29日の委員会
つき,残糖量に応じて,≪sec≫,≪demi-sec≫,
規則 2002/753のリストに列挙されている。この規
≪moelleux≫,≪doux≫の表示を認められるが,
則に定められている伝統的記載事項は,特定の加
ヴァン・ド・リクールやヴァン・ペティアンに関
盟国および特定のカテゴリーのワインに適用され
する例外が設けてある
(16条)
。地理的表示つきの
るが,事後的に,新たな記載事項が追加される可
ヴァン・ド・ターブルやVQPRDの収穫年の表示に
能性もある。同規則 24条によれば,そのような記
ついて,同規則 18条は,当該収穫年のぶどうを
載事項は,少なくとも 10年間は
85%以上 用しなければならないとする。これに
盟国の国内法で明確に定義されている必要があ
対して,フランス法は,当該収穫年のぶどうを
り,EU域内市場で相当の評価を獲得した,十
100%
な特徴を有するワインを対象とするものでなけれ
用することを年号表記の条件とする厳し
い規制を維持している。また,ぶどう品種名の表
示は,各加盟国において認められた品種であって,
用され,当該加
ばならない。
フランスには,
EU法によって認められた数多く
その品種名が地理的表示を含まないことが条件と
の伝統的記載事項が存在する(資料「フランスの
なる。さらに,単一品種のみを表示する場合には,
伝統的記載事項」参照)
。固有の伝統的記載事項
当該品種のぶどうの
(mentions traditionnelles specifiques) として
用割合は 85%以上でなけ
54
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第5号
リ ス ト に 示 さ れ て い る の は,≪ appellation
には≪grand cru≫,また,チュニジアには≪pre-
d origine controlee≫,≪ appellation controle-
mier cru≫の
e≫,≪appellation d origine vin delimite de
に補完的な伝統的記載事項が徐々に増加する一方
qualite superieure≫,≪vin doux naturel≫であ
で,その第三国への開放も進められていくものと
り,さらに,地理的表示つきのヴァン・ド・ター
予想される。
用が認められている。今後,とく
ブルとして≪vin de pays≫が存在する。≪appellation d origine controlee ≫,≪ appellation
注
controlee ≫,≪ appellation d origine vin
delimite de qualite superieure≫の3つについて
は,VQPRD,VLQPRD,VMQPRDが対象にな
るのに対し,≪vin doux naturel≫は,VLQPRD,
すなわち,地域指定優良ヴァン・ド・リクールに
限 定 さ れ る。ま た,補 完 的 な 伝 統 的 記 載 事 項
(mentions traditionnelles complementaires)は
多岐にわたり,その件数は,2004年2月 20日の委
員会規則 2004/316によってさらに増えることに
なった。すなわち,同規則では,AOCボルドーの
≪Claret≫,AOCアルザスの≪Edelzwicker≫,
AOCブルゴーニュの≪Passe-tout-grains≫,ジュ
ラ地方の各AOCにおける≪Vin jaune≫が新たに
リストに記載された。フランスにおける補完的な
伝統的記載事項のなかでも,≪chateau≫および
≪clos≫の
用は,VQPRDカテゴリーに属する
すべての産品が対象となるが,≪ selection de
grains nobles ≫,≪ vendange tardive ≫,
≪sur lie≫,≪ village≫などの表示は,一部 の
AOCワインに限定される。格付けに関する表示,
す な わ ち,≪ cru classe≫,≪ grand cru ≫,
≪premier cru≫,≪cru bourgeois≫,
≪cru artisan≫といった事項の記載も,特定のAOCワイン
に限って認められる。
もっとも,今日では,伝統的記載事項といえど
も,EU加盟国が独占的に
用できるわけではな
い。EU域外の第三国が,一定の伝統的記載事項の
用を め ぐって WTOに 申 立 て を お こ なった 結
果,委員会規則 2004/316により,いくつかの事項
を第三国で生産されたワインにも表示することが
認められることになった。たとえば,アルジェリ
ア,スイス,チュニジアに対してAOCの
用が認
められ,チリに対しては≪chateau≫,≪clos≫,
≪cru bourgeois≫が,スイス,チュニジア,チリ
(1) フランスにおけるワイン法の歴 につき,蛯原
介「フランスワインの原産地呼称制度と行政
裁判所」明治学院大学法学研究 80号参照。
(2) TRIPS(ADPIC)協定にもとづく地理的表示の
保護に関して,Louis Lorvellec, Les aspects
recents de la protection internationale des
appellations d origine controlees, Melanges
offerts a Jean-Jacques Burst, Litec, 1997; Norbert Olszak,Droit des appellations d origine et
indications de provenance, ed. TEC & DOC,
2001, pp. 118 et s; Anne-Emmanuelle Kahn,
Indications geographiques et regles du commerce international, Revue Lamy Droit des
affaires, fevrier 2004, supplement no. 68;JeanMarc Girardeau, L appellation d origine
viticole et lOM C, Revue de droit rural, AoutSeptembre 2005,pp.18et s.のほか,長谷川実也
「WTO新ラウンド
その論点と展望⑶地理
的表示と原産地規則」貿易と関税 51巻3号,
久々湊伸一「知的財産権としての地理的表示に
ついて」特許研究 37号,丸山亮「地理的表示の
保護と団体・証明商標制度」特許研究 38号,荒
木雅也「地理的表示保護制度の意義」知財管理
651号,同「地理的表示に関する国際 渉」高崎
経済大学論集 47巻3号,須田文明「欧州におけ
る地域ブランド戦略の展開」農業と経済 71巻 13
号,高橋梯二=池戸重信『食品の安全と品質確
保』(農文協,2006年)212頁以下参照。
(3) 日本におけるワインの表示をめぐる問題につ
き,山本博『日本のワイン』
(早川書房,2003年)
,
蛯原 介「フランスのワイン法判例と最近の研
究について」明治学院大学法律科学研究所年報
22号,同「ワインの表示と消費者保護」消費者法
ニュース 69号参照。
(4) TRIPS協定 23条2項の規定は以下の通りであ
る。
「一のぶどう酒又は蒸留酒を特定する地理的
表示を含むか又は特定する地理的表示から構成
される商標の登録であって,当該一のぶどう酒
又は蒸留酒と原産地を異にするぶどう酒又は蒸
留酒についてのものは,職権により(加盟国の国
内法令により認められる場合に限る。)又は利害
関係を有する者の申立てにより,拒絶し又は無
効とする」
。
EU法におけるワインの表示に関する規制
(5) 田村善之
『商標法概説(第2版)
』
(弘文堂,2000
年)212頁以下参照。田村教授は,商標法4条1
項 17号につき,
「4条1項 16号の予防的側面も
あるが,品質の誤認を生ずるおそれの有無を問
わないので,第一義的な目的は,他者が商標権を
取得して,所定の産地の製造業者に対しても排
他権を行 しうるかの如き外観を備えたり,第
三者に対して排他権を行 して信用を蓄積した
りすることを防ぐための規定である」と述べて
いる。
(6) 地域団体商標制度につき,数多くの文献が存在
するが,さしあたり,丸山亮・前掲論文,鈴木康
司=今村哲也「団体商標・証明商標制度における
産地表示保護の比較法的 察」AIPPI 49巻8号,
久保次三「新『地域団体商標』制度と地方 共団
体」法学論集 40巻1号,特許庁 務部 務課工
業所有権制度改正審議室「地域ブランド戦略を
支える商標法の改正」農業と経済 71巻 13号,同
「地域団体商標制度の 設」時の法令 1755号,
今村哲也「改正商標法における地域団体商標制
度について」知財管理 658号などを参照。
(7) V. Jean-Marc Bahans et Michel Menjucq,
Droit du marche viti-vinicole, ed. Feret, 2003,
pp.180et s;Philippe Goni,Les outils juridiques
de la valorisation du produit agricole, Revue
de droit rural, 2003, pp. 229 et s.
(8) Jean-Marc Bahans et Michel Menjucq, op.
cit., p. 182.
(9) EU 法 に お け る ヴァン・ド・ターブ ル お よ び
VQPRDの定義につき,蛯原 介「ワインの生産
および流通における法的統制」明治学院大学法
学研究 81号参照。
(10) Jean-Marc Bahans et Michel Menjucq, op.
cit., p. 186;Philippe Goni, op. cit., p. 231.
(11) Jean-Marc Bahans et Michel Menjucq, op.
cit., p. 183.
(12) C.A.Bordeaux,ch.correctionnelle, 10fevrier
1998. V. Jean-Marc Bahans et Michel Menjucq, op. cit., p. 188.
(13) 委員会規則 2002/753によれば,≪ Alsace≫,
≪vin d Alsace≫,≪Alsace Grand Cru≫,
≪Crepy≫,≪Chateau-Grillet≫,≪Cotes de
Provence ≫,≪ Cassis ≫,≪ Jurançon ≫,
≪Juranç
on sec≫ , ≪ B e a r n ≫ ,
≪Bearn-Bellocq≫,≪ Tavel≫の VQPRDカテ
ゴリーのフランスワインだけが≪ Flute d Al。ま
sace≫を用いることができる(Annexe I,1)
た,≪Clavelin≫の瓶は,≪Cotes du Jura≫,
≪Arbois≫,≪L Etoile≫,≪Chateau-Chalon≫
のVQPRDカテゴリーのフランスワインに留保
され(Annexe I,3)
,さらに,≪Bocksbeutel≫
または≪Cantil≫とよばれる丸型の瓶は,フラン
ケンおよびバーデンのVQPRDに属するドイ
ツワイン,特定のVQPRDに属するイタリア
55
やポルトガルのワイン,特定のギリシアワイン
に留保されている(Annexe I, 2)。
(14) Jean-Marc Bahans et Michel Menjucq, op.
cit., p. 190.
(15) コンクールやメダルの受賞表示につき,蛯原
介・前掲論文参照。
(16) Philippe Goni, op. cit., pp. 232 et s.
(17) Jean-Marc Bahans et Michel Menjucq, op.
cit., p. 193.
(18) Arret de la CJCE du 16mai 2000,Royaume de
Belgique contre Royaume d Espagne, Rec. I03123. V. Jean-Marc Bahans et Michel M enjucq, op. cit., pp. 193 et s.
56
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第5号
(資料)
フランスの伝統的記載事項(2004年2月 20日の委員会規則 2004/316)
伝統的記載事項
対象となる原産地呼称
EU法上のカテゴリー
Appellation d origine controlee
すべて
VQPRD,ヴァン・ムスー,ヴァン・
ド・リクール(いずれもVQPRDカテ
ゴリーに属するもの)
Appellation controlee
すべて
VQPRD,ヴァン・ムスー,ヴァン・
ド・リクール(いずれもVQPRDカテ
ゴリーに属するもの)
Appellation d origine vin delimite すべて
de qualite superieure
VQPRD,ヴァン・ムスー,ヴァン・
ド・リクール(いずれもVQPRDカテ
ゴリーに属するもの)
Vin doux naturel
AOC Banyuls, Banyuls grand cru, ヴァン・ド・リクール(VQPRDカテ
M uscat de Frontignan, Grand ゴリーに属するもの)
Roussillon, M aury, M uscat de
Beaumes-de-Venise, M uscat du
Cap Corse,M uscat de Lunel,M uscat de M ireval, M uscat de
Rivesaltes, Muscat de Saint-Jeande-M inervois, Rasteau, Rivesaltes
Vin de pays
すべて
地理的表示つきヴァン・ド・ターブ
ル
Ambre
すべて
ヴァン・ド・リクール(VQPRDカテ
ゴリーに属するもの),地理的表示つ
きヴァン・ド・ターブル
Chateau
すべて
VQPRD,ヴァン・ムスー,ヴァン・
ド・リクール(いずれもVQPRDカテ
ゴリーに属するもの)
Clairet
AOC Bourgogne, Bordeaux
VQPRD
Claret
AOC Bordeaux
VQPRD
Clos
すべて
VQPRD,ヴァン・ムスー,ヴァン・
ド・リクール(いずれもVQPRDカテ
ゴリーに属するもの)
Cru artisan
AOC M edoc, Haut-M edoc, M ar- VQPRD
gaux, M oulis, Listrac, SaintJulien, Pauillac, Saint-Estephe
Cru bourgeois
AOC M edoc, Haut-M edoc, M ar- VQPRD
gaux, M oulis, Listrac, SaintJulien, Pauillac, Saint-Estephe
Cru classe ( Grand, Premier
grand, Deuxieme, Troisieme,
Quatrieme, Cinquiemeを併記する
場合有り)
AOC Cotes de Provence, Graves, VQPRD
́
SaintEmilion grand cru, HautM edoc, M argaux, Saint-Julien,
Pauillac, Saint-Estephe, Sauternes, Pessac-Leognan, Barsac
Edelzwicker(ドイツ語)
AOC Alsace
VQPRD
EU法におけるワインの表示に関する規制
Grand cru
AOC Alsace, Banyuls, Bonnes- VQPRD
M ares, Chablis, Chambertin,
Chapelle-Chambertin, Chambertin
Clos-de-Beze, M azoyeres ou
Charmes-Chambertin, LatricieresChambertin, Mazis Chambertin,
Ruchottes-Chambertin, GriottesChambertin, Clos de la Roche,
Clos Saint-Denis, Clos de Tart,
Clos de Vougeot, Clos des Lamb r a y, C o r t o n , C o r t o nCharlemagne, Charlemagne, Echezeaux, Grand Echezeaux, La
G rande-R ue, M ont rachet,
Chevalier-M ontrachet, BatardM ontrachet, Bienvenues-BatardM ontrachet, Criots-BatardM ontrachet, Musigny, Romanee
Saint Vivant, Richebourg,
Romanee-Conti, La Romanee, La
Tache, Saint-Emilion
Grand cru
Champagne
ヴァン・ムスー(VQPRDカテゴリー
に属するもの)
Hors d age
AOC Rivesaltes
ヴァン・ド・リクール(VQPRDカテ
ゴリーに属するもの)
Passe-tout-grains
AOC Bourgogne
VQPRD
Premier cru
AOC Aloxe Corton, Auxey Dures- VQPRD,ヴァン・ムスー(VQPRD
ses, Beaune, Blagny, Chablis, カテゴリーに属するもの)
Chambolle-M usigny, ChassagneM ontrachet,Champagne,Cotes de
Brouilly, Fixin, Gevrey Chambertin, Givry, Ladoix, M aranges,
M ercurey, M eursault, M onthelie,
M ontagny, M orey St Denis,
M usigny, Nuits, Nuits-SaintGeorges, Pernand-Vergelesses,
Pommard, Puligny-M ontrachet,
Rully, Santenay, Savigny-lesBeaune, Saint-Aubin, Volnay,
Vougeot, Vosne-Romanee
Primeur
すべて
Rancio
A O C G ra n d R o u ssillo n, ヴァン・ド・リクール(VQPRDカテ
Rivesaltes, Banyuls, Banyuls ゴリーに属するもの)
grand cru, Maury, Clairette du
Languedoc, Rasteau
VQPRD,地理的表示つきヴァン・
ド・ターブル
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58
『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第5号
Selection de grains nobles
AOC Alsace, Alsace grand cru, VQPRD
M onbazillac, Graves superieures,
Bonnezeaux, Jurançon, Cerons,
Quarts de Chaume, Sauternes,
Loupiac, Coteaux du Layon, Barsac, Sainte Croix-du-M ont,
Coteaux de lAubance, Cadillac
Sur lie
AOC M uscadet, M uscadet- VQPRD,地理的表示つきヴァン・
Coteaux de la Loire, M uscadet- ド・ターブル
Cotes de Grand-lieu, M uscadetSevres et Maine, AOVDQS Gros
plant du pays Nantais, Vin de
pays d Oc, Vin de pays des Sables
du golfe du Lion
Tuile
AOC Rivesaltes
ヴァン・ド・リクール(VQPRDカテ
ゴリーに属するもの)
Vendanges tardives
AOC Alsace, Jurançon
VQPRD
Villages
AOC Anjou, Beaujolais, Cotes de VQPRD
Beaune, Cotes de Nuits, Cotes du
Rhone, Cotes du Roussillon,
M acon
Vin de paille
AOC Cotes du Jura, Arbois, VQPRD
L Etoile, Hermitage
Vin jaune
AOC du Jura (Cotes du Jura, VQPRD
Arbois, L Etoile, Chateau-Chalon)