米国同時多発テロ事件での NY市非常事態管理室(OEM)の活動

リスク・レーダー
NO.2002-4
電話 (03) 5288-6580
米国同時多発テロ事件での
NY市非常事態管理室(OEM)の活動
(2001年9月11日の崩壊直後のWTC、写真:NY市 OEM)
2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件は、3,000人を越える人的被害、ニューヨ
ーク市(以下「NY市」)にある世界貿易センター(World Trade Center:WTC、以下「WTC」)の
複数のビルの崩壊、バージニア州にある国防総省ビルの甚大な被害に加え、NY市の経済・社会への影響
や世界経済への影響等、その規模、波及範囲だけをとっても、空前絶後の事件であったと言える。NY市
は、この難局に対して、ルディ・ジュリアーニ市長(Rudy W. Giuliani)を中心に、迅速に対応し、大き
な成功をおさめた。この成功の裏には、NY市の緊急事態対応の中核となる非常事態管理室(Office of E
mergency Management : OEM、以下「OEM」)の存在が挙げられる。OEMは、緊急事態に際して、
数多くの関係機関の連携が必要との認識から、1996年に設立された。また、OEMのコントロールセン
ターとして、1999年にWTC第7ビル内に最新鋭の設備を誇る緊急作戦センター(Emergency Oper
ation Center : EOC、以下「EOC」)が開設された。今回のテロ事件では、EOCそのものはビルの崩壊
によって使用不能となったものの、非常事態管理室の設置目的、機能は、仮設の緊急指令センター(Eme
rgency Command Center:ECC、以下「ECC」)を対応活動の拠点としたことにより、十分達せられた。
ここでは、これらのNY市の組織が、このテロ事件にどのように対応したかを述べると共に、NY市の緊
急時対応におけるトップの迅速な決断と伝達、またそのための情報の集約等、一般企業の緊急時対応にも
重要な示唆を与える点をまとめた。
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Ⅰ.今次テロ事件でのNY市の被害の概要
今回のテロ事件は、直接的及び間接的に、NY市に多大な被害をもたらした。下記は、事件及び被害の概要で
ある。
表1 事件の概要
時間(現地時間)
2001年9月11日
午前8時45分
場所
概要
アメリカン航空11便(ボストン発ロサンゼルス行き・7時45分ボスト
ン・ローガン国際空港離陸、乗員・乗客92人、Boeing 767)が衝突
⇒10時28分北側タワー崩壊
ユナイテッド航空175便(ボストン発ロサンゼルス行き、7時58分離
陸、乗員・乗客65人、Boeing 767)が衝突⇒10時5分南側タワー崩壊
アメリカン航空77便(ワシントン発ロサンゼルス行き、8時10分ワシ
ントン・ダレス空港離陸・乗客64人、Boeing 757)が衝突
ユナイテッド航空93便(ニューアーク発サンフランシスコ行き、8時0
1分ニューアーク空港離陸、乗員・乗客44人、Boeing 757)が墜落
WTC第1ビル
(北側タワー)
同日午前9時5分
同日午前9時39分
同日午前10時10分
WTC第2ビル
(南側タワー)
米国防総省
(バージニア州)
ピッツバーグ郊外
表2 人的被害
死者・行方不明者数
航空機関係
WTC関係
(2002年4月22日現在)
国防総省関係
アメリカン航空11便
ユナイテッド航空175便
アメリカン航空77便
ユナイテッド航空93便
行方不明者
死者
92人
65人
64人
44人
1,692人
974人
125人
3,056人
合計
表3 主な物的被害
倒壊または壊滅した建物
大規模な被害を受けたビル
リバティプラザ
世界ファイナンシャルセンター第1ビル
世界ファイナンシャルセンター第2ビル
ニューヨーク電話会社ビル
ニューヨーク連邦ビル
国防総省ビル(バージニア州) 等
WTC第1ビル(110階建)
WTC第2ビル(110階建)
WTC第3ビル(マリオットホテル、22階建)
WTC第4ビル(9階建)
WTC第5ビル(9階建)
WTC第6ビル(税関ビル、8階建)
WTC第7ビル(47階建)
注:WTC第3∼第5ビルはWTC第1及び第2ビルの崩壊に伴い崩壊した。WTC第6ビルは倒壊は免れたものの壊滅的な被害を受けた。また、WT
C第7ビルは同日午後5時20分 に倒壊した。
表4 NY市の被害概要(NY市 2001年10月4日発表)
今後2年間のNY市の損害(最大額)
WTCを縮小して再建した場合の建設費
67億ドル
損害を受けた全建物の再建・改修
53億ドル
地下鉄の復旧や電力、電話などの基盤整備
94億ドル
家具、PC、店舗の在庫等の損失額
死者と行方不明者の5,600人の人的損失
(平均10万ドルの年収が20年失われたと想定)
客数が減ったホテルやレストラン等の損害
120億ドル
112億ドル
23億ドル
売上が落ち込んだ小売・卸売業界の損害
17億ドル
その他(多数の企業がマンハッタンから流出する可能性等)
合計
2
564億ドル
1,050億ドル
(約14兆1,750億円)
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Ⅱ.非常事態管理室及び緊急作戦センターの概要
1.非常事態管理室(OEM)
NY市においては、1960年代前半に設立さ
協力体制の調整を図り、NY市に実効的な緊急時
れた市長直轄の市民防衛局(The Mayor’s Office
対応、対応計画及び被害極小策を策定、運用する
of Civil Defense )、 1 9 7 6 年 に N Y 市 警 察
ことである」
(NYPD)の部局の一つとして設立された非常事
態 管 理 室 ( The
Office
of
(2) OEMの実施事項
Emergency
Management)といった機関が、市民や企業の安
上記の目的を達成するため、OEMは以下のことを
全を確保するための活動を行ってきた。
実施する。
1994年に市長となったジュリアーニ氏は、
① NY市、NY州、連邦政府などの複数の機関に
NY市民や資産の安全を侵すような非常事態に対
よる対応が必要となる全ての潜在的な緊急事
して、迅速に対応できる独立した組織の必要性を
態、事件、脅威等の監視及び対応
認識し、1996年4月1日、市民防衛局とNYPD
② 潜在的な緊急事態、事件等に際して、NY市が
の非常事態管理局の機能を合体させ、市長直轄の
実効的な対応を可能にするための緊急作戦セ
非常事態管理室(OEM)を設立させた。このOEM
ンター(EOC)の運営
の機能は、自然災害、技術的、生物的または化学
③ 調査、情報収集、被害想定を行ない、平時にお
的テロ、その他緊急事態に際して、NY市、ニュ
いて、生物兵器テロへの対応計画からNY市民
ーヨーク州(以下「NY州」)、連邦組織間の調整
への情報提供・広報対応計画に至る緊急対応計
をはかり、平時においては、その予防のための活
画の策定
④緊 急 事 態 に 対 応 す る 複 数 の 機 関 の 活 動 ガ イ ド
動を行うことである。
ラインとなるNY市の被害防止策の策定
(1) OEMの目的
⑤ 緊急対応訓練等の訓練計画の準備、調整及び実
OEMの目的は、以下のように述べられている。
施
⑥ 緊急事態対応における複数の機関との調整
「OEMの使命は、NY市民に最高度の緊急事態態
勢を提供し、地方、州、連邦政府、民間団体との
OEM局長
国家保安庁担当
プロジェクト担当
上級副局長
(副局長)
法律担当
(副局長)
管理・財務・企画担当
技術担当
予防担当
広報・民生担当
(副局長)
(副局長)
(副局長)
(副局長)
訓練担当
緊急時対応担当
Watch Command
人材サービス担当
復旧担当
健康・医療担当
(部長)
(部長)
担当(部長)
(部長)
(部長)
(部長)
図1
首席情報・保安担当
調達・物流担当
(副局長)
OEMの体制
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2.緊急作戦センター(EOC)
NY市に居住、就労または滞在している一般市民の健
た。また、全ての機関は、複数の通信業者による緊急マ
康、安全に影響を与える緊急事態、事件が発生または発
イクロ波通信システムにバックアップされた標準電話
生が予想され、複数の機関による対応が必要となった場
通信システムも備えていた。また、消防、警察、緊急医
合に、EOCが機能を発揮することとなる。 OEMは、
療サービスといったいくつかの緊急応答機関は、事件の
1999年2月に、1,300万ドルを投じて新しい
間に起きた市内の状況を監視する機能を持っており、こ
EOCをWTC第7ビルの23階に開設した。EOCは、
れらの情報がEOCで利用され、分野の異なる機能や指揮
NY市が運営する非常事態における指令センターで、最
ポストとの直接のコミュニケーションが出来る体制と
新の情報設備を誇っていた。しかしながら、今回のテロ
なっていた。
事件ではWTC第7ビルが崩壊、消失してしまったため、
臨時の指令所である緊急指令センター(Emergency
(4) 画像情報システム
Command Center:ECC)が構築され、緊急時対応にあ
EOCは、NY市の全ての主要水路を監視できるように、
たった。
ア メ リ カ 沿 岸 警 備 隊 ( The United Stated Coast
Guard:USCG)のマイクロ波を使用するビデオ・モニ
(1) EOCの施設
タリングシステムを共有していた。このビデオ・モニタ
EOCがWTC第7ビルに設置された最大の理由は、市庁
リングシステムは360度のパン機能や、ズーム機能を
舎やほとんどの市機関から歩いていける距離であった
備えており、USCGの指揮センターやEOC内にある
ためである。この施設は、ビルの予備発電機とは別に、
USCGのワークステーションによってコントロールす
緊急時の動力源として3つの500kW発電機によって
ることができた。また、USCGは、市の水路内に配置さ
動力が配給される仕組みとなっていた。このほか、6千
れた監視用のボートと直接連絡するために海事無線も
ガロン(約23千リットル)の燃料タンク、暖房装置、
有していた。EOCのもうひとつのビデオ・モニタリング
換気装置、空気調節装置といった予備のシステム、生活
シ ス テ ム は 、 N Y 市 の 各 所 に あ る 交 通 局 ( The
用水用に11千ガロン(約42千リットル)の水が用意
Department of Transportation and Metro Traffic)のシ
されていた。また、停電時でもコンピュータ、電話、無
ステムである。カメラは市の各所にあり、5つの行政区
線に電源が供給されるUPS(非常電源)設備も完備して
の主な道路を監視することができる体制となっていた。
いた。
(5) 緊急指令センター(ECC)
(2) 各機関のワークステーション
ECCは、主に市長またはその代行者が市庁、EOC外で指
EOC内部には、緊急時に68の機関がワークステーショ
揮命令にあたることを想定し、臨時に設置される現場指
ンを設置できるようになっており、緊急時には、各機関
令所である。今回の事件では、このECCが機能した。
がそこで業務を行うことが出来る体制になっていた。
(3) 通信システム
EOC内部には、各機関がより効率的に機能し、それぞれ
の母機関の指揮センターとの連絡を可能にするため、
様々なタイプの通信設備が設置されていた。また、全て
の機関はOEMの管理スタッフと連絡をとるためのメッ
セージシステムを装備したコンピュータを持っていた。
このシステムによって、OEMと各機関は、相互に任務
遂行に向けたタイムスケジュールに沿って、緊急時に対
処すべき多くの業務をフォローできるようになってい
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Ⅲ.具体的な活動内容
1.時間的経過
下記は、事件当日(2001年9月11日)の経過をNY市の対応を中心にまとめたものである。
表5 事件当日の経過
経過(2001年9月11日)
AM08:45
WTC第1ビルにアメリカン航空11便衝突
AM09:05
WTC第2ビルにユナイテッド航空175便衝突
AM09:17
連邦航空局(FAA)がニューヨーク地域の空港を閉鎖
AM09:21
ニューヨーク・ニュージャージー・ポートオーソリティがマンハッタンへの橋、トンネルを閉鎖
AN09:40
FAAがアメリカ国内の民間航空機の飛行を禁止
AM10:05
WTC第2ビル倒壊
AM10:13
国連をはじめとする主要なビルからの避難開始
AM10:24
FAAは、アメリカに向かっている国際便のすべてをカナダの空港に向かうよう指示
AM10:28
WTC第1ビル倒壊
AM10:53
PM02:30
PM02:49
当日に予定されていた予備選の延期を州が決定
ジュリアーニ市長がキャナルストリート(Canal Street)以南の住民、会社従業員に対し、避難勧告。14丁目(14th
Street)以南の住民に外出禁止の呼びかけ
FAAが翌日(12日)の昼まで、アメリカ国内の民間航空機の飛行禁止を決定
ジュリアーニ市長は、事件後ストップしていたバス、地下鉄の運行が、一部再開されたと発表
PM03:55
ジュリアーニ市長は、少なくとも2,100人が負傷し、うち200人が重症だと発表
PM04:06
デービスカリフォルニア州知事は、ニューヨークに捜索・救出隊を送ると表明
PM05:20
WTC第7ビル崩壊
PM06:10
ジュリアーニ市長は、できれば翌日(12日)は、自宅に居て、マンハッタンに出て来ないようにと勧告
ニューヨーク市警察は、少なくとも78人の警察官が行方不明と伝えた。また市は最初に現場に到着した400人の
消防士のうち約半分が恐らく事件に巻き込まれて亡くなったと報告
AM11:02
PM07:45
PM09:57
ジュリアーニ市長は記者会見し、12日のニューヨーク市の学校は全て閉鎖されると発表。事件当日夜の救出作業に
おいては、これ以上のボランティアは必要ないと発表した。また、少しでも生存者の可能性がある限り、救出作業を
続けると表明した。さらに、ダウンタウンの西部において一部地域の停電が見られ、復旧作業中であることを報告す
るとともに、崩壊によって地域の大気汚染が進んでいないかを調査中であると報告
2.ECC の設置場所の変遷
事件後、ECCの設置場所は、状況の変化に応じて、臨機応変に移動した。下記は、その変遷である。
表6 EOC設置場所の変遷
時間
①
設置場所
事件直後(AM09:20頃) WTCの敷地外のベセイストリート(Vesey Street)にECC設立(下記地図★)
②
AM10:00頃
WTCから1ブロック北側(75 Barclay Street)に移動(下記地図★)
③
AM10:30頃
WTCから約2キロメートル北側の6番街(6th Avenue)とハウストン・ストリート(Houston
Street)の角にある消防署に移動(下記地図★)
④
PM01:00頃
コミュニケーション手段などがより充実している20丁目(20th Street)の警察学校(Police
Academy:WTCから直線距離で約3.7キロメートル)に移動
⑤
約1週間後
51丁目(51st Street)のハドソン川沿いの第92埠頭の建物(WTCから6.3キロメー
トル北側)に移動(2002年2月末まで稼動)
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既述の通り、WTC第7ビルには、わずか2年前にオー
at West Broadway)にECCが移動したのに伴い、そち
プンしたばかりのEOCがあり、緊急時の中枢基地として
らに向かった。市長と何人かの幹部が、オフィスまでの
機能するはずであったが、事件後、数十分のうちに利用
数ブロックを歩いているとき、WTC第2ビルが崩壊し、
不能となり、数時間後には瓦礫のなかに埋もれてしまっ
この地域が安全でないことが明白となった。側近の人々
た。ジュリアーニ市長は、旅客機が衝突したとの連絡を、
によって、いくつかの選択肢が議論された後、彼らは6
5番街(5th Avenue)50丁目(50th Street)付近で受
番街とハウストン・ストリートの角にある消防署へ向か
け、直ちにWTC敷地外に設けられたECCに向かったが、 った。市長はそこを新しいECCとして、執務を開始した。
10時頃にWTCから1ブロック北側(75 Barclay St.
Canal Street(キャナル・ストリート)
14th Street(14丁目)
WTC
図2 NY市マンハッタン地区の立ち入り禁止地域の変遷
出典:NY市OEM
3.家族支援センターの設置
ジュリアーニ市長の指示で、OEMは、事件の翌日(9
ジュリアーニ市長は、最初に設置したセンターを見て、
月12日)に小規模な家族支援センター(Family
すぐに新たなセンターの必要性を感じ、その迅速な設置
Assistance Center:FAC)を、25丁目(25th Street)
をOEMに指示した。その指示に基づき、OEMは9月1
に位置する州軍の部隊本部の建物に設置した。
3日の夜、新しいセンター設置のための会議を召集した。
このセンターの最大の機能は、事件の被害に関わる全
この会議には、市の各部局、以前から市のe-Government
ての人に数々の便宜(様々な手続き、相談、支援)を提
化を進める上で、マネジメント・コンサルタントとして
供することである。また、遺族の精神的ケアについても、
大きな役割を果たしていた民間企業のアクセンチュア
十分な体制が取られている点である。当初は事件の被災
(Accenture:旧称アーサー・アンダーセン・マネジメ
者達の家族に対する情報センターであり、被害に遭った
ントコンサルタント)をはじめ、電話会社のベライゾン、
人々の手がかり情報(DNA鑑定用の資料も含む)の提供、
電力会社のコン・エジソン、コンピュータ関連システム
家族の情報収集の場であった。しかし、その後支援対象
会社のシスコ・システムズ、経済開発公社、アメリカ赤
が広がり、精神的なショックを受けた大人や子供の相談、 十字社などの担当者が召集された。その会議の結果、5
残された家族の生活相談、そして事件で職場を失った
4丁目(54th Street)のハドソン川沿いに新しいセンタ
人々の就職相談、住宅の被害に遭った人々の住宅相談な
ーを設置することが決まり、突貫で設備工事、移動が行
ど、事件に関わる市民への重要なセンターとして機能し
われ、9月17日にオープンした。
た。
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4.その他の活動
② NY州
・ NY State Worker's Compensation Board(州労
その他、今回の事件の対応におけるOEM、EOCの活
動(計画立案、調整等)としては、下記のようなものが
働者補償評議会)
挙げられる。
・ NY State Insurance Fund(州保険基金)
(a) FDNY(NY市消防局)とのNYPD役割分担と調整
・ NY State Insurance Department(州保険局)
(b) レスキュー活動と瓦礫の処理
・ NY State Courts Family Support(州裁判所
(c) 交通管制(立ち入り禁止地域、道路、鉄道、空港、
家族支援事務所)
トンネル、橋等)
③ 連邦政府
(d) ライフラインの復旧(電気、ガス、スチーム、電話、
・ Federal Emergency Management Agency(
FEMA:連邦緊急事態管理庁)
テレビ、ラジオ、水道等)
(e) ボランティア活動の調整(個人、NPO、NGO、企業、
・ Department of Labor(労働省)
・ Department of Veterans Affairs・Health Care
その他団体)
(f) 各種復興及び被災者救済のための基金の管理
(復員軍人援護省)
(g) ビジネス支援、経済復興のための活動
・ FBI(連邦捜査局)
・ Social Security(社会保険局)
OEMとEOCは、これらの活動を行う上で不可欠となる
・ INS(移民局)
下記のような各種機関との調整機能を果たしていた。
④ その他民間団体
・ Red Cross(赤十字)
① NY市
・ FDNY
・ Salvation Army(救世軍)
・ PDNY
・ Legal Office(法律事務所)
・ Deputy Commissioner Community Affairs(
・ Community Assistance Unit (CAU:コミュニ
DCCA:コミュニティ部門副委員長オフィス)
ティ支援グループ)
・ Human Resources Administration(HRA:人材
・ コンサルティング会社(アクセンチュア等)
管理庁)
・ その他民間団体、ボランティア団体
Ⅳ.まとめ(成功の要因と企業の危機管理への示唆)
1.NY市の対応における成功の要因
密に連絡をとり、迅速に対応
今回の事件対応においては、WTC第7ビルに設置さ
れたEOCが機能しなかったために、事件直後においては、
・ 迅速な決断(交通管制、家族支援センター設置等)
指揮命令系統に支障が生じ、多少混乱した。しかしなが
・ マスコミを利用した市民に対する呼びかけ
ら、その後の対応は迅速であり、実効的であったと言え
る。このNY市の対応の成功には、下記のような要因を
これらを可能にしたのは、同市長が就任直後の1995
挙げることができる。
年3月20日の地下鉄サリン事件(日本)、同年4月 1
9日のオクラホマ連邦ビル爆破テロ事件(米国)等で、
(1) ジュリアーニ市長のリーダーシップ
NY市における危機管理体制の必要性を認識し、これら
ジュリアーニ市長は、事件当日の対応において、市長と
事件を研究していたことが挙げられる。特に、オクラホ
しての下記のようなリーダーシップを発揮している。
マ連邦ビル爆破テロ事件の教訓から、当初から被災者の
家族を支援する必要性を感じ、家族支援センター設立を
指示したことは特筆される。
・ 事件直後にECCに行き、陣頭指揮
・ ECCを機能的に移動させ、州政府、連邦政府と緊
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(2) OEM、EOCに代わるECCの迅速な対応
構築においても言える。そのため、企業は他社の危機事
既述の通り、緊急時等の要諦であったEOCが当初より使
例の研究・ケーススタディを積極的・継続的に行う必要
用不可であったことは、NY市の対応において痛手では
がある。
あったが、その後の対応は迅速であり、特にNY州政府、
連邦政府との調整においては、ECCがその機能を十二分
(3) 訓練の重要性
に発揮した。これを可能にしたのは、これまでの実績と
NY市においては、OEM、EOCが定期的に机上訓練(シ
訓練であったと言える。NY市では、それまで何度かテ
ミュレーション訓練)を実施していたことが、その成功
ロ等を想定したシミュレーション訓練を実施したこと
の要因となっている。このことは、企業においても同様
が迅速な対応につながったと述べている。ちなみに、事
であり、避難訓練等の機能訓練だけではなく、緊急時対
件当日、NY市では生物テロを想定したシミュレーショ
応要員向けの机上訓練等の実施が必要である。
ン訓練を予定していた。
(4) 常設組織の必要性
(3) 連邦政府、NY州の支援体制
NY市においては、OEM、EOC等の組織が平時及び緊
一般的に、大規模なテロ事件、災害等が発生した場合に
急時対応において危機管理体制の要諦となっている。当
は、連邦政府機関であるFEMAが中心となり対応するが、
然、NY市は巨大都市であり、常設組織は不可欠である
今回の事件では、NY市が中心となり、FEMA、NY州
が、企業においても今後、実効的な危機管理体制の構築
はこの支援に回っている。この背景には、NY市が全米
ために、平時及び緊急時対応の核となる常設組織が必要
でも有数の緊急時対応体制(OEM、EOC)を有してい
となってくるものと考えられる。
たことが挙げられる。そのため、市、州、連邦政府、そ
の他民間団体等をNY市が調整することで、実効的な対
(5) リーダーシップ
応が可能になったと言える。
今回のNY市の対応においては、ECC等の機能を利用し、
市長による指揮命令が的確に伝わったことが、成功の要
2.企業の危機管理への示唆
因として挙げられる。また、市長の決断、対応が迅速で、
上記の点を企業の危機管理体制に当てはめると、企業
しかも現場で陣頭指揮にあたったことも重要である。こ
にとって下記のような点が重要であることが浮き掘り
のことは、危機管理において最高責任者のリーダーシッ
となる。
プの重要性を示している。企業においてもトップの危機
管理能力、リーダーシップが問われる時代となりつつあ
ることを物語っている。
(1) 緊急時の指揮命令系統の維持
EOCが使用出来なかったため、
ECCがその機能を果たし
たが、初期対応においては多少混乱が生じている。企業
(6) 最悪の事態の想定
における危機管理マニュアルでは、対策本部は本社内の
EOCは、ある程度の状況(停電等)も想定し設置されて
会議室となっている場合がほとんどである。今後、危機
いたが、今回の事件では当初より使用できない事態とな
管理マニュアルを見直す場合には、本社建物以外にも対
った。このことは、緊急時対応においては、最悪の事態
策本部を設置することを想定しておく必要がある。また、 を想定しておくことが、緊急時対応の成否を左右する場
通信設備も衛星携帯電話等を含め複数用意し、多様化を
合もあることを物語っている。今後企業としては、「こ
図る必要があると言える。
んなことは起きないだろう」、「いくらなんでもここま
では想定しなくても...」といった認識を捨て、「こ
(2) 事例の研究・ケーススタディの重要性
んな可能性もあるよな...」、「こんな時にこんなこ
ジュリアーニ市長は、1995年の地下鉄サリン事件、
とがおきる場合もある」といった最悪の事態を想定して
オクラホマ連邦ビル爆破テロ事件から、同様の事件が
おくことが重要であると言える。
NY市で発生する可能性を認識し、NY市の体制整備を
図っていた。同様のことは、企業における危機管理体制
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