第4章 公共交通の維持確保のための考え方と推進方策 第1節 公共交通の維持確保の基本的考え方 ・公共交通の利用者が大きく減少しており,交通事業者の採算性の低下や,行政による財政 支援の限界により,このまま推移すれば,公共交通が地域における住民の足としての機能 を維持していくことは極めて厳しいが,一方で,県民の大多数が公共交通を必要と考えて いる。 ・今後も公共交通を維持確保していくためには,企業努力や行政支援に加え,県民・地域(企 業や団体等)を含めた関係者がそれぞれの役割を十分に認識するとともに,その役割に応 じた取組を展開していくことが必要である。 ・つまり,県民・地域,交通事業者,行政が互いに義務を負うといった「契約」の考え方に 基づき,公共交通を維持確保していくことが必要である。 県民・ 地域 交通 事業者 互いに義務を負う 「契約」の考え方 に基づき公共交 通を維持確保 行政 - 1 - 第2節 それぞれの主体の役割分担 各主体の役割分担 公共交通の維持確保に関する県民・地域,交通事業者,行政の役割がこれまで必ずしも 十分に認識されてこなかったことから,それぞれの役割を明確化し,連携を図りながら公 共交通の維持確保に取り組むことが重要である。 (1)県民・地域,交通事業者,行政の役割 ・県民・地域においては,公共交通の重要性を認識し,利用促進への取組や地域の公共交 通を支えるための経済的な負担に対する理解が必要になる。 ・交通事業者においては,経営環境のマインドの改善や県民のニーズを踏まえた利便性の 高いサービスの積極的提供などが求められている。 ・行政においては,必要な財政的支援の他,関係者との連携による利用促進策の積極的な 推進などが求められている。 現在の役割 今後の役割 ①県民・地域 ①交通事業者 ・公共交通の利用 ・経営環境の改善による公共交通の ・公共交通の重要性の認識 維持確保 ・公共交通施策への参加,協力 ・自らの経済的な負担 ②交通事業者 ②行政 ・経営環境の改善による公共交通の維持 ・公共交通維持確保のための財政的 確保 支援 ・利便性の高いサービスの提供 ・公共交通利用者の積極的な獲得 ・県民から愛される事業者への変革 ③県民・地域 ③行政 ・公共交通の利用 ・公共交通維持確保のための財政的支援 ・交通事業者の利用者拡大取組への支援 ・県民の公共交通に関する意識の醸成 ・関係者の連携・協働の促進 - 2 - (2)県と市町村の役割 ・国においては,国家的な基幹公共交通網の整備や新技術の開発支援,地方のバス支援,公 共団体に対する技術的助言など様々な取組を行っているが,公共交通の厳しい現況を踏ま え財政支援の拡大など一層積極的な公共交通施策を実施して頂く必要がある。 ・県と市町村については互いに連携しつつ,県においては広域的幹線的な公共交通の整備や 維持確保など県民全体に関係する施策を中心に行うとともに,複数の市町村による連携が 促進されるよう適切な調整を行う。 ・地域住民に最も身近な行政主体である市町村は,地域の住民・企業や団体などの関係者と 連携のもと,公共交通に関する計画を策定し,地域の生活を支える公共交通の維持活性化 に取り組むとともに,近隣市町村との連携により県の広域的な施策との適合を図ることが 期待される。 <県の役割> <市町村に期待される役割> <県内外を結ぶ交通> <単一市町村内の交通> ■県内外を結ぶ幹線となる公共交通の整備推 ■市町村内の公共交通の維持確保 進等 ・コミュニティバスの運行 ・JR常磐線の東京駅乗り入れ ・デマンド型乗合タクシーの運行 ・つくばエクスプレスの東京延伸 等 ・路線バスの維持 <複数市町村に跨る交通> <隣接市町村との連携> ■複数市町村に跨る広域的・幹線的な公共 ■隣接市町村と連携した公共交通の維持確 交通の維持確保等 保 ・根幹的な鉄道,バス路線の維持確保 ・コミュニティバスの共同運行 ■県民全体を対象とした公共交通の利用促 ・複数市町村に跨る路線バスの維持 進 <単一市町村内の交通> <利用促進> ■単一市町村内の公共交通の維持確保は市 ■市町村民,地域等の公共交通の利用促進 町村 ・市町村職員自らの公共交通利用促進 ・住民の意識醸成と利用促進 ただし, ・公共交通の維持確保,利用促進等に関す ・先進的・先駆的な取組や,鉄道に関する る計画の策定 地元・市町村の取組を積極的に支援 国,関係機関への要望等を実施 - 3 - 第3節 Ⅰ 県が実施又は促進する施策案の概要 利便性の高い公共交通サービスの提供 1 広域的・根幹的な公共交通の整備及び維持確保 人やものの活発な交流を図るための社会基盤となる公共交通網の整備を促進し,県民 誰もが利用できる公共交通の確保を目指す。 ①県内外に跨る公共交通網の確保 生活行動の広域化などに対応するとともに,県内外の地域間交流の活性化を図るた め,国や交通事業者,沿線市町村などと連携し広域的な公共交通網の整備確保等に努 める。 ・つくばエクスプレスの東京延伸の促進 ・JR常磐線の東京駅乗り入れ促進 ・高速バスの新たな停留所設置の促進 ・茨城空港へのアクセス交通の整備促進 など ②県内の根幹的交通網の確保 県内の各都市を結ぶ根幹的な地方鉄道やバス路線などについて,国や交通事業者, 沿線市町村などと連携し維持確保を図る。 ・地方鉄道の安全施設等の整備に対する支援 ・不採算バス路線の維持確保への支援 ・県北山間地域における廃止代替バス路線の維持確保への支援 2 など 県民が利用したくなる公共交通環境の構築 利用者の利便性を高めるため運行情報の提供などのシステムの導入を促進する。 ・パーク・アンド・ライド等の駐車場等の整備促進 ・バスロケーションシステム(携帯電話等によるバス運行情報の提供)の導入検討 ・PTPS(公共車両優先システム)の導入検討 ・バスの県内共通ICカード導入の支援方策の検討 など <バスロケーションシステム> バス運行情報を携帯電話・ いばらきバスロケ パソコンでゲット! - 4 - <PTPS> 3 高齢者・障害者等が利用しやすい公共交通の整備促進 「どこでも,だれでも,自由に使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を 踏まえ,車両や駅などのバリアフリー化を促進し高齢者や障害者等をはじめ誰もが利用 しやすい公共交通の整備を促進する。 ・ノンステップバスの導入に対する支援 ・エレベーターの設置など駅のバリアフリー化促進に対する支援 4 など 地域の特性に応じた公共交通モードの導入促進 公共交通の空白地帯などにおけるコミュニティバスの運行など,地域・市町村が主 体となった公共交通サービスの提供を促進する。 また,タクシーを活用し,バスの利用が困難な地域における生活交通の確保や育児 支援・通学への利用など多様なニーズへの対応方法を検討する。 ・地域・市町村が主体となった公共交通サービスの提供 ・タクシーの特性を生かしたデマンド型乗合タクシーなどによる公共交通手段の確 保についての検討 ・スクールバスなどの複合的利用の検討 - 5 - 5 企業における公共交通の利用促進 通勤等における自家用車からの利用転換を図るための公共交通の確保について関係者 と連携して検討する。 ・工業団地における共同バス運行の検討 ・企業が所有するバスの複合的利用の促進 6 など 新たな公共交通モードの導入可能性の検討 新たな公共交通モードの導入による公共交通の活性化等について関係機関等と連携し 調査研究を行う。 ・DMV(鉄道も道路も走れる車両)の導入可能性の検討 ・燃料電池車両の調査研究 など <DMV(デュアルモードビークル)> バスモード Ⅱ 鉄道モード 公共交通を支える仕組みと地域づくり 1 交通事業者の経営改善等の促進 交通事業者による新たな収益増加策への取組の促進や公共交通のコスト削減等の検 討を行うとともに,交通事業者が公共交通の維持活性化に積極的に取り組むよう,県 民などとの交流等を通じて,交通事業者の意識の向上を促進する。 ・屋根などが整備された付加価値の高い広告付きバス停の設置促進の検討 ・専門家派遣制度等を活用した経営改善の促進 ・特産品の開発等による新たな収益増加策の促進 ・交通事業者における県民・地域との積極的な交流の促進 2 など 公共交通が維持確保しやすい地域の構築 自家用車に過度に依存しない公共交通を利用しやすいまちづくりや公共交通の活用 と観光を組み合わせた施策の推進などに努める。 ・コンパクトシティの調査研究 ・公共交通を活用した観光の推進 など - 6 - Ⅲ 1 公共交通の利用に向けた県民意識の醸成 モビリティ・マネジメントの実施 適切な情報提供等により県民のエモーション(情動)に訴えかけ,公共交通のイメー ジを向上させて利用を促進し利用者の拡大に努める。 ・モビリティ・マネジメントを活用した公共交通に関する意識向上を図る教育等の 促進 パンフレットの作成や教育関係者との協議を通じて公共交通に関する意識を高めるとともに保 護者への働きかけ等の実施を検討 2 環境面からの啓発活動の実施 自家用車から公共交通への利用転換を促し,地球温暖化の原因となるCO 2 の排出抑制 に努める。 ・自家用車から公共交通への利用転換を促進する地球温暖化防止キャンペーンの実 施 ・公共交通の利用促進などに取り組む事業所を登録しホームページで紹介すること を通じた,企業の取組の促進 ・県内一斉ノーマイカーデー実施の検討 ・燃料電池車両の調査研究(再掲) 3 など 公共交通に係る情報の積極的公開の推進 地域の住民や来訪者など様々な利用者にとって公共交通が利用しやすくなるよう, また,公共交通の現状や重要性などについて県民・地域の理解を得られるよう,公共 交通に関する情報の積極的な提供等を推進する。 ・交通事業者及び関係団体による運行情報の提供(鉄道やバスなどの路線,運賃, 時刻の情報など)や県民の公共交通に関する疑問・要望等に対する説明の実施の 促進 ・県,市町村による公共交通の状況に関する情報公開(公共交通に対する財政的な 支援の内容,公共交通の利用者数など) - 7 - Ⅳ 1 公共交通の維持活性化に関係者が連携して取り組む体制づくり 県民・地域,企業,交通事業者,行政等が参加する会議の設置 交通に関する関係者が一堂に会して連携強化を図るとともに,具体的な利用促進策等 に取り組む。 ・(仮称)茨城県公共交通活性化会議の設置 会議概要:県民・地域の代表,企業,交通事業者,行政等が参加 活動内容:シンポジウムの開催,県内一斉ノーマイカーデーの実施(再掲), その他公共交通の利用・活性化策に取り組む 2 総合事務所ごとに県と市町村による会議の設置 それぞれの地域の実情を踏まえ複数市町村が連携した対応が望まれる公共交通の維持 確保策について検討する場を設置する。 ・総合事務所ごとに複数市町村が連携した公共交通の維持確保策を検討 例:市町村間を跨る路線バスの維持確保,コミュニティバス等の共同運行など 3 鉄道利用促進団体の設立促進 地域の重要な公共交通である鉄道について,国,市町村,県民・地域等と連携して維 持活性化に努める。 ・地方鉄道の安全施設等の整備に対する支援(再掲) ・市町村が主体となった組織の立ち上げや活動に対する積極的な支援 路線名 利用促進団体 など 現在の主な活動 JR常磐線 未設置 − JR水戸線 未設置 − JR水郡線 水郡線利用促進会議 利用者アンケート等 茨城交通湊鉄道線 湊鉄道対策協議会 支援方策,利用促進策の検討 関東鉄道常総線 常総線活性化支援会議 要望活動 関東鉄道竜ヶ崎線 竜ヶ崎ルネサンス会議(平成 利用者アンケート等 17 年のみ) 鹿島鉄道鹿島鉄道線 鹿島鉄道対策協議会 経営支援,利用促進 鹿島臨海鉄道大洗鹿島線 大洗鹿島線を育てる沿線市町会議 企画列車運行,パンフ配布 真岡鐵道真岡線 真岡鐵道対策協議会 経営支援,利用促進 つくばエクスプレス線 つくばエクスプレス等整備利用促 シンポジウム,要望活動 進協議会 設立検討 組織の活性化 - 8 - 4 市町村による総合的な公共交通計画策定の促進 住民,企業,団体,交通事業者,市町村等地域の関係者による連携した公共交通維持 確保の取組を促進する。 ・地域の公共交通の維持確保や利用促進のための方策などを盛り込んだ総合的な公 共交通計画について,すべての市町村における策定の促進 5 国など関係機関との積極的な連携 国が実施する公共交通施策に積極的に参画するとともに,国の支援制度等を活用する など関係機関と連携し公共交通の維持確保に努める。 ・水戸周辺の渋滞対策などを検討する水戸都市圏渋滞対策プロジェクトへの参画 (関東地方整備局) ・地域の公共交通の課題への対応を検討する公共交通活性化総合プログラムの活用 (関東運輸局) - 9 - など <具体的な施策内容案> Ⅰ 利便性の高い公共交通サービスの提供 具体的な施策内容案 施策案 1 広域的・根幹的な公共 つくばエクスプレスの東京延伸に向け沿線自治体と連携した 交通の整備及び維持確保 取組の推進 JR常磐線の特急列車のみではなく中距離列車等の東京駅乗 り入れ実現に向けて沿線自治体と連携した要望活動等の強化 新たな高速バス停留所等の設置に向けた関係機関との調整 茨城空港へのアクセス交通の整備促進 地方鉄道の安全施設等の整備に対する近代化補助の実施及び 市町村との連携による支援 不採算バス路線の維持確保に対する補助の実施及び市町村と の連携による支援 県北山間地域における廃止代替バスを運行する市町村に対す る補助の実施 2 県民が利用したくなる パーク・アンド・ライド等の駐車場等の整備促進 公共交通環境の構築 関係者等と連携したPTPS(公共車両優先システム)の導入 検討 バスの県内共通ICカード導入の支援方策の検討 関係者等と連携したバスロケーションシステム(携帯電話等に よるバス運行情報の提供)の導入検討 3 高齢者・障害者等が利 段差の無いノンステップバスを導入する交通事業者に対する 用しやすい公共交通の整 支援 備促進 エレベーターの設置など駅のバリアフリー化に対する支援 4 地域の特性に応じた公 共交通モードの導入促進 地域・市町村が主体となった公共交通サービスの提供 タクシーの特性を生かしたデマンド型乗合タクシーなどによ る公共交通手段の確保についての検討 スクールバスなどの複合的利用の検討 5 企業における公共交通 の利用促進 工業団地における共同バス運行に向けた検討 企業が所有するバスのコミュニティバス等への活用など複合 的利用の検討 6 新たな公共交通モード DMV(鉄道も道路も走れる車両)の導入可能性の検討 の導入可能性の検討 燃料電池車両の調査研究 - 10 - Ⅱ 公共交通を支える仕組みと地域づくり 施策案 具体的な施策内容案 1 交通事業者の経営改善 屋根などが整備された付加価値の高い広告付きバス停の設置 等の促進 促進の検討 専門家派遣制度等を活用した経営改善の促進 特産品の開発等による新たな収益増加策の促進 交通事業者における県民・地域との積極的な交流の促進 2 公共交通が維持確保し 公共交通を利用しやすいまちづくり(コンパクトシティ)の調 やすい地域の構築 査研究 公共交通の活用と観光を組み合わせた施策の推進 Ⅲ 公共交通の利用に向けた県民意識の醸成 施策案 具体的な施策内容案 1 モビリティ・マネジメ 公共交通に関する意識向上を図る教育等の促進 ントの実施 2 環境面からの啓発活動 自家用車から公共交通への利用転換を促進する地球温暖化防 の実施 止キャンペーンの実施 公共交通の利用促進などに取り組む事業所の登録制度の実施 自家用車から公共交通への利用転換を促進するノーマイカー デー実施の検討 燃料電池車両の調査研究(再掲) 公共交通に係る情報の 交通事業者及び関係団体による運行情報の提供や県民の公共 積極的公開の推進 交通に関する疑問・要望等に対する説明の実施の促進 県,市町村による公共交通の状況に関する情報公開 3 - 11 - Ⅳ 公共交通の維持活性化に関係者が連携して取り組む体制づくり 施策案 具体的な施策内容案 1 県民・地域,企業,交 (仮称)茨城県公共交通活性化会議を設置し,関係者が一体と 通事業者,行政等が参加 なった利用促進策等の取組の推進 する会議の設置 2 総合事務所ごとに県と 複数市町村に跨る公共交通の維持確保に関する課題を検討す 市町村による会議の設置 る場の設置 3 鉄道利用促進団体の設 地方鉄道の安全施設等の整備に対する近代化補助の実施及び 立促進 市町村との連携による支援方策の検討(再掲) 鉄道路線ごとの利用促進のための市町村が主体となった組織 の立ち上げや活動に対する積極的な支援 4 市町村による総合的な 地域の公共交通の維持確保や利用促進のための方策などを盛 公共交通計画策定の促進 り込んだ総合的な公共交通計画について,すべての市町村にお ける策定の促進 5 国など関係機関との積 交通渋滞緩和のための水戸都市圏渋滞対策プロジェクトへの 極的な連携 参画(関東地方整備局) 地域の公共交通の課題への対応を検討する公共交通活性化総 合プログラムの活用(関東運輸局) - 12 -
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