九州工業大学学術機関リポジトリ Title 移動正規化法による画像の局所的コントラスト強調 Author(s) 江田, 孝治 Issue Date 2005-06-30 URL http://hdl.handle.net/10228/886 Rights Kyushu Institute of Technology Academic Repository 江 田 氏 名 孝 治 学 位 の 種 類 博 士(工学) 学 位 記 番 号 工博甲第222号 学位授与の 日付 平成17年 3 月25日 学位授与の 要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 移動正規化法による画像の局所的コントラスト強調 ~情報抽出と自然画像の高速エンハンスメント~ 論 文 審 査 委 員 主 査 教 授 近 藤 浩 教 授 兼 田 楨 宏 教 授 高 城 洋 明 教 授 芹 川 聖 一 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 本論文では、濃度線形変換法をベースにした新しい画像の局所的コントラスト強調法について述べ る。濃度変換曲線に線形関数を用いた濃度線形変換法は、画像のコントラスト強調法において最もシ ンプルな処理手法であり、他のコントラスト強調法と比べて画像の内容に依存しない安定した処理結 果を得やすい。この論文においては、画像の局所領域に対して線形関数とそれを発展させたS関数を 用いてコントラスト強調を行う手法を提案している。ここではこれを移動正規化法と呼ぶ。通常、画 像の局所的なコントラストを強調すると、コントラストの向上とともにノイズも強調される。本研究 では画像の局所的コントラストを強調する目的を“情報抽出”と“自然画像のコントラスト強調”の 二つに大別し、それぞれの目的に合った処理手法を提案する。情報抽出では画像の局所的コントラス トを強調することに重点を置き、自然画像のコントラスト強調ではノイズの抑制と処理時間に重点を 置いている。各目的を持った画像に対するシミュレーション例では、提案する手法が画像の局所的コ ントラスト強調において非常に効果的であることを示す。 近年、ディジタルカメラの急速な普及によってディジタル画像がいろいろな分野(例えば天文学、 医用画像、インターネット通信など)で用いられるようになった。ディジタル画像のアナログ画像に 対する利点は、ぼけやノイズの除去をはじめ拡大・縮小など利用者が望む処理を簡単に実現できるこ とが挙げられる。また、パーソナルコンピュータの高性能化によって(株)アドビ・システムズの Photosh op をはじめとするフォトレタッチソフトでディジタル画像の編集を誰にでもできるように なった。 本論文で主題としている濃度補正によるコントラスト強調は、最も基本的な画像処理の手法として 必要不可欠なものである。画像のコントラスト強調の歴史は古く、1960 年代アメリカの宇宙開発の 初期から NA SA によって開発され、使用されてきた。1970 年代になると主にじん肺X線写真や CT 画像など医用画像のコントラスト強調の研究がなされてきた。 -38- 近年では、ファジーや遺伝的アルゴリズムを用いて、人の感覚に適した自然なコントラスト強調を目 標とした研究がなされている。本研究の手法も当初はコンピュータによるじん肺症の自動診断のため の前処理として、胸部X線写真のコントラスト強調を行うために開発したものである。その後、低コ ントラストの画像や濃度分布が空間的に偏った画像において情報抽出に効果的な手法であることがわ かった。 従来の画像の局所的コントラスト強調法としては、Pizer 等がヒストグラム平坦化法を画像の局所 領域に適用する局所的ヒストグラム平坦化法を提案した。この手法は、画像上の各点を中心とした局 所領域のヒストグラムから累積ヒストグラムを作成し、それを濃度変換曲線とするものである。ヒス トグラム平坦化法はコントラストを強力に強調できる手法として知られており、それを画像の局所領 域に適用した局所的ヒストグラム平坦化法は画像の局所的なコントラストを非常に強調することがで きる。しかし、局所的なコントラストが強調されすぎて不自然な印象になったりノイズが強調される といった弱点も見つかってきた。さらに、局所領域の大きさによっては逆にコントラストが低下する 場合もあるなど問題点も多い。また、画像上の全画素で局所領域の累積ヒストグラムを作成するため、 処理に膨大な時間を必要とする。 本論文の第2章は、画像のコントラストとその評価方法について述べる。画像のコントラストの評 価は見る人の主観に左右されるものであるが、ここでは画像のコントラストを客観的に評価する手法 について説明する。また、本論文で主題としている画像の局所的コントラストを評価する手法につい て述べる。 第3章は、この論文における主題となる画像の局所的コントラスト強調法について示す。ここでは、 画像全体のコントラスト強調法を示しながら、従来法として局所的ヒストグラム平坦化法を説明し、 提案する移動正規化法について詳述する。画像上の局所領域に従来の濃度線形変換法を行った場合、 画像の平坦部でノイズが強調されたり処理結果の不連続性から原画像にはない境界線が生じる。従っ て、線形関数を用いて画像の局所的コントラストを強調する場合には、それらを解決する手法を開発 することが不可欠である。また、線形関数を発展させたS字形の濃度変換曲線であるS関数について も述べる。最後に、局所的コントラスト強調に目的を持ったいくつかの画像に対してシミュレーショ ン結果を示し、提案する手法の有効性を示す。 第4章はまとめであり、移動正規化法の特徴を要約し今後の問題点について議論する。 学 位 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 本論文は画像の局所的な性質に着目し各ローカルエリアで最適な強調、即ちエンハンスメントを行 う手法を開発したものである。本論文は従来からよく用いられてきた画像の強調法(エンハンスメン ト法)からⅩ線写真等の特殊なエンハンスメント法に至るまで幅広く画像エンハンスメント法を統一 的にまとめあげた形となっている点も特徴となっている。移動正規化という空間変化型処理となって いるが処理サイズを全画面に取れば従来の正規化法と同一となる。しかしⅩ線写真に本手法を適用す ると驚くほど患部が鮮明に抽出できる、等の大きな特徴を有した手法である。Ⅹ線写真は濃度ダイナ ミックレンジが非常に広く、一般的なエンハンスメント法では患部抽出に対して殆ど効果は無い。こ -39- ういった特殊な画像の局所的性質に目を付け、その画像に依存した局所正規化法を考案した。これに より、微弱な濃度変化も必要に応じて必要な量だけエンハンスメントができるようになった。しかも 本エンハンスメント法は濃度の濃い部分の周りを薄くするという、いわゆる人間の視覚でいう側抑制 効果を有する事がわかった。これは濃度ダイナミックレンジが広い画像の一部をその処理エリアに取 り込むと強調パラメータが比較的低く抑えられることから合理的に説明ができるということを示した。 この効果により暗がりの中でもほんの少しの濃度変化で、対象物を浮かび上がらせることに成功して いる。この時のノイズも低く抑えられⅩ線写真の処理には最適な手法の一つと思われる。しかし本手 法をそのまま適用すると画像によっては処理結果に本来無い輪郭線が現れ、画質を損なう危険がある ことを発見し、この偽輪郭(ここではこれをゴーストと呼ぶ)の出る理由を詳細に解明した。その結 果処理エリアのほんの片隅の一部に大きく濃度の違った画素が入ってきた時に起こることを見出し、 このゴースト対策として新たな重ね合わせ法を開発している。即ち各エリアでの処理結果全てを有効 活用しこれらを平均化することでこのゴースト部分が完全に除去できる手法を構築した。この手法に より「移動正規化法によるエンハンスメント」は一応の完成となり、いかなる自然画像に対しても違 和感無く自然な強調が可能となった。しかし本手法は重ね合わせを用いているため処理時間がやや長 く、512×512 画素の画像で 3 ~4 秒程度必要であった。本手法の高速化のためここで新たに S 関 数 を導入し濃度変換曲線の調整を行っている。これにより高速化と共にノイズの抑圧、不連続性の解消 も可能となり一石二鳥の効果を得ている。処理時間は 0.2~0.5 秒程度となりほぼリアルタイム処理 が可能と言えるまでに高速化された。特に画像エンハンスメントは高速化が要求されることが多く、 この観点からも十分な性能を有していると言える。 カラー画像に対しては R・G・B から Y・C b・C r へと変換し輝度信号 Y に対して本処理を適用す ると望ましいエンハンスメントが行える。これにより 2003 年 2 月 1 日に起こったアメリカ、NA SA スペースシャトル帰還時の空中爆発事故の動画像を日本テレビからの依頼により全コマ 500 フレー ムを処理し、耐熱タイルのはがれ落ちる様子、左翼に激突し煙状になる様子をより鮮明にした。処理 結果の画像は 200 3 年 2 月 9 日の日本テレビ系番組「バンキシャ」で放映され、以後全てシャトル 事故の映像は日本テレビ系ではこれが用いられている。またⅩ線じん肺写真に本手法を適用し患部粒 状影抽出を行ったが、産業医大の東教授によると「従来手法より格段に影像がよくなっており患部抽 出がし易くなった」という言葉を頂いている。この処理の応用として食用海苔のパックを特殊光線下 で撮影した画像から、混入している異物(石屑や金属の破片等)を抽出する目的で使用したところ、 ほぼ完全なほどの結果を得た。本件は日鉄エレックス株式会社からの依頼によるものである。 以上のように本手法は学術的にも実用的にも十分な価値が認められる。なお、本論文に関して審査委 員及び公聴会の出席者から(1)従来法との差異(2)重ね合わせの方法(3)処理エリアの最適決 定法について、等などの質問がなされたがいずれも著者の適切な説明によって質問者の理解が得られ ている。以上の結果から本審査委員会は本論文が博士(工学)の学位に値するものと認める。 -40-
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