わが国へ飛来する トビイロウンカのバイオタイプ形質の 変化と - J-Stage

九 病 虫 研 会 報38:63-68(1992)
Proc.
Assoc.
Pl.
Prot.
Kyushu
38:63-68
(1992)
わ が国 へ 飛 来 す る トビイ ロ ウ ンカのバ イオ タ イ プ形質 の
変 化 とそ の飛 来源 地 帯 の推 定
寒川
一 成(九 州農業試験場)
A change in biotype property of brown planthopper populations immigrating
into Japan and their probable source areas.
Kazushige SOGAWA (Kyushu
National Agricultural Experiment Station, Nishigoshi, Kumamoto 861-11)
A gradual but significant change in biotype property of the yearly immigrants of
the brown planthopper (BPH) was observed during the period from 1987 to 1991 in
Japan.
Saikai-184, a breeding line of rice with the Bphl gene, was resistant to BPH
immigrants in 1987, but became susceptible in 1990.
Honeydew measurements with
BCG-filter paper and parafilm sachet revealed that the BPH females immigrating in
1990 and 1991 excreted as much honeydew on Saikai-184 as on the susceptible variety
Reihou.
Also, the 1987 immigrants excreted little honeydew on IR26 with the Bphl
gene, but the 1990-immigrants excreted considerable amounts of honeydew on it.
The
percentage of individual females which excreted more than 10 mg of honeydew per day
was only 10% in the 1987-immigrants, whereas it was increased up to 30-40% in the
1990-immigrants.
Both the 1987- and 1990-immigrants had little ability to feed on
IR42 with the bph2 gene.
These findings indicate that the BPH immigrants into Japan
are changing from biotype 1 to biotype 2.
Similar biotype shifts have been reported
correspondingly in south China and north Vietnam.
This may indicate that south
China and north Vietnam are the possible source areas for the overseas immigrants of
BPH into Japan.
トビイ ロ ウ ン カ は イ ネ単 食 性 の 昆 虫 で あ り,イ ネの ト
材
ビイロ ウ ン カ抵 抗 性 変 異 に対 抗 した 多様 な寄 生 性(加 害
性)変 異 を有 し,両 者 間 に密 接 な共 進 化 の あ と が うか が
え る(SOGAWA,1979)。
この た め 熱 帯 ア ジ ア の 周 年 発 生
料
と
方
法
トビ イ ロウ ン カ1987,1988,1990,お
よび1991年 に,
レ イ ホ ウ と西 海184号 を移 植 した 九 州 農 業 試 験 場(福
岡
地帯 で は,ト ビ イ ロ ウ ン カ が抵 抗 性 水 稲 品 種 に対 して,
県 筑 後 市)の 無 防 除 水 田 に飛 来 侵 入 し,そ の 水 田 で増 殖
速 や か に 適 応 す る現 象 が 広 く認 め られ,抵
した トビ イ ロ ウ ン カ個 体 群 を供 試 した。
抗 性 品種 を
本種 の防 除 に活 用 す る上 で,重 要 な問 題 に な っ てい る。
イ ネ品 種
バ イ オ タ イ プ を検 定 す る ため に,ト ビイ ロ
抵抗 性 品種 に対 す る加 害 性 を異 にす る トビ イ ロ ウ ン カ個
ウ ンカ 抵 抗 性 優 性 遺 伝 子(Bphl)を
体 群 を,一 般 にバ イ オ タ イプ(生 物 型)と 称 し,ト ビ イ
遺 伝 子(bph2)を
ロ ウ ンカ 抵 抗 性 遺 伝 子Bph1お
ホ ウ を判 別 品 種 と して 供 試 した 。 ま た,Bph1遺
よびbph2を
持 つ イ ネ品
種 を加 害 で き る個 体 群 を,そ れ ぞ れ バ イ オ タ イ プ2お
よび バ イオ タイ プ3,そ
して抵 抗 性 品種 を全 く加 害 で き
もつIR42,お
もつIR26,同
劣性
よ び 感 受 性 品 種,レ
導 入 した 日本 稲 型 育 成 系 統,西 海184号 も供 試 した。
圃場 調査
西 海184号 を レ イ ホ ウ と と も に,九 州 農 業
な い 原 個 体 群 をバ イ オ タイ プ1と 呼 ん で い る(寒 川,
試 験 場 の調査 水 田(1区,4m×5m)に6月
1980)。
移 植 し,無 防 除 で慣 行 栽 培 した。 トビ イ ロ ウ ンカ 第2,
本 論 文 で は,1987∼1991年
間 に生 じた トビ イ ロ ウ ン カ
イ
伝子 を
中下 旬 に
3世 代 中老 齢 幼 虫 個 体 群 の 発 生 最 多 時 期 に 各 区 か らラ ン
飛来 個体 群 のバ イ オ タイ プ形 質 の変 化 と,そ の 変 化 か ら
ダ ム に5株 抽 出 し,粘 着 板(25cm×10cm)を
推 定 され る飛 来 源 地 帯 に つ い て報 告 す る。
りの払 い落 し幼 虫 数 を比 較 した。
バ イ オ タ イ プ検 定
用 い て株 当
判 別 品種上 で の 甘 露 排 出 量 を指 標
64
Proc. Assoc. PI. Prot. Kyushu
KK.特
Vol.38
注)上
に排 出 され る 甘 露 に よ る 変 色 班 の 大 き さ
か ら,吸 汁 量 を相 対 的 に 比 較 した 。
(2)パ
ラ フ ィル ムサ ッ シェ 法:分 げ つ初 期 の判 別 品 種
の 葉鞘 部 に,パ ラ フ ィル ム 製 サ ッシ ェ(約2cm×2cm)
を ク リ ッ プで 装 着 し(第1図),雌
成 虫 を1頭 ず つ 封 入
し,25℃ の 恒 温 室 に1日 静置,そ の 間 に排 出 され た甘 露
の 重量 を測 定 した。1回 の試 験 に約20頭 の ウ ン カ を供 試
した。
結
1.ト
第1図
果
ビ イ ロ ウン カ 抵 抗性 育 成 系 統 上 での 発 生 概 況
イネ 葉鞘 部 に ク リ ップで装 着 した パ ラ フ ィル ムサ ッシ ェ。
1987年7月
内 部 の液 滴 は ウ ン カ が排 出 した 甘 露 。
第1半 旬 に株 当 り約1頭 侵 入 した 飛来 個
体 群 が主 要 な増 殖 源 とな っ た 。 第2世 代幼 虫 の最 盛 時 期
とす る 以 下の2方 法 で,バ イ オ タ イ プ形 質 を検 定 した 。
(1)BCG濾
紙 法:判 別 品種 の 葉 鞘 下 部 に装 着 した プ
ラス チ ック カ ッ プ(直 径6cm,高
さ3.5cm)内
の トビイ ロ ウ ンカ雌 成 虫 を入 れ,カ
る 葉 鞘 を 約1日
間 吸 汁 させ,カ
に,5頭
ッ プ内 を貫 通 して い
ッ プ底 面 の プ ロ モ ク レ
は8月 第6半 旬 で,8月29日
の 株 当 り平均 払 い 落 し幼 虫
数 は レ イ ホ ウ区 で158頭,西
海184号 区 で21頭 で あ っ た。
第3世 代 幼 虫 密 度 は10月 第3半 旬 に ピー ク に 達 した が,
第2世 代 雌 成 虫 が 高 率 に 長翅 型 と な り移 出 した た め(寒
川 ら,1988),第3世
代 の 幼 虫 密 度 は低 下 し た。10月14
ゾ ー ル グ リー ン(BCG,弱
ア ル カ リ性 で 黄 色 か ら青 色
日の 払 い 落 し幼 虫 数 は,レ
に 変 化 す るpH指
浸 潤 させ た 濾 紙(東
区 で15頭 で あ っ た。 西 海184号 上 で の 個 体 群 増 殖 は明 ら
示 薬)を
第2図1987-1991年
が,感
洋濾紙
に飛 来 した トビ イ ロウ ン カ雌 成 虫
受 性 品 種 レ イ ホ ウ(A),お
遺 伝 子 を も つIR26(B)と
吸 汁 時,BCG濾
よ びBph1
西 海184号(C)を
紙 上 に排 出 した 甘露 の 浸 潤 斑 。
イ ホ ウ 区 で41頭,西
海184号
九 州 病 害 虫 研 究 会 報
か に抑 制 され て い た。
1990年7月
第38巻
65
129頭 に対 して,西 海184号 区 で は有 意 に 高 くな り501頭
とな っ た 。10月 第2半
中 旬 に 侵入 した飛 来 個体 群 が 主 体 とな り,
後 代個 体群 が増 殖 した 。9月 第2∼3半
1半 旬 に,そ れ ぞ れ第2お
旬 に西 海184号 区 が 坪 枯 れ を起 こ
し,本 系 統 土 で の 個 体 群 増 殖 の 抑 制 は認 め られ な か っ た。
旬 お よび10月 第
よび 第3世 代 の 幼 虫 個 体 群 密
1991年7月
土 中旬 に連 続 し た飛 来 が あ り,100株
当
度 が最 高 とな っ た 。 第2世 代 の株 当 り平 均 払 い落 し幼 虫
り2∼3頭
数 は レ イ ホ ウ区 と西 海184号 区 で 有 意 差 が な く,そ れ ぞ
代 幼 虫 の 最 盛 期 は,そ れ ぞ れ9月 中 旬 お よ び10月 下 旬 で
れ,53頭
あ っ た 。9月11日
と69頭 で あ っ た。 第3世 代 で は,レ イ ホ ウ区 の
第3図1987年
に 調 査 した 第2世 代 幼 虫 の 株 当 り平
お よび1990年 に飛 来 し た トビ イ ロ ウ ン カ雌 成 虫 の レ イ ホ ウ(A),Bph1遺
西 海184号(C),お
よ びbph2遺
品 種 記 号 に小 文 字 のcを
た 。黒 丸 は平 均 値,カ
第4図1987年
の 雌 成 虫 が侵 入 定 着 した 。 第2お よび 第3世
伝 子 を もつIR42(D)上
付 け た供 試 個 体 群 は,飛
ラ ム は標 準 偏 差,横
伝 子 を もつIR26(B)と
で の 甘 露 排 出量 の 比 較 。
来 後 西 海184号 上 で増 殖 した 個 体 群 か らサ ン プ リン グ し
棒 は レ ン ジ を示 す 。
お よび1990年 に飛 来 した トビ イ ロ ウ ン カ雌 成 虫 のIR26上
黒 色 の カ ラ ム は10mg以 上 の 甘 露 を排 出 した個 体 を示 す。
で の 甘 露 排 出 量 の 個 体 変異 。
Proc. Assoc. Pl. Prot. Kyushu
66
均 払 い 落 し数 は,レ イ ホ ウ 区 で18頭,西
海184号 で25頭
で あ っ た 。10月23日 に調 査 した第3世 代 の幼 虫密 度 は,
Vol.38
か に抑 制 され た。
しか し,1988年
に 福 岡 県 で,Bph1遺
伝 子 を導 入 し た
レ イ ホ ウ 区 と西 海184号 区 で は ほぼ 等 し く,平 均 払 い落
育 成 系 統,南 海111号 の 坪 枯 れ が 報 告 され て い る(福 岡
し数 は そ れ ぞ れ171頭 と173頭 で あ っ た 。
県 農 総 試,1989)。
2.ト
ビイロウンカ抵 抗 性 品 種上 での甘露 排 出量 の変 化
1987年 に 飛来 し レ イ ホ ウ上 で 増 殖 した 第3世 代 雌 成虫
は,レ
期 に レ イ ホ ウ上
の 密 度 よ りも高 くな り,坪 枯 れ が発 生 し た。1991年 に は,
で
セ ジ ロ ウ ン カ が 異 常 多飛 来 した た め,西 海184号 が 分 げ
紙 法 お よび
つ 期 に半 枯 死 状 態 と な り,ト ビイ ロ ウ ン カの 初 期 発 生 が
イ ホ ウ上 で 多 量 の 甘 露 を排 出 した が,IR26上
の 排 出 量 は 著 し く少 量 で あ る こ とがBCG濾
ま た本 調 査 で も1990年 に は,西 海184
号 上 の トビ イ ロ ウ ンカ個 体 群 密度は,後
パ ラ フ ィル ム サ ッ シ ェ 法 で 明 ら か で あ っ た(第2,3
抑 制 され た に も か か わ らず,後 期 に は レ イ ホ ウ と同 程 度
図)。 しか し,IR26上
の 密 度 に回 復 した。
で,大 半 の 個 体 の 日当 り排 出 量 は
5mg以 下 で ほ とん ど吸 汁 して い な か った が,約10%の
体 が,10mg以
上 の 甘 露 を排 出 した(第4図)。
で 増 殖 発 生 した 雌 成 虫 で は,約20%の
個
西 海184号
個 体 がIR26上
で
10mgの 甘 露 を排 出 し た。
以 上 の 調 査 結 果 か ら,1987∼1990年
カ飛 来 個 体 群 のBph1遺
対 す る加 害 性 が強 ま っ た こ とが 明 らか で あ った 。
2.抵
1990年 に飛 来 し,レ イ ホ ウ お よ び 西 海184号 で 増 殖 し
た 第2世
代 雌 成 虫 は と も に,レ イ ホ ウ の み な らず 西 海
184号 上 で も多 量 の 甘 露 を排 出 し(第2図,3図),前
で は約90%,後
IR26上
者 で は 約80%の
者
個 体 が10mg以上 排 出 した 。
で の 甘 露 排 出 量 の 平 均 値 は レ イ ホ ウお よび 西 海
間 に トビ イ ロウ ン
伝 子 を もつ 日本稲 型 育 成 系 統 に
抗 性 品 種 上 での 甘 露 排 出 か らみ た バ イ オ タ イ プ
形質の変化
わ が 国 に 発 生 す る トビイ ロウ ン カ個 体 群 にBph1お
びBph2遺
よ
伝 子 を もつ 抵 抗 性 品種 で生 存増 殖 可能 な 個 体
が,き わ め て 低 い頻 度 で含 まれ て お り,そ れ ら を人 為 的
に 選 抜 す る こ と に よ り,品 種 抵 抗 性 を打 破 す る個 体 群 を
184号 上 で の 値 に 比 較 して 少 量 で あっ た が(第2,3図),
作 出で き る こ と が以 前 か ら知 られ て いた(伊 藤 ・岸 本,
1987年 の 個 体群 の 排 出 量 の 平 均 値 よ り も増 加 して お り,
1981)。 日 当 り10mg以 上 の 甘露 を排 出 し,Bph1遺
30∼60%の
もつ 抵 抗 性 品 種 を加 害 で き る と考 え られ る雌 成 虫 の 割合
一方
個 体 が10mg以 上 の 甘 露 を排 出 した(第4図)。
,両 年 の 個 体 群 間 に,IR42上
変化 は認 め られ ず,10mg以上
での甘 露排出量 の
排 出 す る個 体 は ほ とん ど検
出 され な か った(第3図)。
か ら1990年 の 間 に,約 工0%か ら30∼40%に
体 群 に は,Bph1を
察
cheongbyeoを
伝 子 を も つ 日本 稲 型 育 成 系 統 に対 す る ト
ビ イ ロ ウ ンカ の 加 害 性 の 変化
種 が1968年 か ら 開始 され,MudgoのBph1遺
(LEE,et
伝子 を ホ ウ
に 飛 来 した 個
導 入 し た 日 印 交 雑 品 種,Cheong-
加 害 で き る 個 体 が13%含
al.,1983),1985∼1987年
20∼30%に
わ が 国 で は トビ イ ロ ウ ン カ抵 抗 性 日本 稲 中 間母 本 の育
増 加 した(PARK
まれ て いた が
に は,そ
害 性 個体 の割 合
の 上 昇 が,西 海184号 の トビ イ ロウ ン カ抵 抗 性 の 崩 壊 を
も た ら した と考 え られ,わ
1985)。1974∼1975年
ウ ン カ個 体 群 が,い わ ゆ るバ イオ タ イプ1か
これ らの 系 統 の トビ イ ロ ウ ン カに対 す る抵 抗 性 が証 明 さ
れ て い た(西
山 ら,1975;深
つ 西 海165号,西
町,1976)。
海168号,関
東PL4等
同遺 伝子 を も
は,1979年
示 し(大 矢 ・平 尾,1985),1985∼1986年
の 圃場 検 定 に
お い て も同 様 に 抵 抗 性 を示 して い た(九 州 農 試 虫 害 第3
研,1986,1987)。
上 記 の事 例 は,Bph1遺
本 稲 型 育 成 系統 が,1986年
伝 子 を もつ 日
以 前 の トビイ ロウ ンカ飛 来 個
が国 へ 飛 来 侵 入 す る トビイ ロ
らバ イ オ タ
イ プ2へ と変 遷 しつ つ あ る こ と を示 して い る。
3.バ
に飛
来 した トビイ ロ ウ ン カ個 体 群 に対 して 実 用 的 な抵 抗 性 を
の割 合 が
and SONG,1988)。
1990年 以 降 の 飛 来 個 体群 中 のIR26加
ヨク 等 の 日本 稲 に導 入 した系 統 が育 成 され た(金 田 ら,
に 九 州 地域 で の 圃場 検 定 に よ っ て,
増
加 して い た。 わ が国 と 同様 に トビ イ ロ ウ ン カが 毎 年 海 外
か ら飛 来 侵 入 す る韓 国 に お い て も,1983年
考
1.Bph1遺
が,1987年
伝 子を
イ オ タ イ プ形 質 を指 標 と し た トビイ ロ ウ ン カ の
発生飛来源の推定
わ が国 や 韓 国 へ 飛 来 侵 入 す る トビ イ ロ ウ ン カの直 接 の
発 生 源 で あ る 中国 大 陸 で,1979∼1980年
、各 地 の トビ イ ロ ウ ン カ個 体 群 は,バ
され て い た(WU
省 で,稔
体 群 に対 して抵 抗 性 を発 揮 して い た こ とを示 して い る 。
Bph1遺
et a.,1981)。
に 発生 して い た
イオ タイ プ1と 検 定
ま た1981∼1982年浙
性 回 復 系 統 と し て 用 い ら れ たIR26由
江
来の
伝 子 を も つ トビ イ ロ ウ ン カ抵 抗 性 ハ イ ブ リ ッ ド
そ して,ほ ぼ 同 様 な 状 態 が1987年 に も持続 して お り,同
品 種 の 普 及 に関 連 して,ト
年 に 飛 来 し た ト ビ イ ロ ウ ン カ個 体 群 の 増 殖 は,TKM6
の 変 化 が再 調 査 され た が,バ イオ タ イプ1が 優勢 で あ る
に 由 来 す るBph1遺
と結 論 され た(巫 ら,1983)。
伝 子 を 導 人 し た 西 海184号 上 で 明 ら
ビ イ ロ ウ ンカ のバ イ オ タ イ プ
しか し抵 抗性 ハ イ ブ リ ッ ド
九 州 病 害 虫 研究 会 報
品 種 上 で の トビ イ ロ ウ ン カ の 生 存 率 の 上 昇 を,抵
壊 の 徴 候 と して 指 摘 され て い た 。 そ の 後,華
区 で は1987年
にBph1遺
IR26上
ら,1991)。
抗性崩
南の広西地
イ オ タ イ プ2の
発
華 南 お よ び浙 江 省 で は,
で の ト ビ イ ロ ウ ン カ の 生 存 率 が1989∼1990年
感 受 性 品 種,TNIと
2へ
67
伝 子 を も つ ハ イ ブ リ ッ ド品 種 の
ト ビ イ ロ ウ ン カ 抵 抗 性 が 無 力 化 し,バ
生 か 示 唆 され た(李
第38巻
同 程 度 に 高 く な り,バ
の 変 化 が 認 め ら れ た(YU
に
イ オ タイ プ
et al., 1991)。
さ ら に1990
年 に 調 査 さ れ た 広 東 省 の ト ビ イ ロ ウ ン カ 個 体 群 は,
IR26への
加 害 性 の 程 度 か ら バ イ オ タ イ プ1と
イ プ2の
混 合 個 体 群 と 見 な さ れ た(ZHANG
こ れ ら の 情 報 は,中
のIR26に
国 で1987∼1990年
対 す る 加 害 性 が 強 ま り,バ
バ イオ タ ー
et al.,1991)。
に トビ イ ロ ウ ン カ
イ オ タ イ プ2へ
の
シ フ トが 進 行 し て い た こ と を 示 して い る 。 ま た,中
国大
第5図
陸 南 部 に 隣 接 す る ベ トナ ム 北 部 に お い て も,1987∼1988
年 にBph1遺
伝 子 を も つ 抵 抗 性IR品
る バ イ オ タ イ プ2個
一方
,IR26な
B1=バ
イ オ タ イ プ1,B1→B2=バ
イ オ タ イ プ1か ら
バ イ オ タ イ プ2へ 変 化 しつ つ あ る個 体 群,B2=バ
イオ
ど の トビ イ ロ ウ ン カ 抵 抗 性 品 種 が 早 く
遷 が1975∼1976年
イ オ タ イ プ2へ
タ イ プ2,B2+B3=バ
の変
に す で に 生 じ て い る(VARCA
が 国へ 飛 来 侵 入 す る個 体 群 の バ イ オ タ イ プ形
質 と の類 似性 か ら推 定 され る飛 来 源 地 帯 。
体 群 が 主 体 と な っ た(ICH,1991)。
か ら普 及 され た フ ィ リ ピ ン で は,バ
ア ジ ア各 地 の トビ イ ロ ウ ン カ個 体 群 の バ イ オ タ イ プ 特
性 と,わ
種 に加 害 性 を 有 す
イオ タ イ プ2と バ イオ タイ プ3
の加 害 性 を 合 わ せ もつ 個 体 群,イ
and
分 は 抵 抗 性IR品
ン ド亜 大 陸 の点 刻 部
種 の 普 及以 前 か らB2+B3の
加害性
を も つ個 体群 の分 布 域 を示 す 。
FEIJER,1976)。
東 南 ア ジ ア の ト ビ イ ロ ウ ン カ 多 発 地 帯 に お い て も,
1975∼1978年
頃 に,バ
へ 変 化 し た(寒
イ オ タ イ プ1か
川,1983)。
ら バ イ オ タ イ プ2
そ の 後,IR36な
低 い と考 え られ た。
ど のBph2
摘
遺 伝 子 を もつ 抵 抗 性 品 種 に 切 り替 え られ た 結 果,東
ジ ア 各 地 で は バ イ オ タ イ プ2と
バ イ オ タ イ プ3の
加 害性
(1)Bph1遺
伝 子 を もつ トビ イ ロ ウ ンカ抵 抗 性 日本 稲
を 合 わ せ もつ トビ イ ロ ウ ン カ 個 体 群 が 主 体 と な っ て い る
育 成 系 統,西
(OKA
に崩 壊 した。
HO,
and
BAHAGIAWATI,
1985 ; MEDRANO
al.,1987;
HUYNH
1984 ; SOGAWA
and
HEINRICHS,
and NHIJNG,
1985;
et al.,1984,
SOGAWA
et
1988)。
1980;
KABIR
and
ALAM,
1981;
SHRESTHA,
1987)
上 記 の 知 見 か ら,わ
が 国 へ 飛 来 す る トビ イ ロ ウ ン カ 個
体 群 に1987∼1990年
間 に生 じ たバ イ オ タ イ プ形 質 の 変 化
と 同 様 な 変 化 が,中
国 南 部 お よ び ベ トナ ム 北 部 でぼぼ
時 期 に 生 じて い た こ と が 推 察 で き,こ
の 品 種 抵 抗 性 が,1987∼1990年
間
ビ イ ロ ウ ン カ 飛 来 個 体 群 中 に 占 め るIR26
タ イ プ1か
and
海184号
伝 子 を も つ)に
1987∼1990年
伝 子 を もつ 抵 抗 性 品 種 を加 害 で きる トビ
イ ロ ウ ン カ 個 体 群 が 以 前 か ら 分 布 し て い る(SESHU
KAUFFMAN,
(2)ト
(Bph1遺
バ ン グ ラ デ シ ュ と ネ パ ー ル を 含 む 南 ア ジ ア に は,Bph
1お よ びbph2遺
要
南ア
加 害 性 を 示 す 雌 成 虫 の 割 合 が,
間 に 約10%か
ら30∼40%に
ら バ イ オ タ イ プ2へ
(3)同
増 加 し,バ
イオ
の 変 化 が認 め られ た 。
様 な バ イ オ タ イ プ 形 質 を 示 す トビ イ ロ ウ ン カ 個
体 群 が,中
国 南 部 と ベ トナ ム 北 部 で ほ ぼ 同 時 期 に 発 生 し
て お り,こ
れ らの 地 域 が わ が国 へ 飛 来 侵 入 す る トビイ ロ
ウ ン カ個 体 群 の 発 生 飛 来 源 とみ な され た。
謝
同
西 海184号
れ らの 地 域 が わ が
辞
の 種 子 の 供 給 と,育
成系統の栽培水田で の
国 へ 飛 来 す る トビ イ ロ ウ ン カ の 発 生 飛 来 源 で あ る こ と を
調 査 に ご 協 力 して い た だ い た 九 州 農 業 試 験 場 水 田 利 用 部
示 唆 し て い る(第5図)。
稲 育 種 研 究 室 に謝 意 を表 し ます 。
ピ ン,イ
ン ド ネ シア,南
今 日,ベ
トナ ム 南 部,フ
ィリ
ア ジ ア な どの 熱 帯 ア ジ ア地域 に
引
発 生 して い る トビ イ ロ ウ ン カ 個 体 群 の バ イ オ タ イ プ 形 質
は,わ
が 国 へ 飛 来 侵 入 す る個 体 群 の それ と は明 らか に異
な っ て お り」 こ れ ら の 地 域 か ら の 長 距 離 移 動 の 可 能 性 は
1)
Ho,
(1976)九
D. (1985) IRRN
病虫 研会報
用
10(4)
文
献
: 16-17.
22:102-103.
2)
3)
深 町 三 朗,
福岡県農総試
68
Proc.
(1989)単
年 度 試 験 研 究 成 績,昭
画 概 要 集,病
IRRN
害 虫.
4)
13:16.
Seminar
on
183-204.
5)
Migration
6)
139-159.
(5):8-9.
KAQIR,
小 林
8)
A.
J. (1983)
潤 清
13)
and ALAM,
害 虫.
IRRN
MEURANO,
研 究
(1984)
14)
11)
横 尾 政 雄
・
9)
李 青
E. A.
Cent.
15)
OKA, I.
N.
Res.
Inst.
Food
九 州 農
C. and
・羅 全 豊
・為 素 美
and
BAHAGIAWATI,
Crops
・黄
Bogor,
IRRI
G.
(1987)
L.
Nekken
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