「情報家電・業界変革マップ−テレビ・携帯電話編」

2006年6月
株式会社テクノアソシエーツ
テクノアソシエーツ発行レポート
「情報家電・業界変革マップ−テレビ・携帯電話編」
オリエンテーション
1.業界変革マップの作製コンセプト
事業に影響する情報を不足なく(網羅的に)収集し、思い込みを排除した正確な(客観的な)分析をするため
には、自社の製品や技術の業界におけるポジションを明確にするためのリファレンス情報が必要である。新
たに事業機会を探索するためだけではなく、自社の事業を継続的に維持するためにも不可欠な情報にな
る。
リファレンス情報を収集するとき、電子産業では他の産業と比較して特に留意すべき点がある。一つは、技
術面や事業構造の面での変革が頻繁に起こる点である。デジタル機器のコア部品である LSI は、1.5 年で 2
倍性能が向上する「Moore の法則」に沿って進化し、デジタル機器全体が性能向上する要因になっている。
Moore の法則のような予測可能な変化だけではなく、予測が困難な突然変異的な不連続な進化もある。たと
えば携帯電話の電子回路では、数百 MHz から数 GHz の電波信号を複数段の回路を経て徐々に低周波に
下げ、デジタル LSI で処理可能な周波数まで落とす。しかし、電波信号を一気にデジタル信号処理が可能な
周波数まで下げる「ダイレクト・コンバージョン技術」の登場で、中間周波数帯(IF 体)向けの電子回路が不要
になってきた。これまで端末の小型化に向けて回路を構成する部品の小型化を進めていたが、部品自体が
削減する。
ビジネス・モデル上の変革も激しい、場合によっては昨日までの顧客が、今日の競合企業になっていること
もある。たとえば、テレビ向け LCD に使われているカラー・フィルタは、パネル・メーカーがカラー・フィルタ専
業のメーカーから調達していた。これは LCD 産業の黎明期に業界構造を作り上げたシャープが、技術開発
の効率化や設備投資の最小化を狙って、外部調達することを前提とした業界構造を作り上げたことによる。し
かし、その後 LCD の生産規模が増大し、パネル・メーカーが寡占化していく段階で、パネル・メーカー自身が
カラー・フィルタを製造した方が技術開発上の自由度の高さ、製造コストの面で有利になるようになった。そし
て、大手パネル・メーカー各社は次々と内製に踏み切っている。
電子産業は業界を細分化して、独立評価しにくい点も特徴である。利用形態や消費者区分からみて、一見
関係ないと思われる企業が新規参入してくる例が多い。デジタル・カメラ業界では、キヤノンを除くカメラ・メー
カーがカメラ事業の業績を落としていく一方で、ソニーや松下電器産業など家電メーカーのデジタル・カメラ
事業は成長を続けている。業界を越えた市場競争が起こっているのだ。同様に様々な機器の機能のデジタ
ル処理化が可能になってきており、電子機器業界が他の業界が保有している市場に攻め込む事例が増えて
きている。
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1
本レポートでは、業界変革(本レポートでは HotSpot と呼んでいる)を一覧できる網羅的なリファレンス情報を
得ること、特定の部品や技術に固有の視点や常識に囚われない客観的なリファレンス情報を得ることを目的
にして業界変革マップを作成している。マップ作成の対象とした機器は次世代テレビの代表格である LCD テ
レビ、および携帯電話端末である。これらの機器を構成する部材や研究開発、生産に向けた装置の動向を
反映した設備投資など、電子機器メーカーもしくは LCD モジュール・メーカーにとっての製造原価を構成す
る項目に分解して、マップの縦方向の項目とした。また、原価を構構成する項目ごとの動向や HotSpot を明確
にするための 12 項目の評価軸を設定し、評価軸ごとに各原価構成項目を横並びで比較できる統一の評点を
定義してマッピングした。評価軸は、技術分類、事業の参入障壁、競争軸、応用分野の広がり、事業形態、業
界構造、ビジネス・モデルの流動性、事業化に向けた R&D 投資、事業化に向けた設備投資、生産拠点の配
置指針、生産地域からみた傾向、消費地域である。
電子業界の業界変革マップを作成するためのコンセプトを決めるために、アナロジとしてカー・ナビゲーシ
ョン・システム(以下カーナビ)を想定した(図 1-1)。本レポートにおける業界変革マップは、事業計画を立案す
る上での支援情報を提供することにある。事業目的(カーナビの場合 目的地)に向けての製品定義やビジネ
ス・モデルの策定(同 経路探索)を、事業を取り巻く外部要因のリファレンス情報(同 地図)や状況の変化(同
渋滞情報など)を勘案して探る点が、本レポートの目的とカーナビの機能の類似点である。ただし、製品の定
義やビジネス・モデルの探索に関しては、あえて分析をしていない。これは読者の方々が、固有の業界変革
マップ上での自社の製品やサービスのポジショニング(自車位置の把握)をして、固有の事業目的と内部事情
を反映した事業計画の策定フロー(経路探索アルゴリズム)を使って利用するためである。ただし、業界変革マ
ップの利用方法を具体的に示すために、数件の事例に限定して事業の参入機会を分析している。
カーナビの場合
本 産業変革マップの場合
参照データ
デジタル化した地図
業界マップ
状況の変化
渋滞情報や道路規制
大きな差分がある変革(HotSpot)
ゴール
目的地に到着
事業のビジョンを達成
現状把握
現在位置の情報
自社の事業のポジション
戦略策定
経路探索アルゴリズム
利用シーンや内部事情に合わせた
事業計画の策定フロー
図 1-1 カーナビと本産業変革マップのコンセプトの比較
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2.評価軸と評点
技術分類1
素材
材料
デバイス ソフト
【製品階層】
技術分類2
モジュー 機器
ル
精製
合成
加工
組立
【製造内容】
ソフト
開発
技術分類3
情報
通信
電子
半導体
機械
【技術分野】
工学
工学
工学
工学
工学
無機
有機
金属
工学
工学
工学
非常に
低い
普通
高い
非常に
事業の参入障壁
低い
競争軸
コスト
光学
納期
機能
性能
付加
実績
応用分野
産業
事業形態
ユーザー 委託
カスタム仕 標準仕様 標準品の
による
開発・
様での発 での
内製
生産
注生産
発注生産
多産
群雄
寡占
独占
多死
割拠
ビジネス・モデルの
変化
安定
流動性
せず
事業化に向けた
1000 万円 1 億円
R&D 投資
以下
事業化に向けた
1000 万円 1 億円
設備投資
以下
生産拠点の
顧客工場 顧客工場 分散と集 物流コスト 生産コスト 集中一括
設置指針
内での生 近隣での 中の使い 重視の
生産地域
制御
生産
システム
工学
工学
工学
安定
利用
仕様
供給
容易性
自由度
高い
サービス
業界構造
システム
民生
情報
通信
変化余地 流動的
自動車
医療
軍事
計画生産
非常に
流動的
億円級
十億円級 百億円級 千億円級
億円級
十億円級 百億円級 千億円級
未満
以下
重視の
産
生産
分け
拠点配置 拠点配置
日本
韓国
台湾
中国
その他
生産
北米
中米
西欧
東欧
北米
中米
西欧
東欧
東アジア
消費地域
日本
韓国
台湾
中国
その他
東アジア
図 2-1 評価軸と評点
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(1)
技術分類
技術分類に関しては製品階層、製造内容、技術分野の三つの切口から評価している。本レポートでは、電
子機器メーカーもしくは LCD モジュール・メーカーの目線での原価構成項目の分類をしている。このため、
各評点に関しても機器メーカーから見た場合の分類を記している。
技術分類1 【製品階層】
原価構成項目として分解した部品・材料が、電子機器や電子システムのサプライ・チェーンのなかでどの階
層に位置する製品であるのかを明確にするための評価軸である。
技術分類2 【作業内容】
原価構成項目として分解した部品・材料が、どのようなサプライヤによってどのような作業を加えられて付加価
値を得たのかを明確にするための評価軸である。
技術分類 3 【技術分野】
原価構成項目として分解した部品・材料の学問的な分野を明確にするための評価軸である。テレビや携帯電
話端末を構成する任意の部品・材料を、突然異なる分野の技術を利用して作るような技術革新が出てきてい
るため、これを明確にするために評価した。俗人的なスキルの変更が困難であることを反映して、一つの企業
が、技術開発の拠り所となる学術的な分野を変えて、技術開発の手法を変えることは困難である。また、学術
的な分野が同一ならば、従来とは異なる市場に向けた製品を新規開発することは比較的易しい。
(2)
事業の参入障壁
原価構成項目として分解した部品・材料を供給する事業に新規参入する時の参入障壁の高さを評価した。事
業機会を生かして、事業化に向けた検討が可能であるのか否かを端的に示すために評価した。ここでは参
入障壁を、技術的な難易度、業界構造上の困難、利用者側の受け入れ態勢など原因別には区別していない
が、評点を決定する段階で考慮している。
(3)
競争軸
原価構成項目として分解した部品・材料が、顧客に対する訴求点と考えて競争している要因を評価した。同
じ部材であっても、顧客側の機器開発の動向や、部材の市況によって、競争軸は変わる。競争軸が変わるこ
とによって、製品シェアやサプライ・チェーン、ビジネス・モデル、技術開発のトレンドなどが大きく変化する可
能性が出てくる。
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(4)
応用分野の広がり
原価構成項目として分解した部品・材料の、LCD テレビまたは携帯電話端末以外の応用分野を評価した。
そのままの仕様では応用できなくても、多少の技術開発で対応可能な場合も含めた。事業機会や事業の課
題を考える場合、ターゲットとする市場以外に市場があるかどうかは、事業の規模やビジネス・モデルを考え
る上で重要な要因になる。また、複数の分野に応用可能な製品では、一つの市場の需給関係悪化が事業全
体の業績に波及しにくい。ここに挙げた評点は、それぞれが異なる周期、振幅の景気変動の波がある。事業
リスクを下げるために複数の応用分野に向けた製品出荷比率を考慮して、ポートフォーリオを組むことができ
る。
(5)
事業形態
原価構成項目として分解した部品・材料の、開発時の仕様決定と製造時の生産計画を、サプライヤが主体的
にけって出来るか否かを評価した。これらは、事業計画の自由度やリスクの大きさに影響する。
(6)
業界構造
原価構成項目として分解した部品・材料の供給者のシェアを見た場合の業界独占度を評価した。機器を構成
する部品・材料の供給社が、独占企業である場合、その企業に製品仕様や価格の決定権があるため、機器メ
ーカーは製品開発の自由度が制限され、製造コストも下げにくくなる。また、独占企業がいる業界に新規参
入するためには、技術面や価格面で独占企業側に現状よりも余裕と自由度の高さがあることを想定しておく
必要がある。加えて、標準技術との互換性の維持や新機軸の訴求点の設定などが必要になる。その反面、
顧客企業からは歓迎される傾向があるため、顧客開拓の取り掛かりは容易。
(7)
ビジネス・モデルの流動性
原価構成項目として分解した部品・材料を供給する側のビジネス・モデルが変化する余地があるかを評価し
た。新規に事業参入する企業が生まれる場合、顧客のニーズに合った機能や性能を実現する新技術を持つ
方法以外に、ビジネス・モデル上の優位性を作り出す方法がある。ただし、この方法を採る場合には、商習慣
や訴求点の評価の面で顧客側に新ビジネス・モデルを受け入れる余地がある必要がある。
(8)
事業化に向けた R&D 投資
原価構成項目として分解した部品・材料を供給する事業に参入するために必要な研究・開発投資の総額を
評価した。十億円級以上の研究開発投資が必要な場合、ベンチャ企業や中小企業では参入不可能な業界
になる。ただし、原価構成項目として分解した部品・材料をさらに機能分割して製品化が可能ならば、参入余
地が出てくる。
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(9)
事業化に向けた設備投資
原価構成項目として分解した部品・材料を供給する事業に参入するために必要な設備投資の総額を評価し
た。十億円級以上の研究開発投資が必要な場合、ベンチャ企業や中小企業では参入不可能な業界になる。
ただし、設備に必要な投資額が高くても、R&D に必要な投資額が低ければ、技術ライセンスの供与のような
知財ビジネスなどを展開できる。
(10) 生産拠点の配置指針
LCD テレビや携帯電話端末の消費地および生産拠点がグローバル化していく中で、原価構成項目として分
解した部品・材料を供給する企業は如何なる指針を持って生産拠点の配置を決めているのかを評価した。こ
こで示した指針は、最も合理的であると考えられる指針ではなく、実際に供給企業が現時点で取っている配
置指針を示している。一般に生産の自動化が可能な製品で物流コストが低い製品は開発拠点周辺での集中
生産に向いている。反面、自動化が困難で原価に占める人件費の比率が高い製品や物流コストの高い製品
は、グローバル展開の対象になりやすい。
(11) 生産地域と消費地域
原価構成項目として分解した部品・材料の生産地域と消費地域を評価した。LCD テレビでは、日本が先行し
ていた市場の立ち上がりが、欧州諸国や北米に波及するようになってきた。また、携帯電話端末では、消費
地としての BRICs の成長と生産拠点としての中国の成長が続いている。こうした機器の消費地域や生産地
域の拡大は部品や材料の供給体制の変化を後押ししている。また、現状で事業参入している企業のすべて
が、こうしたグローバル化に迅速な対応ができるわけではないため、新規企業の参入の切口になる。
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3.評価分野
本レポートでは LCD テレビ、テレビ向け LCD モジュール、携帯電話端末、携帯電話向け LCD モジュー
ルの四つについて、業界変革マップを作成した。機器を構成する部材うち、LCD モジュールを深堀してマッ
プを作成している格好である。これは他の部材と比較して、LCD モジュール周辺の事業において、技術面お
よび事業面での顕著な変革が起きていることに対応したものである。
(1)
LCD テレビ
LCD テレビの業界変革マップ評価分野
ディスプレイ
LCDモジュール
デジタル LSI
画像・音声処理向け LSI
(MPEG2 準拠デコーダ、デマルチプレクサ、各種画像・音声処理、EPG など)
メモリー
画像処理向けメモリー
アナログ IC
A-D 変換器、D-A 変換器、アンプ、復調器など
高周波部品
チューナ
受動部品
受動部品(電源系)
受動部品(画像処理系)
実装部品
プリント配線基板
その他部品
コネクタ
スピーカ
筐体
ソフトウエア
ソフトウエア
テレビ開発
開発に必要な装置、人件費
組立・製造
工場に導入する装置、人件費、各種間接費など
流通・貿易
物流、関税
業界変革マップの作成の題材にした LCD テレビには、32 インチ 1366×768 画素の標準的な機能を搭
載した機種を選定した。録画機能や、2 画面表示に向けたダブル・チューナなどの搭載は想定していない。
デジタル地上波放送を受信可能な機種である。家電メーカーが LCD モジュールを外部調達し、独自ブラン
ドで販売した場合である。原価は 2005 年末時点でのデータを基にしており、特に LCD モジュールに関して
は、30%程度の低価格化が進んでいるものと思われるが、補正はしていない。部材コストのほかテレビの開発
費、組立・製造に掛かる費用、流通・貿易に掛かる費用などを想定推した。これらは日本国内で生産し、北米
に輸出する場合を想定している。
LCD テレビ向け部品・材料における変革は、LCD モジュールの部分を除いた部分を PDP テレビや FED テ
レビなどにも適用できる。ただし、画像・音声処理向け LSI の部分に関しては、ほぼ同様の変革が起きるもの
と思われるが、表示するパネルの種類にあわせた画像処理を行なうようになってきているため、まったく同じ
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ではない。現在LCD テレビではコントラスト比の向上などを狙って、表示する画像データの内容に合わせて、
バックライトの明るさを制御して変える技術を実用化しつつある。将来的には、現在画面内で明るさを領域ご
とに変える制御技術も検討されている。こうした領域ごとの明るさの制御は、PDP など自発光型のディスプレイ
の強みだった。このため、この部分は、特に LCD テレビにおいて大きな変革があるものとい思われる。
ちなみに PDP 方式においては、LCD 方式ではそれほど重視されない高耐圧部品や放熱系の部品、また
LCD よりも高価な光学フィルム(前面フィルタ)での変革が多い。
(2)
テレビ向け LCD モジュール
テレビ向け LCD モジュールの業界変革マップ評価分野
アレイ部材
ガラス基板
セル部材
カラー・フィルタ
偏光板
液晶
モジュール部材
ドライバ IC
バックライト
その他実装部材
モジュール開発
開発に必要な装置、人件費
組立・製造
工場に導入する装置、人件費、各種間接費など
流通・貿易
物流、関税
業界変革マップの作成の題材にしたテレビ向け LCD モジュールは、42 インチの標準的な機能を搭載した
製品を選定した。題材の選定の時点で LED バックライトの採用などハイエンド製品向け技術の採用は想定し
ていない。モデル・ケースでは、韓国のメーカーがカラー・フィルタなど部材の一部を内製、その他の多くを日
本から輸入し、アレイ工程からモジュール工程までを韓国で行なう場合。原価は 2005 年末時点でのデータ
を基にしており、部材の低価格化が進んでいるものと思われるが、補正はしていない。部材コストのほかモジ
ュールの開発費、組立・製造に掛かる費用、流通・貿易に掛かる費用などを想定推した。
LCD モジュールを構成する部品・材料の変革は、PDP など他方式のディスプレイに適用できる部分はほ
とんどない。PDP を例に採ると、ガラス基板は多面取りを推し進めるために、LCD での変革を後追いする形
で一層の大型化が進むものと思われる。PDP におけるガラス基板の大型化を難しくしている要因は、製造工
程を均一な膜の形成が困難な厚膜プロセスを中心に構成していることである。これは LCD 方式が多用して
いる真空装置を使った薄膜プロセスと比較して装置コストが安くて済む利点でもある。また高耐圧系部品や放
熱系部品での変革も起こると思われる。
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(3)
携帯電話端末
携帯電話端末の業界変革マップ評価分野
ディスプレイ
LCD モジュール
デジタル LSI
DSP、マイクロプロセサなど
(通信に向けたベースバンド処理、ユーザーインタフェースや各種アプリケ
ーションに向けた情報処理、画像処理)
メモリー
メモリー・モジュール
アナログ IC
変換器
パワー・アンプ
レギュレータ IC
撮像素子
CCD モジュール
高周波部品
アンテナ
デユプレクサ
SAW フィルタ
TCXO
VCO
受動部品
チップ抵抗器
セラミック・コンデンサ
タンタル・コンデンサ
チップ・インダクタ
実装部品
プリント配線基板
その他部品
音響部品
LED
モーター
筐体
コネクタ
スイッチなど
AC アダプタ
電池
ソフトウエア
ソフトウエア
端末開発
開発に必要な装置、人件費
組立・製造
工場に導入する装置、人件費、各種間接費など
流通・貿易
物流、関税
業界変革マップの作成の題材にした携帯電話端末は、CDMA 端末で 2.4 インチ 320×240 画素 26 万
色の LCD モジュール、200 万画素のカメラ機能、miniSD™メモリカード準拠のスロットを搭載した機種を想
定している。原価は 2005 年末時点でのデータを基にしており、部材の低価格化が進んでいるものと思われ
るが、補正はしていない。部材コストのほかモジュールの開発費、組立・製造に掛かる費用、流通・貿易に掛
かる費用などを想定推した。
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(4)
携帯電話向け LCD モジュール
携帯電話向け LCD モジュールでの業界変革マップ評価分野
アレイ部材
ガラス基板
セル部材
カラー・フィルタ
偏光板
液晶
モジュール部材
ドライバ IC
バックライト
その他実装部材
モジュール開発
開発に必要な装置、人件費
組立・製造
工場に導入する装置、人件費、各種間接費など
流通・貿易
物流、関税
業界変革マップの作成の題材にした携帯電話向け LCD モジュールは、2.0 インチの 176×220 画素のア
モーファスSi TFT液晶を選定した。システム液晶など最先端技術によるコストダウンはしていない。原価は
2005 年末時点でのデータを基にしており、低価格化が進んでいるものと思われるが、補正はしていない。部
材コストのほかモジュールの開発費、組立・製造に掛かる費用、流通・貿易に掛かる費用などを想定推した。
携帯電話向けディスプレイとして、有機 EL 方式の採用が検討されている。特に実装上のメリットがあるため期
待されている。しかし、現時点では品質上の課題が多いため本格的に実用化する動きはない。今後の技術
面での変革が必須になる。
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4.HotSpot 抽出の視点
定常的な変化と非定常的な変化
価格/性能/事業の完成度/
消費者の数/地域数
(1)
変革
【定常変化2】
トレンド
【定常変化1】
変動
時間
図 4-1 電子業界を取り巻く 3 種類の変化
電子業界は、他の業界と比較して技術面、事業面での変化が大きな業界である。なかでもテレビと携帯電
話は、変化の質と量において他の機器を上回る変化が起きている。機器の機能・性能の向上に向けた技術、
販売価格、流通の手法、製品の位置付け、消費の中心となる市場など様々な切口での変化が起こる。
電子業界における変化は、以下のような三つに分類できる(図 4-1)。一つは戦略を策定するうえでの材料と
して考慮する必要のない定常的に起こる短期的な「変動」である。たとえばDRAMの価格のように市場の需
給関係で決まる値がこれに当たる。変動を少なくしたり、変動を仕掛けるための戦略を考えることは出来るが、
一時の変動に合わせてビジネス・モデルを変えたり、製品開発の指針を決めたりすることはできない。都合の
良い変動を当てにした戦略を考えることもできない。
二つ目は、業界に携わる誰もが戦略策定の前提として考える、長期的な変化「トレンド」である。半導体の
微細加工技術のトレンドや、テレビ画面の大型化のトレンド、携帯電話に搭載するカメラの画素数のトレンドな
どがある。長期に渡って変化し続けることに暗黙の了解が得られているので、関連事業に携わる企業は、戦
略の前提として考えることが出来る。ただしトレンドに対応する戦略は、該当する業界で事業を行なうための
必要条件であって、他社に対する競争力を保証するものではない。
三つ目は非定常的な変化「変革」である。トレンドが変わってしまうような突然変異的な変化である。変革が
起こった分野では、関連事業を営む既存企業の多くがリスクを被ることになる。従来のトレンドに沿った戦略の
変更を余儀なくされるからである。独占的な立場にいる企業であっても例外ではない。逆に新規参入を目論
む企業にとっては千載一遇の事業機会を得ることになる。テレビや携帯電話は変革の巣である。変化の中か
ら変革を見抜き、迅速な対応をしていくことが重要になる。
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5.業界変革マップと HotSpot からの事業機会や課題の抽出に向けた考え方
ステップ1
状況把握
業界変革
(HotSpot)の
内容把握
不足機能を持つ
企業がいる
事業領域の特定
アライアンス
先の選定
同一基準での比較検討
不足要素の洗い出し
アライアンスにおける
契約内容の策定
内部環境
自社事業の
ポジションの把握
外部環境
ステップ3
戦略策定
ステップ2
目標設定
アライアンス先を
取り巻く事業環境
の把握
アライアンス締結に向けた
交渉戦略の策定
変革に対応した
事業における
自社機能の定義
新規事業に振り向ける
経営資源の定量化
図 5-1 アライアンス戦略の策定に情報分析フロー
ここでは、業界変革マップと抽出した HotSpot から、新たな事業機会や既存事業の課題の抽出方法につ
いて考察する。LCD テレビや携帯電話端末に関連する事業において、変革とどのように対峙していくのかと
いう視点で考える。情報の利用方法を具体的に考えるために、以下の二つの利用シーンを想定した。
利用シーン1:変革に対応するための手段としてアライアンスの相手を探す
利用シーン2:自社の内部事情に合った新たな事業領域を抽出する
利用シーン1:変革に対応するための手段としてアライアンスの相手を探す
既存事業が変革に晒さる場合、ヒト・モノ・カネといった経営資源などが不足し、企業の機能や保有する技
術の面でも不足する可能性が出てくる。こうした場合、変革に対して迅速に対処する方法として、自社の不足
している要素を保有している他社とのアライアンスがある。同業者とのアライアンスは事業環境に関する認識
にコンセンサスをとることが容易であるが、同業者であるがゆえに機能の補完がしにくい。変革に対しては、
単純な規模の拡大では対処できない場合が多いため、むしろ異業種に必要になるアライアンス先の候補が
あることが多い。加えて相手先にとっても、提案されたアライアンスによって生み出される事業が、自社の技術
や機能にとっての新たな事業機会になるため魅力的に映る。
この場合の情報分析フローを図 5-1 に示す。情報分析を自社の事業を取り巻く外部の環境と、内部の環境
に分けてそれぞれ 3 ステップの分析を行なう。
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まずステップ1は状況把握である。外部環境として起こっている変革の内容と、既存の自社事業の内容そ
れぞれを、業界変革マップの評価軸でマッピングする。そして、同じ評価基準で評価した結果を比較検討し
て不足している経営資源や技術の分野、会社の機能を洗い出す。
ステップ2は目標設定である。外部環境の分析として、業界変革マップの中から自社の不足している要素
を保有している企業が多くいる事業領域を特定し、アライアンス先を探し出すための業種や企業特性を絞り
込む。内部環境の分析として、アライアンス時の自社の機能を定義する。両社を併せて、アライアンス締結時
の契約内容などを策定する。
ステップ3はアライアンスの実現に向けた戦略策定である。外部環境分析として、アライアンス先の候補を
取り巻く事業環境、とくに変革の有無とその内容、および対象企業への影響を調べる。アライアンスの提案で
は、相手の状況を反映した琴線に触れる提案をすることを考える。内部環境としては、アライアンスによって
実現する新規事業に振り向けることができる自社の経営資源を定量化する。そして、アライアンスに向けた交
渉の戦略・シナリオを策定する。
ガラス基板
LCDモジュール
カラーフィルタ
偏光板
その他セル材料
ドライバIC
バックライト
その他実装部材
設備償却費(モジュールの製造)
モジュールの研究開発
DSP、マイクロプロセサなど
端末用部品
端末用部品
アナログLSI
メモリー・モジュール
音響部品
プリント配線基板
アンテナ共有器
スイッチ
SAWフィルタ
TCXO
コネクタ
VCO
ミキサ
パワー・アンプ
レギュレータIC
LED
チップ抵抗器
セラミック・コンデンサ
タンタル・コンデンサ
チップ・インダクタ
モーター
ACアダプタ
筐体
電池
ねじなど
CCDモジュール
ソフトウエア
端末の開発組立 設備償却費(端末の組立)
端末の開発組立
端末研究開発費
LCDモジュール
条件1:
ガラス基板
カラーフィルタ
偏光板
その他セル材料
ドライバIC
バックライト
その他実装部材
モジュールの製造
モジュールの研究開発
DSP、マイクロプロセサなど
アナログLSI
メモリー・モジュール
音響部品
プリント配線基板
アンテナ共有器
スイッチ
SAWフィルタ
TCXO
コネクタ
VCO
ミキサ
パワー・アンプ
レギュレータIC
LED
チップ抵抗器
セラミック・コンデンサ
タンタル・コンデンサ
チップ・インダクタ
モーター
ACアダプタ
筐体
電池
ねじなど
CCDモジュール
ソフトウエア
端末の組立
端末研究開発
R&D投資が10億
R&D投資が10億円台まで
円台まで
ガラス基板
カラーフィルタ
偏光板
その他セル材料
ドライバIC
バックライト
その他実装部材
モジュールの製造
モジュールの研究開発
DSP、マイクロプロセサなど
端末用部品
アナログLSI
メモリー・モジュール
音響部品
プリント配線基板
アンテナ共有器
スイッチ
SAWフィルタ
TCXO
コネクタ
VCO
ミキサ
パワー・アンプ
レギュレータIC
LED
チップ抵抗器
セラミック・コンデンサ
タンタル・コンデンサ
チップ・インダクタ
モーター
ACアダプタ
筐体
電池
ねじなど
CCDモジュール
ソフトウエア
端末の開発組立 端末の組立
端末研究開発
LCDモジュール ガラス基板
カラーフィルタ
偏光板
その他セル材料
ドライバIC
バックライト
その他実装部材
モジュールの製造
モジュールの研究開発
DSP、マイクロプロセサなど
端末用部品
アナログLSI
メモリー・モジュール
音響部品
プリント配線基板
アンテナ共有器
スイッチ
SAWフィルタ
TCXO
コネクタ
VCO
ミキサ
パワー・アンプ
レギュレータIC
LED
チップ抵抗器
セラミック・コンデンサ
タンタル・コンデンサ
チップ・インダクタ
モーター
ACアダプタ
筐体
電池
ねじなど
CCDモジュール
ソフトウエア
端末の開発組立 端末の組立
端末研究開発
条件3−1:
×参入障壁が普
事業参入障壁が高くない
通もしくは低い
×技術の変化が
技術の変化が大きい
大きい
LCDモジュール
条件2:
ガラス基板
カラーフィルタ
偏光板
その他セル材料
ドライバIC
バックライト
その他実装部材
モジュールの製造
モジュールの研究開発
DSP、マイクロプロセサなど
端末用部品
アナログLSI
メモリー・モジュール
音響部品
プリント配線基板
アンテナ共有器
スイッチ
SAWフィルタ
TCXO
コネクタ
VCO
ミキサ
パワー・アンプ
レギュレータIC
LED
チップ抵抗器
セラミック・コンデンサ
タンタル・コンデンサ
チップ・インダクタ
モーター
ACアダプタ
筐体
電池
ねじなど
CCDモジュール
ソフトウエア
端末の開発組立 端末の組立
端末研究開発
LCDモジュール
×ビジネス・モデ
条件3−2:
ルの変化が大き
いビジネス・モデルの変化が大きい
図 5-2 事業領域の決定に向けた絞込みフロー
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利用シーン2:自社の内部事情に合った新たな事業領域を抽出する
商社やベンチャ・キャピタルなどでは、自社の投資目的に合った投資先を迅速かつ論理的に選定したいと
いうニーズがある。LCD テレビや携帯電話の関連事業で数多くの事業機会が生まれ、成長する企業が数多
くあることはわかる。しかし、関連する事業ならばなんでも成長するわけではない。新規参入企業に順風が吹
いているのは具体的にどのような業種、事業領域なのかを絞り込む必要がある。
業界変革マップにおける評価軸、評点に沿って、投資の目的、手法に沿った絞込み条件を設定することに
よって、投資先がいそうな事業領域を絞り込むことが出来る(図 5-2)。たとえば、技術開発型のベンチャー企
業に向けて数億円投資し、早期に投資によるリターンが得られる企業を選定しようとする。この場合、R&D 投
資が 10 億円台までで事業が成立するという条件、事業参入障壁が高くないという条件などが設定できる。加
えて、技術またはビジネス・モデル上の変化が大きい事業領域は、投資先の顧客に何らかのニーズがあるこ
とが予想されるため追加条件にできる。
「情報家電・業界変革マップ−テレビ・携帯電話編」
【発
行】
【発 行 日】
【頁
数】
【W e b サ イ ト】
テクノアソシエーツ
【発
売】 日経 BP 社
2006年7月5日
【本 体 価 格】 97,750円 (税込)
A4 判,約 150 ページ(白黒)
http://sangyo.jp/ri/jyoho_map/tv/
★早期購入者特典<レポート解説セミナー>
2006年7月14日 海運ビル(東京)
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