外国競争法研究会 要点整理 1 Ⅰ.「全米大学体育協会

外国競争法研究会 要点整理
Ⅰ.
「全米大学体育協会(NCAA)の内部規則の反トラスト法問題について」1
講師:学習院大学法学部教授 大久保直樹 氏
日時:2015 年 4 月 15 日(水)13:30~16:30
1.事実の概要:
(1)本件訴訟 Edward O’Bannon, et al v. National Collegiate Athletic Association; Electronic
Arts Inc., and Collegiate Licensing Company2は2009 年カリフォルニア州連邦地裁に提起された。
(2)原告は O’Bannon3他の元及び現役学生アスリート 20 名である。
(3)被告は NCAA(全米大学体育協会)である4。NCAA は現在約 1100 の大学が加盟する組織で、
20 以上のスポーツについて大学間対抗競技のルールを定め且つ大会を運営している。NCAA は大
学間対抗競技への参加状況等により加盟大学を DivisionⅠからⅢに分けており、DivisionⅠには約
350 の加盟大学が属している。また DivisionⅠに属する加盟大学のフットボールチームはさらに
FBS(the Football Bowl Subdivision)と FCS(the Football Championship Subdivision)に分かれ
ている。
(4)問題となった NCAA 規則(本件規則)には次のような定めがあった。
①学生アスリートは、運動能力に基づく奨学金として NCAA 付属規程(bylaws)に定め
る”grant-in- aid”(すなわち授業料、下宿代、教科書代等の合計額)を超える金銭を大学から受領
してはならない。違反した場合は競技資格をはく奪される。
②学生アスリートは、NACC 付属規程に定める“the cost of attendance”(すなわち交通費なども
ふくむ就学総費用)を受領してはならない。上記①の奨学金と就学総費用との乖離は、通常数千ドル
程度である。
③学生アスリートは、校内・校外で労務を提供し報酬を得ることはできるが、学生アスリートの
運動能力に依拠する名声、評判等による報酬を得てはならない。また報酬の有無に拘わらず、在学
中にその名前やイメージを広告等に使用させてはならない。
2.裁判所の判断
(1)本件訴訟は、ジョイントベンチャーの例に従い、クイックルックや当然違法ではなく、合理
の原則に基づき判断する。
(2)DivisionⅠ所属バスケットボール・チーム又は FBS 所属フットボール。チームを持つ大学(本
件諸大学)が供給する商品・役務は、学生アスリート(需要者)からみて代替性がないので、市場を
構成している。NCAA の本件規則は、本件諸大学が供給する当該商品・役務の協定価格を定めてお
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大久保直樹「価格協定に合理の原則を適用し正当化理由の有無などを検討した裁判例」公正取引
No.774、2015 年 4 月
2 事件番号:4:09-cv-03349-CW 。判決文は下記参照。
http://i.usatoday.net/sports/!Invesitgations-and-enterprise/OBANNONRULING.pdf
3 元バスケットボール学生アスリート
4 http://www.ncaa.org/about
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り、これは取引制限に該当する。
(3)本件規則は、本件諸大学に販売価格協定を行わせているとみる一方で、本件規則が本件諸大
学に購入価格協定を行わせているとみることもできる。
(販売カルテルは売手独占(monopoly)価
格を、購入カルテルは買手独占(monopsony)価格を強いる)
。供給者らを害する買手独占的行為は、
最終的に消費者を害することがないとしても反トラスト法違反たりうる。
(4)NCAA は本件規則の正当化事由として①学生スポーツのアマチュアリズムを守る、②本件諸
大学のチームの競技上の均衡を保つ、③学生生活と競技生活を両立させる、④本件諸大学の商品・
役務の供給力を増加させると主張するもいずれも失当である。
(5)より競争制限的でない代替手段としては、信託を利用してライセンス収入を引退後の又は卒
業後の学生アスリートに分配するなどが考えられる。
(6)本件規則による取引制限は反トラスト法に違反するが、当該違反を救済する措置としては反
トラスト法違反に基づく措置よりも NCAA、加盟大学等による方針変更がより適切であろう。よっ
て当裁判所としては本件規則による取引制限の差止を命ずる。原告訴訟費用は NCAA 負担。
3.分析
本判決は、市場画定、市場支配力の有無、正当化事由の有無を丁寧に検討している点で注目する
価値がある。
(1)商取引(commercial activity)に該当するか
本件訴訟の争点ではないが、学生アスリートと大学との取引が商取引か否かの問題がある(否で
あれば反トラスト法の保護対象ではない)
。商取引ではないと判断したもの、Smith 事件判決5、
Bassett 事件判決6があるが、その判断はいずれも正当化事由によって補完されている、又は裏打ち
されている。そうであるならば、商取引であることを広く認めても問題がないと考える。
公取委は相談事例「プロ選手が参加するトーナメント戦等の競技会を開催する事業者による取引
妨害」7において、雇用契約又はそれ極めて類似した契約が存在する場合には独占禁止法の対象とな
らないとしている。類型的に規制対象から除く考え方であろうが、本件判決は示唆的ではなかろう
か。
(2)売る競争か買う競争か
「買う競争」を制限する行為については、供給者が不利な条件で供給させられるおそれをもたら
すだけでは不十分であり、川下市場の「売る競争」を制限した場合にはじめて違法となるという主
張がある。しかし Weyerhaeuser 判決8はこれを否定している。本件のように同一の行為が「売る
競争」の制限だともみられるし、「買う競争」の制限だともみられる場合があるならば、
Weyerhaeuser 判決の立場が妥当と考える9。
以上
Smith v. NCAA, 139 F.3d 180, 186-187(3rd Cir. 1998)
Bassett v. NCAA, 528 F.3d 426, 433(6th Cir. 2008)
7 http://www.jftc.go.jp/dk/soudanjirei/h24/h23nendomokuji/h23nendo03.html
8 Weyerhaeuser Co. v. Ross-Simons Hardwood Lumber Co., Inc., 549 U.S. 312 (2007)
9 大久保直樹「競争法分野でのバイヤーパワーをめぐる最近の議論‐通信・放送分野での検討の差
罪として-」
、放送メディア研究 10 号 185 頁以下(2013)
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Ⅱ.
「米国外国取引反トラスト法改善法について-最近のモトローラ事件第 7 控訴裁判決を中心として」10
講師:東京大学名誉教授・弁護士 松下 満雄 氏
1.反トラスト法の域外適用と FTAIA の制定
(1)反トラスト法の域外適用は、欧州でのカルテルが米国に効果を及ぼし、この効果が意図され
たものである場合にはシャーマン法の適用ありとする 1945 年のアルコア事件判決11により始まっ
た。効果理論である。1950 年から 80 年にかけてこの効果理論に基づく反トラスト法の域外適用が
行われた結果、多くの国際的摩擦が生じたので、これを解消するために外国取引反トラスト改善法
(The Foreign Trade Antitrust Improvement Act, FTAIA)が制定された。
(2)FTAIA の文言12に関して疑問点が2つある。第 1 は、輸入取引に関する柱書と但書との整合
性欠如である。すなわち、輸入取引に関して、柱書は全面的にシャーマン法の適用があると規定し、
但書は直接的、実質的かつ合理的に予見可能性が生ずる場合にシャーマン法の適用があると規定し
ている。第 2 は、但書(1)(A)でいう「外国との取引又は通商ではない取引又は通商」とは何かとい
うことである。州際通商を指すと思われるが、何故、州際通商という文言を使わないのであろうか。
州際通商とは異なる意味があるということか。
2.モトローラ事件の概要
第 7 控訴裁は、2014 年 3 月に書面審理に基づき、モトローラの控訴を棄却する判決を下したが、
モトローラは裁判官全員による再審理申立を行った。そこで第 7 控訴裁は再審理の結果、同年 11
月改めて控訴棄却判決を下した13。その要旨は次の通りである。
①モトローラとその子会社は別法人である。
②モトローラの外国子会社が、カルテル行為による損害賠償請求を行う場合は、行為地の競争法
により損害賠償請求を行うべき。
③モトローラは LCD メーカーとの取引において(直接部品取引を除き)間接購入者であり、イ
リノイブリック判決14によりシャーマン法上の損害賠償請求は認められない。
松下満雄「米国「外国取引反トラスト法改善法」
(FTAIA)の研究 上・下」国際商事法務 43
巻 No.2&No.3(2015 年 2 月&3 月)
11 United States v. Aluminum Co. of America 148 F. 2d 416(2nd Cir. 1945)
12 Sections 1 to 7 of this title shall not apply to conduct involving trade or commerce (other than
import trade or import commerce) with foreign nations unless—
(1) such conduct has a direct, substantial, and reasonably foreseeable effect—
(A) on trade or commerce which is not trade or commerce with foreign nations, or on import
trade or import commerce with foreign nations; or
(B) on export trade or export commerce with foreign nations, of a person engaged in such
trade or commerce in the United States; and
(2) such effect gives rise to a claim under the provisions of sections 1 to 7 of this title, other
than this section.
If sections 1 to 7 of this title apply to such conduct only because of the operation of paragraph
(1)(B), then sections 1 to 7 of this title shall apply to such conduct only for injury to export
business in the United States.
13 2015 年 1 月 12 日に一部修正された。
14 Illinois Brick Co. v. Illinois, 431 U.S. 720(1977)
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④モトローラは自らとその子会社が同一企業体であることを主張するが、自己にとって有利とな
る場合にはそう主張し、不利となる場合には別法人と主張することは認められない。
⑤エンパグラン判決は、外国主権を侵害しないようにシャーマン法上の損害賠償請求者の範囲が
不当に拡大されない重要性を述べているが、そもそも FTAIA はこうした目的のために制定されて
いる。本件も国際協調の精神を考慮して判断するべき。
⑥LCD 国際カルテルが米国に直接的、実質的かつ合理的に予見可能な効果を生ずる場合に、
(司
法省が)シャーマン法上の刑事訴追及び差止請求をすることは FTAIA により許容されている。
3.液晶パネル国際カルテル刑事事件判決
(1)液晶パネル国際カルテル刑事事件において、殆どの LCD メーカーは有罪答弁を行ったにも
拘らず、台湾 LCD メーカーAUO はシャーマン法の適用を巡り争い、第 9 控訴裁判所で有罪判決が
下されている。当該控訴裁は、司法省が FTAIA 柱書ではなく但書によりシャーマン法の適用を主
張しているので、司法省に挙証責任ありとするが、当該控訴裁は「被告会社は 6 億ドルに上る LCD
及び LCD を組込んだ製品を米国に輸出しており、直接的、実質的、合理的に予見可能な反競争効
果を与えている。
」と認めシャーマン法の適用可能と判示した。
(2)この刑事事件もあったので、司法省はモトローラ事件においてその損害主張②(上記 2(1)参照)
を認めないという第 7 控訴裁の判断に関し再考を求める意見書を提出している。
4.第 7 控訴裁判所再審判決への疑問点
(1)イリノイブリック事件判決は、取引相手⇒子会社⇒親会社という取引において、子会社が完
全子会社であれば親会社が取引相手に対して損害賠償請求できる場合があることを認めている。再
審判決は、モトローラの外国子会社は別法人でありモトローラは間接購入者であると形式論的判断
をしているが、反トラス法判例は、機能を重視して親子会社関係を判断してきた。機能説の立場か
らみると、再審判決に違和感を禁じ得ない。
(2)エンパグラン事件15とモトローラ事件では事実関係に大きな相違がある。エンパグラン事件
では外国における価格維持がなければ、米国における高値維持もなかったという因果関係は FTAIA
のシャーマン法例外適用の根拠としては間接的に過ぎると判断された。モトローラ事件ではカルテ
ル対象の LCD を組込んだ携帯電話が米国で販売されていることから、LCD の超過請求分が携帯電
話価格を引き上げていると推定することができよう。
LCD カルテルの米国市場への影響の直接性を
考慮して判断されるべきなのではなかろうか。
(3)FTAIA は(i)米国外における行為が米国市場に直接的、実質的かつ合理的に予見可能な効果を
生ずることと(ii)かかる効果がシャーマン法上の請求原因となる場合に、シャーマン法が適用される
としている。つまり文言上は(i)と(ii)の両方が必要である。しかるに再審判決はモトローラの請求は
(ii)の要件を満たしていないのでシャーマン法の適用は認められないという立場である。しかし司法
省の刑事訴訟、差止請求も(ii)が欠けていることになるのではないか。そうであれば FTAIA はシャ
ーマン法上の損害賠償請求の場合にのみ適用され、刑事訴訟、差止請求には適用されないことを明
確に判示するべきではあったと思われる。
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以上
F. Hoffmann-La Roche Ltd. V. Empagran S.A. , 542 U.S. 155(2004)
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