後施工セラミック定着型せん断補強鉄筋 (CCb)工法

後施工セラミック定着型せん断補強鉄筋
(CCb)工法
カジマ・リノベイト株式会社
鹿島建設株式会社
技術部
土木構造グループ
副部長
○豊田
上席研究員
要
山野辺 慎一
古い耐震基準に従って設計された既設RC構造物の中には、新しい耐震基準で考慮すべきレベル
2 地震動に相当する地震力を受けた場合、せん断耐力やじん性が不足することが指摘されている。
しかし、ボックスカルバートや下水処理施設などのような既設構造物を耐震補強する場合、新設
時と比べて施工条件が制約されることが多い。そこで、そのような条件下でも施工できるように
工夫した、後施工セラミック定着型せん断補強鉄筋工法(CCb)工法を開発した。本報文では
この工法の特長やここまで重ねてきた工法の改善・改良について紹介する。
キーワード:耐震補強、せん断補強、補強効率、セラミック、レベル 2 地震動
1. はじめに
160,000
139,047
140,000
については、構造物周辺を掘削できない場合が多
く、その場合には構造物内面のみから耐震補強を
行なうことになる。
加えて、硫化水素などによるコンクリートの劣
化が危惧される下水道施設などでは劣悪な腐食
環境下でも補強後の耐久性を要求される。
鹿島建設(株)とカジマ・リノベイト(株)は、こ
のような条件下においても対応できるせん断補
強方法として、後施工セラミック定着型せん断補
強鉄筋「セラミックキャップバー(CCb)」の開発
を行ない、平成 21 年 2 月に土木研究センターの
技術審査証明を取得し、平成 24 年 10 月には NETIS
登録を行なっている。
セラミックキャップバーを用いた後施工せん
断補強工法(以後、CCb 工法と称す)は、平成 21
年 9 月に下水道施設の地中梁に初めて適用して
以来施工実績を積み重ね、現在、施工中を含めて
適用本数は 14 万本近くに至っている。
(図-1)
120,000
100,000
64,153
本数
既設の RC 構造物に対して耐震補強を実施する
場合、供用しながらの施工となるため、施工場所
や施工時間が制限されるなど、新設時に比べて施
工条件が制約される場合が多い。特に地下構造物
80,000
60,000
26,015
40,000
20,000
0
35
図-1
945
9,435
施工本数
累計本数
CCb工法施工実績の推移
2. 工法の概要及び特長
(1)工法の概要
1980 年より前の旧耐震設計法で設計された RC
構造物は現在の耐震設計法で照査すると耐震性
能を満足しないものが少なくない。なかでも、せ
ん断補強鉄筋量が不足しているため、現行の耐震
設計法において考慮することになっているレベ
ル 2 地震動に相当する地震力を受けた場合、せん
断耐力やじん性が不足する場合が多い。
CCb 工法は、この様な構造物に対する後施工せ
ん断補強工法として開発した工法で、ねじ節鉄筋
の両端にセラミック製の定着体を取り付けるこ
とにより、高い補強効率と高い耐久性、確実で優
れた施工性を実現した。
RC 構造物の壁を削孔し、標準型 CCb を挿入し
グラウトで一体化した状況を図-2 に示す。
先端型
既存の RC 壁
後端型
内
空
側
地
盤
側
セラミック定着体
(3)高い補強効率
後施工せん断補強鉄筋は、両端にフックを設け
て定着した通常のせん断補強筋に比べて定着性
能が低下する。その定着性能は、通常のせん断補
強筋の有する定着性能に、下式から求めた補強効
率βaw を乗じて算出することができる。
・標準型CCbの補強効率βaw
既設コンク
 aw  1 
リート表面
図-2
標準型セラミックキャップバー設置状況
(2)既設構造物の状況に応じたタイプの選択
CCbのセラミック定着体には、先端型定着
体と後端型定着体の 2 種類があり、一般に使用す
るのは両方を取り付けた標準型CCbである。し
かし、補強部材が地中梁や構造物の隅角部など配
筋が密で標準型での施工が困難な部材に対して
は、両端を先端型定着体とした両端先端型CCb
を適用できる。また、水門の門柱などで両側から
の施工が可能な場合には、両端を後端型定着体と
することもできる。
標準型:埋込み側(地盤側)に先端型定着体を、
差込み側(内空側)に後端型定着体を取り付
けたタイプで、特別な理由のない限りこのタ
イプを使用する。
1
l y d  d 
2
ly :定着長
d  d ' :圧縮鉄筋と引張鉄筋の間隔
上式により CCb 工法の場合のせん断補強効率
をグラフにすると図-3 となり、部材が厚くなれ
ばなるほど補強効率が高くなり、部材厚が 800mm
を超えるといずれの場合も 0.9 を超える。
CCb 工法は、定着体に耐食性に優れたセラミッ
クを用いているので定着体を部材の表面近くに
配置することができる。そのため、所定のかぶり
を確保する必要のある類似の他工法と比べて補
強効率が大きい。
1
先端型定着体
後端型定着体
写真-1
標準型
有効率 β
0.9
0.8
D13
D19
D25
D32
0.7
D16
D22
D29
0.6
両端先端型:配筋が密で被りが小さい梁や構造物
のハンチ部などで後端型定着体の設置が困
難な場合、両端に先端型定着体を取り付けた
タイプを使用できる。
先端型定着体
写真-2
0
500
1000
1500
壁厚 (mm)
図-3 補強効率
両端先端型CCbと両端後端型CCbについ
ても標準型CCb同様に補強効率の評価方法を
確立している。各補強効率の算定式を下記に示す。
先端型定着体
両端先端型
両端後端型:水門の堰柱や門柱などで両側からの
施工が可能な場合、両端に後端型定着体を
取り付けたタイプを使用できる。
・両端先端型CCbの補強効率βaw
aw  1 
ly
2d  d 

l
 d 
2
y
2l y d  d 
ly :定着長
d  d ' :圧縮鉄筋と引張鉄筋の間隔
後端型定着体
後端型定着体
写真-3 両端後端型
d ' :部材断面の圧縮縁から圧縮鋼材図
心までの距離
・両端後端型CCbの補強効率βaw
aw  1
(4) 確実な施工による安定した品質
CCb 工法では、施工法を工夫して安定した品質
の確保に努めている。その一例として壁に対する
横向きの施工法を紹介する。
横向きの施工手順を図-4 に示す。横向き施工
で特徴的なのは養生用蓋の取付けとグラウト貯
留槽の使用である。削孔後、ドライアウト防止の
ための吸水防止剤を塗布し、削孔位置に合わせて
養生治具を貼り付ける。
養生治具には、スライド式の蓋が取り付けられ
るようになっている。その後、グラウト貯留槽を
取り付け、削孔内と貯留槽にグラウトを満たし、
CCb を貯留槽内に浸してから削孔内に挿入する。
完全に挿入されたのを確認して養生蓋を設置し、
削孔内外の縁を切る。グラウトを回収し貯留槽を
はずして次の孔の施工に移る。グラウト硬化後養
生治具を撤去し、壁面の清掃・仕上げを行う。
施工手順 6 のCCb挿入状況を写真-4、施工手
順 7 の養生用蓋の設置状況を図-5 に示す。
1.削孔・削孔内清掃
2.吸水防止剤塗布
3.養生治具取り付け
4.グラウト貯留槽の取り付け
5.削孔内部及びグラウト貯留槽への
グラウト充てん
6.セラミックキャップバー(CCb)の挿入
写真-4
手順 6.
CCb の挿入状況
養生用蓋
図-5
グラウト貯留槽
手順 7. 養生用蓋の設置
CCb 工法では、このような施工上の工夫により
エアーや異物の巻き込みを防止し、削孔内へのグ
ラウト材の充てんと CCb の固定を確実に行える
ようにしている。また、これらの一連の作業は容
易に、かつ、連続的に行うことができるので、施
工の迅速性と安定した品質の確保が可能となっ
ている。
(5)
現場での CCbの組み立て
CCb 工法の施工上のもう一つの特長が、CCb の
現場組み立てである。従来の後施工せん断補強筋
は、定着体を予め工場で加工し現場に搬入するの
で、現場での長さの調節ができない。それに対し、
CCb は、定着体と鉄筋を別々に現場に搬入し、削
孔長に合わせて現場で組み立てる。実際に、ハン
チ部の施工等において、削孔後に補強筋の長さ
を調整しなくてはならない場合があるが、CCb は、
迅速に対応ができ無駄が全くない。
7.養生用蓋の設置
3.課題及び改善・改良事例
8.グラウト貯留槽内のグラウト回収
グラウト貯留槽撤去
9.養生・仕上げ
図-4
順
横向き施工手
次に、施工実績を積み重ねるなかで生じた課
題および改善・改良・工夫について、施工事例
に即して紹介する。
(1) 上向き施工法の改善
a)上向き施工法の課題
上向き施工法は、横向き施工とは異なり、まず、
削孔内に CCb とエア抜きパイプを挿入し、注入バ
ルブを装着した上向き用治具(仮蓋)を設置した
後グラウトを注入する。エア抜きパイプからのグ
ラウト漏出を確認後エア抜きパイプを引き抜き、
ハンチ部の折れ点に合わせ切断
写真-5
ハンチ部の上向き施工
もうひとつは、せん断補強と部材の増し厚との
併用の場合に生じた課題である。
排水機場ポンプ室の頂版の施工において、CCb
によるせん断補強を行った後、コンクリート吹き
付けにより 40mm 増し厚を行うことになった(図
-6)。そのため、CCb は頂版下面から 40mm 突出
した状態で設置する必要があり、通常の上向き施
工治具は使用できない。対策として、上向き施工
用治具(仮蓋)にカッブ型形状の器を取り付け、
CCb が頂版表面より 40mm 突出する状態で固定で
きるように治具を加工した。写真-6 および写真
-7 に施工状況を示す。
この場合も特殊の上向き施工用治具を製造す
ることとなり、治具の設置や硬化後カップ内に残
ったグラウトを取り除く作業に時間を要する結
果となった。
既設頂版
40mm
漏出防止処置を施して養生する。グラウト硬化後、
治具を撤去し仕上げを行う。
この方法による施工を進めるなかで、施工上の
課題が幾つか生じた。
ひとつは河川水門の施工において、門柱と梁と
の接合部のハンチで生じた課題である。ハンチ部
については通常の上向き用治具が使用できず、ハ
ンチの勾配に合わせた特別の治具を製作する必
要があった。一例として、写真では確認できない
が、CCb が安定して設置できるように治具内側に
台座を設けたことである。
また、上向き用治具をハンチの始点や終点に合
わせて、現地で切断する必要が生じ、現地での治
具調整に時間を要する結果となった。
写真-5 に施工の状況を示す。
CCb
増し打ち部
図-6
図
写真-6
況
頂版施工断面
増し打ち部の上向き施工状
写真-7
CCb設置完了
b)可塑性グラウトによる施工方法改善
以上のような経験を踏まえて、上向き施工の場
合について、断面形状や施工条件の変化に適応し
易い施工方法の改善に取り組んだ。そのひとつが
可塑性グラウトを使用した施工方法である。
可塑性グラウトは、通常使用するグラウト材に
可塑剤を添加することで容易に作製でき、静止時
には粘性を有し、加力・振動時には流動化する特
性を持った材料である。
可塑性グラウトを用いる場合の上向き施工法の
手順は、削孔後、まずグラウトを注入し、その後
に CCb を挿入する。グラウトは、注入後 CCb を挿
入するまでは粘性があるため削孔内からだれる
ことはなく、CCb 挿入時には流動性が上がるので
無理なく挿入することが出来る。また、CCb 挿入
後は再び粘性が回復し漏出の恐れがないので、小
さくて簡易な治具で養生すればよい。写真-8 お
よび写真-9 に施工時の状況を示す。
可塑性グラウトは、標準施工で使用する高流動
しか取れない部分があった。
対処の第一は削孔機の改造で、通常、60cm 程
度の高さのコアドリルを 45cm 以下の高さに改造
して使用した。第二は CCb 挿入方法の変更である。
グラウトに比べて流動性に劣る。そのため、注入
時および CCb 挿入時にエアを巻き込み充てんが
不十分にならないよう十分注意する必要がある。
そこで、可塑性グラウトを用いて上向き施工を行
う場合には、注入作業員に事前の技術講習を義務
付け、品質確保を図っている。
現在、施工中の現場に改善された施工方法を適
用しており、施工性や経済性の改善効果を検証中
である。
CCb はねじ節鉄筋を用いているため機械式継手で
容易に接続できる。そこで、CCb を二分割し、グ
ラウト貯留槽内で接合して施工した。
機械式継手を使用した施工方法は、CCb 工法特
有のメリットであり、適用例が多くなると予想さ
れた。そこで、機械式継手を使用した施工方法を
確立することとした。
フランジ止め
地盤
グラウトの充てん
削孔内は,事前に
孔内は事前にドライ
ドライアウト処理を行う.
アウト処理を行う
45cm
グラウト充てん材
グラウト充てん
材
500A
注入パイプを引抜
注入パイプ
く際は、注入圧の
圧力で引抜く。
60cm
電 動ポンプ にてグ
ラ ウト材を 先端か
電動ポンプにて、グラウト
ら充てんする
材を先端から充てんする。
写真-8
写真-10
条件
グラウト充てん
狭あい部での施工
既設躯体
「セラミックキャップ
バー(CCb)」の挿入
コンクリート
CCb
「セラミックキャップバー
(CCb)」を設置する際に、
孔内に充てんしたグラウト
材を排出する。
設置冶具
設置冶具
設置用リフ
「セラミックキャップバー
(CCb)」設置用リフト
ト
配管 500A
施工空間
A
対象構造物
B
後施工せん断補強筋挿入長さ
写真-9
CCb の挿入
(2)機械式継手による狭あい部での施工改善
a)施工事例及び課題
下水処理場等では、配管や機械設備が壁際に設
置されていて施工空間が十分取れない場合があ
る。特に、施工空間が壁厚(CCb 長)より狭い場
合には、CCb の挿入が困難になり、特別な工夫が
必要になる。写真-10 および写真-11 は、その
実例であり、壁厚 60cm に対して施工空間が 45cm
写真-11 狭あい部での施工
b)機械式継手を使用した施工方法
CCb 長より狭い空間で挿入を行うには、予め分
割した CCb をグラウト貯留槽内で接合しながら
挿入する方法が有効であることが先の事例で確
認できた。そこで、この事例をもとに施工方法を
確立した。
施工手順はグラウトの注入までは通常の横向
き施工と同じである。次に、先端型定着体を取り
付けたねじ節鉄筋と機械式継手をグラウトが充
てんされたグラウト貯留槽内にいれて接合。引き
続き、ねじ節鉄筋と機械式継手をグラウト内で順
次接合(図-7)。最後に後端型定着体を取り付け
たねじ節鉄筋をグラウト内で接合し(図-8)、所
定の位置まで挿入後、養生用の蓋を設置する(図
-9)。この後は一般的な横向き施工と同手順であ
る。
写 真 - 12
(壁)
横向き施工
図-7 機械式継手による接合
図-8 CCbの接合完了
写真-13
図-9
CCbの挿入
(3) CCb適用径の拡大
今までに CCb 工法が適用された施設を整理す
ると、下水道処理場のポンプ棟、分水槽、重力濃
縮槽、汚泥処理槽、ポンプ室や放流渠等への適用
実績が多い。上水道施設でも適用されており、最
近は、発電所の放水路や取水路への適用も多くな
っている。また、河川関係では樋管・水門や排水
機場の施工実績がある。施工事例の代表例を写真
-12 と写真-13 に示す。
CCb工法の適用径は、D13~D32 となってお
り、最近多くなった、発電施設や水門等の大型の
土木構造物に対する適用のニーズにも対応でき
るようになっている。
対象構造物と適用鉄筋径のイメージを図-10 に
示す。
図-10
対象構造物と適用鉄筋径
のイメージ
増し厚工法との併用(重力濃縮槽)
2. おわりに
セラミックキャップバー工法(CCb 工法)は、
2009 年に開発されて以来、年々適用実績を増や
し、現時点で約 14 万本が種々の構造物の耐震補
強に適用されている。この間、施工を通じて新た
に生じた施工上の課題や適用対象構造物の拡大
に向けて様々な改善・改良を実施してきた。
今後も社会のニーズ、現場のニーズに合わせて
必要な改善・改良を行い、より使い易い工法とし
て適用の拡大を図って行く予定である。
参考文献
1)(財)土木研究センター:建設技術審査証明報告
書第 0811 号 後施工セラミック定着型せん断補
強鉄筋「セラミックキャップバー(CCb)」、2014.2
2)山野辺、曽我部、金光、岩島、植田、
「セラミッ
ク定着型鉄筋による RC 構造物の一面せん断補強
工法」
、(社)日本構造物診断技術協会・技術研究
発表会、2010.10
3)長谷川、植田、豊田、佐貫、山野辺、
「セラミッ
ク定着型せん補強筋による下水道施設の耐震補
強」
、(社)日本構造物診断技術協会・技術研究発
表会、2011.10