全文PDF - 日本小児循環器学会

日本小児循環器学会雑誌 11巻2号 194∼195頁(1995年)
〈研究会抄録〉
第23回北海道小児循環器研究会
期日 平成6年ll月12日(土)
会場 山之内製薬大通りビル8F 会議室
1.容量負荷の軽減を目的とした体肺側副血行路に
天使病院小児科
対するコイル塞栓術後,死亡した1例
白石 秀明,山田 諭,服部 哲夫
旭川医科大学小児科
三浦 正次,太田八千雄,南部 春生
梶野 浩樹,岡 隆治,境野 環樹
手稲渓仁会病院循環器小児科 浜田 勇
同 第一外科 郷 一知
原発性肺高血圧症(primary pulmonary hyperten−
東京女子医科大学心臓血圧研究所
sion:PPH)の1女児例に対して一酸化窒素(nitrogen
循環器小児科 中西 敏雄
oxide:NO)吸入療法を施行した.症例は心不全増悪
症例:1歳2カ月男子.単心室,共通房室弁,肺動
傾向にあった11歳女児.平衡したNOガス88ppm 1日
30分間6日間,意識下でマウスピースにて鼻口開口の
脈閉鎖.左BTシャントは開存していたが,左肺への
側副血行路が著明に発達し,側副血行の造影は左右肺
動脈をもよく描出した.重度の房室弁逆流を伴い,心
まま吸入させた.経時的に施行した心エコー検査で三
尖弁逆流による,右房・左室圧較差は,1日目吸入終
不全のコントロールが困難となったため,1歳2カ月
時に容量負荷の軽減を目的に6本の側副血管にコイル
了後で88.7mmHgから82.OmmHgへ,5日目終了後
塞栓術を施行した.コイル閉塞を確認した造影時まで,
intervals(LVSTI)の減少左室容量の増加を認めた.
SaO2はroom air下で80%前後を維持していた.しか
し術後5時間を経過した頃より重篤な低酸素血症に陥
続していたが,右房・左室圧較差は85mmHgとなって
り,術後12時間で死亡した.死亡原因として,1.左右
には54.8mmHgへ減少した.また左室systolic time
しかしNO吸入中止14日後には,左室機能の改善は持
いた.
肺動脈への血栓流出,2.不全心のhypoxiaに対する
メトヘモグロビンは6回吸入後に2.0%へ軽度上昇,
脆弱性,3.肺動脈攣縮,という可能性を考えた.
NO2の発生は1ppm以下であった. PPHに対するNO
2.QT延長症候群におけるALTEの1例
吸人療法は,一時的な治療効果は得られるが,メトヘ
札幌医科大学医学部小児科
モグロビン等による臓器障害性が予想され,頻回,長
池端 正美,富田 英,池田 和男
期投与は慎重に考慮すべきであると考えられた.
同 救急集中治療部 奈良 理
4.肺動脈絞拒術後の肺循環におよぼす発育の影響
症例は2カ月男児.突然の蹄位とともに意識消失,
北海道大学医学部小児科
呼吸停止,心停止をきたし,近医にて蘇生処置を受け
衣川 佳数,信太 知
た後,当院救急部に搬入された.搬入時,心電図モニ
小田川泰久,清水 隆
ター上心室性頻拍(VT)を認め,洞調律に回復した後
国立札幌病院心臓血管外科 俣野 順
の心電図でQT延長が確認された.解剖学的な異常は
肺動脈絞拒術を施行された8例について,肺動脈・
無く,心機能も良好であった.その後,β遮断剤の投与
体動脈圧比,絞拒部圧較差の発育に伴う変化を調べた.
により入院後も頻回に認めた心室性期外収縮は良好に
手術時と遠隔期の各値は体表面積で補正することによ
コントロールされ,QT延長症候群によるVTが
り相関を示した.絞拒部の断面積で補正された各値と
apparent life threatening event(ALTE)の原因と診
相関した.以上から遠隔期の肺循環は予測しうること
断した.
が示唆された.Fontan手術の適応を考慮したとき,絞
生前診断の困難さからその正確な頻度は不明である
拒部の径は7.5mm以下,手術時体表面積が0.3m2以上
が,QT延長症候群にもどつくVTも乳児突然死症候
であればPp/Psは0.40以下にしておく必要性が示唆
群やALTEの重要な原因と考えられたので報告した.
3.一酸化窒素吸入療法を試みた原発性肺高血圧症
された.
5.新生児期・乳児期の大動脈縮窄小児に対する
の女児例
Extended aortic arch anastomosis一術後1年の大
Presented by Medical*Online
日fJ x循誌 11(2),1995
195 (89)
動脈造影の検討一
流し,追加分と同量をヘコモンセントレーターより限
旭川医科大学第一外科
外濾過する.回路洗浄前は高度の代謝性アシドーシス
浅田 秀典,久保 良彦,笹島 唯博
になっているが,洗浄後は電解質,pH, Base Excess
郷一知,稲葉雅史,大谷則史
は正常化した.従来の非洗浄法と比較しCPB開始直
山本浩史,東信良,内田恒
後の安定した血液ガス・電解質値が得られた.これに
越湖 進,芝木秦一郎,清川 恵子
より全例大動脈遮断まで続く心拍動を得た.充填液洗
同 小児科
浄法はCPB開始直後の代謝,循環に与える影響が少
岡 隆治,境野 環樹,梶野 浩樹
なく,特に循環血液量の少ない新生児や低体重児に有
当教室において,1993年より現在まで6例の新生児
期大動腹縮窄症(内2例は大動脈弓部低形成を伴う)
用な方法である.
8.Brock手術後二期的に心房中隔欠損口閉鎖術
に対してEAAAを施行した.手術死亡はなく,また全
例術後神経学的異常を認めなかった.術前平均34.8
札幌医科大学第二外科
mmHgであった狭窄部圧較差は,修復後術中測定にお
椎久 哉良,杉本 智,一宮 康乗
いて平均7.2mmHgと低下し,術後1年を経過した4
森川 雅之,安喰 弘,小松 作蔵
例における心臓カテーテル検査および大動脈造影検査
同 小児科 冨田 英,池田 和男
では明らかな再狭窄の所見は認めなかった.本法は,
当科では,純型肺動脈閉鎖症(PPA)に対する手術
大動脈縮窄症・特に大動脈弓部低形成を伴う症例に対
して有効な手術手技と考えられた.
術式を,右室造影像からえられた右室拡張末期容積
(RVEDV)の正常期待値に対する割合(%N)に基づ
6.MS, closing VSD, Co・Aの2例(super−
き選択している.今回われわれは,Brock手術後の
を施行しえた純型肺動脈閉鎖症の2例
systemic RVを呈した)
RVEDVが142%N,73%NであったPPAの2例に
北海道立小児総合保健センター循環器科
対し二期的に心房中隔欠損閉鎖術を施行し良好な結果
東舘 義仁,津田 哲哉
をえた.術後1カ月時のRVEDVはそれぞれ129%N,
80%Nであった.以上の経験から,Brock手術後の
RVEDVが70%N以上の症例で二期的心房中隔欠損
同 胸部外科 菊地 誠哉,樫野 隆二
東京女子医科大学循環器小児外科
高梨 吉則
閉鎖術が可能と考えられた.
新生児期の大動脈弓修復,肺動脈絞約術後の後,3
9.心内膜炎と仮性上行大動脈瘤を合併した先天性
カ月でMSを呈した症例は,2歳にVSDのclosing
大動脈狭窄症の1手術例
市立旭川病院胸部外科
石橋 義光,青木 秀俊,古屋 敦宏
須藤 幸雄,大場 淳一,村上 忠司
同 小児科 小西 貴幸
でsupersystemicとなり, MVRを行ったが, PH cri−
sisで死亡. ASDがなくRpは12単位あった.左室が正
常の80%,大動脈弓が3mmと狭かった症例では, VSD
短絡が十分でなく,PDA閉鎖後supersystemicとな
り,3日後LOSにPTMC行うも死亡.両例とも,膜
様部のVSDで, MSAを伴っていたため,両心室が等
症例は8歳男性で,発熱を主訴に当院小児科に入院
した.先天性大動脈狭窄症,感染性心内膜炎,仮性上
圧の状態では,短絡の有効度の判断が難しかった.MS
行大動脈瘤の診断にて当科転科となった.術中所見で
でclosing VSDの場合, MSの解除とKay・Stanselの
どちらを選択するかの判断も難しかった.
は大動脈弁は先天性二尖弁で弁口は9mmであった.弁
輪より1cm末梢に仮性大動脈瘤の入口部があり長径
7.小児人工心肺回路充填液に対する洗浄限外濾過
1.5cmで周囲にvegitationが見られた.大動脈弁は弁
の効果
の交連切開を行い弁口11mmとなった,また仮性大動
脈瘤入口部はvegitationを切除し馬心膜にて裏打ち
国立札幌病院心臓血管外科
村上 達哉,明神 一宏,俣野 順
したソバージューダグロンにてパッチ閉鎖した.術後
上久保康弘,鈴木 温,丸山 隆史
経過は良好であった.心内膜炎と仮性上行大動脈瘤を
人工心肺初期充填血液に対し人工心肺開始前に限外
合併した先天性大動脈弁狭窄は非常に稀である.今後
濾過を行い,低体温における心拍動維持と代謝,循環
大動脈弁置換など念頭に置き経過観察する所存であ
動態の安定を得たので報告する.小児開心術20例を対
る.
象とし,まず回路を血液充填後灌流液を加え10分間灌
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