グリーンレポートNo.573(2017年3月号) ●巻頭連載 : 「農匠ナビ1000」の成果(農業経営者が開発実践した技術パッケージ) 第12回(最終回) 圃場均平作業の省力化・コスト低減をめざした 制御可能な排土板付きウイングハローの試作 ∼作業効率が向上し、 増収が期待できる∼ 髙﨑克也 国立大学法人 九州大学 農学研究院 大学院教授 南石晃明 株式会社AGL 代表取締役社長 稲作の経営環境は、米消費の減少や販売価格の低迷な なりの負担となり、作業条件、導入可能な生産者も限ら どにより厳しさを増している。この厳しい状況にありな れる傾向がある。 がら、いかにしてコスト削減、増収・増益を実現し、経 代かきと同時に圃場均平化が可能 営を維持・発展させていくのか、また栽培技術や管理技 術をどのように改善すればよいのか、多くの経営者は、 現状の圃場均平化技術の課題解決をめざして「農匠ナ 常々思考を巡らせている。 ビ1000」プロジェクトでは、自動水平装置およびレーザ 経営改善のひとつの手段として、ここでは、作業省力 ーレベラーによる制御可能な排土板付きウイングハロー 化、コスト低減、さらには増収につながると考えられる を試作し、現地圃場試験を行った。導入コストも考慮し、 圃場均平化技術について紹介する。水稲の収量は、土壌、 既存の低コストレーザー機器、代かき作業で使用するロ 圃場条件、気象、栽培管理、品種など諸条件の影響を受 ータリーハロー排土板を活用し、これを電動アクチュエ けるが、移植時の圃場田面・水深の均平度も重要な要因 ーターで制御する方式とした(写真−1) 。この方式によ であると考えられている。その改善方法として、本稿で り、中山間地の狭い圃場でも、代かき作業時に圃場均平 は「自動水平装置およびレーザーレベラーによる制御可 化が可能になり、2つの作業を同時に行うことで効率が 能な排土板付きウイングハロー」を用いた圃場均平化技 向上し、さらには増収が期待できる。 術の可能性を紹介する。 具体的には、基準となるレーザーベンチを設定し、ベ ンチ基準レーザー受信機により、圃場田面の高低を目視 現状の圃場均平化技術の課題 で確認し、電動アクチュエーターを手動で操作して排土 生産者自身が農閑期などに実施できる圃場均平化技術 板の角度を調整する(写真−2) 。これにより、高い位置 は、ほぼ確立されており、直装タイプやけん引式レーザ の土をハロー内に保持し、低い位置で開放して均平を行 ーレベラーによる均平技術がある。この方法は、短時間 う。この方式は、狭い圃場でも、また熟練者でなくても、 に精度の高い均平化ができる反面、圃場面積が30a程度 水稲の生育に支障のない範囲での均平作業を代かき作業 以下の小区画圃場では作業効率が悪く、導入コストもか 時に実施できるのが特長である。 電動 アクチュ エーター 試作機による代かき作業の 圃場試験と効果 本試作機による代かき作業の圃場 試験を平成27∼28年に行った(写真 −3) 。平成27年の圃場試験では、 作業前は圃場内高低差が10㎝以上あ 排土板: 上下動 (スイング) ったが、作業後は高低差が7㎝程度 に減少し、圃場均平化の効果を確認 することができた。また、平成28年 の圃場試験では、熊本地震で被害を 写真−1 制御可能な排土板付きウイングハローの外観 2 グリーンレポートNo.573(2017年3月号) レーザーベンチ レーザー受信機 農業施設や住宅も半壊状態だった が、とにかく田植えを優先させた。 道路の陥没、用水路の崩壊が各所に 発生している状況のもと、土地改良 工区地権者対策会議が5月9日に行 われた。予算も人手も不十分で、水 路の修繕や水の確保、湧水が始まっ たのは、例年の1ヵ月後れの5月末 となってしまった。催芽しても播種 できずに廃棄した種籾、播種後60日 になり使えなくなった苗も多かった。 JAや地方行政、国県の担当の方々 の尽力がなければ、本年度の田植え は諦めていたかもしれない。 そうした状況のなか、今回開発し た排土板付きウイングハローで均平 キャビン内表示器 電動アクチュエーター操作ボタン 写真−2 制御可能な排土板付きウイングハローの構成機器 作業を試みたところ、高低差20㎝以 内の圃場であれば、何とか田植えが できるまでの均平が可能であること 受け、相当の高低差を生じた圃場の均平化に大きな効果 が確認された。 があることがわかった。このことから、代かき作業と同 ★ 時に圃場均平作業を行うことは可能であり、圃場内高低 本試作機は、既存の機器を活用することで、従来のレ 差が比較的大きな圃場では特に効果が大きいことが認め ーザーレベラーに比べ、導入コストを抑えたうえで、代 られた。 かきと圃場均平作業を同時に行うことを可能にするもの である。ただし、試作機では、圃場内の高低を示す表示 熊本地震被災圃場均平化の可能性 を目視しながら排土板を制御するため、均平精度をさら に向上させるには、機器操作に多少の慣れが必要になる。 平成28年4月、熊本県において震度7を2回観測する 地震が発生した。この地震は甚大な農業被害をもたらし、 技術的には、排土板の制御を自動化することは可能だが、 ㈱AGLでも1mもの段差が各所に発生した。重機を入 コストは高くなる。 れないと作付けできない圃場が2haほどとなり、経営全 今後は、導入・維持コストと性能・操作性のバランス 体でみると、作付け不可能な圃場5%、通常作業より時 をどのようにするのが最も実用的であるのか、農業経営 間がかかる圃場80%、通常作業で作付け可能な圃場10% 者の目線で判断する必要がある。それに基づき、さらに となった。 改良・試験を重ね、実用化をめざしたい。 作業開始時 作業終了時 写真−3 熊本地震で被害を受けた圃場の均平化作業の様子 3
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