〈総論〉来れ新入社員ようこそ、金属プレス加工メーカーへ

総論
来れ新入社員
ようこそ、金属プレス加工メーカーへ
高度ポリテクセンター
中杉晴久*
プレス加工のメリットを生かしデメリットを克服
はじめに
しながら発展し、日本が世界に誇れる技術の 1 つ
となっているのだ。
このたび金属プレス加工会社に就職された皆様
本特集では、皆様が一日も早く金属プレス加工
「ようこそ金属プレス加工メーカー」へ。近年若
についての理解が深まり、その魅力を理解しても
者の人口減少やモノづくりへの興味の薄れから、
らうえよう、一般的な金属プレス加工会社の仕事
金属プレス加工会社では新たな人材の確保が難し
の流れと、各部署の仕事内容や使用される機器類
くなっている状況の中で金属プレス加工会社に就
について、その名称や用途・特徴を、なるべく簡
職された皆様には、ぜひとも今後の金属プレス加
単な言葉で解説する。
工業界を背負っていくような人材になっていただ
くことを願いながら、この総論を執筆している。
また新入社員の方以外にも、ものづくり部門以外
金属プレス加工会社を取り巻く
状況
の方や専門的ではないが金属プレス加工について
私がプレス加工に携わり 30 年が経とうとして
何らかの関わりがある方、とにかく金属プレス加
いる。その間金属プレス加工を取り巻く状況は大
工に興味があり、金属プレス加工についての全体
きく変化した。30 年前は、自動車はもちろん、
像を広く・浅く理解したいという方にも読んでい
ビデオやオーディオ機器そのほかの家電製品にも
ただければ幸いである。
多くの金属プレス部品が使われ、金属プレス加工
金属プレス加工の世界は、決して華やかな世界
会社は多くの利益を上げていた。その後バブルの
ではないが、大量生産の製品には、加工速度が速
崩壊や急速な海外への生産シフトにより、金属プ
く、高効率な生産ができること、複雑な形状の製
レス加工業にとっては厳しい状況が続いている。
品であっても均一な精度の加工ができるという理
しかし、このような状況であっても技術革新や
由から多くの部品がプレス加工で生産されている。
新たな産業分野の開拓により金属プレス部品の需
しかし、プレス加工を行うためには事前に「金型」
要を見出し、存在感高めた企業も少なくない。プ
をつくる必要があり、
「金型」を製作するために
レス加工の技術の進歩は、
「より軽く、より小さ
は、高度で幅広い工学的な知識と技能が必要にな
く、より早く、より安く…」といった製品に対す
る。またプレス加工では、騒音や振動が伴う加工
る要求がある限り続くと思われる。
であり、作業には危険が伴う場合もある。
金属プレス加工会社は中小企業が中心だが、絶
そんな金属プレス世界だが、日本では今日まで
えず技術革新を続けることで競争力を高め、日本
のモノづくりを支えてきた。では技術革新を進め
*
(なかすぎ はるひさ)
:素材・生産システム系
〒261−0014 千葉市美浜区若葉 3−1−2
TEL:043−296−2741 FAX:043−296−2780
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講師
る原動力となっているものは何なのだろうか。私
が知っている金属プレス加工会社の方は「元気な
プ レ ス 技 術
特集
製品の品質は構
成される部品で
決まる
製品
「人は城
人は石垣
・・・・・」
部品の品質は
加工する金型
で決まる
部品
金型
⤒㦂
▱㆑
ᢏ⬟
人材
(人財)
はじめてのプレス加工メーカー入門
金型の品質は
製作する人で
決まる
ᢏ⾡
図 1 モノづくりの品質を支える人材(人財)
写真 1 ようこそ金属プレス加工会社へ
若手人材の確保も重要な課題である。
戦国最強と言われた甲斐の武田信玄の有名な言
葉に
人」が多い。そして誰もが自分の仕事に誇りを持
って働いている。会社でつくっている金属プレス
加工部品は、最終的な製品からは見えないものが
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは…」
がある。まさにプレス加工で生産される製品も
「人」という「石垣」の上に成り立っている。
多く一般的には馴染みが薄く、職場は 3 K のイメ
製品の信頼性はその製品を構成する部品の 1 つ
ージが強い。しかし、世界に誇る日本の技術力を
ひとつの部品の精度で保証され、その部品はそれ
支える産業であることが間違いない。金属プレス
を加工するための金型の精度に保証される。そし
加工会社の売り物は金属プレス製品だが、実際は
て金型はそれをつくる現場の技術力(人財)によ
その部品をつくり上げることができる「技術力」
って成り立っている。プレス加工は、
「Made in Ja-
なのだ。
「金属プレス加工には金型が必要になる
pan」を支える重要な要素技術だ。
が、金属プレス部品は高付加価値化により、プレ
たとえば我が国のモノづくりをリードする製品
ス金型の設計・製作にも以前に比べて高度化な技
に自動車がある。その自動車は多くのプレス加工
術力が必要」となった。そしてそれに比例してそ
製品によって成り立っており、日本の自動車は故
こで働く人の試行錯誤も増えた。しかし、金型を
障が少なく品質は世界のトップクラスである。そ
つくり上げる度に「いいものができた」という満
の自動車の品質は、それを構成する金属プレス部
足感と充実感が得られ、次の難題に挑む原動力と
品により支えられている。そしてその金属プレス
なっているのではないだろうか。技術力は自らが
部品の品質は、その部品を加工するプレス金型に
努力し挑戦して培われたものであるから、つくり
依存し、そのプレス金型の品質をは、金型を製造
上げた金型は自信と誇りに満ち溢れたものになる。
する「人」
に支えられていると言えるだろう(図 1)
。
技術と人材
(人財)
金属プレス加工会社入門
金属プレス加工会社を支える人材は、高度で幅
より高度な技術により競合他社より技術的に優
広い工学的な知識が必要となる。その多くは現場
位に立つためには、技術のイノベーションが重要
経験により培われるため、人材育成に長い時間が
となる。技術のイノベーションを起こすには皆様
かかる。その一方で少子高齢化や若者の理工系離
のような現状にとらわれない新しいものの考え方
れなどから、若手人材確保が難しい状況となって
ができる若い人材が必要だ。現場に新しい空気を
おり、次の時代を担う人材の確保が心配されてい
吹き込むことで技術のイノベーションが起こりる。
る。製品の高付加価値化の推進や新たな顧客確保
会社としては新たな技術革新の風を吹き込んでく
のための技術力の増強には、設備的な投資はもち
ろんであるが、金属プレス会社にとっては新たな
第 55 巻 第 4 号
(2017 年 4 月号)
れるような人材を大いに期待していることだろう
(写真 1)
。
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