犯罪と経済

犯罪と経済
愛知学院大学
朝日
林
野村ゼミ
松井
1 高齢者を中心とした犯罪に対しての問題
・高齢者犯罪を注視する理由
・刑務所に入所することのインセンティブの変動
・高齢者が得る所得について
2 ベッカーの犯罪行動の理論モデルから犯罪抑制の考察
・罰金刑についての考察
・モデルからわかる個々人の危険に対しての反応
・ベッカーの犯罪抑制に対する考え
3 エールリッヒの犯罪抑制の考察
・正のインセンティブについて
・所得水準の引き上げによる外部性について
参照:2010年は総務省 国勢調査
2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果
検挙人員全体に占める高齢者の割合
法務省 犯罪白書
高齢者犯罪者数の推移
法務省 犯罪白書
高齢者犯罪における窃盗犯の推移
参照:警視庁「平成24年度 犯罪情勢」
 窃盗事犯者の犯行動機・原因について,主なもの三つまでを調査し
たところ,高齢窃盗事犯者において,男子では,「生活困窮」によ
る者が74人(66.1%),次いで「対象物の所有」目的の者が41人
(36.6%),「空腹」による者が21人(18.8%)であった。食べ
るのに困って飲食物を盗む者が多いことが分かるが,一方で,「遊
興費充当」の者も17人(15.2%)いた。
女子では,「対象物の所有」の者が17人(63.0%)であるのに次
いで,「お金を使うのがもったいない。」などといった「節約」に
よる者が16人(59.3%)であり,「生活困窮」による者は6人
(22.2%)であった。
平成24年度法務省 犯罪白書
生活困窮の有無による再犯率
法務総合研究所の調査による
高齢者単身世帯の生活保護給付額
東京都区部等
80820円/月
・地方郡部等
62640円/月
(平成22年度)
自営業者が国民年金保険料を40年支払い、満額
受給したら
6万6千円/月
・年金受給額が生活保護受給額より下回る高齢者
は
約300万人
その内、生活保護を受けているのは約70万人
受刑者一人あたりに一年間に掛かる費用
↓
300万円
法務省矯正官署の平成22年度の予算額は2300億円で、矯正施設の収容者は
7万5000人である。一人あたりの排除コストは年間300万円となる
出典:中島隆信著「刑務所の経済学」P46
 刑務所で暮らした場合
300万円÷12か月=25万円
刑務所で暮らした場合の方が多くの社会的費用がか
かっている
年齢層別の再犯率
平成22年 参照:法務省総合研究所調査
ベッカーの犯罪行為の理論モデル
EU=pU(Y-f)+(1-p)U(Y)
EU 犯罪を行ったときの期待効用
p 捕まり罰せられる確率
U 効用関数
Y 犯罪から得る利益
f 捕まったときの損失
EU* 犯罪を行わなかったときの期待効用
EU>EU*が犯罪を行う条件となる
Pを増加させることを考える
・取り締まりの強化
→多くの警察官を雇ったり防犯道具を増加させると、
犯罪を発見できる確率があがる
→警察官の増員分、防犯道具の増加分の費用が掛かる
fを増加させることを考える
・入所する期間を延長させる
→期間が長くなるほど、刑務官の人件費や受刑者の生
活費は増加する
→期間が長くなるほど、本来は合法的に得るはずであ
った利益が得られなくなる
fを増加させることを考える
・罰金額を増加させる
→個人の所得が別の個人・組織に移るだけと考えられる
ので社会に対して直接経済的損失を与えない
→罰金を払えば犯罪を犯しても良いと捉えることもでき
風紀が悪化する
→所得の低い者、無い者には払うことができない
便益・費用
MB
MC2
MC1
0
犯罪者の人数
pとfの増加は個々人によって反応が異なる
=リスクの捉え方は人によって違う
危険選好者ならpとfの増加による期待効用の減少
は小さい
危険回避者ならpとfの増加による期待効用の減少
は大きい
効用関数の勾配が逓増的なら危険選好者
逓減的なら危険回避者
効用
0
青は危険回避者
黒は危険中立者
赤は危険選好者
利益
同じ確率で20か100の利益を得られるくじを一度引くとする
得られる利益の平均は60であるが、危険回避者と危険選好者では期待する利益が異な
る
効用
α 危険回避者の確実性等価
← 危険回避者のリスクプレ
ミアム
β 危険選好者の確実性等価
→ 危険選好者のリスクプレ
ミアム
0 20 α 60 β 100
利益
ベッカーの犯罪抑制の手段
 社会的費用を最小化する(p,f)の最適な組み合わせ
が存在する。それを定めることで社会的費用も踏まえEU
を減少させようと主張した
しかし、生活困窮などの理由から刑務所での生活を余議
なくされている者と、それを罰として捉えている者が共
存する社会で設定したpとfは最適であるといえるだろ
うか
また、ベッカーの考えはあくまで社会的費用を最小化し
ようとするものであり、犯罪者を0にすることが主の目
的であると考えることは難しい
エールリッヒ
犯罪抑制についてを二つの要因に分けて考えた
人物である
最適なpとfを選択することは負のインセンティ
ブであるとし、それだけでなく賃金の引き上げや
生活環境の保護が犯罪抑制の要因(正のインセン
ティブ)であるとした
エールリッヒの犯罪抑制の手段
EU>EU*
ベッカーがEUを減少させることで犯罪を抑制し
ようと主張したのに対し、エールリッヒはEU*
を増加させることも踏まえて犯罪が抑制される
と主張した
 ベッカーは捕まり有罪になる確率と、罰の厳しさが変化
することで犯罪者の行動が変わると考え、一方でそれら
の変化は社会的コストに影響することを示し、それを最
小化するpとfの組み合わせが存在するとした
 エールリッヒは事後的な負のインセンティブだけでなく、
一般生活で得られる効用までも犯罪抑制となるという正
のインセンティブも示した。また、合法的に得られる利
益の水準が上昇することで正の外部効果が期待できる
 現状の社会を考えるとエールリッヒの生活水準の向上と
いう点には大きく注目したい。今回の報告で中心となっ
た高齢者に関して言えば、福祉・介護の向上がそれにあ
たるだろう。また、出所後の生活を補助していくことが
再犯を減少させる大きな要因ともなる。そのためにも司
法は罰を与えるというだけでなく、更生させ社会に復帰
するまでを視野に入れるべきだと考える。