下水道資源有効活用の取組と水素事業の検討状況 井上 昌樹

講演ダイジェスト
第353回 技術サロン
下水道資源有効活用の取組と
水素事業の検討状況
井上 昌樹
埼玉県下水道局下水道事業課エネルギー担当主幹 消化ガスを改質し,バイオマス由来の水素として活用
埼玉県の流域下水道
する取り組みの可能性を検討しています。処理場内で
埼玉県の流域下水道は8流域,9処理場を有し,埼
汚泥から水素を製造し,併設の水素ステーションで燃
玉県内47市町村の下水を処理しています。処理人口は
料電池自動車に供給したり,圏央道の産業集積エリア
約530万人で,
これは県人口のおよそ7割に当たります。
や,物流倉庫・公共施設・公共交通機関などの周辺エ
当局では下水道資源のポテンシャルを活用した取り
リア,東京都心エリアに水素を供給すれば,クリーン
組みを行っています。具体的には太陽光発電や上部利
水素の地産地消につながります。
用などの施設空間利用や,下水汚泥,下水熱,処理水
平成27年度の事業化調査では,稼働目標を平成32年
などの利活用,高い技術力を活かした国際貢献などが
の東京オリンピック・パラリンピックとし,水素社会
あります。このうち,平成27年から下水汚泥を加熱・
実現の加速,下水道のステイタスの向上,下水道事業
炭化することで燃料化する固形燃料化技術を新河岸川
の収支改善などを効果として想定しています。検討の
水循環センターで行っています。また,汚泥から発生
前提条件を,水素の製造量は最大3,300Nm3/12hr,メ
するメタンガスを主成分とした消化ガス発電を進めて
タンガス価格は20円/Nm3で試算しました。その結果,
おり,31年から元荒川水循環センターで稼働を開始し
残りのメタンガスで発電し,FITを活用して売電収益
ます。このほか,高度処理した処理水をさいたま新都
を活用することで,水素供給価格を一般的な価格まで
心地区のトイレ用水として用いたり,汚濁が進行して
下げられることが分かりました。
いた不老川の浄化用水として還流する処理水活用など
28年度には水素製造の具体的な事業方式の提案,需
も行っています。
要や新規技術に関する情報を募集しました。さまざま
なご提案をいただきありがとうございました。今後は,
水素事業実施の有無を含めた検討を行ったうえでバイ
水素製造・供給の可能性の検討
オガスの有効活用を事業化して参ります。
平成27年からは,中川水循環センターで下水汚泥の
【消化ガス由来の水素製造事業の提案募集結果】
○主な提案の分類
事業構造の分類
消化ガス
FCV等に供給
水素製造
水素ST
消化ガス
発電
水素製造
水素出荷
民間事業者で流通
売電
ガス精製
メタンガス
出荷
民間施設で
水素製造し流通
消化ガス由来の水素製造事業の提案募集結果
下水道機構情報 Vol.11 No.24 ——
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