誰も何も逆らわない社会は そこまで来ている

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法案提出前に共謀罪の議論をしないよう求めた文書を撤回し謝罪する金田勝年法相。野党の質
問に答えられないが今国会での採決強行への意思は固い。
(2月7日/東京・国会内)提供時事
にとってのパラダイス、つまり誰も
何も逆らわないという世の中です。
もうすでにそうなりつつありますが、
新たに共謀罪を作ろうという狙いの
据え付け、遠くからモニタリングす
るという構想まで出ています。これ
ので共謀罪が出てくるとどうしても
市民運動は、それぞれの専門がある
ではないということです。弁護士や
共謀罪として単独で存在しているの
私が強調したいのは、共謀罪は、
は共謀罪という名称で話を進めます。
同じものです。したがって、ここで
内容の眼目はこれまでの
﹁共謀罪﹂
と
すいように呼び方を変えていますが、
組織犯罪準備罪﹂
︶
は、国民受けしや
る
﹁テロ等準備罪﹂︵正式名称
﹁テロ等
現 在、 政 府 が 提 出 を 準 備 し て い
不要となるよう改定されたためです。
のガイドラインが、本人への通知は
れる機種を売り出しました。総務省
同意なしに位置情報が警察に送信さ
TTドコモが昨年度から、持ち主の
帯電話のGPS機能については、N
仕草認識をつけていく方針です。携
ラは顔認識だけではなく音声認識、
捜査に活用されています。監視カメ
読み取るNシステムはすでに警察の
メラや自動車のナンバープレートを
顔認証システムと連動した監視カ
実際に行われるのは時間の問題です。
完成しつつある監視社会
そのことに議論が集中しがちになり
そして、何よりもマイナンバー制度
までの経緯からみて、
このまま行けば
ます。もちろん専門性も大事ですが、
が成立してしまいました。
中でも共謀罪は権力者にとってかな
ツールが作られてきましたが、その
ありとあらゆる監視と言論統制の
監視社会の問題全体をトータルで考
えたほうがよりその実像をとらえら
れると考えます。
まず、2013年に成立し翌年施
タベース化とか、
﹁会話傍受﹂
と称し
研究会では、国民のDNA型のデー
にはなっていませんが、警察内部の
などが盛り込まれました。まだ法案
連法では、盗聴法の拡大や司法取引
また、昨年成立した刑事司法改革関
こうやって監視の仕組みが一つひと
ラスの大きなツールだと言えます。
ように、共謀罪は渋谷駅や新宿駅ク
駅です。駅にも大きい小さいがある
述べてきた監視ツールがそれぞれの
たるのがマイナンバー制度で、先に
山手線にたとえれば、レールにあ
り強力な武器となるものです。
て警察官が勝手に事務所や個人の家
つ作られ、その行きつく先は権力者
行した特定秘密保護法があります。
に忍び込んで盗聴器や監視カメラを
ての市民が監視に加担して、﹁ウソの
者対市民という構図ではなく、すべ
4年﹂のビッグブラザーという支配
んなが共有するようになる。﹁198
悪いもなくなる状況が、これによって
改正の発議がある頃にはもう良いも
に変えられていく。いざ本当に憲法
様に、憲法を改正しなくても実質的
上、解体されます。戦争法の時と同
今
﹁スノーデン﹂
という映画が上映
ない透明な社会は素晴らしい﹂とい
一層加速するということです。
集会・結社・表現の自由は事実
中ですが、すでに出来上がっている
うサークルの理念が絶対視された、
︱
監視社会の実態をよく伝えていると
カルトのような社会が作られていく。
テク監視ツールが広がり、それをみ
思います。エンターテインメントに
それに疑問をもつ人間は
﹁善意﹂
の市
疑問をもつ人が
排除される世の中
頼った運動の進め方は本質からずれ
共謀罪は
テロ対策のためではない
民から排除され、死に至るのです。
国会で政府を追及する野党議員
てはそれも織り込み済みなのではな
多くの人たちは、利便性を喜んで
がないという、今の時代の空気に完
策のためなら多少の不自由さは仕方
見当はずれではないと感じます。監
も、反対集会に参加している人たち
心をもってもらうためには映画など
視社会が進むと人間性そのものが変
も、安倍政権がウソを言っているこ
を活用する必要があるでしょう。
わってしまうのです。このままいく
とをそれなりに伝えていると思いま
DVDがすでに出ているものなら
と 年とかからずに
﹁ザ・サークル﹂
私もいろいろ取材してきましたが、
﹁1984年﹂
という有名な小説の映
﹃ザ・サークル﹄
はグーグルになぞ
いるうちに、その道具の危険性に麻
全に流されています。逆らう奴はテ
す。しかし、世の中の大勢は安倍政
らえたSF近未来ディストピア小説
痺して慣らされてしまいます。原点
ロリストという図式が刷り込まれて
の社会が完成するのではないかと危
ですが、
﹁1984年﹂
よりも現代的
に戻って、ただ便利なはずがない、
権のプロパガンダに、つまりテロ対
で、今 の 人 に は こ ち ら の ほ う が イ
しまっています。
だから、
﹁ テロ対策のために共謀
共謀罪が通ると日本国憲法第 条
門家が言っている通りです。
分対応できるという点は、多くの専
テロ対策であれば現在の法律で十
るのかという問題です。
があります。共謀罪がテロ対策にな
けで、自分たちが犠牲にしているも
便利になるからには対価が必要なわ
な話です。
これは監視社会全般の話ですが、
罪が必要だ﹂
というロジックに対し、
で す が、 誰 が 強 制 し た わ け
共謀罪をこういう文脈から切り離し
の、奪われているものに気がつくべ
でもないのにみんな思い思
て論ずるべきではないと、私は考え
もっとていねいに反論していく必要
い の 場 所 に つ け て、 全 世 界
ています。
ラを世界中に売っていくの
のいたるところに広がって
きなのです。
メージがわくかもしれません。こん
惧しています。
10
いたりしていますが、権力者にとっ
いでしょうか。つまり、共謀罪はこ
いざ通ってしまった後に﹁やっぱり
怖いから何も言わないでおこう﹂と
いう世の中ができあがるからです。
だからと言って何も批判しないわ
けにいかないから、私も一生懸命訴
えていますが、そういう大きな枠組
いう小説もあります。
画もありますし、
﹃ザ・サークル﹄
と
ないのですが、監視社会の問題に関
ていく気がして個人的には好きでは
第一は強烈な萎縮効果です。
人と会って何事かを話して、それ
が当局の怒りを買えば捕まえられて
しまう可能性が出てくる。実際に警
察権力を行使するかしないかは権力
者側の腹一つです。
私を含めて反対する側は、そんな
ジャーナリスト
んなに怖いんだと言えば言うほど、
社会は嫌だと発言したり、集会を開
斎藤 貴男
「テロ等準備罪」に名を変えた共謀罪の法案が提出されようとしている。その驚くべき意図
について、監視社会への警鐘を鳴らし続けている斎藤貴男氏に聞いた。
(聞き手 編集部)
サークルという会社が超小型カメ
4月に米国で映画上映が
予定されている
みの中にあるということをも押さえ
デイヴ・エガーズ著
吉田恭子訳
早川書房 2600円+税
2
2017.3
3
誰も何も逆らわない社会は
権力者が共謀罪を
そこまで来ている 手にすることの意味
い く。 加 え て あ ら ゆ る ハ イ
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て抵抗していくことが大切です。
『ザ・サークル』