2016 年は PPP 方式が大きく前進

BTMU(China)経済週報
2017 年 3 月 2 日 第 339 期
2017 年 3 月 2 日 第 339 期
BTMU(China)経済週報
2016 年は PPP 方式が大きく前進
~資産証券化の推進で社会資本参入度の向上も期待
中国投資銀行部
中国調査室
メイントピックス .................................................................................................................... 2
2016 年は PPP 方式が大きく前進~資産証券化の推進で社会資本参入度の向上も期待 .................................. 2
財政部は 2017 年 2 月 16 日、「PPP 総合情報報告(第 5 期)」を発表した。「報告」によれば、2016 年末
までに財政部 PPP 総合情報データベースに収録されたプロジェクトは 11,226 件で、投資額は計 13 兆
5,000 億元となっており、そのうち、契約済みプロジェクトは 1,351 件で、投資額は 2 兆 2,000 億元に上っ
ている。
国務院は PPP プロジェクトを実施分野からインフラ施設と公共サービスの 2 種類に分類しており、2016
年 8 月に発改委が「伝統(従来型)インフラ分野における PPP 方式の推進に関する通知」を、続く 10 月
に財政部が「公共サービス分野における PPP 方式の推進に関する通知」を発表し、それぞれインフラ分
野、公共サービス分野における PPP プロジェクトの推進に重点的に取り組む方針を示した。
2016 年 12 月 12 日、発改委と中国証券監督管理委員会(以下、証監会)は「伝統インフラ施設における
PPP プロジェクトの資産証券化の推進に関する通知」を発表し、資金調達方式の多様化を図ることで社
会資本の参入意欲を向上させようとしている。
プロフェッショナル解説(税務会計)MAZARS/望月会計士 ........................................................... 8
BEPS にかかわる個別トピック: 実効税率の多寡~中国における対応、日本における対応、日中間取引に
おける注意点 ............................................................................................................................................................ 8
このコーナーでも何度か触れているように、日本の多くの企業は、良い意味でも悪い意味でも、税に対
する意識が高く、タックスプランニングを採用している企業は少ないものといえ、税負担を極限まで抑え
ようとする多くの欧米企業と比較して企業の税負担率は高いものといわれています。
この際、税負担の多寡の指標として引合いに出されるのが、企業の実効税率といわれるものです。以下
では、この実効税率について解説したいです。
BTMU の中国調査レポート(2017 年 2 月) ............................................................................12
Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ (China)
A member of MUFG, a global financial group
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2017 年 3 月 2 日 第 339 期
メイントピックス
2016 年は PPP 方式が大きく前進~資産証券化の推進で社会資本参入度の向上も期待
2014 年の「地方政府債務の管理強化に関する意見」(通称、43 号文)1を契機に PPP 方式は一気に話題とな
り、2015、2016 年にモデルプロジェクトが相次いで発表されたことで、PPP 方式はますます注目されるようにな
った。2017 年は国内外経済の先行きが依然として不透明であり、固定資産投資が経済成長をけん引する最
も重要なエンジンであることに変わりはないと見込まれることから、PPP 方式がインフラ投資の一環としてより重
要な役割を果たすことが期待されている。
これまで、財政部、発展改革委員会(発改委)は PPP 方式の主管部門として、実施要綱の制定やモデルプロ
ジェクトの選別などを行っていたが、現時点で発改委はプロジェクトの進捗を公表していないため、本稿では、
財政部が 2017 年 2 月 16 日に発表した「PPP 総合情報報告(第 5 期)」をもとに、2016 年の PPP 方式の進行
状況を確認した上で、主管部門の管轄分野の明確化、資産証券化の推進といった注目される話題について
考えてみたい。
Ⅰ.財政部による PPP データベースの概況
収録されているプロジェクトの概況
「報告」によれば、2016 年末までに財政部 PPP 総合情報データベースに収録されたプロジェクトは 11,226 件、
投資額は計 13 兆 5,000 億元となっており、そのうち、契約済みプロジェクトは 1,351 件で投資額は 2 兆 2,000
億元に上っている。
収録プロジェクトを①識別段階、②準備段階、③選別段階、④実施段階、⑤移行段階の 5 段階別2で見ると、
「識別段階」は 6,987 件で投資総額は 6 兆 7,000 万元、「準備段階」は 1,935 件で投資総額は 3 兆元、「調達
段階」は 986 件で投資総額は 1 兆 5,000 万元、「実施段階」は 1,351 件で投資総額は 2 兆 2,000 億元となっ
ている。2016 年末時点、財政部データベースのプロジェクト実施率(収録プロジェクト全体に対する「実施段
階」に位置するプロジェクトの比率)は 31.6%で、同年 1 月の 20%より大きく上昇している。
図表2 PPPプロジェクトの推移(投資額)
図表1 PPPプロジェクトの推移(件数)
(件数)
準備段階
実施段階
実施率(右軸)
(%)
選別段階
16
識別段階
準備段階
2016年4月
識別段階
2016年2月
12,000
(%)
選別段階
実施段階
14
10,000
12
8,000
10
6,000
8
6
4,000
4
2,000
2
0
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年3月
2016年1月
2016年12月
2016年11月
2016年10月
2016年9月
2016年8月
2016年7月
2016年6月
2016年5月
2016年4月
2016年3月
2016年2月
2016年1月
出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
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出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
詳細は「BTMU(China)経済週報【第225号】地方政府債務を規範化へ~中央政府は原則救済せず」をご参照ください。
https://Reports.btmuc.com/File/pdf_file/info001/info001_20141022_001.pdf
2
PPPプロジェクトの流れについては、「BTMU(China)経済週報第294号】PPP方式、十三・五期間にチャンスを迎える~関連法律の
整備が急務か」をご参照ください。
https://Reports.btmuc.com/File/pdf_file/info001/info001_20160322_001.pdf
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地域別に収録プロジェクト数をみると、貴州(1,788 件)、山東(1,087 件)、新疆(852 件)、四川(848 件)、内モ
ンゴル(828 件)が上位 5 位となっており、この地域の合計が全体の 48%を占めている。
図表3 地域別PPPプロジェクト(件数)
(件数)
2,000
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
2016年12月末
2016年1月末
貴山新四内河遼甘河雲江浙湖陜江福広安海黒湖広北寧青重吉山天新 チ上
州東疆川 モ南寧粛北南蘇江南西西建西徽南竜北東京夏海慶林西津疆 ベ海
江
ン
建 ッ
ゴ
設 ト
ル
兵
団
出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
投資額でみると、貴州(1 兆 6,034 億元)、山東(1 兆 2,229 億元)、雲南(1 兆 0,302 億元)、河南(9,538 億元)、
四川(9,180 億元)が上位 5 位となっており、この地域の合計が全体の 42.4%を占めている。
(億元)
図表4 地域別PPPプロジェクト(投資額)
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
2016年12月末
2016年1月末
上海
チベット
新疆建設兵団
天津
山西
青海
吉林
海南
寧夏
江西
広東
黒竜江
安徽
広西
重慶
北京
湖北
陜西
福建
新疆
湖南
浙江
遼寧
甘粛
河北
江蘇
内モンゴル
四川
河南
雲南
山東
貴州
出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
なお、「実施段階」のプロジェクトに限って見ると、プロジェクト件数では山東(222 件)、新疆(146 件)、浙江
(88 件)、四川(81 件)、河南(77 件)が、投資額では貴州(2,656 億元)、河北(2,114 億元)、山東(1,927 億元)、
北京(1,743 億元)、雲南(1,488 億元)がそれぞれ上位 5 位となっている。
産業別では、公共施設、交通運輸、都市開発に関するものがプロジェクト数、投資金額のいずれも上位 3 位と
なっており、この 3 項目を合計したプロジェクト数、投資金額は全体の 54%、68%を占めている。また、2016
年 1 月末以降の新規プロジェクトを見ると、公共施設(2,170 件)、交通運輸(614 件)、旅行(307 件)、都市開
発(221 件)関連のプロジェクトが多く、投資額では交通運輸(1 兆 7,232 億元)、公共施設(1 兆 7,190 億元)、
都市開発(4,989 億元)がトップ 3 となっている。
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図表5 産業別プロジェクト数(件数)
図表6 産業別投資額(億元)
2% 1%
2%
3%
公共施設 / 3,998
21%
交通運輸 / 1,375
34%
交通運輸 / 39,573
9%
公共施設 / 37,801
都市開発 / 13,984
29%
都市開発 / 688
保障性住宅 / 7,560
5%
旅行 / 659
旅行 / 7,154
4%
環境保護 / 633
4%
教育 / 553
5%
水利建設 / 3,874
6%
水利建設 / 518
4%
環境保護 / 6,534
医療衛生 / 2,333
保障性住宅 / 515
5%
12%
5%
5%
6%
教育 / 2,189
10%
医療衛生 / 494
文化 / 2,141
28%
その他 / 11,855
その他 / 2,472
出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
プロジェクト収益方式で見ると、政府が使用料金を支払うプロジェクト3は 3,591 件で投資総額が 3 兆 3,700 億
元となり、それぞれ全体の 32%、25%を占め、使用者が使用料金を支払うプロジェクト4は 4,687 件で投資総
額は 4 兆 6,000 万元となり、それぞれ全体の 42%、34%を占め、使用者が使用料金を支払い、収支上の不足
分を政府が補助するプロジェクト5は 2,982 件で投資総額が 5 兆 5,200 億元となり、それぞれ全体の 26%、41%
を占めている。
図表7 PPPプロジェクトの収益方式(件数)
使用者が料金
を支払い政府
は不足分を補
充する
26%
図表8 PPPプロジェクトの収益方式(投資額)
使用者が料金
を支払い政府
は不足分を補
充する
41%
使用者が料金
を支払う
42%
政府が料金を
支払う
32%
出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
使用者が料金
を支払う
34%
政府が料金を
支払う
25%
出所:財政部よりBTMU(China)中国調査室作成
2016 年の PPP プロジェクトの特徴
① グリーン・低燃費に重点、構造転換を後押し
2016 年 12 月末までにデータベースに収録されたグリーン・低燃費関連プロジェクトは 6,612 件で、投資額は 5
兆 5,000 億元となり、それぞれ全体の 58.7%、40.5%を占めている。そのうち、実施段階プロジェクトは 792 件
で投資総額が 8,296 億元となっており、その中でも 2016 年 1 月末以降の新規プロジェクトは 581 件、投資総
額は 5,570 億元に上っている。このように、2016 年にグリーン・低燃費関連の PPP プロジェクトは大きく推進さ
政府が使用料を支払い、公共サービスを購入するプロジェクトをいう。汚水処理、ゴミ処理などがそうである。
最終消費者が使用料を支払い、公共サービスを購入するプロジェクトをいう。有料の高速道路がその典型例である。
5
最終消費者が支払った料金だけで、プロジェクトの運営コストをカバーできないか、合理的な収益を得られない場合、政府がプロジ
ェクト運営企業に一定の経済補助を与え、その不足分を補うプロジェクトをいう。現段階では、養老、教育といった分野でこの方式が
多用されている。
3
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れ、省エネ、環境保護、並びに経済・産業構造の転換に助力することも期待されている。
②交通運輸・インフラプロジェクトが都市間の連携を促進
プロジェクト投資額から見た場合、交通運輸関連は最も大きな割合を占めている。2016 年 12 月末までに、交
通運輸関連プロジェクトは 1,375 件収録され、投資総額は 4 兆元に上っており、3 月末と比べ、プロジェクト数
は 152 件、投資総額は 6,892 億元増加したほか、実施段階プロジェクトが全体に占める割合も 14.7%から
31.2%へと大きく上昇した。交通運輸分野における PPP 方式の推進は都市間の交通インフラの連携度を向
上させることができ、地域間の経済協力を促すことが見込まれている。
③三線、四線都市の公共サービス水準を向上
2016 年 12 月末までに、三、四線都市における教育、医療、養老関連プロジェクトは計 1,237 件で、投資額は
5,656 億元となり、プロジェクト数は 3 月末と比べ 3 分野合計で 75 件、投資額は 455 億元増加した。また、2016
年 12 月末時点で実施段階プロジェクトは 115 件となり、全体に占める割合は 3 月末の 18%から 24.8%へ上
昇した。
④民営企業の参入度が向上
2016 年 12 月末までに、「実施段階」の中で関
連情報の収集が完了したプロジェクトは 277 件
あり、その内訳は単一企業が 177 社、特別事
業体(Special Purpose Vehicle、SPV)が 102
あり、契約企業数は計 419 社であった。また、
企業形態別に見ると、国有独資企業 119 社、
国有持株企業 113 社、民営独資企業 104 社、
民営持株企業 163 社、香港・マカオ・台湾系企
業 16 社、外資企業 6 社であった。民営企業は
全体の 39%占め、6 月末より 3 ポイント上昇し
ている。産業別では、公共サービス(63 件)、交
通運輸(11 件)、水利建設(11 件)、生態系建
設・環境保護(10 件)といった分野への民営企
業の参入度が比較的高い。
図表9 参入企業の構成
7%
14%
28%
国有独資 / 119
国有持株 / 113
民営独資 / 104
民営持株 / 59
24%
27%
その他 / 30
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Ⅱ.財政部、発改委がそれぞれの重点分野を明確化
前述したように、これまで財政部と発改委は主管部門として、PPP 方式の推進に取り組んでおり、財政部は
2013 年から PPP 方式の推進に力を入れ、2015 年末に PPP 総合情報プラットホームおよび PPP データベー
スを設立した。また、発改委は 2015 年以降、3 回にわたって PPP モデルプロジェクトを集中的に発表した。
しかし、2016 年に入り、PPP プロジェクトの規模拡大、および普及度の向上に伴い、プロジェクト運営における
監督・管理の統一や、関連規定の規範化がますます注目され、特に財政部、発改委を中心とする当局の機
能分担を明確にすることは不可欠となった。
2016 年 7 月 7 日、国務院は PPP プロジェクトを実施分野からインフラ施設と公共サービスの 2 つへ明確に分
類し、その後、発改委は 8 月に「伝統(従来型)インフラ分野における PPP 方式の推進に関する通知」を、続く
10 月に財政部は「公共サービス分野における PPP 方式の推進に関する通知」を発表し、それぞれインフラ分
野、公共サービス分野における PPP プロジェクトに重点的に取り組む方針を示した。
発改委による PPP プロジェクト
発改委は 2015 年 5 月、発改委 PPP データベースを設立し、第 1 陣として 1,043 件のモデルプロジェクトを発
表し、投資総額は 1 兆 9,700 億元となった。2015 年 12 月、第 2 陣として 1,488 件のプロジェクトを発表し、投
資総額は 2 兆 2,600 億元となった。2016 年 8 月 10 日、発改委は前述の「伝統インフラにおける PPP 方式の
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推進に関する通知」を発表し、エネルギー、交通運輸、水利、環境保護、農業、林業といったインフラ分野に
おける PPP 方式の推進に重点的に取組む方針を示した。そして、9 月、発改委はインフラ関連の PPP プロジ
ェクトを 1,233 件発表し、投資総額は 2 兆 1,400 万元に上った。発改委は「これらのプロジェクトは地方政府よ
り推薦された良質なもので、政府が策定した発展規画、産業政策にも合致するものである」と述べた。
公的な統計はないが、2016 年末時点で発改委が発表したプロジェクトのうち、未契約プロジェクトの投資額は
4 兆元を上回ると言われており、財政部のデータ(詳しくは次節で説明)を参考に実施段階プロジェクトが全体
に占める割合を 31%と仮定すれば、2017 年に既に存在しているプロジェクトの投資額は 1 兆 2,000 億元前後
になると予測される。
産業別では、契約済みプロジェクトから見ても、前述した「通知」から考えても、今年の PPP プロジェクトは公共
施設、交通運輸といったインフラ分野が中心に進められる可能性が高いと思われる。地域別では、モデルプ
ロジェクトのうち、西部地域の雲南、四川、甘粛、および山東、遼寧といった渤海周辺地域におけるプロジェク
トが多く、2017 年はこれらの地域において PPP プロジェクトの契約、実施が加速されるとみられる。
財政部によるプロジェクト
2016 年、財政部 PPP データベースに収録されたプロジェクトは継続的に増加したが、第 4 四半期以降、その
伸びが鈍化しつつある。その理由として、①プロジェクト収録基準の厳格化、②収録プロジェクトの重点が公
共サービスへと変更されたことなどが考えられる。2016 年 10 月 12 日、財政部は「公共サービス分野における
PPP 方式の推進に関する通知」を発表し、全国の公共サービス関連の PPP 推進を統括すると表明し、各級の
財政部門が公共サービスと産業関連プロジェクトを分類し、公共サービス分野に重点を置くよう求めた。
2017 年の実施状況については、2016 年末時点、未契約プロジェクトの投資額は 11 兆 3,000 億元で、実施段
階プロジェクトの割合が 31.6%であることを考えれば、2017 年のプロジェクト投資額は 3 兆 3,000 億元弱に上
る見通しである。収録プロジェクトの中で、公共サービス、交通運輸、都市開発は産業別で上位 3 位となって
おり、プロジェクトが実施段階に入るまで平均 13 ヶ月前後かかることを考えると、今後 1~2 年間、交通、公共
サービス、都市開発における PPP プロジェクトが依然として中心となるが、前述した「公共サービス分野におけ
る PPP 方式の推進に関する通知」の発表を受けて、医療、教育、文化、養老といった分野のプロジェクトも増
加するとみられる。なお、2016 年、財政部収録プロジェクトのうち、政府補助型プロジェクトの割合が上昇して
おり、これは財政部による PPP プロジェクトが公益的なものへと変化しつつあることを意味するため、今後、発
改委による PPP プロジェクトと区別される重要なポイントになると思われる。
しかし、その一方で、財政部と発改委はそれぞれの重点分野を明確に表明したとはいえ、目下では、公共サ
ービスとインフラ施設に対する明確な定義はなく、前述した 2 つの通知から見ても、エネルギー、交通運輸、
水利、環境保護、農業、林業、市政施設といった分野は双方に重複している。
これまでの状況から考えると、たとえば多くのインフラ施設が公共サービスを提供するものであるように、インフ
ラ施設と公共サービスを切り離して考えることは難しい。また、スマートシティ、スポンジシティといったインフラ
プロジェクトの内訳は複雑であり、無理矢理公共サービスプロジェクトや産業プロジェクトに分類しようとするの
は効率の低下をもたらしかねない。そのため、PPP プロジェクトを分野別で管理することは望ましくないとの意
見も多く、今後、PPP に関する基本政策を統一した上で、財政部、発改委が産業別の主管部門とともに具体
的な実施細則を制定したほうがより実際のニーズに合致すると思われる。
Ⅲ.PPP の資産証券化
発改委と中国証券監督管理委員会(以下、証監会)は 2016 年 12 月 12 日、「伝統インフラ施設における PPP
プロジェクトの資産証券化の推進に関する通知」を発表し、資金調達方式の多様化を図ることで社会資本の
参入意欲を向上させようとしている。
この通知では、①厳格に審査され、法的効力のある契約を結んでいるプロジェクト、②関連建設基準を満たし、
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プロジェクト運営が安定的で、契約履行能力が高いプロジェクト、③2 年以上運営し、キャッシュフローが良好
で、継続的且つ安定した収益が出ているプロジェクト、④出資企業の信用状況が良好で、リスクコントロール
システムが機能しており、直近 3 年間にデフォルト、情報偽造などといった不正がないこと、の 4 つの条件を満
たすプロジェクトは上海、深セン証券取引所で資産証券化することが認められた。
発改委は、資産証券化におけるデューディリジェンスや情報公開などをサポートするよう地方政府級の発改
委へ指示したとともに、プロジェクト運営を行う SPV に対し、プロジェクトの建設、運営がよりハイレベルとなるこ
とを目指し、資産証券化における基礎資産の確保、キャッシュフローの健全性、情報公開の正確性といった
義務を果たすよう求めた。
金融面において、「通知」は、上海・深セン証券取引所および中国証券投資基金協会が PPP プロジェクト証
券化の登録、審査、監督・管理などを行うとした上で、各部門は PPP プロジェクトの証券化に専門的に対応す
る「グリーン窓口」を設立し、PPP プロジェクト証券化の効率を向上させるよう求めた。
また、発改委と証監会は、都市化建設基金、インフラ投資基金、産業投資基金、および証券投資基金、証券
資産管理などの各種基金が PPP プロジェクトの証券化へ参入することを誘導し、多元的、かつ、持続可能な
サポート体制を構築する方針を示した。なお、証監会は、今後、資産担保証券を主要対象とする証券投資基
金の設立も検討しているという。
「通知」の発表に伴い、各地方政府はプロジェクトの選別を開始し、発改委によれば、2017 年 2 月 22 日まで
に各地方政府から推薦された資産証券化モデルプロジェクトは 41 件あり、分野別では汚水処理が 21 件、道
路・交通は 11 件、その他、駐車場、エネルギーなどが 9 件ある。汚水処理が半分以上を占めているのは、環
境保護産業の発展が国家戦略に合致しており、その中でも特に汚水処理関連のプロジェクトが多く、一定の
運営実績も上がっているからだと考えられる。関係者によれば、汚水処理プロジェクトが初めての証券化 PPP
プロジェクトとなる可能性が高いとのことである。
PPP プロジェクトでの投資額は大きく、プロジェクト運営収益で投資を回収するには長期間を要するため、参
入企業の資金繰りに影響を与えかねない。資産証券化を通じ、流通できないプロジェクト資産を流通性の良
い証券化資産へと転換させることで、企業のキャッシュフローが改善されるとみられている。
また、社会資本にとっては、プロジェクト資産がセカンダリー市場で流通することは、PPP プロジェクトの資金調
達ルートを広げ、資金調達コストを引下げることができるほか、1 つの「出口」が与えられることでリスクの低減に
もつながるとみられている。
このように、資産証券化は PPP 方式の普及に拍車をかける役割が期待されるが、ただ、一般的な資産担保証
券と比べ、PPP プロジェクトは担保、資金回収、投資期間のミスマッチ、社会資本の「出口戦略」などにおいて
依然として課題が多く、今後引き続き改善していくことが不可欠であると思われる。
三菱東京 UFJ 銀行(中国)
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プロフェッショナル解説(税務会計)MAZARS/望月会計士
BEPS にかかわる個別トピック: 実効税率の多寡~中国における対応、日本における対応、日中
間取引における注意点
今回は実効税率のお話です。
このコーナーでも何度か触れているように、日本の多くの企業は、良い意味でも悪い意味でも、税に対する意
識が高く、タックスプランニングを採用している企業は少ないものといえ、税負担を極限まで抑えようとする多く
の欧米企業と比較して企業の税負担率は高いものといわれています。
この際、税負担の多寡の指標として引合いに出されるのが、企業の実効税率といわれるものです。以下では、
この実効税率について解説したいと思います。
実効税率とは
実効税率という言葉は、税法上明記された税率である表面税率に相対して用いられる概念ですが、厳密には、
その使用される文脈によりその意義が異なるものが含まれています。
例えば、一般に使用される実効税率という用語については、いわゆる法定実効税率を意味する場合が多く、
この場合には、法人所得に課される国税・地方税の税率を足し合わせたものであり 、法人税や住民税、事業
税の表面税率をもとに算出される税率を意味します。
これは、地方税が法人税の計算上損金に算入されることから、国税と地方税を単純合算した数値とは異なる
ことから、表面税率と区分して使用されるものです。
国毎の実効税率
多くの国において、国税と地方税が区分して設けられていることから、この法定実効税率が、各国毎に国税と
地方税をあわせた実際の税負担を示す指標となっており、 この法定実効税率を国毎に比較した場合には
以下のようになっています。ここでは、中国のように表面税率と法定実効税率が同様の税制を有する国家もあ
ります。
出所:財務省ウェブサイト
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BTMU(China)経済週報
2017 年 3 月 2 日 第 339 期
以上に見られるように、法定実効税率だけを見た場合には欧米の税率は高く、世界的に見ても日本の税率は
決して高い税率であるとは言えないものとなってきていることが分かります。
企業の実効税率
このように実効税率とは、何らかの差異を原因として、実際の税負担が表面税率により計算されたものと異な
る場合の実際の税額とその基準となる利益との割合をいうものといえます。
ここで、いわゆる企業の実効税率とは、財務諸表上の税引前利益と法人税の割合をいい、ここでの差異には、
会計上の利益と税務上の利益の差異のうちの永久差異の部分が該当することになります。
つまり、会計上計算された税引前利益と、会計上の利益に税務上の観点から永久差異についてのみ調整を
行った永久差異調整後利益を基に上述の法定実効税率を乗じた法人税額との割合が、企業の実効税率と
呼ばれるものになります。
従って、企業の実効税率とは、実際に企業が支払う税金と会計上の利益の割合をいうものではないこと注意
を要します。
これは、税効果会計の適用を前提として、一時差異に基づく税額負担については、繰延税金資産または繰
延税金負債として計上され、損益計算書上の税額には影響を与えないことを原因とするものであり、従って、
一時差異にかかわる税負担が仮にどれたけ重かったとしてもいわゆる企業の実効税率には何ら影響を与え
ないものとして表示されることになります。
以上のことは、冒頭で述べたようなタックスプランニングの効率性については、企業の実効税率(厳密には法
定実効税率と企業の実効税率との乖離度合い)及び繰延税金負債計上額(及び繰延税金資産計上額)の多
寡により判断されるものといえます。
また、ここでも、一般に、欧米企業においては繰延税金負債の計上が多く、日本企業においては繰延税金資
産の計上が多いといわれ、企業の実効税率の多寡に加え、全体での比較を行うことが望ましいといえます。
また、話がややこしくなりますが、法定実効税率は国によって異なることから、多国籍企業の連結財務諸表に
おいては、そもそもその法定実効税率が何パーセントであるかについては別途認識する必要があることになり
ます。
企業の実効税率はこれほど低い
以上の内容を前提に現実の企業の実効税率を見てみると以下のようになっています。
ここでは、確かに世界を代表する米国企業の実効税率が低いことが分かります。ここでは、税率の極めて低い
または優遇税制の極めて豊富な国々おいて相対的に多額の利益を計上しなければ、これだけの実効税率低
減を達成することは難しいものといえます。
さらに、上述の繰延税金負債計上という手法を加えた場合には、その下に示される日本の多くの企業との税
負担際については、一目瞭然といわざるを得ません。
米国IT企業 2013年度
日本自動車産業企業 2013年度
会社
法定実効税率
実効税率
(実際負担率)
会社
法定実効税率
実効税率
(実際負担率)
A社
35%
15.7%
D社
38%
39.3%
B社
35%
26.2%
E社
38%
25.5%
C社
35%
19.2%
F社
38%
36.6%
出所:米国、日本年度報告書(有価証券報告書)より引用作成
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BEPS 行動計画 11 で指摘される内容
BEPS では、多国籍企業による国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避行動について、その具体
的把握についての議論を行っており、この指標として企業の実効税率が分析されています。
ここでは、BEPS の問題が現実に社会全体で発生していること、BEPS 行動計画の実施内容が社会全体にお
いて有効に機能しているのかについての把握が目的とされています。
BEPS 行動計画 11 においては、このような本質的な問いかけについて、明確な回答とはいかないまでも、現
時点における考え方が示されており、企業の実効税率との関連からは以下の指標があげられています。
①高課税国の多国籍企業関連者の利益率との比較における低課税国の多国籍企業関連者の利益率の比
較
多国籍企業においては低課税国高利益率関連者への所得分配が 45%であるのに対して高課税国低利益率
関連者に対する所得分配は 7%にとどまっています。
②グループ全体の利益率との比較における低課税国の多国籍企業関連者の利益率の比較
低課税国に所在する多国籍企業関連者の利益率は、そのグループ全体の平均利益率の 2 倍であると報告さ
れており、これら内容は、連結ベースでの法定実効税率を効率的に低減させる効果を有しており、上述の海
外差を大きくすることに貢献しているものといえます。
③グループ全体の利益率との比較における低課税国の多国籍企業関連者の利益率の比較
大規模多国籍企業の実効税率は国内事業だけを行う類似企業より、4~8.5%低いものと報告されており、こ
れについては、企業の実効税率を法定実効税率から効率的に低減させる効果を有しているものといえます。
それでは企業の連結ベースでの法定実効税率を低減させること、または、実効税率をさらに低減させることに
はどのような問題があるのでしょうか。
この問題については、まさに、英国議会決算委員会におけるマーガレット・ホッジ委員長(当時)による“We
are not accusing you of being illegal, we are accusing you of being immoral.(我々はあなた方に対して、
違法な行為を行っているものとして責めているではなく、あなた方の非道徳的行動について責めているので
ある。)”という発言を引合いに出すことが適当といえるでしょう。
これはもちろん非難のための発言といえますが、それと同時に裏を返せば、何ら問題とされる行為は行ってい
ないということを意味しているともいえます。
従って、BEPS 行為自体に問題があるとは言い難いとはいえ、その本質的問題はむしろ、今までのシステムが
急速に瓦解していくことにあるといえます。
これは主にこれまでの税収指標の瓦解とイコールフッティングの欠如にあるといえます。税収指標の瓦解とは、
これまで経済発展の指標となってきた企業の発展(利益計上)が国家の税収と何ら関係を有さなくなる可能性
があり、現実に、世界の多くの国が投資誘致目的で法人税率の引き下げ競争に近い状況を呈している中で、
法定税率の低減は直接的な意味を有さず、かつ、企業誘致にも税収確保にも何ら確かな基礎を有さないこと
になるといえます。
さらに、これらの企業の規模及び影響力が極めて大きく、今後ますます多くの企業が同様の行動様式を取る
ことになると予想されるからです。なぜならば、一部の企業だけが税負担を回避することは、課税の根本原則
である課税の公平性を大きく損なうものであり、社会における適正な競争が阻害されるとともに、税システムに
対する信頼が大きく揺らぐことになりかねません。
さらに、これらの税負担回避の当事者が、世界的影響力を有する巨大多国籍企業ばかりであった場合には、
社会的不満が高まることも考えられ、従来の納税者からの徴税についても困難となる可能性があります。
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2017 年 3 月 2 日 第 339 期
中国企業における実効税率
下の表に見られるように中国企業の税負担率は米国企業とほぼ同水準にあるといえます。但し、上述の通り、
現実には米国企業の法定実効税率が 35%であり、中国の法定実効税率に比較して 10%程高いことや、これ
らの企業に対する中国国内本土における優遇税制の適用、さらには、中国企業においては繰延税金資産及
び負債がほぼ計上されていないこと等を考慮に入れた場合には、中国企業のタックスプランニングの効率性
は米国企業ほど高いものではないとも考えられます。
中国電気製品企業 2015年度
会社
法定実効税率
実効税率
(実際負担率)
G社
25%
13.8%
H社
25%
15.1%
I社
25%
15.1%
出典:中国、香港年度報告書(有価証券報告書)より引用作成
日本企業の実効税率
上の表に示されているように、日本企業の実効税率は連結ベースでの法定実効税率という意味においても、
さらに、この法定実効税率と実際の実効税率の比較という意味においても、両方の意味で高いものといえるで
しょう。
これには日本人の文化的要素や株主の発言権が比較的弱いこと、国際税務にかかわる歴史の浅さ等様々な
要因があると考えられますが、結果的には、現金支出を伴う税負担が大きいことに基づく企業価値の毀損や、
国際的な競争力の阻害要因となっていることは事実であると考えられます。
上述の通り、今後はますます多くの企業が税負担低減に向けたタックスプランニングを導入していくものと予
想され、さらに、それによる税負担減少の余地は他国企業と比べて大きいといえ、それに対応して日本の税
収が減少するものと考えられることから、これをどのように食い止めるかについて、他の欧米諸国よりも逼迫し
た問題であるとも捉えられます。
日本として一番望ましいと考える方策は、BEPS 対応を進めることにより、自国の課税権を確保するだけでなく、
他国企業のそれぞれの国における税負担を増加させることにより、日本企業の税負担におけるディスアドバン
テージを解消させることといえます。
最後に、ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる古代ギリシアの偉大な哲学者であるプラトン(英
語名: Plato)が約 2,400 年前に述べた言葉を紹介します。
“Where there is an income tax, the just man will pay more and the unjust less on the same amount of
income.” — Plato
この言葉は、IRS(米国内国歳入庁)のウェブサイトに掲載されているものですが、今まさに、数千年の時を
経て、世界各国はこの問題に取組もうとしているといえるでしょう。
当資料は情報提供のみを目的として、MAZARS によって作成されたものであり、当行はその正確性を保証するものではありません。
また当該機関との取引等、何らかの行動を当行が勧誘するものではありません。
望月一央(公認会計士) MAZARS JAPAN/CHINA パートナー
MAZARS は 75 年の歴史を有し、グローバルワンファームとして世界 73 カ国の直営事務所に 15,000 人を擁
する欧州系会計事務所です。多くの欧米企業をサポートするとともに海外に展開する日本企業のサポートに
も注力しており、アジア地域においては、インド、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャ
ンマー等に拠点を有し、ワンファームならではの緊密な連携により複合的なサービスを提供しております。
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BTMU(China)経済週報
2017 年 3 月 2 日 第 339 期
BTMU の中国調査レポート(2017 年 2 月)
経済見通し(2017 年 2 月)
http://www.bk.mufg.jp/report/ecolook2017/index.htm
経済調査室
BTMU 中国月報第 133 号
http://www.bk.mufg.jp/report/inschimonth/117020101.pdf
国際業務部
BTMU CHINA WEEKLY
2017/2/22
http://www.bk.mufg.jp/report/inschiweek/417022201.pdf
国際業務部
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