「術前診断に超音波検査が有用であった肝浸潤を

DOI: 10.3179/jjmu. JJMU.A.81
◇ LETTER TO THE EDITOR ◇ 池田敦之氏らによる「術前診断に超音波検査が有用であっ
排されて胆嚢内腔は凹むはずです.CT・MRI の図説に「胆
た肝浸潤を伴う平坦浸潤型胆嚢癌の 1 例」(超音波医学.
嚢を圧排する所見は認めない,乏しい」と記載されてお
2016;43:497-503)に関して
り,これらは,胆嚢由来を示しているのではないでしょ
うか.
標記論文を興味深く拝読しました.原発巣(胆嚢)よ
画像と切除標本を 1 対 1 で対比するためには,切り出
りむしろ他臓器浸潤巣(肝)のほうが目立つという病態
Fig. 5 に関して,
しがどのようになされたかが重要ですが,
は稀と考えます.US が CT・MRI に優る診断能を示し
この点はいかがでしょうか.胆嚢癌の原発巣は組織学的
たとの評価ですが,画像提示法のほか気になる点があり
に硝子化(強い線維化)を示したというので,構造上均
ますので,お尋ねします.
一で低エコーを示す4)と予想しますが,Fig. 3-d, e の所
その前に,医用超音波用語の誤用を指摘したいと存じ
見はこの予想と異なるようにもみえます.健常部の胆嚢
ます.p 497 抄録 3 行目・p 498 右カラム 19 行目・p 500
壁と比べていかがですか.また,①胆嚢癌原発巣の水平
Fig. 3 説明文(図説)2 行目の「辺縁は整」は誤用であり,
進展範囲が Fig. 5 の矢印の領域に一致するのかと②病理
いずれも「輪郭は整」が正しいものです .また,p 497
組織像から振り返って Fig. 3-d, e のどの部分に相当する
抄録 3 行目・p 498 右カラム 18 行目・p 500 Fig. 3 図説
のかの 2 点に関してお示しいただければ幸いです.これ
1 行目に「類円形」という表現がみられますが,腫瘤は
と合わせて,切除検体の病理組織学的所見は,最新の胆
1)
3 次元の構造物なので 2 次元的表現は好ましくなく,
「球
道癌取扱い規約(第 6 版)に沿って記載するのが望まし
状」のほうが望ましいと考えます.「類円形」という表
いと考えます.
現は,本会の用語・診断基準委員会が推奨している2)も
術後に補助化学療法を行ったにも拘わらず不幸な転帰
のですが,電子スキャン以前の表記法の名残であり,一
をとっていますが,
化学療法の詳細はいかがだったでしょ
般人の感覚からしても奇妙です.一度立ち止まって,一
うか.また,再発形式はどうだったでしょうか.
般人としてどう表現しているかを振り返ってみることが
最後に,胆嚢腫大の原因が述べられておらず,胆嚢結
必要です.ちなみに,p 499 Fig. 2 の図説 4 行目「核酸
石 に つ い て も MRI で 記 載 さ れ て い る の み で す が,
強調像」は「拡散強調像」の誤植です.また,図説の時
Fig. 3-c, d, e に多発性の小結石が描出されています.小
制は現在形が適切であり,
過去形であるのはいかがでしょ
結石の胆嚢頚部あるいは胆嚢管への嵌頓が考えやすいよ
うか3).
うですが,術前にこれに関する評価を DIC-CT や ERC
さて,本論に入ります.US が CT・MRI に優る診断
で行っていないのでしょうか.また,これに関する術中
能を示したとの評価ですが,その前に各画像診断法の至
所見はいかがだったでしょうか.
適画像構成・撮像条件が満たされているかどうかを確認
することが重要です.かつての single detector CT は横
断像のみでしたが,multi-detector CT(MDCT)で冠状断・
矢状断など種々の断面の観察が可能となっており,MRI
も同様です.一方,超音波像はその理解のために体位・
走査法が重要ですが,Fig. 3 と Fig. 4 で body mark が示
されておらず,これらが不明です.走査断層面が CT・
MRI と同様であるかどうかも診断法を評価するうえで
重要なので,体位・走査法を明示していただきたいと存
じます.また,CT・MRI に関しては,スライス幅が狭
いか広いかも詳細な所見を吟味する際に重要であり,こ
の撮像条件をご提示ください.
肝腫瘤が肝原発であるかどうかの判断に胆嚢を圧排す
る所見がみられるかどうかが重要と考えます.通常,胆
嚢壁の硬化がみられなければ,隣接する肝腫瘤により圧
J-STAGE. Advanced published. date: March 1, 2017
Jpn J Med Ultrasonics
文 献
1) 藤本武利.超音波用語と所見:分かりやすい科学的
表現.超音波医学.2016;43:33︲8.
2) 廣岡芳樹.「超音波用語と所見:分かりやすい科学的
表現」
に関して.超音波医学.2016;43:39.
3) 草間悟.医学研究発表の方法.東京:南江堂;1986.p.
132︲3, 177.
4) 藤本武利.外側高エコー層の吊り上げ肥厚を伴う胆
嚢腫瘤は初期 SS 胆嚢癌を示す.超音波医学.2012;39:
131︲8.
平塚胃腸病院外科
藤本 武利
Received on August 31, 2016; Accepted on October 11, 2016