(参考20)熱雑音,黒体輻射,プランクの法則

2017 年 3 月 1 日
戸田昭彦
(参考20) 熱雑音,黒体輻射,プランクの法則,固体の比熱
ジョンソン熱雑音:
(文献) H. Nyquist, Phys. Rev. 32, 110 (1928).
図のように,一対の抵抗 R が長さ L の2本の導線に対称に繋がれているとき,
温度 T で熱平衡にある抵抗で生じる熱雑音により,導線を互いに逆向きに
進む一対のエネルギーの流れが生じ,定在波の集団をつくるとする。
導線の両末端を節とする定在波は境界条件 2L / λ = n (n = 1,2,⋯) を満
R
R
たす。ただし,波長 λ ,周波数 ν ,速さ v として λν = v 。そこで,単位周波数
dn
d 2Lν
2L
当たりの定在波の数は
=
(
)=
となり,周波数範囲 ∆ν の定在
dν dν v
v
dn
2L
波の数は ( )∆ν =
∆ν となる。
dν
v
1つの定在波当たりの平均エネルギーは,エネルギー等分配の法則より,電波と磁場の2つ分で,
kB T となることから,周波数範囲 ν ∼ ν + ∆ν にある定在波のもつ平均エネルギー密度 uν が以下のよ
うに表される。
1
2L
2
uν = kB T (
∆ν) = kB T ∆ν
L
v
v
このエネルギー密度は左右に進む波動により維持される。このうち,一方の向きのエネルギーの流れ
は,片側の抵抗の熱雑音により生まれ,もう一方の抵抗でジュール熱として散逸する。
一方の向きに流れる単位時間当たりのエネルギー,すなわち電力量 Pν は,上式のエネルギー密
度が左右に進む波により維持されるとして,以下のように表される。
Pν = 1 vuν = 1 v ( 2 kB T∆ν) = kB T ∆ν
2
2 v
電力量 Pν は,一方の抵抗 R でジュール熱として単位時間当たりに散逸するエネルギーでもある。
Pν = I ν 2 R = (
Vν 2
1
V ν2
) R=
2R
4R
両式から,熱雑音による電圧の二乗平均 V ν 2 に関するジョンソン熱雑音の表式が得られる。
V ν 2 = 4RkB T ∆ν
この V ν 2 は周波数 ν に寄らず一定であり,白色雑音とも呼ばれる。
補) 考え方としては次項の(エネルギーが等配分された)電磁波の黒体輻射の1次元版ともいえる。
補) エネルギー等分配の法則: 相空間 (q , p) の1つの座標成分について,運動エネルギー ε = αp 2
や,振動の位置エネルギー ε = αq 2 のように,座標成分の2乗に比例する形でエネルギーが表される
とき,次項のボルツマン分布から,1自由度あたりの平均エネルギーが kBT / 2 と与えられる。
αp 2
αp 2
kT
ε = ∫ αp exp[−
] dqdp / ∫ exp[−
] dqdp = B
kB T
kB T
2
2
2
αp
αp
αp 2
kT
d
kT
∵ ∫ αp2 exp[−
] dqdp = − B ∫ p exp[−
] dqdp = B ∫ exp[−
] dqdp
kB T
dp
kB T
kB T
2
2
2
1
黒体輻射,プランクの法則:
温度 T に保たれた空洞内で熱平衡にある輻射光(電磁波)を考える。これを黒体輻射という。上のジ
ョンソン熱雑音の場合と同様に,輻射の熱平衡状態を長さ L の立方体内にある電磁波の定在波の
集団として捉える。このとき,周波数範囲 ν ∼ ν + dν にある定在波の数は以下のように表される。
L
2L 3 4 πν2dν
)(
)2 = 8π( )3 ν2dν
c
8
c
ただし,光速度 c = 299,792,458 m s-1であり,左辺最初の項は周波数空間の単位体積当たりの定在波
の数,次の項が周波数(ν x , ν y , ν z ) 空間で,(半径 ν の球の表面積) × dν ÷ 8( ν x , ν y , νz が全て正の象
(
限),最後の因子2は偏光の数である。
ε(ν) を周波数 ν の一つの定在波のもつ平均エネルギーとすると,周波数範囲 ν ∼ ν + dν の定在
波による空洞のエネルギー密度 u (単位体積当たりのエネルギー)は以下のように表される。
8πν2
) dν
c3
平均エネルギー ε(ν) は,以下の(A),(B)の原理に基づき求められる。
u dν = ε(ν)(
(A) ボルツマン分布: 温度 T の熱源に接触している系が熱エネルギー ε を受け取り,状態数 WS の状
態にあるとき,その実現確率 P は全系のエントロピー変化 ∆Stot から以下のように表される。
ε
W
∆S
ε
+ kB ln WS ∴ P ∝ tot
= exp[ tot ] = exp[−
]WS
0
T
Wtot
kB
kBT
ε
ε
すなわち, P dε = exp[−
] D (ε)dε / ∫ exp[−
] D (ε)dε となる。ただし, D (ε)dε はエネルギーが
kBT
kB T
∆Stot = ∆SR + SS = −
ε ∼ ε + dε にある状態の数である。そこで,平均のエネルギー ε は以下のように表される。
ε = ∫ ε exp[−
ε
ε
] D (ε)dε / ∫ exp[−
] D (ε)dε
kBT
kBT
(B) プランクによるエネルギー量子化の原理: 微視的な状態が取り得るエネルギーは離散的である。
エネルギー量子化の原理に基づき,周波数 ν の輻射光(電磁波)が,離散的なエネルギー ε = nhν
( n = 0,1,2,⋯ )の状態( WS = 1 )にあると仮定する。ただし h は定数であり,プランク定数と呼ばれる。
このとき,上の ε を求める積分は,取り得る全ての状態に関する和として以下のように表される。
∞
ε = ∑ n=0 nhν exp[ −
x=
hν
として
kB T
nhν
]/
kB T
∑
∞
n =0
1
exp[−
∑ exp[−nx] = 1 − exp[−x]
∂
nhν
]
kB T
,さらに
exp[−x]
1
∑ n exp[−nx] = − ∂x 1 − exp[−x] = (1 − exp[−x])
ε = hν ∑
n exp[−nx]
∑ exp[−nx]
= hν
2
∂
∑ exp[−nx] = −∑ n exp[−nx] な の で ,
∂x
となり,結局,以下のように表される。
hν
exp[−x]
=
1 − exp[ −x] exp[hν / kB T ] − 1
2
ε( ν) = ε = hν /(exp[hν / kB T ] − 1) から,温度 T の電磁波の分光エネルギー密度 uν あるいは uλ に関
するプランクの法則の表式が以下のように得られる。ただし, λν = c から, dν = −(c / λ2 )dλ
uν dν = ε(ν)8π
uλ dλ =
8πhν3
1
ν2
dν =
dν
3
3
c
c
exp[hν / kB T ] − 1
8πhc
1
dλ
5
λ exp[hc / λ kB T ] − 1
なお,「分光」とつくときには,「周波数 ν ,波長 λ での単位周波数,波長当たりの量」を意味する。
・ 温度 T の輻射のピーク波長 λ max について,
d 1
1 duλ
1
1
ehc / λ kB T
+ hc λ −7
( 5
) = −5λ −6
=
8πhc dλ
dλ λ ehc / λ kB T − 1
(ehc / λ kB T − 1)2
ehc / λ kB T − 1 kB T
λ −6
=
e
そこで,x ≡
hc / λ kB T
ehc / λ kB T − 5)
( hc
− 1 λ kB T ehc / λ kB T − 1
λ max で
duλ
= 0 となる。
dλ
x
hc
として,
= 5 から, x = 4.965⋯ (定数)
λ maxkB T
1 − e−x
1
ただし, hc ≅ 2.898 × 10−3 Km
∴ λ max = hc ∝
xkB T
T
xkB
・ 温度 T の電磁波の全エネルギー密度 u について,
∞
u = ∫ uν dν =
0
∵
k T
8πh ∞ 3
1
8πh ∞
48π
8 π5
dν = 3 ∑ n =1 6 ( B )4 =
(kBT )4 ς(4) =
(kBT )4
3 ∫0 ν
3
3
/
k
T
h
ν
B
nh
c
c
(hc )
15(hc )
−1
e
1
ehν / kB T − 1
=
nh
ν
kB T
1
1 − e −hν / kB T
e
− hν
kB T
= (1 + e
− hν
kB T
nh
ν
kB T
+e
−2 hν
kB T
⋯) e
− hν
kB T
=e
− hν
kB T
+e
−2 hν
kB T
+e
−3 hν
kB T
⋯
nh
kBT 2 ∞ −kB T ν
k T
3e
2e
d
=
6
(
) ∫ νe
dν = 6 ( B )4
ν
ν
ν
∫0
∫0
0
nh
nh
1
π4
∞
リーマンゼータ関数 ς(4) ≡ ∑ n =1
=
n 4 90
∞
−
k T
dν = 3 B
nh
∞
−
・ シュテファン-ボルツマンの法則は,放射発散度(単位面積の放射源から単位時間当たりに放射
されるエネルギー) M e に関する法則であり, M e = (c / 4)u = σ T 4 と表される。
ここで, σ はシュテファン-ボルツマン定数であり, h ≅ 6.626 × 10-34 J s から,
c cos θ
2π5kB4
−8
− 2 −4
≅
5.670
×
10
Wm
K
θ
c
15h3c2
π / 2 2π
c
sin θ dθ dϕ c 1
c
係数 は ∫ ∫ c cos θ
= [− cos 2θ ]0π / 2 = による。ただし, θ
θ= 0 ϕ= 0
4
4π
4 2
4
は頂角, ϕ は方位角であり, c cos θ は右図のように頂角 θ の方向に単位表面から単位時間当たりに
σ=
放射される電磁波を含む体積となる。また,電磁場が等方的であれば,電磁波は全ての方向に一様
に放射されているので,頂角 θ ∼ θ + dθ ,方位角 ϕ ∼ ϕ + dϕ を向く電磁波の割合は sin θ dθ dϕ /(4π) と
なる。以上より,単位体積当たりの電磁場のエネルギー u を c / 4 倍することで M e が得られる。
3
(分光放射発散度 M eλ の例)
下図は,太陽,グラフェンナノ構造,宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の分光放射発散度である。
CMBは自然界で最も理想的にプランクの法則に従う輻射スペクトルをもつとされている。ビッグバン
から約40万年後に約3千Kで物質と熱平衡にあった輻射の温度が,「宇宙が晴れ上がる」ことで輻射
と物質の相互作用がなくなり,宇宙膨張によってそのまま低下した現在の状態(2.726 K)を観測して
いる。
グラフェンナノ構造も同様に理想的な輻射を放出する物質として注目されている。
太陽からの輻射は光球からの輻射を観測していることになるが,波長(周波数)により内部での吸収
率が異なり,見ている深さが異なることになる。光球表面付近では深部になるほど温度が高くなるが,
長波長(短波長)の電磁波は,より深(浅)い層から届いている。放射発散度に関するシュテファン-
ボルツマンの法則 M e = σT 4 から算出された光球の平均温度が太陽表面の実効温度5,777 Kである。
太陽定数と呼ばれる地球に届く輻射エネルギー ISC = 1,367 W m-2 ,太陽までの平均距離 r0 =
149,597,890 km,太陽光球の平均半径 rs = 695,980 kmから, ISC / M e = (rS / r0 )2 を用いて逆算されて
いる。
(文献) http://aether.lbl.gov/www/projects/cobe/
Matsumoto T, Koizumi T, Kawakami Y, Okamoto K, Tomita M, Optics Express 21 (2013) 30964
Iqbal M, "An Introduction to Solar Radiation", Academic Press 1983, Ch. 3
10
10
10
1
10
2
10
3
10
8
4
10
5
Sun
Planck@5777 K
graphene@1600 K
[email protected] K
10-9
7
Meλ dλ /Wm
-2
10-10
10
6
10-11
10
5
10-12
10
4
10
0.1
10-5
γ線
1
10-4
10-3
X線
10-2
10
100
λ /µm
10-1
100
光
紫 可
外 視
4
101
102
1000
103
104 μm
電波
赤
外
マイクロ波
-13
固体の比熱:
結晶格子の熱容量
空洞内の輻射については,周波数に上限はなく,無限個の自由度をもつ振動について考察した。
結晶内で熱振動する原子の振動は各々の原子について3つの振動の自由度をもち, N 個の原子が
つくる結晶では 3N 個の振動の自由度(正確には結晶全体の並進と回転の自由度6を引いた 3N − 6
個)がある。そこで,1自由度当たりの振動の運動・位置エネルギーにより, ε = 3N × 2 × (kBT / 2) の関
係がエネルギー等分配の法則から得られ,結晶の熱容量が 3NkB (= 3nR ) と表される。これをデュロ
ン-プティの法則とよび,実際の結晶では高温で成り立つ。一方,低温での結晶の熱容量は温度の
3乗に比例し,絶対零度でゼロとなり第3法則に従う。このような振る舞いを示す,結晶内原子の熱振
動による比熱は格子比熱と呼ばれる。
空洞内の輻射エネルギー ε に関する表式は,輻射と熱平衡にある(プランクにより共鳴子と名付け
られた)調和振動子の集団について量子化された平均エネルギーを求めることでも同様に導出され
る。(後記の補1 参照)
そこで,結晶内原子の熱振動を調和振動子の運動と考えれば,その比熱についても,輻射エネル
ギーの結果をそのまま適用することができ,以下のように表される。
cν =
/k T
∂ε ν
∂
hν
h ν 2 e hν B
=
=
k
(
)
B
∂T ∂T ehν / kB T − 1
kB T (ehν / kB T − 1)2
アインシュタインモデルでは,固定された振動数 ν をもつ振動子の集まりとして,上の比熱を単純に
3N 倍することで結晶の熱容量とする。
この熱容量 3Ncν は,高温ではエネルギー等分配の法則に従いデュロン-プティの法則が成り立つ。
for hν / kBT ≪ 1
ε ν ∼ kBT
3Ncν ∼ 3NkB
ε ν ∼ hν e − hν / kB T
3Ncν ∼ 3NkB (hν / kB T )2 e − hν / kB T
一方低温では,
for hν / kBT ≫ 1
と表され,温度の低下と共に熱容量は指数関数的に減少し,絶対零度でゼロとなるが,温度の3乗に
比例する依存性は現れない。
デバイモデルでは,定在波の個数について,空洞内の輻射の場合と同様に考え,大きさ L の結晶
内で周波数が ν ∼ ν + dν にある定在波の個数を以下とする。
2L 3 4 πν2dν
L
) (
) 3 = 12π( )3 ν2dν
v
8
v
ただし, v は波の速さであり,因子3は結晶内に存在しうる1つの縦波と2つの横波による。
結晶内の振動の自由度の総数は 3N 個なので,定在波の周波数には,次式で表される上限 ν D があ
(
る。これは結晶内に存在しうる定在波の最短波長に関する原子間距離による制限でもある。
νD
9N
L
L
L
3N = ∫ 12π( )3 ν2dν = 4π( )3 ν D3
∴ 上の個数は,12π( )3 ν2dν = 3 ν2dν
0
v
v
v
νD
結晶の熱容量 C は 0 ∼ ν D までの各 cν の総和として次式で与えられ, x = hν / kB T とすることで,以下
のように表される。
C=∫
νD
0
9N 2
kBT 3 νD hν 4 ehν / kB T
h dν 9NkB xD 4 e x
cν 3 ν dν = 9NkB (
)
(
)
=
x x
dx
hν D ∫0 kB T (ehν / kB T − 1)2 kBT
xD3 ∫0
(e − 1)2
νD
5
高温 xD = hν D / kB T ≪ 1 (∴ e x ∼ 1 + x )の C は,以下のように,デュロン-プティの法則に従う。
C∼
9NkB xD 4 −2
x x dx = 3NkB
xD3 ∫0
一方,低温 xD ≫ 1 では,積分区間を 0 ∼ ∞ と置くことで,以下のように表され, T 3 に比例する低温比
熱をうまく説明することができる。
C∼
9NkB ∞ 4 x
12π4NkB 12π4 NkB kBT 3
−2 x
x
(
e
−
1
)
e
x
=
=
(
)
d
xD3 ∫0
5xD3
5
hν D
ただし,積分は以下の通り:
∫
∞
0
∞
∞
x4 (e x − 1) −2 e xdx = ∫ x4 [−(e x − 1) −1 ]′dx = [−x4 (e x − 1) −1 ]0∞ + ∫ 4x3 (e x − 1) −1 dx
0
0
∞
∞
∞
∞
= 4 ∫ x3 (e x − 1) −1 dx = 4∑ n =1 ∫ x3e − nxdx = 4∑ n =1 6 n −4 = 24ς(4) =
0
0
4 π4
15
xD = 1 のときの温度が満たす関係式 hν D / kB TD = 1 により,デバイ温度 TD = hν D / kB が定義される。
結晶内での平均原子間距離 ℓ = L / N 1 / 3 と,弾性波の平均速度 v により, ν D = (3 / 4π)1 / 3 (v / ℓ ) となり,
TD = (3 / 4 π)1 / 3 (h / kB ) (v / ℓ ) と表される。
シリコン結晶を想定して, ℓ ∼ 0.3 nm, v ∼ 5 × 103 m s-1とすると, TD ∼ 6 × 102 Kとなり, TD が数百K程度
と見積もられる。
光量子仮説から電子の波動性へ
アインシュタインによる光量子仮説では,波動である光(電磁波)を ε = hν のエネルギーをもつ粒子,
光量子と捉える。電磁波(あるいは光量子)のエネルギー ε と運動量 p には ε = pc の関係があるので,
p = hν / c = h / λ とも表される。これらの関係によって光電効果やコンプトン散乱が理解された。
その後,粒子と考えられていた電子にも λ = h / p の関係を満たす波動性があるとする物質波の仮
説がド・ブロイにより提起され,結晶による電子線の回折効果で実証された。
電子の熱容量:
金属結晶固体中の自由電子も波動性を示すとすると,(本来は量子力学による定式化を経て,あ
るいは後記補2の量子化条件により)上記の定在波の集団としての扱いを適用することができる。大
きさ L の 結 晶 内で は 定在波の 波長 λ は 2L (1/ λ x ,1/ λ y ,1/ λ z ) = (nx , ny , nz ) (ただ し nx , ny , nz =
1, 2,⋯ )の関係を満たし,各々の(nx , ny , nz ) の組は電子がとることのできる可能な量子状態を表す。
このとき p = ( px , py , pz ) = h (1 / λ x , 1 / λ y , 1 / λ z ) = (h / 2L) ( nx , ny , nz ) であり,電子の質量を me として,
電子のエネルギー ε = p 2 / 2me が以下のように表される。
ε=
p2
1
1 h 2 2
=
( px2 + py 2 + pz 2 ) =
( ) (nx + ny 2 + nz 2 )
2me 2me
2me 2L
電子は量子力学的内部自由度である量子スピン1/2をもち,フェルミ粒子と呼ばれる一群の素粒子
の1つである。パウリの排他原理 「2個以上のフェルミ粒子が同時に同一の量子状態をとることはな
6
い」 に従うと,量子状態の数は電子の数に対応する。上のエネルギー ε が 0 ∼ εF にある状態の総数
N は,以下の関係を満たす。
4
1
1
N = π(nFx2 + nFy 2 + nFz 2 )3 / 2 2 = πnF3
3
8
3
ただし,最初の項は量子状態数(nx , ny , nz ) の空間内での(半径 nF の球の体積) ÷ 8( nx , ny , nz が全て
正の象限),最後の2はup,downの2つのスピン状態による自由度の数である。
多電子の系で電子に相互作用がはたらかないとき,電子全体の量子状態は上記の分布で決まる。
このようなモデルは電子の理想気体モデルとよばれる。後述のように,室温付近の温度では,状態を
移ることができる電子の数が極めて限られており,このモデルが有効であるとされている。
絶対零度では,系はエネルギー最低の状態にある。電子の理想気体モデルに基づく電子数 N の
系では,上記のエネルギー 0 ∼ εF の量子状態のみが占められることになる。以下のように表される絶
対零度でのエネルギーの上限 ε F をフェルミエネルギー,温度に換算した量 TF = εF / kB をフェルミ温
度と呼ぶ。
εF =
1 h 2 2
h2 3N 2 / 3
( ) nF =
(
)
2me 2L
8me πL3
銅を想定して,平均原子間距離 ℓ = L / N 1 / 3 ∼ 0.2 nm, me = 9.10938356 × 10-31 kgとすると,
TF ∼ 8 × 104 Kとなり, TF が数万K程度の非常な高温となることが分かる。
TF よりも遙かに低い室温( T ∼ 300 K)付近の有限温度では,パウリの排他原理により,上限エネル
ギー近傍( ∼ εF ≫ kBT )の状態にある電子のみが,より高いエネルギーにある空いた状態に移ること
ができる。 ε F 近傍のエネルギー範囲 kBT にある電子が各々 kBT の熱エネルギーを分配されて状態
を移るとき,エネルギーの総和は u ∝ (kBT )2 となり, c = (∂u / ∂T ) ∝ T のように比熱 c が温度に比例す
る。この比熱を電子比熱と呼ぶ。
補1) 共鳴子によるプランクの法則
プランクにより共鳴子と名付けられた荷電粒子の調和振動子が輻射場と熱平衡にあるとき,固有
振動数 ν の共鳴子のエネルギーは,同じ周波数 ν の一つの定在波のもつ平均エネルギーと一致す
る。そこで,空洞内輻射場の平均エネルギー密度を,共鳴子のエネルギーによって表すことができる。
すなわち,輻射光エネルギーの量子化 ε = nhν を仮定した先述の導出とは異なる立場から,共鳴子
(調和振動子)エネルギーの量子化 ε = nhν により,プランクの法則を導出できる。
共鳴子のつくる輻射場の平均エネルギー密度
電荷 q ,質量 m ,固有角振動数 ω0 の調和振動子を共鳴子と名付ける。
加速運動する荷電粒子が放射する電磁波の全エネルギーの流れ,すなわち単位時間あたりに放射
するエネルギー(パワー P )に関するラーモアの公式が以下の通り成り立つ。
P = γ 0(
dv 2
)
dt
γ0 =
q2
6πε0c 3
7
このとき,共鳴子が電磁波を放射する際に行う仕事と,その反発力としての減衰力 F について,
∫ Pdt + ∫ Fdx = 0
ただし,周期運動中の v = 0 となる2点間で積分
∫ Fvdt = ∫ Fdx = −γ 0 ∫ (
dv 2
dv
d 2v
d 2v
) dt = −γ 0 ∫ [d( v) − 2 vdt] = γ 0 ∫ 2 vdt
dt
dt
dt
dt
d 2v
= γ 0ɺɺɺ
x
dt2
電磁波を放射しながら,輻射場 E に駆動される共鳴子の運動方程式と,その解は以下となる。
∴ F = γ0
ɺɺ = −mω0 x + F + qEx
mx
2
Eωx = Aω exp[iωt]
q 2ω02
γ=
6πε0c 3m
x = Bω exp[iωt] ∼
qAω
1
exp[iωt]
ω[ω0 − ω − iγ /2] 2m
qAω
γ
= −ω2Bω + ω02Bω − i 2 ω3Bω ∼ [ −ω2 + ω02 − iγω]Bω ∼ [ω0 − ω − iγ /2](2ωBω )
ω0
m
1.0
1
qAω
γ/ω
ωBω ∼
0.2
ω0 − ω − iγ /2 2m
0.1
右図のように ω0 ≫ γ では, ω Bω が ω ∼ ω0 で鋭いピークと
なるため,上のように近似できる。荷電粒子が電子の場合,
γ/s
−1
−1
≅ ω0 /1.6 × 10 となり, ω ∼ ω0 ≪ 1.6 × 10 s あるいは,
2
23
23
0
γω|Bω| /(qAω/m)
∵
γ
qEx
ɺɺ + ω0 x − 2 ɺɺɺ
x
x=
ω0
m
2
0.05
0.05
0.5
0.0
0
1
ω/ω0
2
λ ∼ λ 0 ≫ 1.2 × 10−8 µm であればよい。γ線よりも低周波数の電磁波が該当する。
周波数 ν に連続的な分布のある電磁波は E = ∫ Aω exp[iωt]dν (周波数成分の逆フーリエ変換)によ
り表され, Aω は単位周波数当たりの振幅として定義される。このとき,各周波数の電磁波により駆動
され,輻射場と熱平衡にある固有角振動数 ω0 の共鳴子のエネルギー ε ω0 は, ν = ω /2π に関する積
分として以下のように表される。
∞ 1
dω m q 2 ∞
Aω2
q2
2 ∞ dy
ε ω0 ∼ ∫ ( mω2Bω2 )
( )∫
d
ω
Aω0 2 ∫ 2
∼
∼
2
2
0 2
2π 4 π 2m 0 (ω − ω0 ) + (γ /2)
16πm
γ −∞ y + 1
=
q2
q 2 6πε0c 3m
2
πc 3 3ε0
2
Aω0 2 π =
A
=
(
Aω0 2 )
ω0
16πm
γ
8m q 2ω02
2ω02 2
一方,角振動数 ω0 の輻射場の平均エネルギー密度 uω0 は,以下のように表される。
3ε0
Aω0 2
2
そこで,固有角振動数 ω0 の共鳴子のエネルギー ε ω0 と,角振動数 ω0 の輻射場の平均エネルギー密
uω0 = ε0 Eω0 2 = 3ε0 Eω0 x2 =
度 uω0 との関係と,それを周波数 ν = ω0 /2π の関数として表したものは,それぞれ以下のようになる。
ε ω0 dω0 =
πc 3
uω dω0
2ω02 0
uν dν =
8πν2
ε ν dν
c3
上の uν の表式は先に空洞内の定在波として求めたものと完全に一致し,固有周波数 ν の共鳴子の
エネルギー ε ν は,同じ周波数 ν の一つの定在波のもつ平均エネルギーと一致する。
(参考) 砂川重信 「理論電磁気学」 紀伊國屋書店,第9章 (ISBN:4314008547)
太田浩一 「電磁気学の基礎Ⅱ」 東京大学出版会,第14章 (ISBN: 4130626140)
8
共鳴子によるプランクの法則
1) 固有振動数 ν の共鳴子が量子化されたエネルギー ε = nhν をとると仮定する。このとき, M 個の
共鳴子からなる系が熱源から総エネルギー U を受け取り,状態数 W の状態にあるとする。 hν を単位
とする共鳴子エネルギーの量子化により, U = Nhν = ε M の関係があり,系全体の状態数 W は,
N 個の hν を M 個の共鳴子に配分する分け方の総数で与えられる。
M , N ≫ 1 であり,スターリングの近似式 ln n ! ≃ n(ln n − 1) を用いることで,
(N + M − 1)!
N !(M − 1)!
S
∼ (N + M ) ln( N + M ) − N ln N − M ln M
kB
ε
ε
ε
ε
S
N
N
N N
= ( + 1) ln( + 1) −
ln
=(
+ 1) ln(
+ 1) −
ln
kBM
M
M
M M
hν
hν
hν hν
W=
∴ ln W =
1 ∂S
1
1 ∂S
1 ∂S
1
hν
=
から,
=
=
=
ln(1 +
) の関係が得られる。整理すると,
T ∂U
kBT kB ∂U kBM ∂ ε
ε
hν
hν
ε =
exp[hν / kB T ] − 1
であり,
2) 上の共鳴子集団についてのボルツマン分布から平均エネルギーを直接計算することでも,離散
的エネルギー状態 ε = nhν にあるときの平均 ε を求めた先述の表式がそのまま得られる。
U = hνN = hν∑ i=1 ni について,
M
PU ∝ W exp[ −
∞
U
∑
=
∑
∑
∴
∞
N =0
∑
M
i =1
ni ] = W ∏ i=1 exp[−
M
hν
ni ]
kB T
U W ∏ i=1 exp[ −(hν / kB T )ni ]
M
N =0
∞
∑
U
hν
] = W exp[ −
kB T
kB T
W ∏ i=1 exp[ −(hν / kB T )ni ]
N =0
M
W ∏ i=1 exp[ −
M
∞
M
∞
hν
hν
ni ] = ∏ i=1 ( ∑ n =0 exp[ −
ni ])
i
kB T
kB T
U W ∏ i=1 exp[−
N =0
M
U = ∑ j =1
M
∑
∞
nj = 0
M
∞
M
∞
hν
hν
hν
ni ] = ∑ j =1 ( ∑ n =0 hνnj exp[ −
nj ])∏ i≠ j ( ∑ n =0 exp[−
ni ])
j
i
kB T
kB T
kB T
hνnj exp[ −(hν / kB T )nj ]
∞
= ∑ j =1 ε = M ε
M
∑ exp[−(hν / k T )n ]
∑ nhν exp[−(nhν / k T )] =
hν
=
∑ exp[−(nhν / k T )] exp[hν / k T ] − 1
nj = 0
B
j
∞
ただし, ε
B
n =0
∞
n =0
B
B
補2) 古典系の断熱定理 → 断熱不変量の量子化 → 調和振動子のエネルギー量子化
古典系の周期運動における準静的断熱変化時には,一定に保たれる量(断熱不変量)がある。断熱
不変量が量子化されることで,調和振動子ではエネルギーが ε = nhν のように量子化され離散的とな
ることが示され,上記の共鳴子のエネルギー量子化につながる。周期運動に関する断熱不変量の量
子化はボーアの原子模型の根拠ともなる原理である。量子論は,エネルギー量子化仮説から始まり,
光量子や物質波の仮説,周期運動に関する量子化条件を経て,量子力学へと発展した。
9
古典系の断熱定理: 調和振動子のように,相空間 (q , p ) 内での軌道が閉軌道となる周期運動につ
いて,準静的断熱変化ではJ =
∫ p dq が一定に保たれる。J は断熱不変量と呼ばれる。
(証明)
(参考) 朝永振一郎 「量子力学I」 みすず書房(ISBN:4622025515)
調和振動子の場合のように,エネルギー E が運動エネルギー p2 / 2m と位置エネルギー V (q ) の和と
して書けるとき,単振動のバネ係数や振り子の長さのように,外部からの操作により変えることのでき
るパラメータ a の関数として,位置エネルギー V (q , a) が与えられているとする。
p 2 mω2q 2
p2
E=
+
=
+ V (q , a )
2m
2
2m
一般化して, α = α(a(t)) , ω = ω(a(t)) として,
αp2 ω2q 2
∂H
∂H
H=
+
qɺ =
pɺ = −
2
2α
∂p
∂q
運動の周期を P とし,準静的断熱変化としては,パラメータ a を無限にゆっくりと変化させる。
つまり, a が1周期では殆ど変化せず,(無限に長い)長時間 T 後に有限量変化する状況を考える。
da ∆a
da
P
da
∴ 有限値 ∆a ∼ a で
=
とすると, T → ∞ ( T ≫ P )で, P = ∆a ≪ a , T = ∆a < ∞
dt T
dt
T
dt
このとき,1周期の間, a を t = τ で固定して得られる閉軌道での J (τ) =
∫ p(q (t), E (τ), a(τ)) dq につい
て, lim[J (T ) − J (0)] = 0 を示す。
T →∞
まず, E (τ) = H (q (t), p(t), a(τ)) ,すなわち, p(t) = p (q (t), E (τ), a(τ)) であるので, τ の変化に伴い,
dp
∂p dE ∂p da
= ( )a
+ ( )E
と表され,
dτ
∂E dτ
∂a dτ
δJ
=
δτ
δp
∂p
∫ δτ dq = ∫ [( ∂E )
a
 ∂p
∂H
dt
( ∂E )a = 1 /( ∂p )a = dq

∂H
∂H
∂H dt
 ∂p
) p /(
) a = −(
)p
( ) E = −(
∂
a
∂
a
∂
p
∂
a
dq


∂H
∂H (q ( t), p ( t ), a( τ))
ただし, (
)p =
∂a
∂a( τ)

δE
∂p δa
+ ( )E ]dq
δτ
∂a δτ
∂H da ∂H da
 dE ∂H dq ∂H dp ∂H da
ɺ ɺ − qp
ɺɺ +
=
 dt = ∂q dt + ∂p dt + ∂a dt = pq
∂a dt
∂a dt
δJ
δE
∂H δa

= ∫[
−(
) p ]dt

δτ
δτ
∂a δτ
∴ δE = ∂H (q ( τ), p( τ), a( τ)) δa =  ∂H  δa
 δτ
∂a( τ)
δτ  ∂a  τ δτ
δJ δa
1
∂H
δa
∂H
 ∂H 
 ∂H 
=
P {
− ∫(
) p dt} =
P {
−
}


δτ δτ
∂a
δτ
∂a
 ∂a  τ P
 ∂a  τ
∴ J ( T ) − J (0) = ∫
T
0
δJ
δa
∂H
δa
T  ∂H 
∂H
 ∂H 
dτ = ( P ) ∑ {
−
} ∼ ( P ) ( ){
−
}


δτ
δτ
∂a
δτ
P  ∂a  τ
∂a
 ∂a  τ
右辺内, (δa / δτ)T = ∆a は T → ∞ でも有限値に留まる。一方, [ ∂H / ∂a ]τ − ∂H / ∂a は, (∂H / ∂a) に
ついて t を τ で固定したときの値と,1周期 τ ∼ τ + P 間で平均した値との差である。周期軌道であるこ
とから,この差は τ の周期関数となるが,固定する τ の取り方についても軌道の周期 P 当たりで平均
を取るべきであり,そうすると [ ∂H / ∂a ]τ − ∂H / ∂a はゼロとなる。すなわち,J は一定であるといえる。
10
(単振り子の例)
単振り子の紐を小さな穴を通して無限にゆっくりと引き上げることで,単振り子の紐の長さ L を準静的
断熱変化させるとき, θ = A sin ωt ,ただし, ω = 2πν = ( g / L)1 / 2 と表される単振り子の運動について,
以下の関係がある。

θ = − mg sin θ
⇒
mLɺɺ
θ ∼ − mg θ
運動方程式 mL ɺɺ

1
1
1
1

2
E ∼ mL2 θɺ 2 + mgLθ2 = mgLA2
エネルギー E = m(L θɺ ) + mg L(1 − cos A ) ⇒
2
2
2
2

1

F = mL θɺ 2 + mg cos θ
⇒
F ∼ mL θɺ 2 + mg (1 − θ2 )
 紐の張力
2
1
1
a) そこで, H = mL2 θɺ 2 + mgLθ2 であり,
2
2
1
1
3 1
∂H
= mL θɺ 2 + mgθ2 = mgA2 cos2 ωt + mgA2 sin 2 ωt = mgA2 ( − cos 2ωt)
∂L
2
2
4 4
∂H
1
3
1
 ∂H 
2 3
2
2
 ∂L  − ∂L = mgA ( 4 − 4 cos 2ωτ) − 4 mgA = − 4 mgA cos 2ωτ

τ
となり, [ ∂H / ∂L]τ − ∂H / ∂L が固定した時間 τ の周期関数となるが, τ の取り方について軌道の周
期 P 当たりで平均すればゼロとなり,J =
∫ p dq 一定であるといえる。
b) 調和振動子一般について以下の関係が成り立ち, J = E / ν となる。
1
1 2
E = kx2 +
p = x′2 + p′2
2
2m
1 1/2
1 k 1/2
 k 1/2
( 2 ) dx ( 2m ) dp = 2 ( m ) dxdp
dx′dp′ = 
rdθ dr = E 1 / 2dθ dE 1 / 2 = 1 dθ d (E 1 / 2 )2 = 1 dθ dE
∵ x′2 + p′2 = r 2 = (E 1 / 2 )2

2
2
m
2π
E
J = ∫ p dx = ∫∫
dxdp = 2π ( )1 / 2 ∫ dE =
dE =
∫
Ec
E ≤ Ec
k
ω
ν
c) 単振り子の紐の長さの準静的断熱変化時に, E / ν が一定に保たれることは,以下のように直接確
認することができる。
1 P
1
δE = − F δL + mg δL = − ∫ [mL θɺ 2 − mgθ2 ] dt δL
0
P
2
2
mgA P
1
1
=−
[cos2 ωt − sin 2 ωt )] dt δL = − mg A2 δL
∫
0
P
2
4
δE
1 δL δω δν
E
ν δE − E δν
=−
=
=
δ( ) =
=0
E
2 L
ω
ν
ν
ν2
d) 共鳴子によるプランクの法則を導出する際のエントロピー S は < ε > / ν の関数として表された。調
和振動子の準静的断熱変化で,エントロピーと共に, ε / ν が一定に保たれる(断熱不変量となる)こと
に対応している。
11
断熱不変量J と状態数 W
準静的断熱変化で一定に保たれる断熱不変量J は,相空間内でエネルギー一定の閉じた軌道で
囲まれる面積に相当し, J Ec =
∫
Ec
p dq = ∫∫
E ≤Ec
dq dp のように表される。
また,1自由度 (q , p ) 系のエネルギー ε ∼ ε + δε の状態数は, W ∝ ∫∫
ε≤ε≤ε+δε
dq dp のように表される。
そこで,エントロピーと同様に,この状態数 W ∝ J ε+δε − J ε も準静的断熱変化では変化せず,エントロ
ピーが状態数で表されるとするボルツマンの関係式 S = kB ln W の根拠となる。
前期量子論におけるボーアーゾンマーフェルトの量子化条件
断熱不変量J について,以下のように量子化されるとする。
J=
∫
p dq = ∫∫
E ≤ Ec
Ec
dq dp = nh
(n = 1, 2,⋯)
これを,変数分離が可能な多重周期運動の場合も含めて,ボーア-ゾンマーフェルトの量子化条件
と呼ぶ。J が断熱不変量であることから,準静的断熱変化では量子数 n は変化(ジャンプ)しない。
1自由度系の状態数 W についても, h で量子化されることになり,個数が数えられる対象となる。
dq dp
W = ∫∫
=n
(n = 1, 2,⋯)
ε≤ε≤ε+δε
h
また,区別できない同種粒子 N 個の系では,以下のように表される。
dq1dp1 ⋯ dqN dpN
ε≤ε≤ε+δε
N !h3 N
W = ∫∫
極微の状態としての相空間の面積 dq dp には区別可能な最小単位 h が存在することを意味する。
相空間に区別可能な最小単位が存在することで,系がエネルギー ε をもつときの W の積分表示は,
上式のように,必ず有限のエネルギー幅 ε ∼ ε + δε をとることになる。ただし,マクロな系に関する計算
結果は δε の取り方には依らない。
例1) 壁に挟まれた空間を1次元的に往復運動する自由粒子や,水素原子核(陽子)の周りを一定
の運動量で等速円運動する電子(ボーアの原子模型)では,量子化条件から,粒子(電子)のド・ブ
ロイ波 p = h / λ が n =
∫
Ec
( p / h) dq =
∫
Ec
dq / λ の関係にある。すなわち,壁間の往復運動や,等速円
運動の軌道一周が,ちょうど波長の n 倍となり,定在波として波動が閉じることになる。
自由粒子では,壁間往復運動の量子化条件 n = 2L / λ から, ε = p 2 / 2m = ( nh / 2L)2 / 2m となり,
上述の金属結晶固体中の自由電子のエネルギーに相当する。
ボーアの原子模型では,円軌道の場合の量子化条件 n = 2πr / λ と,等速円運動の力のつり合い
mv 2 / r = e2 /( 4 πε0 r 2 ) から, ε = mv 2 / 2 − e2 /( 4 πε0 r ) = −me4 /[8( ε0 nh)2 ] となり,水素原子のエネルギ
ー準位(発光・吸収の線スペクトル)を説明できる。
例2) 調和振動子では,量子化条件から, J = ε / ν = nh ,すなわち,共鳴子によるプランクの法則の
導出で仮定したように, ε = nhν と,エネルギーが量子化される。
12