当院救急室から入院となった 症候性低Na血症の特徴

当院救急室から入院となった
症候性低Na血症の特徴
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
内科
錦織
宇史
池田
守登
仲里
信彦
背景・目的
• 当院の救命・救急センターは、年間約35,000人(成人約15,000人)の救急患者が
受診する。その内、入院患者は約6,000人(成人約4,000人)である。
• 成人の内因性疾患による救急室経由の入院は、高齢者の増加とともに大きな割合を
占めるようになっている。その中にしばしば種々の電解質異常症を経験し、特に低
Na血症が多いとされる。入院患者および外来患者における低Na血症(血清
Na<135mEq/L)の有病率はそれぞれ22∼42%と4%と報告がある1)。
• 救急診療レベルにおいて症候性低Na血症を来した患者に関する報告は少ない。さら
に、低Na血症の原因により急性期の治療方針も異なってくる。
• 今回我々は、当院の救急室から血清Na125mEq/L以下の症候性低Na血症にて入院
となった患者の特徴を検討した。
方法
• 2006年4月から2016年3月までに血清Na125mEq/L以下で低Na血症に伴う症状を呈し入院
となった成人患者のカルテレビューを行った。同一入院患者は除外した。
SIADHの定義(厚生労働省間脳下垂体機能障害に関する調査研究班
によるSIADHの診断基準2))
•
•
•
•
•
血漿浸透圧< 280mOsm/kgH2O
尿浸透圧>300mOsmもしくは尿浸透圧>血清浸透圧
尿Na>20mEq/L
腎機能正常 Cre<1.2mg/dL
副腎皮質機能正常
水中毒(pure water intoxication)3)
• 尿浸透圧<100mOsm
• 尿Na<20mEq/L
• 多飲多尿の病歴
• 利尿剤なし
SIADH + 水過剰摂取の疑い or 低張液輸液の疑い
• 上記SIADHの要因を満たす(尿浸透圧を除く)
• 上記に加えて、以下のいずれかがあった場合
• 尿浸透圧<血清浸透圧
• 100mOsm<尿浸透圧<300mOsm
• 多飲多尿の病歴やその所見
低Na血症診断アルゴリズム
ADL
性別
不明
女性
25人
56%
人数(%)
2(4%)
全介助
9(20%)
男性
20人
44%
一部介助
2(4%)
32(75%)
自立
0
5
10
15
100
20
来院元
90
80
病院
25
30
35
人数(%)
13(29%)
70
60
50
施設
40
6(13%)
30
20
女性
中央値
82歳
男性
63歳
自宅
26(58%)
0
5
10
15
20
25
30
低Na血症の特徴
血清Na濃度(mEq/L)
人数
平均年齢 SD歳
女性の内訳 人(%)
入院期間
日
低Na血症の原因
125-120
120-115
115-110
110-105
105>
10
16
13
4
2
71.5 13.4
67.4 19.7
73.5 14.5
66 33.2
65 7.1
5(50)
9(56.3)
7(53.8)
3(75)
1(50)
12.1 10.4
16.8 13.8
14.2 8.7
14.5 7.0
32 31.8
人数(%)
計
SIADH
4(40)
10(63)
8(62)
3(75)
1(50)
26(58)
水中毒
1(10)
1(6)
3(23)
1(25)
0
6(13)
嘔吐
1(10)
0(0)
1(8)
0(0)
0
2(4)
副腎不全
0(0)
2(13)
1(8)
0(0)
0
3(7)
MRHE
1(10)
1(6)
0(0)
0(0)
0
2(4)
慢性腎不全
2(20)
0(0)
0(0)
0(0)
0
2(4)
利尿剤
1(10)
2(13)
0(0)
0(0)
1(50)
4(9)
低Na血症の症状
人数(%)
計
意識障害
6(60)
7(44)
6(46)
4(100)
2(100)
25(56)
痙攣
3(30)
2(13)
3(23)
2(50)
1(50)
11(24)
消化器症状(悪心/嘔吐)
5(50)
9(56)
8(62)
2(50)
0(0)
24(53)
食欲低下
5(50)
6(38)
9(69)
0(0)
0(0)
20(44)
精神疾患の合併
人数(%)
計
統合失調症
2(20)
4(25)
4(31)
1(25)
1(50)
12(27)
アルコール依存症
1(10)
0(0)
0(0)
0(0)
0(0)
1(2)
気分障害
2(20)
0(0)
0(0)
0(0)
0(0)
2(4)
その他
2(20)
0(0)
1(8)
0(0)
0(0)
3(7)
精神疾患とSIADH
SIADHの原因
精神科疾患無し
非SIADH
SIADH
不明
19%
p=0.8
抗精神病薬
46%
呼吸器感染症
15%
SIADH
精神科疾患有り
非SIADH
中枢神経疾患
12%
人
抗てんかん薬
8%
0
5
10
15
20
25
精神科疾患有り
精神科疾患無し
SIADH
10
16
非SIADH
8
11
30
まとめ
• 文献では、救急外来及び救急搬送される患者の3 6.5%に低Na血
症が存在すると言われている。特に高齢患者では体液量調整能の
低下があるため患者の約10%が低Na血症をきたしていると言われ
ている1)3)4)5)10)。
• さらに高齢者の低Na血症患者の約60%がSIADHと診断される
1)6)7)。
• 低Na血症は軽度の場合は無症状の場合が多いが、重症化に伴い全
身 怠感、消化器症状、意識障害・痙攣へと症状が進行すると言
われている3)4)8)9)。
血清Na濃度と臨床症状
血清Na濃度
臨床症状
130mEq/L
無症状なことが多い
120-130mEq/L
軽度の虚脱感や易疲労感
110-120mEq/L
精神錯乱、頭痛、悪心、食欲不振
110mEq/L以下
痙攣、昏睡
SIADHの原因疾患および薬剤
中枢神経系疾患
肺疾患
髄膜炎
肺炎
外傷
肺腫瘍(異所性バソプレシン産生腫瘍は
除く)
くも膜下出血
肺結核
脳腫瘍
肺アスペルギルス症
脳卒中
気管支喘息
Guillan-Barre症候群
陽圧換気
脳炎
異所性バソプレシン
産生腫瘍
薬剤
その他
肺小細胞癌
膵癌
ビンクリスチン
クロフィブレート
カルバマゼピン
アミトリプチン
イミプラミン
オキシトシン
外傷
外科手術後
重篤な嘔気
まとめ②
• 当院救急室より入院となった症候性低Na血症の原因は、SIADH
に関連するものが最も多かった。症状は意識障害、消化器症状
がみられ、血清Na濃度が120-125mEq/Lでも痙攣・意識障害
が認められた。
• SIADHの原因としては抗精神病薬の関与が最も多い。特に
SIADHに水過剰摂取が関連した患者と純粋な水中毒を合わせた
患者では、精神疾患を持つ患者が有意に多かった。
• 悪性腫瘍に関連したSIADHは今回のカルテレビューでは見られ
なかった。
研修医に向けて
• 成人の内因性疾患の入院には低Na血症を原因とするものが少な
からず存在する。低Na血症は原因が多岐にわたり、それぞれの
治療が異なる。
• 低Na血症の原因の鑑別に有用である診断アルゴリズムを用いる
ためには、検査結果だけでなく病歴・身体所見も重要となって
くる。
参考文献
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厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班. バ
ゾプレシン分泌過剰症(SIADH)の診断と治療の手引き(平成22年度改訂). 2011
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Pharmacist. 2016, 3.
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植西憲達. 低ナトリウム血症. INTENSIVIST, 2015, 7, p477-492.
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10. 白木正孝. 老年者低Na血症の臨床的研究. 日本老年医学会雑誌, 1979, 16巻.