地域のインフラを支える企業を確保するための 入札契約方式について

特集 公共工事の品質確保と入札契約の適正化 地域のインフラを支える企業を確保するための
入札契約方式について
うえ
しま
あき
ひろ
上 嶋 晃 弘*
近年、防災・減災、公共土木施設の適切な維持管理などの重要性が増しており、将来にわたる公共土木
施設の維持管理や災害対応を担う地元企業の育成・確保は急務であることから、これまでの災害時等の緊
急対応に関する入札契約方式の見直しが必要となった。本稿では、地域維持型建設共同企業体制度を活用
した地域のインフラを支える地元企業を育成・確保するための取組みについて紹介する。
1.はじめに
2.本契約方式取組みの背景
京都市では、災害に強い、安心して住み続けられ
京都市が管理する公共土木施設は、約3,600㎞の
るまちづくりを進めており、土木事務所が中心とな
道路、約520㎞の河川等があり、これらを8つの土
り、市民生活の基盤である公共土木施設の適切な維
木事務所で維持管理している。
持管理に取り組んでいる。
京都市が管理する道路や河川における事故や災害
しかし、公共事業にかかる予算が減少しているこ
等については、基本的には土木事務所の職員が対応
とから、災害対応を含む地域における公共土木施設
しているが、夜間休日や災害時の緊急対応、道路舗
の維持管理を担う企業が減少し、安全・安心な地域
装や小規模なコンクリート構造物の補修等、職員で
生活の維持に支障が生じる恐れがある。
は対応できない工事については、それぞれ工種ごと
そこで、将来にわたる地域における公共土木施設
に企業と年間契約を締結し対応している。
を支える地元企業の育成・確保を目的とする入札契
約方式を導入した。
なる企業と契約するため、災害時等の緊急対応が必
災害時等の
緊急工事
単
しかし、これまでの契約方法では、工種ごとに異
単
舗装
補修工事
単
区画線
設置工事
小規模修繕
(コンクリート
補修)
企業
企業
夜間休日
応急処理
業務
企業
企業
:単価契約
:その都度,設計・積算・見積合せを実施
図-1 平成 26 年度までの契約方法
*京都市 建設局 建設企画部 監理検査課 075-222-3111
32
月刊建設16−10
1
4.入札契約方法
要となった際に、契約工種に応じて複数の企業が同
一現場で対応する場合があり、緊急時に必要な迅速
緊急時の対応では、迅速かつ適切に対応できる技
かつ適切な対応に支障が生じる恐れがあった。
術者や作業員がいつでも出動できる体制を整えてお
また、夜間休日や災害時等の緊急対応に係る工事
くことや応急措置に必要な建設機械を保有している
については、具体的な工事契約が発生するか否か不
こと等、価格以外の要素が重要であることから、総
明な中で、契約先の企業に緊急対応できる体制(作
合評価落札方式による入札を実施している。
業員や資機材の確保)を求めざるを得ないことから、
<価格以外の評価項目>
当該契約については、入札者が非常に少ない傾向に
次の①から④の評価項目を設定し、入札者に必要
あった。
事項を記載した技術資料の提出を求めている。
一方、近年、防災・減災、災害対応を含む地域に
①については、それぞれ記述式による技術資料を
おける公共土木施設の適切な維持管理などの重要性
求め、②から④については、客観的な視点から、緊
が増しており、地域のインフラを支える地元企業の
急時に迅速かつ適切に対応できる企業の能力を評価
育成・確保が急務であったことから、これまでの入
している。
札契約方式を見直すこととした。
①施工上の配慮について(施工計画)
・現場へ急行し即時対応を実施するための体制や工夫
単
災害時等の
緊急工事
【一部】
舗装
補修工事
夜間休日
応急処理
業務
・発注者が想定した緊急工事を実施する場合におけ
区画線
設置工事
る作業手順、留意点及びその対策
②過去5年間に元請として受注し、技術資料提出期
小規模修繕
(コンクリート
補修)【一部】
日までに完成済みの国、地方公共団体、地方道路
公社または高速道路株式会社発注の工事のうち、
代表的な工事の施工実績の工事成績評定点
土木工事+舗装工事
(地域維持型建設共同企業体)
③共同企業体の構成員が雇用する建設業法に定める
:単価契約
監理技術者の合計人数
図-2 平成 27 年度からの契約方法
④
ダンプトラック(積載量2t以上)
、
バックホウ(山
3.新たな入札契約方式の概要
積0.28㎥以上)
、電光表示板付き作業車の保有状況
平成26年度まで工種ごとに企業と契約していた、
夜間休日や災害時の緊急対応、道路舗装やコンク
表−1 総合評価落札方式における評価基準
リート構造物の補修等の工事について、平
成27年度から、地域の実情に精通してい
る地元企業で構成された建設共同企業体
分類
施工計画
評価項目
施工上の配慮
(地域維持型建設共同企業体)と包括的に
契約を締結するとともに、可能な限り単価
(1)
契約化する工種を増やすことで、工事を迅
速かつ適切に実施できるようにした。
平成22年度以降に元請とし
て受注し、技術資料提出期日ま
でに完成済みの国、地方公共団
体、地方道路公社または高速道
路株式会社発注の工事のうち、
代表的な工事の施工実績の工
事成績評定点
配点表
4
80 点以上の場合
80 点以上の場合
(3)
ダンプトラック(積載量2t以
上)の保有
1
の土木工事業の許可業者及び舗装工事業の
(4)
バックホウ(山積 0.28m3 以
上)の保有
1
許可業者の各々1者)により構成するもの
(5)
なお、建設共同企業体との契約について
は、これまでどおり年間契約とし、8つの
土木事務所の所管区域ごとに、2者(市内
とした。
施工能力
(1点)
b共同企業体の構成員のいずれかの工事成績評定点が
1
2
(2)
(4点)
(2点)
(0点)
a共同企業体の構成員の両方の工事成績評定点が
共同企業体の構成員が雇用す
る建設業法に定める監理技術
者の合計人数
企業の
4
評価基準
a記載内容が適切かつ具体的
b記載内容が適切
c記載内容が不適切または不明確
6
(0.5点)
c上記に該当しない場合
(0点)
a30人以上雇用している場合
(2点)
b20人以上30人未満雇用している場合
(1点)
c20人未満雇用している場合
(0点)
a共同企業体の全ての構成員が自社所有またはリース契約
をしている
b上記に該当しない場合
電光表示板付き作業車の保有
加算合計
(1点)
(0点)
1
10
10
月刊建設16−10
33
5.取組みの成果
しないと入札参加できないことに抵抗を示す企業が
⑴ 地元企業の育成
あった。
これまで工種ごとに企業と契約を締結していたも
のを包括的に契約することで、地元企業はさまざま
な緊急対応等の実績を積むことができた。
⑵ 維持補修や災害対応の迅速化
これまで単価契約がなく、補修までに時間を要し
そのような企業に対し、この制度の趣旨を丁寧に
説明することで理解を得ることができた。
7.今後の課題
⑴ 迅速に対応できる共同企業体との契約方法
ていたコンクリート構造物の補修等についても単価
緊急時の対応の際に、契約した企業が速やかに現
契約化することで、公共土木施設の維持補修に関す
場に急行するには、企業の本店、資材置場、担当者
る市民からの要望や災害時における緊急対応等に、
の自宅等が契約した土木事務所管内もしくはその近
より迅速に対応できるようになった。
郊にあることが重要である。
具体的には、これまでコンクリート構造物の補修
災害時において、契約した土木事務所管内への主
は小規模修繕工事として見積合わせを実施し、契約
要なアクセス道路が通行できなくなった場合、現場
締結まで約2週間を要していたが、単価契約化した
到着まで相当な時間を要することで、二次災害を誘
コンクリート構造物の補修については、共同企業体
発する恐れがある。
に即日指示することができるようになった。
⑶ 発注事務の効率化
そのようなことがないよう入札の競争性や発注者
の事務負担に配慮しつつ、入札参加資格要件の設定
夜間休日や災害時の緊急対応、道路舗装やコンク
や総合評価による加点項目の追加など、より迅速か
リート構造物の補修等の工事を包括的に契約するこ
つ適切な対応が可能な共同企業体を選定する契約方
とで、工事の契約件数は、平成26年度には45件だっ
法を検討する。
たものが、平成27年度は12件に減少し、発注事務
⑵ さらなる契約工種の追加
に係る職員の負担を軽減することができた。
現在、舗装やコンクリート構造物の補修、土のう
設置、崩土撤去等、92工種を単価契約化している。
今後も可能な限り単価契約化する工種を増加させ、
あらゆる場面で迅速に対応できるようにする。
8.おわりに
今回紹介した新たな入札契約方式を踏まえ、引き
続き、緊急時の対応のノウハウや体制(作業員と資
機材の確保)を有し、道路や河川等の維持管理や災
害対応を担える地元企業の育成・確保を図る入札契
約方式を研究していきたい。
写真−1 災害発生時における緊急対応の様子
6.苦労した点
地元業界団体に新たな制度の説明をした際に、工
種ごとに企業と契約していたものを包括的に契約す
ることで、年間を通じて施工量を確保できることに
は理解を得られたが、異業種間の共同企業体を結成
34
月刊建設16−10