環境浄化に役立つ微生物 名古屋市環境科学調査センター 環境科学室 朝日教智 はじめに 名古屋市の土壌・地下水汚染判明件数 名古屋市内では毎年、多くの土壌・地下水汚染が判明しています。 本研究は、汚染物質であるVOC(揮発性有機化合物)を無害にする 微生物を環境中から探し出し、浄化対策に活用していくことが目的です。 平成27年度版 名古屋市環境白書 土壌・地下水汚染物質 VOC VOCは元来自然界に存在しない物質で、汚染は全て人為的理由と考えられており、 地中深く浸透する性質ゆえに、地下水層まで達する汚染を引き起こします。 土壌汚染対策法では、数あるVOCのうち11物質が規制対象になっています。 土壌汚染対策法で定められた特定有害物質 土壌・地下水汚染の形態 VOC( 揮発性有機化合物) 重金属汚染 油汚染 重金属等 農薬等 四塩化炭素 カドミウム及びその化合物 シマジン 1 ,2 - ジクロロエタン 六価クロム化合物 チウラム 1 ,1 - ジクロロエチレン シアン化合物 チオベンカルブ シス- 1 ,2 - ジクロロエチレン 水銀及びその化合物 PCB 1 ,3 - ジクロロプロペン セレン及びその化合物 有機りん化合物 ジクロロメタン 鉛及びその化合物 テトラクロロエチレン 砒素及びその化合物 1 ,1 ,1 - トリクロロエタン ふっ素及びその化合物 1 ,1 ,2 - トリクロロエタン ほう素及びその化合物 テトラクロロエチレン トリクロロエチレン シス-1,2-ジクロロエチレン 1,1,1-トリクロロエタン 1,1,2-トリクロロエタン 1,1-ジクロロエチレン 1,2-ジクロロエタン ベンゼン シス体 四塩化炭素 塩素原子 炭素原子 トランス体 トリクロロエチレン VOC汚染 水素原子 ベンゼン ジクロロメタン 1,3-ジクロロプロペン バイオレメディエーション (微生物による環境修復) VOCの浄化には、従来土壌掘削や地下水揚水などの物理的処理が広く用いられてきましたが、 最近ではバイオレメディエーションと呼ばれる浄化微生物による生物的処理が注目されています。 生物的処理 物理的処理 (従来法) 地下水揚水・回収処理 バイオレメディエーション VOC処理技術の比較 従来の物理的処理 土壌掘削 ・ 地下水揚水 土壌ガス吸引など 土壌掘削・回収処理 栄養分など 帯水層 外部の 浄化微生物 バイオレメディエーション 浄化費用 高 エネルギー 大 高濃度汚染 可 低濃度広範囲汚染 不適 浄化期間 短 回収後処理 汚染物質 栄養分など 浄化費用 安 エネルギー 小 高濃度汚染 不可 低濃度広範囲汚染 適 浄化期間 長 直接分解 汚染物質 増殖 活性化 土着の浄化微生物 汚染物質 土着の浄化微生物がいない場合は、 外部で培養した浄化微生物を 投入する方法もあります。 VOCを無害にする脱塩素化細菌の発見 市内汚染サイト等からVOCを無害にする微生物を分離する作業を名古屋大学と共同で行っています。 その結果、河川底質から1,2-ジクロロエタンを完全脱塩素化して無害なエチレンにする嫌気性細菌の一種 ジオバクター属細菌AY株の分離に成功しました(特許第5764880号)。 このAY株は、高濃度の1,2-ジクロロエタンを無害にでき、途中で有害な分解産物も生成しないことから、 有用な浄化微生物としての活用が期待されています。 他にも共同研究では、テトラクロロエチレン脱塩素化細菌などが見いだされています。 (完全脱塩素化) 1,2-ジクロロエタン(有害) 位相差光学顕微鏡写真 電子顕微鏡写真 エチレン(無害) 一度に2つの塩素原子を除去して 無害なエチレンに直接変換する 分解の途中で有害な物質が できない 1200 約100 mg/L 1000 10 7 800 10 6 600 et エチレン 10 5 1,2-ジクロロエタン 400 10 4 細胞数 200 10 2 0 0 0 1 2 3 テトラクロロエチレンを脱塩素化する デスルフィトバクテリウム属細菌 10 8 4 5 6 7 8 9 AY株の細胞数 (細胞数/mL) AY株の脱塩素化の利点 AY株による1,2-ジクロロエタンの分解 1,2-ジクロロエタン,エチレン (μ mol /L) 1,2-ジクロロエタンを脱塩素化する ジオバクター属細菌 AY株 10 経過時間 (日) 浄化微生物を用いた検証実験 現場での実用化を目指し、現在モデル実験による微生物の浄化能力を検証しています。 蛍光顕微鏡写真
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