大阪市南ブロック学会 プログラム

 日時:平成29年2月19日(日) 場所:関西医療学園専門学校 別館4階
大阪市南ブロック学会 プログラム
12演題 1演題につき(発表10分+質疑5分)
時間
12:30
受付開始
大会長 挨拶
13:00
13:10
<座長>
済生会泉尾病院
辻洋文 先生
第1セクション
術側での重錘把持歩行がTHA術後患者の歩行能力に与える影
響
大阪府立急性期・総合医療センター 安田 晴彦 先生
演題番号2 長期経過を辿った不安定型左大腿骨転子下骨折の1症例
吉栄会病院 中村 あゆみ 先生
演題番号3 膝蓋骨骨折術後膝関節屈曲可動域獲得に難渋した一症例
大野記念病院 宮田 涼平 先生
演題番号1
演題番号4
14:10
14:20
<座長>
大阪府立急性期・総合 演題番号5
医療センター
岡原聡 先生
演題番号6
演題番号7
演題番号8
15:20
15:30
<座長>
大野記念病院
鹿山英明 先生
演題番号9
演題番号10
演題番号11
演題番号12
16:30
腓骨骨幹部・遠位端骨折後、knee inにより膝関節内側部痛が
生じ、独歩獲得が難渋した一症例
南大阪病院 松野 諒平 先生
休憩
第2セクション
右中大脳動脈梗塞により重度の高次脳機能障害を呈した症例
のADL向上を目指して
富永病院 坂口 奈津季 先生
右視床出血後の左片麻痺に対し、発症後早期に端坐位自立レ
ベルを獲得した症例の臨床推論について
大野記念病院 中西 悟 先生
失調症状を呈する症例の歩行機能向上への取り組み
大阪発達総合療育センター 佐々木 俊典 先生
重度感覚鈍麻による非麻痺側の過活動が歩容改善を阻害した
脳梗塞患者
南大阪病院 平川 正彦 先生
休憩
第3セクション
屋外杖歩行の実用性向上を目指したが腎機能の低下により
耐久性において目標レベルに至らなかった1症例
吉栄会病院 保田 祐希 先生
座位のリーチ動作に着目し移乗の介助量軽減に繋がった1症
例
吉栄会病院 清水 理沙 先生
右乳房上内側部乳癌による右乳房切除術施行後、皮弁壊死を
生じ右肩関節屈曲・外転可動域制限をきたした一症例
南大阪病院 稲川 由里 先生
脊髄損傷によりトイレ動作に多大な介助を要した症例に対する
関わり
富永病院 久保 繭子 先生
終了 会場整理
第 7 回大阪南ブロック新人症例発表会
術側での重錘把持歩行が THA 術後患者の歩行能力に与える影響
安田 晴彦
大阪府立急性期・総合医療センター
【はじめに】
今回、THA 術後 2 名の患者に対し術側上肢で重錘把持させ歩行練習を行った結果、介入後の歩行能力
に変化がみられたため、ここに報告する。
【症例紹介】
A は 50 代後半の女性で身長 157.8 ㎝、体重 48.2 ㎏、変形性股関節症により左 THA を施行した。B は
70 代後半の女性で身長 152.0 ㎝、体重 51.0 ㎏、変形性股関節症により右 THA を施行した。いずれも入
院前 ADL は自立しており独歩可能であった。両症例共に術後翌日より理学療法開始し、術後 9 日目より
独歩見守りにて歩行可能となり、術後 16 日目に退院された。尚、症例には発表の趣旨を十分に説明し同
意を得た。
【方法】
介入方法として、独歩見守りにて歩行可能となった翌日に通常の理学療法を実施後、体重の約 2%に相
当する重錘を術側上肢に把持して 10m の歩行を 8 回実施した。また、各 10m の歩行の間に 10 秒間の休
憩を設けた。
計測項目は、歩行時股関節内転角度、歩行速度とし、重錘把持歩行の介入前後に計測した。股関節内
転角度の算出は 10m 歩行を前額面よりデジタルビデオで撮影し、術側 Mid stance での股関節内転角度
を imageJ を用いて行った。また、角度の計測は両側の上前腸骨棘を結んだ線への垂直線と術側の上前腸
骨棘と大腿骨外側上顆の結んだ線のなす角とした。歩行速度は最速歩行とし、助走路と減速路をそれぞ
れ 2.5m ずつ設けた 15m のうち、中央 10m の歩行に要した時間から算出した。2 回計測のうち最速値を
採用した。
【結果】
歩行速度に関して A は介入前 1.12m/s、介入後 1.27m/s、B は介入前 1.18m/s、介入後 1.36m/s、股関
節内転角度に関して A は介入前-5.16°、介入後-0.56°、B は介入前-1.36°、介入後-0.04°となった。
【考察】
結果より介入後に両症例共に歩行速度は向上し、歩行時内転角度は立脚期の正常範囲である 4°~7°
へ近づいた。片脚立位時に術側へ体幹が側屈し、かつ骨盤傾斜も起こるデュシェンヌ歩行では、身体重
心は支持面に近づくため左右への重心動揺は大きくなる。今回の介入において、Neumann らによると術
側上肢に重錘を把持して歩行することで前額面上における体重を支持する股関節外転モーメントと同じ
方向のモーメントを産出するため、本来の股関節外転モーメントの発揮量は減少すると報告されている。
このことから、術側上肢に重錘を把持して歩行することで代償動作が減少し、股関節内転角度の変化が
生じたと考えた。また、中村らによると正常歩行ではエネルギー消費からみると振幅を最少にして円滑
に直線方向に進むのが経済的歩行と言われていることから、股関節内転角度の変化がみられたことで左
右への振幅は減少し、直進方向への重心移動が円滑に行われたため歩行速度も向上したものと考える。
第 7 回 大阪市南ブロック新人症例発表会
長期経過を辿った不安定型左大腿骨転子下骨折の 1 症例
○中村あゆみ,藤井良憲 1)
医療法人吉栄会 吉栄会病院 リハビリテーション科
1)医師
【はじめに】
左大腿骨転子下骨折により 3 ヶ月の免荷期間を要し、左股関節に著明な可動域制限、股関節周囲
筋の筋力低下が生じ歩行能力が低下した症例を担当した。可動域の改善に難渋したが、不安定性を
生じていた左立脚中期~後期(以下 MSt~TSt)にステップ動作練習を行う事で歩行動作の安定性向
上へと繋がった為報告する。
【症例紹介】
本症例は、不安定型左大腿骨転子下骨折(Seinsheimer 分類:Ⅴ)を呈した 60 歳代女性である。受
傷から 10 日後 ORIF を施行するも、小転子の転位、過度なスライディングを認め、約 1 ヵ月の完
全免荷後、術後 100 日目に全荷重可能となりリハ継続のため本院へ転院される。なお既往歴に長期
ステロイド内服による骨粗鬆症、心不全がある。
受傷前の動作能力は、基本動作・ADL 全て自立しており、屋内独歩・屋外は自転車を使用してい
た。同居している夫・長男ともに日中不在の為、家事全般を担っていた。
初期評価(110 病日)での基本動作は監視~修正自立レベルであり、T-cane 歩行近位監視、独歩軽
介助~近位監視レベルで、左 MSt~TSt に骨盤後方回旋・体幹前傾の増大、左上肢は常時伸展位で
後方へ固定し、
杖の過剰な押し付けが見られた。10m 歩行テストは T-cane で 23.81 秒・歩幅 37.0cm、
ROM-T は股関節伸展(右/左)-10°/-10°・外旋(右/左)35°/0°、膝関節伸展(右/左)-30°/-25°と制
限を認め、MMT は左股関節屈曲 2・伸展 2・外転 2、左足関節背屈 3、底屈 2 であった。既往歴や
生活環境を考慮した結果、再転倒防止に向け歩行動作能力の向上、ADL 自立が求められた。尚、症
例には発表の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【方法】
125 病日までは左股関節可動域改善に向け侵襲筋である中殿筋の伸張、ROMex を中心に行うも、
可動域改善に難渋し歩行能力向上に繋げることが困難であった。そこで歩行動作で不安定性を認め
た左 MSt~TSt の肢位に合わせステップ動作練習を実施、股関節伸展・外旋を促した筋収縮練習を
実施した。
【結果】
最終評価(150 病日)の ROM は股関節伸展(右/左)-5°/0°、外旋(右/左)35°/5°、膝関節伸展(右/
左)-25°/-20°、MMT では左股関節屈曲 3、伸展 3、外転 3、背屈 3、底屈 2+となり、歩行動作能
力は T-cane 自立、独歩遠位監視レベルとなり、10m 歩行テスト 14.0 秒・歩幅 50.0cm とスピード・
歩幅ともに向上が見られた。
【考察】
介入当初は可動域改善を目指し、
侵襲筋へのアプローチを行うも改善が得られず治療に難渋した。
中間評価より視点を変え、歩行動作の不安定性を呈する要因が可動域ではなく長期臥床による殿筋
群の萎縮、さらには MSt~TSt 肢位での筋力発揮が不十分であるためであると推測した。そこで、
市橋らの報告による特異性の原則を利用し、不安定性を認めた左 MSt~TSt のアライメントで代償
を制御した殿筋群の収縮促通や、視覚的フィードバックを用いたステップ動作練習を行い、アンク
ルおよびフォアフットロッカー機能の強調を実施した。これにより、左 MSt~TSt での安定性が向
上し、歩幅の増加・歩行能力の向上に繋がったと考える。
1
第 7 回 大阪市南ブロック新人症例発表会
〜膝蓋骨骨折術後膝関節屈曲可動域獲得に難渋した一症例〜
○宮田涼平 阪本良太
社会医療法人 寿楽会 大野記念病院
【はじめに】
左膝蓋骨骨折に対して、tension band wiring 固定術(以下 TBW)を施行された患者を担当した。
本症例は一般的な膝蓋骨骨折術後の患者と比較して膝関節屈曲可動域(以下 ROM)の獲得に大幅に
日数を要す結果となった。そこで術後の ROM の経過とその原因及び理学療法アプローチについて
報告する。
【症例紹介】
症例は 70 歳代の標準体型の女性である。受傷前の日常生活動作は全て自立していた。○年×月、
外出時に転倒し左膝蓋骨骨折受傷、3 日後に TBW 施行された。主治医より、膝蓋骨が大きく、膝
関節を屈曲させた際にワイヤーが耐えれるか危惧するため関節可動域訓練
(ROMex)
に制限を設け、
術後 14 日目までは 40°、術後 28 日目までは 90°までの運動とするとの指示があった。術後 2 日
目より ROMex を開始し術後 28 日目まではプラン通りに順調に経過していたものの、ROMex に制
限が解かれて以降、ROM 改善に難渋した症例である。本症例には発表の主旨を説明し同意を得た。
【方法】
方法として、術後の ROM 獲得に対するアプローチと屈曲 ROM の経時的変化を追った。
【結果】
術後 2 日目から 29 日目までは疼痛のない範囲での active assistive での ROMex や摩擦抵抗を軽
減させた状態での自動運動を中心に ROMex を行い、2 日目 40°、7 日目 40°、14 日目 60°、21
日目 90°、28 日目 90°、30 日目の時点で 115°を獲得していた。さらなる ROM を獲得するため
矯正的手技での ROMex・遊脚期の膝屈曲を促すための頻回な運動を追加した。実施した翌日(術
後 32 日目)から膝関節周囲に腫脹・熱感・発赤の炎症症状が増悪し、ROM は 90°に減少した。
直ちに運動強度を軽減させ疼痛のない範囲での ROMex・アイシング等のケアを中心に行った。術
後 42 日目に炎症症状の軽減とともにアプローチの再考を行い、屈曲時の膝蓋骨の下方への動きが
乏しくなっており、その原因として膝蓋上嚢を主とした膝蓋骨周囲の癒着と、大腿直筋・外側広筋・
腸脛靭帯の過緊張の存在を考えたので、それらに対するアプローチを実施した。その後、ROM は、
術後 42 日目 105°、49 日目 115°、56 日目 120°、70 日目 125°と改善していった。
【考察】
本症例は、通常よりも膝蓋骨の厚みが大きいことから、モーメントアームの長さが長くなり、屈
曲させた時の伸展モーメントが増大する症例であった。そのため術後プランにおいて ROMex に制
限が設けられ、拘縮が進行しやすい状況にあった。さらに ROMex を実施するにあたって、屈曲時
の膝前方ストレスが大きくなりやすく、痛みを惹起しやすいケースであった。それにも関わらず、
術後 31 日目に膝前面に余計なストレスを与えるような運動を実施してしまったことが、今回の
ROM 改善を遅らせてしまったことにつながったと考えられた。
1
第 7 回大阪市南ブロック新人症例発表会
腓骨骨幹部・遠位端骨折後、knee in により膝関節内側部痛が生じ、独歩
獲得が難渋した一症例
○松野諒平 1) 井上聖一 1) 山川智之 1)
社会医療法人 景岳会 南大阪病院 診療支援部 リハビリテーション科
【はじめに】
今回、左腓骨骨幹部骨折・遠位端骨折と診断され、保存療法を選択した症例に対しての運動療法
を経験した。理学療法では膝関節および足関節・足部、特に内側広筋(以下 VM)
、膝蓋骨下脂肪体
(以下 IFP)
、後脛骨筋(以下 TP)に着目したアプローチにより、歩行の改善が認められたためこ
こに報告する。
【症例紹介】
本症例は 40 歳代女性である。現病歴は○○年×月に車に衝突され、車と自転車に挟まれ受傷さ
れた。左腓骨骨幹部・遠位端骨折、両下腿三頭筋筋損傷し保存療法が選択した症例である。受傷後
4 日後より理学療法開始した。なお、本執筆に際して患者様にはその内容を十分に説明し同意を得
ている。
【理学療法評価および方法】
理学所見として、4 週のギプス固定後、
左足関節背屈 ROM 右/左は 0°/‐5°、
左膝関節伸展 MMT
右/左は 5/2(extension lag‐5°)
、左足関節底屈 MMT 右/左は 3/2、足部内がえし MMT 右/左は
5/3 であった。疼痛評価では、荷重時痛は左膝関節内側部に Numerical Rating Scale(以下、NRS)8、
下腿後面部に NRS8 であった。圧痛所見は、左 VM、左 IFP、左 TP で NRS8 であった。荷重時期
は、5 週目より 1/3 荷重、6~8 週目より 2/3 荷重~全荷重を開始した。荷重量の増加に伴い、左立
脚期時 knee in-toe out がみられ、VM、IFP、TP に疼痛が出現した。理学療法は、左大腿四頭筋
(特に VM)の筋力増強練習、左 TP のリラクゼーション、左 IFP の柔軟性を促すアプローチを重
点的に実施し、その後、TP の筋力増強練習、歩行練習を実施した。
【結果】
MMT は左膝関節伸展 MMT2 から 4 へと向上し extension lag が改善し、左足関節底屈 MMT2
から 3 へ、足部内がえし MMT3 から 4 と向上した。ROM は左足関節背屈‐5°から 10°と改善し
た。VM、IFP、TP の圧痛所見 NRS8 から 2 へと軽減し荷重時痛も膝関節内側部痛 NRS2 と残存
したが下腿後面痛は消失し、独歩獲得し退院された。
【考察】
本症例は、歩行時に距骨下関節の回内、前足部の回内(内側縦アーチの低下)により、下腿外
旋・大腿内旋・内転することでknee in-toe outが出現し膝関節内側部痛が生じていた。石坂らは後
脛骨筋の走行は、収縮時に足底腱膜を足部から後頭側方向へ引き上げることで後足部の回内モーメ
ントを減少させると報告している。また、川野らはknee inにより、膝に外反と下腿外旋力が働
き,膝の内側にある内側側副靭帯、鵞足、膝蓋靱帯内側部が伸張される。宮前らは膝蓋下脂肪体炎
患者では膝蓋腱との間で圧が高くなることが原因となり、膝蓋下脂肪体の疼痛が引き起こされると
されていると報告している。つまり、knee in-toe outにより、VMの伸張、膝蓋腱が伸張されIFP
の圧が高まり、同部位に疼痛が引き起こされたと考えられる。大腿四頭筋(特にVM)の筋力向
上、TPの筋力向上に伴い内側縦アーチが向上しknee in-toe outが軽減されたと考えられる。
1
第 7 回 大阪市南ブロック新人症例発表会
右中大脳動脈梗塞により重度の高次脳機能障害を呈した症例の
ADL 向上を目指して
坂口奈津季
医療法人寿会 富永病院
【はじめに】
ADL 自立は身体機能向上だけでなく高次脳機能障害が大きく影響している。今回、身体機能の向
上に反し、動作定着が困難であった症例の ADL 向上に向けた関わりを経験したので報告する。
【症例紹介】
本症例は前頭葉を含む広範囲の右中大脳動脈梗塞を発症した 50 歳代後半の男性である。病日 45
日目から回復期病棟で担当を開始した。初期評価時、Japan Coma Scale(以下 JCS)Ⅰ-1、高次脳機
能障害として注意障害、左半側空間無視、病態失認を認め Behavioural inattention test(以下 BIT)
は 41 点であった。身体機能として、Brunnstrom recovery stage(以下 BRS)はすべてⅡレベルで感
覚は中等度鈍麻、麻痺側下肢のクローヌスが著明に出現。全動作で非麻痺側上肢優位であり、連合
反応が著明で転倒傾向が高かった。Functional Independence Measure(以下 FIM)は 61 点(運動項
目 36 点、認知項目 25 点)で日中臥床傾向であり自発性・表情変化は乏しかった。尚、症例には発
表の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【方法】
理学療法では上肢を管理した両側運動や基本動作練習の中で肩甲帯から腹部、殿筋群の筋活動を
賦活し、立ち直り反応を促した。また、視覚遮断し麻痺側下肢に注意を絞り、荷重感覚入力を行っ
た。身体機能の向上に合わせて病棟での関わりとして、看護師とともに先行的な声掛けの統一や動
作の言語化、車椅子管理や環境設定による動作定着を図った。ADL 場面においても上肢管理や麻痺
側への積極的な荷重を促すように動作方法の統一を図った。さらに、自主トレーニング指導や積極
的な車椅子自操、家族への ADL 指導を行い、他者との関わりを増やした。
【結果】
病日 123 日目、JCSⅠ-1、BRS 下肢Ⅲに改善。身体機能として麻痺側への意識的な荷重が可能と
なり、非麻痺側上肢優位な動作が減少し、連合反応が減弱した。BIT は 95 点に改善。FIM は 85
点(運動項目 59 点、認知項目 28 点)となり、トイレ動作・移乗動作・杖歩行見守り、車椅子自操自
立となった。車椅子管理は可能となっているが環境により定着は困難であった。自発性の向上や自
己発言が増え、笑顔も見られるようになった。
【考察】
病棟での車椅子自操により左空間の認識が向上、車椅子管理・移乗動作の言語化、先行的な声掛
けによって注意喚起が促されたと考える。さらに、身体機能の改善や自主練習の実施により意欲や
自発性が向上したことも ADL 向上に大きく関与したと考える。しかし、車椅子管理は不十分であ
り、身体機能や自発性の向上、病態失認や性格面が相まって病棟での転倒リスクが高まり転倒回数
が増えたが軽減傾向にある。本症例を通して「している ADL」の向上には高次脳機能障害の影響が
大きく関与し、身体機能の向上を目指すとともに病棟での統一した関わりや家族との関わり、環境
設定が重要であると考えた。
1
第 7 回 大阪市南ブロック新人症例発表会
右視床出血後の左片麻痺患者が、発症後早期に端坐位自立を獲得
した症例の臨床推論について
○中西悟,小原滉平、金澤壽久
社会医療法人 寿楽会 大野記念病院
【はじめに】
右視床出血発症後早期に端坐位安定性の向上を認めた理学療法について検討し、若干の知見を交
えて報告する。
【症例紹介】
50 代男性、第 3 病日から理学療法を実施、第 27 病日で回復期病院へ転院となった右視床出血に
より左片麻痺を呈した症例である。尚、症例には発表の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【方法】
PT 開始 1 日目の評価では、精神機能、認知機能面は問題なし。初期評価は Stroke Impairment
Assessment Set 36 点で運動機能、感覚、視空間認知が主に減点項目であった。麻痺側手指・上下
肢は Brunnstrom recovery stage test(以下 BRS)上肢‐Ⅰ手指‐Ⅰ下肢‐Ⅰと完全弛緩性麻痺を認
め、表在感覚・深部感覚ともに、麻痺側体幹重度鈍麻、麻痺側上下肢脱失を認めた。
端坐位は物的支持なしでは正中位保持困難であり、麻痺側への転倒傾向を認めていた。静的座位
アライメントは、頸部屈曲位、胸椎後彎、体幹は麻痺側へ軽度側屈し、麻痺側肩甲帯下制、骨盤は
後傾位を呈していた。
口頭指示にて正中位への修正は可能であったが、
常時体幹の前後動揺を認め、
正中位での最大保持時間は 30 秒であり、非麻痺側上下肢に、いわゆる pusher 現象を認めた。
理学療法は、視覚フィードバック強化目的に点滴棒を利用した正中位保持練習、体性感覚フィー
ドバックを目的とした非麻痺側への重心移動練習と knee brace、SHB 装着下での歩行練習と段差
昇降を中心に実施した。
【結果】
PT 開始 10 日目に、麻痺側下肢 BRS stageⅢ、となり随意性改善と視空間認知改善が認められ
たが、麻痺側上肢・手指の随意性と麻痺側上下肢の感覚障害は改善が認められなかった。端坐位ア
ライメントは、頸部中間位、胸椎後湾、体幹正中位、骨盤前傾位保持可能へと改善を認め、同時に
pusher 現象も消失し、端坐位自立レベルを獲得した。
【考察】
CT 画像より内包後脚上 1/3 に血腫を認めており、顔面・上肢の支配域である皮質脊髄路は強く
圧迫を受けていたが、下肢・体幹の支配域は圧迫が軽度であり、顔面・上肢機能より予後良好であ
ると推測し、PT を開始した。
この時期は、回復期メカニズムの残存している皮質脊髄路を刺激し、その興奮性を高めることで
麻痺の回復を促進するいわゆる 1st stage recovery の時期であり、端坐位安定性向上には麻痺側下
肢の随意性向上、荷重下での麻痺側下肢抗重力筋群の筋収縮コントロールの促進、非麻痺側上・下
肢の skill control 向上が必要であると考え、knee brace、SHB 装着下にて麻痺側下肢の荷重練習、
視覚フィードバックを利用した正中保持練習と非麻痺側への重心移動練習にて感覚入力を積極的に
促していった。その結果 corticospinal excitability を刺激し、麻痺側下肢随意性向上、非麻痺側下
肢および体幹の skill control 向上が早期に認められたものと推測された。
画像所見(CT)より障害部位の予後予測を行い、改善可能と思われる障害の予後予測をたて、急
性期から積極的に PT アプローチをすすめ、適切な理学療法の提供と動作指導を行うことで早期に
動作能力向上を獲得できたと考えられた。
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第 7 回 大阪市南ブロック新人症例発表会
失調症状を呈する症例の歩行機能向上への取り組み
佐々木俊典
大阪発達総合療育センター
【はじめに】
室内歩行自立を目的に 8 週間入院し、退院後も歩行機能が向上した症例について、考察を加え報
告する。尚、症例とご家族には発表の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【症例紹介】
9 歳男児、生後 11 ヵ月時にインフルエンザ脳症を発症した。以後、脳性運動障害を有している。
GMFCSⅢ。自宅内の移動はバニーホッピングである。廊下手すりのつかまり立ち、数歩の伝い歩
きは見守りのもとできるが積極的には行わない。学校内、屋外移動は車椅子を使用している。PCW
歩行は急な転倒のリスク伴うため特定の介助者による見守りを要す。立位は反張膝、足関節外反、
足趾クローイング、ワイドベースで数秒保持可。独歩は数歩行えるが外転・外旋へ振り出し立ち止
まれず、遊脚が測定過大となり、接地初期に膝関節が急速に伸展する。荷重応答期への移行時に後
方への体幹の偏位ともに膝折れを起こし、勢いよく後方へ転倒する。姿勢戦略はパターン化され修
正困難であったため、入院治療による集中したリハビリテーションが計画された。
【方法】
不安定性に対する下肢の固定的な支持パターンが姿勢制御に必要な末梢固有感覚の受容を妨げて
いると仮説を立てた。入院初期は、安定した臥位で足部及び下腿の筋活動を賦活しながら足部のア
ライメントを修正、同時に足底からの固有感覚入力を促通した。入院中盤では治療姿勢を立位へと
移行し、体幹の安定性を高めるアプローチを意識しながら下腿三頭筋、大腿四頭筋、殿筋の収縮を
同時に促通し下肢の協調的な筋活動を引き出した。また、入院生活では足首に 250gの重錘を装着
し、末梢への固有感覚入力の増加とモーメント増加による体幹筋群の筋活動増強を図った。入院後
半には歩行の反復練習、一側下肢の支持を強調させながら前歩きや後ろ歩きを行い、運動方向の調
整に取り組んだ。治療は週 5 回各 1 時間行った。
【結果】
退院時、床から立ち上がり立位を保持すること、歩行では歩隔の狭小化、立ち止まり、方向転換、
しゃがみ込み動作が可能となった。退院後、さらに歩行の安定性が向上し、自宅で独歩の移動が増
え、学校での PCW 歩行の移動が遠位見守りで可能となった。
【考察】
足部のアライメント調整、足底・足部・膝関節周囲筋群の収縮を促通したこと、重錘の日常的装
着により末梢からの固有感覚に対するフィードバック制御システムの形成が促進され、足部、膝、
股関節の段階的な運動コントロールの学習が進んだと考えられる。症例は退院6ヵ月後には教室、
廊下での独歩が見守りで可能となった。下肢の運動の質を調整する歩行練習を積み重ね、固定的な
運動パターンの脱却に至る姿勢調整の基盤を構築できたことが、退院後も機能向上し続ける要因に
なったと考える。
1
重度感覚鈍麻による非麻痺側の過活動が歩容改善を阻害した脳梗塞患者
○平川正彦 1) 井上聖一 1) 山川智之 1)
社会医療法人 景岳会 南大阪病院 診療支援部 リハビリテーション科
【はじめに】
今回、アテローム血栓性脳梗塞・頸部内頚動脈狭窄症により左片麻痺を呈し、重度感覚鈍麻によ
る非麻痺側の過活動が、歩容改善を阻害した症例を経験したので報告する。
【症例紹介と理学療法所見】
本症例は 70 歳代男性である。X 年○月にふらつきを認め頭部 MRI にて急性脳梗塞と診断を受け
る。発症 20 病日に経皮的頸動脈ステント留置術を施行した。他院にて理学療法を開始するが、血
便認め精査と手術目的で X 年△月当院へ転院され直腸癌と診断を受ける。転院後、15 病日に手術
施行となる。当院での理学療法は転院の翌日より開始し、術後理学療法は手術 3 日目より介入再開
した。尚、症例には発表の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【理学療法所見及び方法】
理学所見として、初期評価時の上田式 12 段階片麻痺機能検査では麻痺側上肢・手指 10、下肢 9、
Modified Ashworth Scale は上肢 1、下肢 1、位置覚は脱失(上肢 0/10、下肢 0/10)
、表在感覚は脱
失(0/10)であった。Timed Up & Go (以下 TUG)は 1 分 28 秒、10m歩行は 1 分 40 秒であっ
た。随意運動みられるも、重度感覚鈍麻で十分な麻痺側下肢や体幹の筋出力が得られず麻痺側下肢
の膝折れがみられた。歩行動作は、本人の恐怖心もあり 4 点杖使用して行ったが非麻痺側の過活動
がみられた。上田式では下肢 9 だが麻痺側踵接地時に足関節の底屈・内反が生じ、それに伴い麻痺
側立脚期に過度な踵骨回外が生じ外側への動揺を認める。また、重度感覚鈍麻により麻痺側下肢の
接地位置が分からず、
遊脚から踵接地にかけて時間の延長を認める。
麻痺側の重度感覚鈍麻を認め、
全ての動作において視覚の代償と非麻痺側の過活動がみられた。そのため、視覚からの情報を制限
し、非麻痺側を安定させた中で、足底への体性感覚入力など麻痺側の重度鈍麻に対して重点的にア
プローチを実施した。また、歩行練習は独歩での練習を継続した。
【結果】
転院後 30 病日後には、位置覚(下肢 3/10)
、表在感覚(下肢 3/10)の改善がみられた。歩行動作
において、4 点杖への過剰努力が減少した。踵接地時の足関節底屈・内反は軽度残存するが麻痺側
立脚期の外側への動揺は軽減した。目線は下方を向いたままだが、遊脚から踵接地までの時間が短
縮し歩行速度も向上した。TUG は 57 秒、10m歩行は 1 分 4 秒と改善がみられた。
【考察】
本症例は、重度感覚鈍麻により空間での下肢の位置感覚が不十分なことに加え、踵接地時の荷重
感覚や体性感覚が乏しく、大殿筋、大腿四頭筋、腓骨筋の収縮が不十分になっていると考えられる。
また収縮が乏しくなることで麻痺側の支持性が低下し非麻痺側の過活動を生じさせたと考える。
Ward らは、健側肢を過剰に使うことで健側脳の障害脳に対する抑制が強くなり抑制の不均衡を起
こすと報告している。また、それと同時に非麻痺側の過剰努力は麻痺側の連合反応を引き起こして
いたと考えられる。よって、非麻痺側の過活動を抑制した中で動作訓練を継続したことで麻痺側下
肢の感覚や支持性の向上がみられ歩容の改善に繋がったと考えられる。
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第 7 回 大阪市南ブロック新人症例発表会
屋外杖歩行の実用性向上を目指したが腎機能の低下により
耐久性において目標レベルに至らなかった1症例
保田祐希,藤井良憲1)
医療法人吉栄会 吉栄会病院
1)医師
【はじめに】
第 2 腰椎圧迫骨折受傷後、杖歩行の実用性低下を認めた症例に対し、目標を屋外杖歩行の実用性
向上として介入した。歩行の安全性・安定性向上し杖歩行可能となるも、血液データより腎機能の
低下から運動負荷量を考慮したため、屋外杖歩行の耐久性向上に至らなかった症例を経験したので
報告する。
【症例紹介】
症例は 80 歳代男性。ベッド下の新聞を取ろうとした際、腰痛出現、第 2 腰椎圧迫骨折と診断。
76 病日に当院へ入院となる。既往歴に左大腿骨頭置換術、腰部脊柱管狭窄症、慢性腎不全がある。
受傷前の ADL は屋内伝い歩き、屋外杖歩行自立。毎日 2 回 30 分の散歩をされていた。筋緊張検査
では、両ハムストリングス・左広背筋・右腰背筋が過緊張、両側の腹筋群・左腰背筋の低下が見ら
れた。MMT は、左股関節伸展・両股関節外転 2 であった。立位・歩行ともに右下肢荷重優位であ
り、立位時の荷重比は右 39kg、左 24kg であった。腎機能は、GFR 区分 G3b(中等度~高度低下)
であった。尚、本人には発表の趣旨を説明し同意を得た。
【理学療法経過】
初期では立位・歩行ともに常時体幹右側屈・後屈、左肩関節伸展・内転という姿勢のため、左下
肢への荷重が不十分であった。杖歩行では、左立脚初期~荷重応答期にかけて左中殿筋と左大殿筋
の筋出力低下により左股関節の内転に伴う左下肢への荷重が不十分となった。更に右下肢の振り出
しのため、体幹は右側屈し、右上肢杖支持を強めていた。歩行の耐久性は 15m 程度で血圧の大幅
な上昇が見られ、6 分間歩行は測定不能であった。目標は屋外杖歩行連続 30 分とし、歩行中での左
中殿筋、左大殿筋の出力を向上させるため、左立脚初期~荷重応答期の肢位でのステップ練習を行
った。耐久性向上には 113 病日から連続 15 分程度の屋外歩行を行った。しかし、123 病日の血液
データより GFR 値が低下、GFR 区分 G4(高度低下)と腎機能の低下から運動負荷量を考慮し Borg
スケール 11~13 で 3 分程度の休憩を挟んだ。
【結果】
MMT は、左股関節伸展・両股関節外転 3 と向上し、立位・歩行時の姿勢も改善、荷重比は右 32kg、
左 31kg となった。杖歩行では左立脚初期~荷重応答期にかけて左大殿筋、左中殿筋の筋出力が向
上し、体幹右側屈、右上肢の過剰な支持が軽減され、病棟内杖歩行となった。歩行の耐久性は、屋
外杖歩行 10 分程度で疲労感の訴えがあり受傷前と同レベルの歩行能力には至らなかった。6 分間歩
行は、歩行距離が 202m、Borg スケール 13 となった。
【考察】
本症例において、屋外杖歩行の実用性向上を目的として左立脚期に着目しアプローチを行った。
結果、歩行時の姿勢の改善、右側への不安定性が軽減し、杖歩行の安全性・安定性は向上が見られ
た。しかし、腎機能の低下から運動負荷量を考慮し介入したため、耐久性は目標としていたレベル
には至らなかった。今回、慢性腎不全を有した症例を経験し、内部障害による身体機能面への影響
も考慮することが重要であると再認識した。
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第7回 大阪市南ブロック新人症例発表会
座位のリーチ動作に着目し
移乗の介助量軽減に繋がった1症例
○清水理沙,藤井良憲1)
医療法人吉栄会 吉栄会病院
1)医師
【はじめに】
今回、慢性硬膜下血腫から、既往歴の右片麻痺が増悪した症例に対して、立ち上がり訓練と
座位のリーチ動作を行った結果、麻痺側下肢の支持性向上と体幹機能向上し、移乗動作の介助量
の軽減がみられたため報告する。
【症例紹介】
症例は 70 代男性。自宅にて転倒し慢性硬膜下血腫と診断、同日に血腫穿孔洗浄術施行され
る。状態安定しリハビリ目的で 58 病日に当院入院となる。既往歴にくも膜下出血がある。入院
前は基本動作は中等度〜監視介助レベル、移乗動作は中等度〜軽度介助レベルであった。初期評
価では JCSⅡ−10。Brunnstrom stage(以下 BRS)が右上肢Ⅲ、右手指Ⅱ、右下肢Ⅲであり、
関節可動域は体幹屈曲 10°、右股関節屈曲 90°、右股関節外転 5°、右股関節伸展−15°、右足関節
背屈−20°と制限を認めた。筋緊張検査では、右肩甲帯周囲筋、腹筋群、右大殿筋、右中殿筋、右
大腿四頭筋の筋緊張低下、両側内転筋とハムストリングスの筋緊張亢進を認めた。Functhonal
Reach Test(以下 FRT)では坐位の安全性・安定性が低下しており測定困難であった。基本動
作 に お い て は 、 坐 位 は 軽 介 助 、 立 ち 上 が り 〜 移 乗 は 重 度 介 助 レ ベ ル を 要 し Functional
Indepedence Measure(以下 FIM)は 27 点であった。妻の介護の負担や車椅子導入困難な家屋構
造のため、施設入所で必要な移乗の介助量軽減を目指した。尚、症例と家族には発表の趣旨を十
分に説明し同意を得た。
【理学療法評価および経過】
症例は座位において右肩甲帯下制・内転位、体幹屈曲・左傾斜、骨盤後傾し左後方へ不安定性
が生じていた。また立ち上がりでは、屈曲相で体幹の前傾が不十分であり、殿部離床時に両足関
節背屈による下腿前傾が乏しく、体幹の後傾・右回旋、骨盤右回旋となり、右上肢に連合反応が
生じていた。覚醒向上、座位の安定性向上や麻痺側下肢の支持性向上を目的に、肩甲帯・体幹ア
ライメント修正、体幹の立ち直り訓練、歩行訓練を行った。座位の安定性が向上したため、麻痺側
下肢の支持性向上に加えて体幹機能向上を図る為に、座位の前方リーチ動作と立ち上がり訓練を
行った。座位の前方リーチは骨盤前傾を促し、坐骨部から足部へ荷重を誘導しながら行った。
【結果】
133 病日には JCSⅠ−3、体幹屈曲、右股関節や右足関節の関節可動域は拡大し、右肩甲帯周
囲筋、腹筋群、右殿筋群や右大腿四頭筋の筋緊張も改善した。また FRT も 28 ㎝となり、立ち上
がりの屈曲相で体幹前傾の改善がみられ、移乗は中等度〜軽度介助レベルとなり、FIM は 48 点
に向上した。
【考察】
移乗動作の立ち上がりの屈曲相〜殿部離床相では左後方へ不安定となり、麻痺側連合反応が出
現し、両殿部に介助を要した。荒川らによると FRT が 31 ㎝以上であれば移乗動作が自立する可
能性が高いとの報告がある。本症例は 31 ㎝に達しなかったが、体幹機能と麻痺側下肢への支持
性の改善により、移乗の立ち上がり動作における屈曲相〜殿部離床相の体幹前傾、足部への荷重
が向上し、移乗動作の介助量軽減に繋がったと考える。
第 7 回大阪市南ブロック新人症例発表会
右乳房上内側部乳癌による右乳房切除術施行後、皮弁壊死を生じ右肩関
節屈曲・外転可動域制限をきたした一症例
○稲川由里 1) 井上聖一 1) 山川智之 1)
社会医療法人 景岳会 南大阪病院 診療支援部 リハビリテーション科
【はじめに】
今回、右乳房上内側部乳癌に対して右乳房切除術を施行後、皮弁壊死を生じ右肩関節の可動域制
限をきたした症例の運動療法を経験した。理学療法では、皮膚や周囲筋の癒着予防・可動域訓練を
行った結果、右肩関節可動域改善が認められたためここに報告する。
【症例紹介】
本症例は 60 代女性。両乳房の多結節性腫瘤を認め、精査にて左乳房と右内下部に非悪性、右内
上部に悪性腫瘤あり。右腋窩リンパ節転移を伴う右乳房上内側部乳癌と診断され、X 年◌◌月に右乳
房切除術(腋窩郭清あり、胸筋温存型)を施行された。退院後に創部皮弁壊死を認め、保存的療法
を皮膚科で施行。理学療法は術後 2 日目より開始し、退院後も継続。主婦とパート(スーパーの品
出し)の両立を目指す。なお、本執筆に際して患者様にはその内容を十分に説明し同意を得ている。
【理学療法評価および方法】
理学所見として、術後 2 日目は右肩関節 ROM 屈曲 150°/外転 155°、術創部の伸張痛
Numerical Rating Scale(以下 NRS)5 と腋窩部の知覚異常、恐怖感や不安、大胸筋の過緊張を認
めた。
疼痛のない範囲で可動域訓練を実施。
術後 7 日目には右肩関節 ROM 屈曲 155°/外転 155°、
腋窩創部の伸張痛は NRS2~3、腋窩部の知覚異常は残存していたが、恐怖感は消失し退院。しかし
術後 10 日目に皮弁壊死を認め、右肩関節 ROM 屈曲 130°/100°、腋窩創部の伸張痛 NRS6~7 と
なり、知覚異常も残存。週 1~2 回のペースで計 7 回、乳腺外科の経過観察と皮膚科での皮弁壊死に
対するデブリードメントなどの処置を受けた。リハビリでは壊死部の治癒を阻害しないよう注意し
ながら、創部の癒着予防やリンパ浮腫予防、不動による二次障害の予防を目的とするアプローチを
行い、右肩関節可動域獲得を図った。
【結果】
皮弁壊死組織は癒着なく治癒し、術後 56 日目には右肩関節 ROM 屈曲 170°/外転 170°、術創
部の疼痛 NRS0、腋窩の知覚異常も消失した。リンパ浮腫の出現もみられず、衣服の着脱や洗濯物
干し、棚の上の物などの上げ下ろしも行えるようになり、品出しのパート復帰も果たした。
【考察】
本症例は痩せ型で、皮膚が非常に薄い。創の過緊張と喫煙習慣などが創部皮弁壊死を生じた原因
と考えられている。また、辻らは乳癌の術後に起きうる可動域制限として、一般的に特に制限され
るのは肩関節外転とされており、術創部の皮弁間張力による伸張痛、筋膜剥離や筋侵襲によるスパ
ズム、腋窩郭清による感覚異常などが主な原因とされている。本症例もそれらにより右肩関節の可
動域制限をきたしており、さらに皮弁壊死を生じたことにより創部の治癒が遅れ、癒着や不動によ
る二次的な制限を生じやすい状態であった。しかし壊死組織の治癒の阻害を避けながら、皮膚や侵
襲筋・筋膜の癒着ならびに拘縮を予防し、さらにリンパ浮腫の予防とともに、疼痛のない範囲で肩
関節可動域訓練を行ったことで、右肩関節の可動域改善に繋がったと考える。
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第 7 回 大阪市南ブロック新人症例発表会
脊髄損傷によりトイレ動作に多大な介助を要した症例に対する関わり
久保 繭子
医療法人寿会 富永病院
【はじめに】
中心性脊髄損傷により、四肢の痙性麻痺、感覚障害、失調症を呈し、移乗動作の介助が多大とな
り早朝・夜間においてトイレでの排泄が困難となった症例を担当した。尿便意がある症例に対し、
終日トイレでの排泄を達成するために看護師と綿密に関わる機会を得たのでここに報告する。
【症例紹介】
本症例は自転車での転倒により第 5 頚椎レベルの中心性脊髄損傷と診断された 70 歳代の男性。
保存的療法の後、第 27 病日目に当院回復期病棟へ入棟した。Frankel 分類は C、身長 178cm、体
重 80kg、BMI25(肥満度 1)
、受傷前 ADL は自立レベルであった。分離運動は可能であり、MMT
上下肢 4、感覚は深部・表在とも右半身優位に重度鈍麻、両側手指先端・足趾に痺れを認めた。ROM
制限は体幹左右回旋 10°、左右足関節背屈 5°、腱反射は上肢屈筋優位に亢進を認めた。Functional
Independence Measure(以下、FIM)は 59 点(運動項目:24 点 認知項目:35 点)であった。
長期臥床傾向で車椅子座位の耐久性は約 30 分であった。便座での座位保持は難しく、移乗動作時
は看護師二人でも介助量は多大であり、マンパワーの不足する早朝・夜間はトイレでの排泄を実施
できなかった。症例はそれに対しストレスを感じていた。尚、症例には発表の趣旨を十分に説明し
同意を得た。
【方法】
理学療法では、ストレッチング、リラクゼーションに加え、介助下での座位・立位バランス練習、
介助歩行を実施した。特に立位・歩行場面では抗重力位で足底から固有感覚を刺激し筋出力を促し
た。トイレ動作練習は看護師とともに実施し、介助方法が難しい点を聴取・分析し、カンファレン
スでデモンストレーションを行うことで全スタッフが統一した方法で安全に介助できるよう進めた。
機能の向上に合わせ介助方法を変更し伝達した。ベッド周囲の環境設定としては、身長を考慮した
高さの設定、L 字柵を設置した。離床時間の拡大のために治療終了後や食事前後に車椅子乗車時間
を設けた。車椅子は跳ね上げ式を採用し、褥瘡予防クッションを使用した。
【結果】
第 56 病日目、立位バランスの向上に伴い、移乗動作時の方向転換が軽介助で実施可能となった。
看護師一人で介助が可能となり終日トイレでの排泄を達成することができた。同時期に立ち上がり
動作は物的介助にて見守り、歩行器歩行が軽介助で可能となった。Frankel 分類は D、下肢の感覚
は軽度鈍麻に改善した。FIM は 75 点(運動項目:40 点、認知項目:35 点)となった。一方、MMT、
上肢の感覚機能は著変なく経過し、痺れは残存している。
【考察】
下肢の感覚機能の改善に伴い、運動ニューロンのインパルスが運動器に効率よく伝えられ、運動
単位の動員数、発火頻度の増加により、下肢の筋出力が向上し立位バランスが改善したと考える。
治療場面だけでなく、看護師とともに動作練習、介助方法のデモンストレーションの実施、回復段
階に合わせた介助方法を随時伝達したことが早期にトイレでの排泄を可能にし、他の ADL にも汎
化できたと考える。本症例を通して目標達成するためには他職種との連携の重要性を学んだ。
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