動的肺過膨張による病態と治療

特集
呼吸リハビリテーション:サイエンスからみた将来展望
動的肺過膨張による病態と治療
Pathophysiology of dynamic hyperinflation and treatment in COPD
千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学 矢幅 美鈴 Misuzu Yahaba
千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学助教 川田奈緒子 Naoko Kawata
千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学教授 巽 浩一郎 Koichiro Tatsumi
労作時呼吸困難,エアートラッピング,最大吸気量,1回換気量,呼吸回数
Summary
慢性閉塞性肺疾患
(COPD)では換気需要の増加の際に
が考えられる。中等度以上の気流閉塞を有する COPD
呼吸回数が増加し,その結果エアートラッピングが生じ
患者では ADL 動作においても動的肺過膨張が認められ
肺内の残気量が増加していく。これを動的肺過膨張とい
る。また軽症の気流閉塞の患者においてさえ運動負荷時
う。動的肺過膨張は労作時呼吸困難や運動耐用能低下に
には動的肺過膨張が出現し運動耐用能を低下させうる。
大きく関係している。その要因として肺過膨張による呼
気管支拡張薬はエアートラッピングを軽減し肺過膨張を
吸筋への負荷の増大や吸気筋の機能低下,また最大吸気
減少させることで労作時呼吸困難や運動耐用能を改善さ
量の減少に伴う運動負荷時の1回換気量の増加制限など
せる。
て労作時呼吸困難と運動耐用能の低下
気腫性変化は末梢気道への肺胞接着の
には様々な要因が影響しているが,そ
減少および肺弾性収縮力の低下をもた
のなかでも動的肺過膨張は重要な役割
らす。また末梢気道では気道の炎症を
pulmonary disease;COPD)において労
を占めている 。そのため COPD 患者
反映して炎症細胞の浸潤,気道壁の線
作時呼吸困難と運動耐用能の低下は日
の治療をするうえで動的肺過膨張を正
維化,内腔滲出物による炎症性狭窄が
常動作や quality of life
(QOL)の低下に
しく認識することは必要である。本稿
生じる。この気腫性病変と末梢気道病
つながり,
ひいては予後にも影響する。
では動的肺過膨張の病態と治療につい
変により気流閉塞が生じる1)。その結果,
そのため労作時呼吸困難を含む自覚症
て概説する。
呼気時間が延長し,肺の空気を吐き切
はじめに
慢性閉塞性肺疾患
(chronic obstructive
2)
状の改善や運動耐用能の向上とその維
るために必要な時間が長くなる。呼気
持は COPD を診療するうえできわめて
Ⅰ
重要であり,ガイドラインでは管理目
標に定められている 。COPD におい
1)
動的肺過膨張とは何か
COPD において,肺胞破壊による肺
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SAMPLE
が完全に終了する前に次の吸気に切り
替わると,肺に空気が残存する。これ
をエアートラッピングという。COPD
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