特集 呼吸リハビリテーション:サイエンスからみた将来展望 基礎医学とのダイアローグ 高齢者の運動能力を改善する栄養としての 乳脂肪球皮膜の役割 Nutritional supplementation with milk fat globule membrane improves physical performance in the elderly 花王株式会社ヘルスケア食品研究所室長 下豊留 玲 Akira Shimotoyodome 花王株式会社生物科学研究所室長 太田 宣康 Noriyasu Ota 運動単位,神経筋接合部,敏捷性,Dok-7,MuSK Summary 生乳は哺乳類新生児の最初で唯一の栄養源であり,そ らにその作用メカニズムとして,MFGM は神経筋接合 の発育,特に運動器である筋骨格系の発達に大きく影響 部の形成に関わる分子である Dok-7の発現を高めるこ する。筋骨格系に対する生乳の効果は,その水溶性画分 とを見出した。このことは,MFGM が神経筋接合部の に含まれるホエイタンパク質(whey protein)に帰結さ 形成を促すことにより,運動能力を改善していることを れることが多いが,これまでに示されているホエイタン 示唆している。このような MFGM の生理学的重要性を パク質の生理機能だけでは必ずしも説明しきれない。最 分子レベルで明らかにしていくことにより,栄養や運動 近われわれは,生乳中の脂溶性画分である乳脂肪球皮膜 介入による神経筋接合部に対するアプローチが加齢に伴 (MFGM)が,マウスの全身持久力や筋力を改善するこ う運動器の老化を予防・改善するための有効な選択肢と とを見出し,ヒトでは高齢者の敏捷性や虚弱高齢者の歩 なることが期待される。 行能力を向上させることを臨床試験で明らかにした。さ 得する。つまり,生乳は体格や運動機 を高め3)⊖6),さらに最近では成人の筋 能を向上する優れた栄養源であり,ヒ 力を高めることが報告されている7)。 生乳は,哺乳類の新生児にとって生 トの体作りや運動能力の改善を考える すなわち生乳は,乳児の体作りだけで 涯で初めて摂取する,そして唯一の栄 上で,深く研究するに値する対象であ なく,成人の筋肉にもよい効果がある 養源である。ヒトの新生児は生後約 る。生乳には,様々な生理機能が報告 食品である。一方,生乳の成分でもっ 1年間で,生乳だけで,筋骨格系 や神 されているが,筋肉に対する生理機能 とも研究されているのが,ホエイタン 経系 が約3倍に成長し,運動能力を獲 については,骨格筋のタンパク質合成 パク質 (whey protein)であり,筋肉に はじめに 1) 2) 74( 410 ) THE LUNG perspectives Vol.24 No.4 SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.
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