グリーンレポートNo.572(2017年2月号) 視 点 JAグループ地域生産振興:JA全農大阪 大阪における 特長野菜栽培による生産振興 大阪は、 「天下の台所」 「くいだおれの街」といわれ、 さまざまな人やモノの交易を通じて、個性ある食文化を 発達させてきた。農業においては、多様な品目が作付け されていることが大阪の特長であり、他県のような品目 を絞った産地化、大規模化の流れとは異なった視点で農 業が行われている。消費地に近いことは、遠隔地のよう な輸送の心配が少なく、少量ロットの出荷に適しており、 生産者にとって有利な条件であるといえる。JAグルー プにとっては、こうした特長を活かして、いかに生産振 興を図るかが課題である。 ▲竹の子型の長細いミニはくさい「プチヒリ」 そこで、今回は、JA直売所向けに個性豊かな野菜を 生産・出荷するJA全農大阪の取り組みを紹介する。 「特長野菜」の試験栽培・販売 JA全農大阪では、現在、JAグループ地域生産振興 として「特長野菜栽培による生産振興」 に取り組んでいる。 大阪でも、高齢化や兼業農家の増加により、既存の品 目の生産拡大は難しい状況である。一方では、大都市近 郊のメリットを活かした直売所が盛況であり、小規模農 家であっても販売チャネルが構築されている。しかし、 直売所でも近年、競争が激しくなり、消費者から選ばれ ▲瑞々しく歯切れがよいミニはくさい「お黄にいり」 る“魅力ある売場づくり”が必要となっている。 歯切れがよく、甘味がある。炒め物や鍋がおすすめ。 このような状況のなか、JA全農大阪では、平成27年 お黄にいり (ミニはくさい) 度と平成28年度に「特長野菜」の試験栽培・販売を行っ 瑞々しさと歯切れのよさでサラダにも適する。極早生、 た。 「特長野菜」とは、定番の野菜ではないが、その野 小型で、冷蔵庫に入りやすい食べ切りサイズ。球内色は 菜特有の特長を持つ野菜で、売場で一味違った存在感を 鮮やかな黄色。 示し、売場づくりに貢献する野菜を意味している。 漬物、煮物、炒 「特長野菜」の品目と品種は、JA全農青果センター め物にも向く。 ㈱を通じて、営農・技術センター農産物商品開発室から 味いちばん 紹介され、JA直売所の売場の活性化や新たなミニ産地 (だいこん) づくりにつながる取り組みとして、平成27年より試験栽 短く太いだい 培を始めた。 こんで、肉質は 27年度に栽培した品目は次のとおり。 緻密。辛味が少 プチヒリ (ミニはくさい) なくクセのない 中国北部原産のチヒリハクサイの血を引く、竹の子型 食味。サラダ、 の長細いはくさい。極早生品種で、密植して1㎏未満の 浅漬け、おでん、 ミニサイズで収穫することもできる。やや硬めの肉質で だいこんおろし 4 ▲幅広い用途に適するだいこん「味いちばん」 グリーンレポートNo.572(2017年2月号) 27年度は、これら特長野菜の 栽培をJAいずみのに委託し、 「JA全農ファーマーズ ららぽ ーと和泉店」を中心に大阪府内 のJA直売所で試験販売を行っ た。 28年度は、引き続き「ミニマ ル」の試験栽培を行い、JA大 阪南に栽培を委託し、量販店 (イズミヤ)で試験販売を行った。 ▲パッキングした「ミニマル」 このような取り組みの結果、 まだ収穫時期や収穫量の予想が 難しく、また栽培技術不足など の問題もあり、一時期に出荷が 集中したり、正品率が低いなど の課題も見えてきた。 ▲「ミニマル」の販売状況 特長野菜の個性を伝えることが重要 特長野菜は、その外観や食味だけでなく、栽培方法も 個性が強い場合が多い。例えば、 「味いちばん」は生育 が旺盛で、従来品種と同様の施肥を行うと過剰に繁茂し、 肩割れしやすいため、施肥量を大幅に抑える必要がある。 また、品種によっては、普及品種のような病害抵抗性を 持っていないため、防除に気を遣う場合もある。生産者 ▲収穫後の「ミニマル」 には、こうした特性を理解してもらうとともに、試作を など、幅広い用途に適する。韓国でもキムチ用として評 通じて品種特性をつかんでもらう必要がある。 価が高い。 一方で、消費者に品種の個性を理解していただくこと ミニマル(だいこん) も重要である。 「トンガリボウシ」を初めて見る消費者 皮を剥かずに調理できる、手のひらサイズの丸いだい は、縦長の形状から「変わったキャベツ」 「とう立ちして こん。重さ50∼60g、直径40㎜程度、適期であれば播種 いる」と感じるかもしれない。しかし、実際に試食して 後30日前後で収 みるとその甘さに驚くことが多く、リピーターになって 穫できる。生食 くれることもある。また、 「プチヒリ」は、シャキッとした にも適する。 食感が魅力だが、外観からはわからない。ただ店頭に並 トンガリボウシ べておくだけでは、その品種のよさがわかってもらえず、 (キャベツ) 購買に結びつかないことも、特長野菜の難しさといえる。 葉肉が厚く軟 ★ らかく、水分が 今後は、これまでの結果をふまえ、この取り組みを継 多く甘味がある 続し、生産地のJA直売所だけでなく、大阪府内のほか ので、生食向き。 のJA直売所でも販売できるシステムを構築できれば、 上部がとがって 販売機会が増えると見込んでいる。新たな栽培品目を増 いる。サラダや やし、ミニ産地が育成されることにより生産振興を図っ 漬物(浅漬け) ていく。 【全農大阪府本部 生産事業部 販売企画課】 に適 しており、 次号のJAグループ地域生産振興は、JA全農おおいたの「生産者と 良食味品種とし て定評がある。 JAから要望される『労働力支援』を活用した生産基盤維持・拡大に ▲良食味品種として定評があるキャベツ 「トンガリボウシ」 向けた取り組み」を紹介する。 5
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