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訪日中国人の爆買いは
本当は終わっていない
数値で見る訪日中国人の爆買い推移
はじめに
日本のインバウンド最重要顧客 訪日中国人
2016年、日本に訪日旅行をしにきた外国人数、すなわち訪日外客数は約2404万人とな
り、年間値で初の2000万人を突破しました。
この2000万人というのは、もともと政府が東京オリンピックが開催される2020年に達成
する目標と定めていた数値です。しかしながら、2014年、2015年と日本のインバウンド
市場は急速な拡大を続け、早々に目標突破。政府は2020年の目標を4000万人と上方修正
しました。
2016年の約2404万人のうち637万人でおよそ27%、インバウンド消費額3兆7476億円
のうち1兆4755億円でおよそ39%を占めているのが訪日中国人です。「インバウンド」
という単語を聞けば、「インバウンド=中国人=爆買い」という方程式が頭に思い浮かぶ
ほど、日本のインバウンド市場に大きなインパクトのある最重要顧客となっています。
昨年、「爆買いは終わった」とメディアで喧伝されたのは記憶に新しいでしょう。こちらで
は、その訪日中国人の消費行動について『爆買いは本当に終わったのか?』という視点で、
解説していきます。
2
もくじ
訪日中国人の爆買いは本当は終わっていない
数値で見る訪日中国人の爆買い推移
P2
はじめに
P4
爆買いとは
P5
爆買いが起こった4つの要因
P6
2016年に「爆買いが終わった」との報道が増加
P7
「爆買いが終わった」と言われる背景
P8
数値で見てみる爆買い
P9
「爆買いが終わった」とは本当なのか 【検証その1】
P10
「爆買いが終わった」とは本当なのか 【検証その2】
P11
「爆買いが終わった」とは本当なのか 【検証その3】
P12
おわりに
P13∼ Appendix
円安から円高へ
中国政府による爆買い防止策:関税引き上げ
ソーシャルバイヤーの躍進から撤退
訪日中国人のリピーター化にともなうコト消費化
3
爆買いとは
爆買いとは訪日中国人による大量消費行動のこと
爆買いとは、訪日中国人による大量買い消費行動のことを指します。2014年の国慶節(*1)頃から
メディアに登場し、最も円安が進んだ2015年の春節(*2)や国慶節に日本国内で話題となりました
2015年の春節では、訪日中国人1人あたりの旅行消費額は、2013年の1.5倍となる約30万円とな
り、円安の影響を受けやすい高額商品を中心に爆買いが行われました
*1:中国の建国記念日。10月1日からスタートし1週間の大型連休となり、春節(旧正月)に並ぶ中国最大の旅行シーズン
*2:中国の旧正月。1月末から2月頭ごろにスタートし1習慣の大型連休となり、国慶節に並ぶ中国最大の旅行シーズン
訪日中国人1人当たり旅行消費額推移
¥300,000
¥260,000
¥220,000
¥300,434
¥180,000
¥140,000
¥100,000
¥196,188
2013年 1-3月期
2015年 1-3月期
出典:観光庁 消費動向調査
4
爆買いが起こった4つの要因
複数の環境的要因によって自然発生した訪日中国人の爆買い
爆買いは、中国国内での流行やトレンドとして始まったものではなく、複数の環境的要因によって自
然発生したものと言えます。
爆買の要因
1
2
3
4
円安
円での消費が相対的に安かった
中国国内外価格差
中国の税制上、訪日して
購入したほうが安かった
ソーシャルバイヤー増加
ソーシャルバイヤー(*1)にとって日本製品が
おいしい 商材だったことから増えた
初訪日が多い
団体ツアー率高い&モノ消費
*1:転売目的の旅行者
5
2016年に「爆買いが終わった」との報道が増加
日本国内では一気に「爆買い終了」ムードに
しかしながら、2016年の初めから「爆買いはいつまでも続くとは限らない」という論調が登場。
2016年10月に発表された観光庁の「訪日外国人消費動向調査 平成28年7-9月期」で、訪日外国人旅
行消費額が4年9ヶ月ぶりに前年同期比でマイナスであったことが伝えられると、一気に「爆買い終
了」ムードに一転します。
「爆買い終了」を伝える各種メディア
6
「爆買いが終わった」と言われる背景
爆買いの4つの要因に変化が
「爆買いが終わった」と言われるようになったのは、訪日中国人の消費額が減少したほか、2016年
の間に、爆買いの4つの発生要因に変化が訪れたためです。
1
2
3
4
爆買いの要因
減退したと言われる背景
円安
円高
円での消費が相対的に安かった
円での消費が相対的に高くなってしまった
中国国内外価格差
中国政府による関税引き上げ
ソーシャルバイヤー増加
ソーシャルバイヤー減少
中国の税制上、訪日して
購入したほうが安かった
ソーシャルバイヤーにとって日本製品が
おいしい 商材だったことから増えた
初訪日が多い
団体ツアー率高い&モノ消費
中国政府の爆買い防止措置で日本からの
持ち込み商品にかかる関税が高くなった
円高、関税引き上げにより、転売の ウマ味 が
なくなりソーシャルバイヤーの数が減った
リピーター増
個人旅行率上昇&コト消費化
7
数値で見てみる爆買い
全体で見てみると減っているように見えるが・・・
たしかに訪日中国人1人が訪日旅行で消費する額については、2016年は2015年に対し減少傾向が見
えます。
しかしながら、「爆買い」が注目ワードになった2014年と同水準を保っており、実際の所「完全に
終わった」とは言い切れない状況にあります。
訪日中国人1人あたり消費額の推移
¥400,000
¥325,000
¥250,000
¥300,434
¥248,432
¥236,353
¥285,306
¥280,788
¥273,298
¥264,997
¥230,154
¥219,996
¥211,784
¥227,821
¥175,000
¥100,000
1-3月期
4-6月期
7-9月期
2014年
10-12月期
1-3月期
4-6月期
7-9月期
2015年
10-12月期
1-3月期
4-6月期
7-9月期
2016年
出展:観光庁 訪日外国人消費動向調査
8
「爆買いが終わった」とは本当なのか 【検証その1】
2016年の訪日中国人市場は「爆買い」登場の年の3倍?
訪日中国人1人あたりの消費額が減った一方で、旅行者数は順調に増加しています。その結果、[1人
あたり消費額 旅行者数]で求められる訪日中国人の総消費額については、「爆買い」が話題となった
2014年よりも3倍以上の市場規模となっています。
そのため訪日中国人全体で見たときの「爆買い」は、いまだ続いていると言えます。
5,000億円
訪日中国人の総消費額の推移
訪日中国人総消費額
訪日中国人1人あたり消費額
¥400,000
4,660億円
4,398億円
4,000億円
¥325,000
3,901億円
3,581億円
3,530億円
3,158億円
3,000億円
¥250,000
2,775億円
2,000億円
¥175,000
1,847億円
1,429億円
1,000億円
1,188億円
1-3月期
1,125億円
4-6月期
7-9月期
2014年
10-12月期
1-3月期
4-6月期
7-9月期
2015年
10-12月期
1-3月期
4-6月期
¥100,000
7-9月期
2016年
出典:観光庁 消費動向調査
9
「爆買いが終わった」とは本当なのか 【検証その2】
円高の影響でそう見えてしまっているだけ?
訪日中国人の円ベースでの1人あたり消費額が下がったのは事実ですが、これは円高基調の影響を受
けたものです。ひるがえって現地通貨(中国人民元)ベースでは、むしろ消費額は上昇しており、購
買意欲は高いままであることがわかります。
円ベース/元ベースでみる訪日中国人の1人あたり消費額
¥300,000
元15,000
¥280,788
¥260,000
円ベースではダウン…
¥220,000
元14,200
¥180,000
元13,800
¥140,000
元13,400
2016年 7-9月期
2017年 7-9月期
元14,783
元14,600
¥227,821
¥100,000
元ベースではアップ!
元13,000
元14,238
2016年 7-9月期
2017年 7-9月期
出典:観光庁 消費動向調査
10
「爆買いが終わった」とは本当なのか 【検証その3】
品目によって消費額に差が出ているだけ?
6ヶ月ごとの品目別の平均消費額を見てみると、高額商品、日用品では大きな違いがあることが見て取れ
ます。高額商品類の消費額は減少しているものの、日用品類はむしろ増加傾向にあり、今なお爆買いが続
いていると言えます。
その背景には
・日本製の化粧品や医薬品が高品質だと中国国内で周知されている
・日用品類は高額商品類と比較して小額であるため、円高による割高感が少ない
・持ち込み商品にかかる関税税率も高額商品類より低率である
などがあります
日用品 vs. 高額商品 訪日中国人1人あたり平均消費額(*1)の推移
¥35,000
日用品類:化粧品・医療品など
高額商品類:電化製品、時計、カメラなど
¥30,000
¥25,000
¥23,548
¥32,439
¥31,584
¥24,433
¥31,477
¥31,734
¥23,317
¥20,675
¥20,000
¥18,331
¥16,643
¥15,000
2014年
1-6月
2014年
7-12月
2015年
1-6月
*1:訪日中国人1人あたり平均消費額=訪日中国人消費総額/訪日中国人数
2015年
7-12月
2016年
1-6月
出展:観光庁 訪日外国人消費動向調査 平成26年1-3月期 から 平成28年4-6-月期
11
おわりに
爆買いは終わりではない
2016年は、大手百貨店や家電量販店の免税売上高が軒並み前期割れを起こしたことで「爆
買いは終わった」と世間を賑わせた年でした。しかし、百貨店や家電量販店は高額商品類
の取扱いが多いからこそ、インバウンド売上が下がりやすいということがおわかり頂けた
のではないでしょうか。
日用品類などの小額商品の爆買いは続いていること、そしてインバウンド消費全体の1/3
を占める訪日中国人の消費パワーを考えれば、いまだ訪日中国人市場はインバウンドにお
いて最重要市場であると言えます。
2017年の訪日中国人のキーワードは「爆体験」か
しかしながら、訪日中国人の消費項目に変化が訪れていることも事実です。単純に物品を
購入することを重要視する「モノ消費」から、サービスや体験を重視する「コト消費」へ
とトレンドが移行しつつあり、いわば「爆買い」から「爆体験」へ移行すると考えられま
す。
そのため、宿泊施設や観光施設などにとっては訪日中国人市場を獲得する絶好のチャンス
であり、小売店などにとっては、訪日中国人の消費を換気する体験に因んだしかけが必要
になってくるかもしれません。
12
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© 2017 訪日ラボ
Appendix
爆買いの4つの要因の変化について
円安から円高へ
Appendix
訪日中国人の消費額は円相場に比例する
円相場の円安傾向は2014年ごろから始まり、2015年の夏頃に最盛期を迎えます。それに同調する
ように、訪日中国人旅行者数および1人あたり消費額も急上昇し、日本では2014年の国慶節の頃の
中国人の大量買いの様子が「爆買い」としてメディアで報道されるようになりました。
しかしながら、2015年末∼2016年にかけて再び円高に転向。これによって消費額も円ベースで下
降をたどることになります。ただし、現地通貨ベースでの消費額は上昇傾向にあります。
円ベース/元ベースでみる訪日中国人消費額
円相場と訪日外国人1人あたり消費額の関係
訪日外国人1人当たり旅行消費額
¥300,000
円ベース消費額
¥260,000
元ベース消費額
元15,000
円ベースではダウン…
元14,500
¥220,000
元14,000
¥180,000
元13,500
2015年
7-9月期
4-6月期
1-3月期
10-12月期
7-9月期
4-6月期
1-3月期
7-9月期
1-3月期
4-6月期
2014年
10-12月期
2013年
10-12月期
7-9月期
4-6月期
1-3月期
¥140,000
2016年
出典:観光庁 消費動向調査、investing.com
¥100,000
元ベースではアップ!
2016年 7-9月期
2017年 7-9月期
元13,000
出典:観光庁 消費動向調査
15
中国政府による爆買い防止策:関税引き上げ
Appendix
旅行代がかかっても日本で日本製品を買ったほうが安かった
中国国内で日本製品を購入する場合、
・日本の消費税に当たる「増値税」
・贅沢品にかかる「消費税(日本の消費税とは別物)」
の2種類の税金がかかります。これにより、中国国内では日本での販売価格のおよそ3∼5割増で販売
されていて、なかなか手が出せないものとなっていました。
ところが円安が進行したうえ、日本の免税
政策が充実。これにより、日本への旅行に
かかる費用を考慮しても、日本で日本製品
を買ったほうが安い、という状況になりま
した。
この状況によって起こった爆買いは、中国
政府にとっては問題と捉えられます。中国
政府は内需拡大を狙って、日本で購入した
物品の中国国内に持ち込む際にかかる関税
を、品目によっては2倍もの高率に引き上
げをし、さらに空港でのチェック体制を強
化します。これによって、訪日中国人の消
費にブレーキがかかりました。
中国の関税引き上げ前後 関税率一覧
品目
関税引き上げ前
関税引き上げ後
酒や化粧品類
50%
60%
高級時計
30%
60%
衣類、自転車、ビデオカ
メラ
20%
30%
カメラ、食品、飲料水、
玩具
10%
15%
16
ソーシャルバイヤーの躍進から撤退
Appendix
ウマ味 が減ってソーシャルバイヤーが撤退した
訪日中国人による爆買いの一端を担っていたのは「ソーシャルバイヤー」と呼ばれるいわゆる転売屋
です。中国国内では「代購(タイコウ)」「海淘(ハイタオ)」という名称で呼ばれています。
このソーシャルバイヤーが登場した背景には
・EC市場環境がC2C(個人間取引)ベース
・「信用」を重要視する習慣
・正規輸入品が高額
という中国国内の商習慣、EC事情がありました。
中国国内でのソーシャルバイヤーが行う代理購入
の市場規模は、2015年には1兆人民元(約19兆
円)、その購入者数は3560万人となり、たった2
年で363%増(約4.6倍)にまで成長しています。
このソーシャルバイヤーにとっての利益とは、中
国国内価格と日本での販売価格の差額です。この
差額が円高と中国政府の関税引き上げによって縮
小。 ウマ味 が減ったことによって、ソーシャルバ
イヤーが日本から撤退し始めたことも爆買いの減
退の原因です。
中国国内の代理購入市場規模
5,000万人
10,000億元
購入者数
取引額
4,000万人
7,500億元
3,560万人
10,000億元
3,000万人
2,000万人
5,000億元
2,500億元
1,800万人
2,160億元
1,000万人
2013
2015
0億元
出典:Xinhua:Yearender: China's multi-billion-dollar "haitao" splurge
17
訪日中国人のリピーター化にともなうコト消費化
団体旅行から個人旅行へ
元来訪日中国人は初訪日者が多いことが特徴でし
た。そのため、慣れない日本旅行を安心して楽しめ
る団体ツアーが人気でした。
しかしながら昨今の訪日旅行ブームによって訪日経
験者が増加。したがってリピーターが増加し、より
ディープな訪日旅行を楽しめる個人旅行にシフトし
てきています。
Appendix
訪日中国人の旅行スタイルの変化
団体旅行
個人旅行
77.5%
2010年
22.5%
38.1%
2012年
61.9%
35.6%
2014年
0%
25%
64.4%
50%
75%
100%
出典:観光庁 消費動向調査
進むコト消費化
その結果、訪日中国人の消費行動は、単純に物品を
購入することを重要とする「モノ消費」から、より
サービスや体験を重視する「コト消費」へとシフト
していきます。
実際に費目別の消費項目を見てみると、買い物代は
減少傾向にあるものの、宿泊料金などの体験やサー
ビスに関する消費額は上昇傾向にあります。
2015年7-9月期と2016年7-9月期の訪日中国人消費額の比較
消費額全体
Down
5.62%
262億円減
モノ消費
Down
17.37%
414億円減
コト消費
UP
11.79%
195億円増
出展:観光庁 訪日外国人消費動向調査
18