BEPS – Action 15

KPMG Japan
Tax Newsletter
2 February 2017
BEPS – Action 15 多数国間協定の策定
I. 多数国間協定の特徴………………………………………………………. 2
II. 各章の概要
第 1 章 範囲及び用語の意義 ……………………………..……………… 2
第 2 章 ハイブリッド・ミスマッチ…………………………………………….. 3
第 3 章 租税条約の濫用防止……………………………………….……… 4
第 4 章 PE 認定の回避.……………………………………………………. 5
第 5 章 紛争解決の向上…………………………………………………… 6
第 6 章 仲裁……..…………..……………………………………………… 6
第 7 条 最終条項…………………………………………………………… 6
III. その他………………………………………………………………………... 7
2016 年 11 月 24 日 、 経 済 協 力 開 発 機 構 ( OECD ) は 、 多 数 国 間 協 定 ( MLI:
Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent
Base Erosion and Profit Shifting)及びその解説書(Explanatory Statement to the
MLI)を公表しました。
多数国間協定とは、既存の租税条約を税源浸食と利益移転(BEPS: Base Erosion
and Profit Shifting)プロジェクトの勧告に沿ったものに迅速に変更するための仕組で
す。BEPS プロジェクトにおける勧告を実施するためには、租税条約の改正が求めら
れるものがありますが、二国間の租税条約の改正には多くの時間を要することが考
えられることから、Action 15(多数国間協定の策定)におけるマンデート(Mandate)
に基づき設けられたアドホック・グループ(99 ヵ国が参加)及び仲裁に関するサブグ
ループ(27 ヵ国が参加)により、検討が重ねられていました。
このニュースレターでは、多数国間協定の概要をご紹介いたします。
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I. 多数国間協定の特徴
多数国間協定の特徴としては、以下の点が挙げられます。
•
多数国間協定は、BEPS プロジェクトの 2015 年最終報告書で示された勧告のう
ち租税条約に関連するものを、迅速に実施するために策定されました。
•
多数国間協定は、既存の租税条約のように単独で適用されるものではなく、既存
の租税条約とともに適用されるもので、既存の租税条約の規定を置き換えたり、
一部変更する機能を有しています。
•
多数国間協定の規定に反映された BEPS プロジェクトの勧告のなかにはミニマ
ム・スタンダード(各国が最低限実施すべき措置)が含まれていますが、ミニマム・
スタンダードはさまざまな方法により満たすことが可能であることから、これらに
柔軟に対処できる規定が用意されています。多数国間協定の第 6 条(租税条約
の目的)、第 7 条(租税条約の濫用防止)及び第 16 条(相互協議手続)の規定が、
ミニマム・スタンダードとされる勧告に対応するものです。
•
ミニマム・スタンダードとされない勧告に係る多数国間協定の規定については、規
定の一部のみを適用することや一定の規定を有する租税条約にのみ適用するこ
と等を選択できるほか、その規定全体を適用しないことを選択することが認めら
れています。
•
第 1 章(範囲及び用語の意義)及び第 7 章(最終条項)以外の規定には、おおむ
ね、Compatibility clause(多数国間協定の規定がどのように租税条約の規定を
変更することになるか等、両者の関係を定めたもの)、Reservation clause(各国
が 選 択 で き る 留 保 に つ い て 定 め た も の ) 及 び Notification clause ( 寄 託 者
(Depositary)である OECD に各国の選択した留保並びに留保の対象となる租税
条約及びその条番号等を通知することを定めたもの)が含まれています。
II. 各章の概要
このセクションでは、多数国間協定の各章の概要をご紹介します。第 2 章から第 5 章
では、BEPS プロジェクトにおける勧告と多数国間協定の規定の対応関係をお示しし
ています。なお、勧告のなかには代替案が用意されているものがあり、多数国間協
定の規定もそれに対応するものとなっていますが、ここでは勧告のうち主なもののみ
を取り上げています。
第 1 章 範囲及び用語の意義(第 1 条・第 2 条)
第 1 章では、多数国間協定が適用される範囲及び用語の意義が規定されています。
たとえば、「対象租税条約」(Covered Tax Agreement)とは、租税条約のうち、各締
約国が多数国間協定の適用を望むことを寄託者である OECD に通知したものとされ
ています。
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第 2 章 ハイブリッド・ミスマッチ(第 3 条~第 5 条)
第 2 章の規定は、Action 2(ハイブリッド・ミスマッチの無効化)及び Action 6(租税条
約の濫用防止)の 2015 年最終報告書で示された以下の勧告を反映したものとなっ
ています。
Action 2 又は Action 6 における勧告(概要)
多数国間協定
両国で課税上の取扱いが異なる団体(ハイブリッド・エンティテ
ィ)の取扱い
ハイブリッド・エンティティを通じて取得される所得については、
第3条
源泉地国側が相手国での取扱いに合わせて、相手国で居住者
(構成員課税
とされる者の所得として取り扱われる部分に対して租税条約の
の事業体)
特典を与えることとする規定を、OECD モデル租税条約第 1 条
(人的範囲)に第 2 項として追加する。
双方居住者(個人以外)の振分け
OECD モデル租税条約第 4 条(居住者)第 3 項(双方居住者(個
人以外)の居住地の振分けルール)を以下のように変更する。
・ 現行:
その者の実質的管理の場所が所在する締約国の
居住者とみなす。
第4条
(双方居住者
(個人以外))
・ 改正案: 相互協議により居住地国を決定する。
ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントから生ずる二重非課税等
ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントから生ずる二重非課税等
の問題を回避するため、二重課税の排除規定として免除方式を
採用している租税条約においても、損金算入配当については外
国税額控除方式を適用する等の措置を講ずる。
第5条
(二重課税
排除の方法
の適用)
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第 3 章 租税条約の濫用防止(第 6 条~第 11 条)
第 3 章の規定は、Action 6(租税条約の濫用防止)の 2015 年最終報告書で示され
た以下の勧告を反映したものとなっています。
Action 6 における勧告(概要)
多数国間協定
租税条約の目的の明確化
《ミニマム・スタンダード》
第6条
OECD モデル租税条約の前文において、租税条約の目的(脱税
(租税条約の
又は租税回避を通じた非課税又は課税の軽減の機会を生じさせ
目的)
ることなく、二重課税を排除すること)を明確化する。
租税条約の濫用防止
《ミニマム・スタンダード》
租税条約に以下のいずれかの規定を設ける。
① 主要目的テスト(PPT: Principal Purpose Test)のみ
② PPT+特典制限規定(LOB: Limitation on Benefits)
第7条
(租税条約の
濫用防止)
③ 詳細版 LOB+導管取引防止規定
配当の譲渡取引
OECD モデル租税条約第 10 条(配当)第 2 項 a)を改正し、法人
が受ける配当に係る源泉地国課税の軽減規定の適用要件であ
る保有割合に、保有期間要件(365 日間)を追加する。
第8条
(配当の
譲渡取引)
不動産関連法人株式の譲渡所得
OECD モデル租税条約第 13 条(譲渡所得)第 4 項(不動産の保
有割合が 50%超である法人の株式の譲渡所得について、不動
産所在地国に課税権を与える規定)を改正し、譲渡前 365 日間
のいずれかの時において不動産の保有割合が 50%超である法
人の株式の譲渡所得について、この規定が適用されるようにす
第9条
(不動産関連
法人株式の
譲渡所得)
る。
第三国に所在する恒久的施設(PE: Permanent Establishment)
を利用した租税回避の防止
国外所得免除方式を採用している国の企業が第三国に所在す
る PE を通じて所得を稼得することにより租税を回避するケース
に対処する規定を設ける。
セービング・クローズ
第 10 条
(第三国 PE を
利用した租税
回避の防止)
第 11 条
セービング・クローズ(租税条約の規定が締約国による自国の居 (自国の居住者
住者に対する課税を制限しないことを確認する規定)を、OECD
に対する租税
モデル租税条約第 1 条(人的範囲)に第 3 項として追加する。
条約の適用)
第 7 条には、簡易版 LOB の規定が含まれており、採用を希望する国は寄託者であ
る OECD に通知をすることとされています。詳細版 LOB の規定は、二国間における
カスタマイズが必要となることから多数国間協定に盛り込むことは困難であると判断
されたため含まれていませんが、詳細版 LOB の採用を希望する国は、ミニマム・スタ
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ンダードを満たすための努力をすることを前提として、第 7 条第 1 項に規定する PPT
を適用しないとする留保を付すこと等が認められます。
第 4 章 PE 認定の回避(第 12 条~第 15 条)
第 4 章の規定は、Action 7(PE 認定の人為的回避の防止)の 2015 年最終報告書で
示された、以下の勧告を反映したものとなっています。
Action 7 における勧告(概要)
多数国間協定
代理人 PE の定義の拡張
OECD モデル租税条約第 5 条(PE)第 5 項(代理人 PE)を改正
第 12 条
し、コミッショネア取引における受託者(独立代理人に該当する
(コミッショネア
ものを除く。)を委託者である企業の代理人 PE とする。
を利用した
OECD モデル租税条約第 5 条第 6 項(独立代理人)を改正し、
PE 認定の
専ら関連企業のためにのみ代理人業を行う者は独立代理人と
人為的回避)
されないこととする。
PE 認定除外活動
OECD モデル租税条約第 5 条第 4 項(PE に該当しない活動の
列記規定)を改正し、列記された活動の全てについて、準備的・
補助的な性格であることを要求するものとする。
関連企業を利用した細分化否認規定を、第 5 条第 4.1 項として
第 13 条
(PE 認定除外
活動を利用し
た PE 認定の
人為的回避)
追加する。
契約の分割
契約を分割することにより 12 ヵ月要件に抵触することを回避す
第 14 条
るケースに対処するため、OECD モデル租税条約第 5 条第 3 項
(契約の分割)
(建築工事現場等)に係るコメンタリーを改正する。
関連企業
第 15 条
OECD モデル租税条約第 5 条の規定における関連企業の定義
(関連企業の
(50%超の支配関係がある企業)を、第 5 条第 6 項に追加する。
定義)
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第 5 章 紛争解決の向上(第 16 条~第 17 条)
第 5 章の規定は、Action 14(相互協議の効果的実施)の 2015 年最終報告書で示さ
れた、以下の勧告を反映したものとなっています。
Action 14 における勧告(概要)
多数国間協定
相互協議手続規定
《ミニマム・スタンダード》
租税条約に、OECD モデル租税条約第 25 条(相互協議手続)
第 1 項~第 3 項の規定を設ける。
また、いずれの締約国の権限のある当局に対しても相互協議の
第 16 条
(相互協議
手続)
申立てをすることができるように、OECD モデル租税条約第 25
条第 1 項の規定を改正する。
対応的調整
《ベスト・プラクティス》
租税条約に、OECD モデル租税条約第 9 条(特殊関連企業)第
第 17 条
(対応的調整)
2 項(対応的調整)の規定を設ける。
第 6 章 仲裁(第 18 条~第 26 条)
Action 14(相互協議の効果的実施)の 2015 年最終報告書においては、相互協議事
案の解決を確保するメカニズムとして強制的拘束的仲裁制度の採用について、日本
を含む 20 ヵ国がコミットしたこと及び強制的拘束的仲裁制度の規定を多数国間協定
の交渉の過程で策定されることが確認されていました。そうした背景から、多数国間
協定の第 6 章では、仲裁制度に係る規定が整備されています。この章は、租税条約
の両締約国がこの章を適用することを寄託者に通知した場合に適用されることにな
ります。
第 7 章 最終条項(第 27 条~第 39 条)
第 7 章には、署名・批准、留保・通知の手続及び発効・適用開始時期等に関する規
定が含まれています。
多数国間協定が最初に発効するのは、5 ヵ国目の批准書等が寄託された日から 3 ヵ
月を経過する月の翌月 1 日とされています。たとえば、2018 年 3 月 1 日に 5 ヵ国目
の批准書等が寄託された場合には、多数国間協定はその 5 ヵ国について 2018 年 7
月 1 日に発効します。それ以降は、各国により批准書等が寄託された日から 3 ヵ月
を経過する月の翌月 1 日に、その国について多数国間協定が発効することになりま
す。
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III. その他
現在のところ、多数国間協定に対する日本政府の具体的なポリシーは示されていません。今
後、日本を含む各国がどのオプションや留保等を選択するのか、注目されるところです。なお、
OECD は今年 6 月 5 日に始まる週に最初の署名式を行うとしています。
《参考》
日本は、2003 年に署名された日米租税条約を皮切りに、ハイブリッド事業体に係る規定
(BEPS プロジェクトの勧告に基づく規定より詳細な規定ぶりのもの)及び LOB の規定を複数
の租税条約に取り入れてきました。また、2006 年の日英租税条約の署名後、規定ぶりにさ
まざまな違いはありますが、PPT に類似する規定を複数の租税条約に盛り込んでいます。
BEPS プロジェクトの 2015 年最終報告書が公表された 2015 年 10 月 5 日以降に日本が締
結した租税条約(チリ、ドイツ、ベルギー、オーストリア等との租税条約)には、BEPS プロジェ
クトの勧告を反映した内容が含まれています。
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