第213号

共創・共育・共感
尾鷲市教育長だより
2017.2.3.(金)
第213号
教育におけるケアリングの重要性
少子化、過疎化、高度情報化など、社会状況の大きな変化によって、子ど
もの倫理観や社会性の不足、規範意識の低下、自立の遅れなどが指摘され、
学校教育においても、人間関係の難しさからくるいじめや不登校、経済格差
による学力問題など憂慮すべき事態が現れています。
また、少年事件の報道で、取り返しのつかないような事件を起こした当事
者が、学校ではごく「普通の子」であったといった報告があります。こうし
たこ と を 考えると 、現代のようなストレス社会の中では 、「普通の子」も 多く
は心に不安や悩みを持っているといった実態が浮かび上がってきます。
このような状況にある子どもを救うには、学校において一番多くの時間を
過ごす授業にその役割を求める必要があります。学習指導と生徒指導とを別
々に考えるのではなく、両指導の統一が重要になってきます。そこで、子ど
もたちの関係性づくりを最優先にした教育的取組である「ケアリング」が注
目されているのです。授業における「ケアリング」の実現が、さまざまな教
育課題を改善することにつながるのではないかと期待されているのです。
「ケアリング」という言葉は、これまで看護や介護の分野でよく使われて
いました。最近教育の分野でも使われるようになりました。
「ケアリング」は、
他者 と の 「良きか かわり」という「手助けする・世話する」「受け 止める 、聴
きとる」といった相互の関係的な活動、共感的な関わりを意味しています。
ケアすること=受け止める・聴きとることをとおして、その人が成長する
こと、自己実現することを助けるのです。また、他の人をケアすることをと
おして、他の人々に役立つことによって、ケアする人自身も自分の存在感を
感じ心も安定します。ケアし、ケアされることをとおして、安心感や励まし
のある、心が安らぐ生活をおくることができます。
ケアは看護や介護の世界だけのものではなく、一般に母子関係や親子関係、
教育における教師と児童・生徒の関係、友だち関係においてもいえることな
の で す 。「 ケ ア リ ン グ 」 は 、「 語 る 」 こ と 以 上 に 「 聴 く 」 と い う 行 為 が 重 要 で
す。 教 育 の分野で 言えば 、「苦悩する 子ども の声を聴き とる」とい った姿 勢、
これが「ケアリング」の精神です。教育は信頼関係の上に成立するものです。
また、信頼関係は、
「ケアリング」の精神がベースにあって成立するものです。
「ケアリング」は、学校づくりや学級づくりの土台をなす営みだと言えま
す。「 学校 の最大 の 使命は、子どもたちが、安全で安心して学校生活を送れる
ようにすること」です。子どもたちが安心して学校生活を受け入れ、仲間に
助け ら れ、「自分 たちの 学 校」と いう思いを 育むために は、まさにこの「ケア
リング」の営みが重要になります。
『 教 育』 を「テ ィ ーチング=文化を伝承すること」としてだけでなく 、『ケ
ア リ ン グ = 心 を 砕 き 世 話 を す る こ と 』、 さ ら に は 、『 ヒ ー リ ン グ = 癒 し 』 を も
含み込んだ営みとして考えていくことで、変化の激しい社会の中でも、子ど
もたちが安心でき、癒やしのある学校をつくっていく筋道がみえてきます。
学校での主目的である授業においてケアされ、癒されることが重要になり
ます。何よりも先ず「学び」の中にケアや癒やしが求められます。
ケ ア や癒 しは、 ひ とりでは実現で きま せん。 共感しあえる学級・学校にお
いて、
「ケアリング」を発揮しながら、ともに聴き合い・支え合おうとする時、
癒し癒される関係が成立します。
一人ひとりの差異を認めるために、共感しながら友だちやまわりの環境と
関わ り を 持つこと が大切です。「ケア リング 」に満ちた 学級・学校 、すなわち
「学びと育ちの共同体」において、子どもたちは学びながら癒され始めるの
です。学級・学校が「学びと育ちの共同体」になることが必要なのです。
学びの過程において、友だちや自分自身の価値観と対立し傷つくこともあ
るでしょう。そのときに仲間からケアをしてもらいながら、学びを続けてい
くことにより新たな自分を発見することができます。こうした学びの過程は、
新たな自分と出会い、対話し、新しい自分づくりにつながっていきます。
これまでの授業スタイルではなく、障がいをもった子どもたちも参加しや
すいように、教材を工夫したり、ときにはTT、グループ学習、個別学習な
どのスタイルも取り入れるなど、活動を工夫することにより、子ども一人ひ
とりの学びを保障し、個性を伸ばす援助をする必要があります。このことに
より、学習面の遅れや困難を感じている子など、どの子も楽しく学べるよう
に授 業 が 変わりま す。聴き合い・支え合う関わりを多くすることで 、「学びと
育ちの共同体」に育っていきます。
聴き合い・支え合い・学び合う中で子どもたちは少しずつ成長します。自
分の考えを見直したり深めるたりすることで、新たな自分を発見し成長する
のです。学級や学校が「ケアリング」に満ちた「学びと育ちの共同体」とな
り、わからないことや疑問を大切にして、聴き合い・支え合い・学び合うこ
とをとおして、子どもたちが癒やされていきます。仲間や教師、親に依存し
ながら自立に向けて学び続け、自分探しの旅をしていくようになるのです。