NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title プロペラファンの後流解析に基づく広帯域騒音の一考察 Author(s) 佐々木, 壮一; 日高, 央也 Citation 長崎大学大学院工学研究科研究報告, 47(88), pp.17-22; 2017 Issue Date 2017-01 URL http://hdl.handle.net/10069/37011 Right This document is downloaded at: 2017-02-06T12:36:38Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 17 長崎大学大学院工学研究科研究報告第 47 巻第 88 号 平成 29 年 1 月 プロペラファンの後流解析に基づく広帯域騒音の一考察 佐々木壮一 * ・日高央也 ** A Consideration on Broadband Noise by Wake Analysis of a Propeller Fan by Soichi SASAKI* and Hisanari HIDAKA** We predicted the broadband noise operating at the maximum efficiency point, that is, the design point of a propeller fan by the wake analysis. The relative flow in the design point separated at the pressure surface. In this case, it was deduced that the flow around the impeller may not interact with the neighbor blade. The blade load was distributed on the blade span widely under the condition of the design point; the velocity fluctuations of the same operation point became large than that of the off-design point. The results of the predicted noise indicated that the influence of the relative velocity on the broadband noise was larger than that of its velocity fluctuation. Key words: Velocity Distribution, Turbo machinery, Aerodynamic Noise, Swirl Flow 1.はじめに この場合,羽根車の取り付け誤差などによって発生す プロペラファンはエンジン冷却,空調機器の熱交換, る離散周波数騒音を除けば (3) ,広帯域騒音がプロペラ パソコンの放熱など,産業機械から家電まで幅広く利 ファンから発生する空力騒音の重要な因子となる.こ 用されている.例えば,エンジン冷却の場合,これら の広帯域騒音に対して,Michel Roger と Stephane のファンは被冷却装置そのものが流動抵抗となるた Moreau (4-5) は Amiet (6) の後縁騒音モデルを拡張した めに非設計点で運転されることが多い.この運転状態 広帯域騒音の予測理論を提案している.この予測理論 における翼先端近傍の流れ場は,正圧面から負圧面へ では,翼表面上の統計圧力のスペクトル φ pp と圧力変 の漏れ流れによって三次元的な流動様相になる.深野 動の放射積分 I を数学的アナロジー,CFDまたは直 ら (1) は,非設計点で運転される軸流ファンの翼先端の 接計測などによって与える必要がある.この後縁騒音 漏れ渦が隣接翼と干渉が生じることによって周期的 理論は広帯域騒音を解析するための有用な理論であ な空力騒音が発生することを指摘している.Jang C. - るが,その予測精度は数学的な近似の方法や数値シミ M.ら (2) は,LES によって計算されたプロペラファンの ュレーションのコストに大きく依存する.この広帯域 動翼上の変動圧力を wavelet 変換によって解析し,フ 騒音を実測値の流れによって簡便に解析することが ァン騒音の実験結果と比較した.これらの研究の貢献 できれば,実用的なファン騒音の予測へ展開すること によって,軸流ファンの翼端渦によって発生する空力 ができる. 騒音は隣接翼干渉によるものであるとの見解が定着 した. 一方,最高効率点近傍の軸流ファンは軸方向の流れ となるために,その流れは隣接翼と干渉しにくくなる. 平成28年12月22日受理 * システム科学部門(System Science Division) ** 総合工学専攻(Department of Advanced Engineering) 本研究では,最高効率点近傍で運転されるプロペラ ファンの広帯域騒音を実測値の後流によって予測する ことを試みる.広帯域騒音の予測には M. S. Howe (7) によって提案された後縁騒音理論が用いられる.これ 18 佐々木壮一・日高央也 らの解析に基づいて,特に,設計点近傍のプロペラフ z ァンの広帯域騒音と後流の関係について議論する. x 5-hole Pitot Tube Pitot Tube Hot-wire Pitot Tube y Static Pressure Tube Static Pressure Tube Hot-wire 400 3990 おもな記号 1000 Test impeller L;乱れ領域の長さ(m) 700 500 3990 1050 500 Impeller Strut Torque Meter 1000 Damper Impeller p; 音圧(Pa) Moter Dampar 750 R;音源から観測点までの距離 (m) 1050 Torque Strut300 300 Motor 700 Meter 1000 M w;相対速度のマッハ数 N;回転数(rpm) 300 300 1000 Re;レイノルズ数 u;周速度(m/s) Fig. 1 Experimental apparatus of the propeller fan v; 絶対速度(m/s) w; 相対速度(m/s) wc;相対流れの対流速度(m/s) 15 V , m/s Sensor Z;羽根枚数 α,β,θ;音源と観測点のなす角(°) 5 2.0 T.L. , V Γ;乱流渦のポテンシャル(m2/s) φ ;流量係数 δ;乱流の相関長さ ρ; 密度(kg/m3) Revolution Counter  ̄;時間平均 ’;速度変動量 られる供試羽根車の羽根枚数は 14 枚,直径は 613mm, ハブ比は 0.419 である.実験装置の全長は約 4.0m で, ダクト断面の幅と高さはともに 1.0m である.流量は 入口側に取り付けられた吸い込みダクトの動圧から求 Trigger めた.流量は出口側にあるダンパによって調節される. Revolution Signal ファンの静圧は吐き出し口からCounter 400mm 前方に取り付 けられた静圧管によって測定される.主軸の回転数は V , m/s 図 1 は実験装置を示したものである.本研究で用い 15 Trigger Signal jet wake N = 1200 rpm Z = 14 Trigger Signal 1.0 0 0 0.01 t , sec 1.0 0 0 10 5 2.0 T.L. , V Sensor 2.実験装置および解析方法 10 0.02 Fig. 2 Phase-lock method for the relative flow field インバータによってその回転数が制御される.軸動力 は主軸に取り付けられたトルク計によって測定される. 数に同期した信号によって FFT アナライザで位相が固 ファンの空力騒音は JIS 規格に基づいて羽根車の回転 定される.このとき,翼先端の周速度が時間波形に乗 軸上から 1.0m 前方の点で,精密騒音計に取り付けら じられると翼先端の空間的な相対流れ場を絶対座標系 れた 1/2 インチマイクロホンによって測定される.精 から測定することが可能になる. 密騒音計から出力された信号は FFT アナライザ(小野 図 3 には,X型熱線プローブによる羽根車の後流の 測器 CF5210)へ入力され,フーリエ変換された信号 測定方法が示されている.熱線プローブはトラバース が 32 回加算平均処理される. 装置によって任意の位置に移動させることができる. 図 2 には翼先端の相対流れ場を測定するための位相 スパン方向の測定位置はハブ側から翼先端側までほぼ 固定の方法が示されている.主軸の回転に同期した信 等間隔に分割された6点である.後流の測定位置は翼 号が光電式回転検出器(小野測器;MP-911)によって の後縁から 5mm 後方である.後流の絶対速度と相対 検出され,その信号を FFT アナライザへトリガー信号 速度の平均流れは式(1)となる. として入力する.この翼先端の流れの測定信号は回転 v v v' , w w w' (1) 19 プロペラファンの後流解析に基づく広帯域騒音の一考察 長崎大学大学院工学研究科研究報告第 47 巻第 88 号 平成 29 年 1 月 110 N = 800rpm N = 1000rpm N = 1200rpm N = 1400rpm 160 v w w w' w' 90 80 Z = 14 70 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 φ 160 265 Fig. 5 Noise characteristics of the fan v v' v w w' u v' 120 w u N = 1200 rpm Z = 14 100 BPF w' Lp , dB u u Lp , dB 265 100 Fig. 3 Measurement method of the wake φ=0.17 (98.6 dB) 80 60 φ=0.30 (88.8 dB) 40 y z 20 102 Point Source 103 f , Hz 104 Fig. 6 Spectrum distribution of the fan noise δ x L Γ (2) Half plane ここで,p は音圧,ρ は密度,M w は相対速度のマッハ Trailing Edge 数,R は音源から観測点までの距離,L は後縁におけ る乱れ領域の長さ,δ は乱流の相関長さ,α,β,θ は音 源と観測点とのなす角である.測定位置での乱流渦の Fig. 4 Schematic view of the trailing edge noise ポテンシャルが翼後縁の乱流境界層によって形成され ると仮定する.このとき,測定位置の乱流渦のポテン ここで,v は絶対速度,w は相対速度, ̄は時間平均,’ シャル Γ によって誘起される後縁の速度変動は式 (3) は速度変動量である.図中の速度三角形に示されるよ として与えられる. うに,羽根車が一定の周方向速度で回転するときには, 絶対速度と相対速度の変動量は等しくなる. w' (0, t ) 図 4 には平板に発達する流れのモデルが示されてい る.空力音源には後縁に集中した点音源が仮定されて いる.Howe によって提案された後縁騒音理論 (7) を参照 すれば,相対流れ場の翼素から発生する音圧の大きさ p L w' w M w 2 sin sin 2 cos 3 R 2 2 (3) このとき ( z, t ) 0.0954 C Re 0.2 w' ( z, t ) ここで,z は後縁から乱流渦の距離,C は翼弦長,Re は式(2)となる. 2 ( z , t ) 2 z 2 はレイノルズ数である.乱流の相関長さには式 (4)の Corcos のモデルを適用する (8) . 20 佐々木壮一・日高央也 ( ) 周波数騒音が発生しているが,これは羽根車の取り付 bc wc け誤差などによるものと考えられる (3) .この離散周波 (4) 数騒音を除けば,設計点のファンからは広帯域騒音が 発生していることがわかる. ここで,b c は文献(8)で与えられる定数,wc は相対流れ 図 7 には,翼先端における絶対速度の周方向速度成 の対流速度である. 分の分布が示されている.主流が紙面に向かって上か ら下に流れ,羽根車は右から左に回転する.上が設計 3.結果および考察 点の相対流れ場であり,下が非設計点のものである. 図 5 はファンの騒音の流量特性を示したものである. 最高効率点(φ=0.30)の流量を設計点,静圧が急峻に 非設計点の後縁近傍の速度成分が設計点のものよりも 上昇する流量(φ=0.17)を非設計点とした.設計点近 増加している.これは非設計点の翼先端側の流れが旋 傍では,羽根車の回転数が高いほど,音圧レベルが大 回流れになることを示すものである.非設計点のファ きくなる.また,いずれの回転数においても非設計点 ンからは翼先端の漏れ流れの旋回によって広帯域騒音 近傍では,その音圧レベルが設計点よりも大きくなる. が発生すると考えられる.一方,設計点の翼後縁近傍 以下の解 析では ,実験 装置 の機械振 動の影 響が小 さ での速度成分は非設計点のものよりも小さい. 図 8 は出口偏差角のスパン方向の分布を示したもの かった 1200rpm におけるファン騒音を解析する. 図 6 には,設計点と非設計点のファン騒音のスペク である.出口偏差角 θ はピッチ角 γ と相対流出角 β の トル分布が比較されている.非設計点のファンの広帯 なす角である.この角度が正の場合,流れは負圧面側 域騒音が設計点の騒音よりも大きくなる.設計点近傍 からはく離する.非設計点の相対流れは負圧面側から のファンからは翼通過周波数(BPF)に同期した離散 はく離しており,その流れは隣接翼と干渉する可能性 0 x , mm 0 φ= 0.3 0 0 = 1200rpm N 100 00 50 50 -4 φ= 0.17 0 0 N =4 1200rpm 100 0 50 SS PS 0 0 T.E. 150 0 -4 -4 0 0 0 100 0 x , mm 0 00 50 L.E. 0 0 0 PS 4 100 0 200 150 0 250 -4 -4 350 0 400 L.E. 0 SS 0 0 200 300 0 4 250 300 0 350 T.E. 400 ξ, mm Fig. 7 Distribution of the circumferential component of the absolute velocity in the blade tip domain 40 θ , deg. 30 N = 1200 rpm Z = 14 φ=0.3 φ=0.17 Suction Surface Separation 20 10 SS side separation w+ 0 -10 w- PS side separation -20 0.4 Pressure Surface separation tip hub 0.6 0.8 1.0 r/R Fig. 8 Comparison of the deviation angle +β +θ -θ γ 21 プロペラファンの後流解析に基づく広帯域騒音の一考察 長崎大学大学院工学研究科研究報告第 47 巻第 88 号 平成 29 年 1 月 100 N = 1200 rpm Z = 14 60 ρ vθ2 dA w , m/s 80 80 N = 1200 rpm Z = 14 φ=0.30 φ=0.17 60 40 40 20 20 0 φ=0.30 φ=0.17 hub 0.4 hub tip 0.6 0.8 0 1.0 0.4 0.6 0.6 0.5 0.2 0.1 0 Maxmum efficiency point φ=0.3 120 Lp , dB w' / u 140 φ=0.30 φ=0.17 0.3 hub high load position (r / R =0.91) 100 80 N = 1200 rpm Z = 14 tip 60 0.4 1.0 Fig. 10 Distribution of the blade load in the span N = 1200 rpm Z = 14 0.4 0.8 r/R r/R (a) Relative velocity tip 0.6 0.8 hub side position (r / R =0.65) 1.0 r/R 40 (b) Velocity fluctuation of relative velocity 102 103 f , Hz 104 Fig. 9 Flow regime in the wake of the fan Fig. 11 Prediction of the broadband noise が高い.一方,設計点の流れは正圧面側からはく離し 点である.スパン方向の測定位置は最大負荷(r / R = ており,この作動点における相対流れは翼に沿った流 0.91)およびハブ側(r / R = 0.65)である.予測値の広 れになることがわかる. 帯域騒音は最大負荷の位置で最大となった.以上の結 図 9 は羽根後流のスパン方向の分布を示したもので ある.(a)が相対速度の分布であり,(b)が速度変動量の 果から,設計点から発生する広帯域騒音は最大負荷の スパン位置に強い音源が形成されると考えられる. 分布である.設計点のスパン中央近傍に分布する相対 速度は非設計点よりも大きく,その速度変動量も大き 4.おわりに いことがわかる.Howe の後縁騒音理論に基づけば, (1) 非設計点における翼負荷の分布は翼先端側に集中 設計点近傍では図に示されるスパンの範囲で非設計点 しており,翼先端側の流れは隣接翼と干渉する可 よりも大きな後縁騒音を発生すると考えられる. 能性が高い.この作動点の翼先端位置の流れは後 図 10 は翼負荷のスパン方向の分布を示したもので 縁騒音の流動モデルとは異なる. ある.非設計点の翼負荷は翼先端側に集中しており, (2) 設計点の流れは正圧面からはく離しており,羽根 この作動点での空力音源は翼先端近傍に形成されると 周りの流れが隣接翼と干渉する可能性は低い.設 考えられる.一方,設計点の翼負荷は相対的に翼スパ 計点の翼負荷は翼スパン上に分布しており,その ン上に分布しており,その速度変動量は非設計点より 速度変動量は非設計点のものよりも大きくなる. も大きくなる. 図 11 は予測値の音圧レベルのスペクトル分布を異 なるスパン位置で比較したものである.作動点は設計 (3) 設計点のプロペラファンにおける後縁騒音の予測 値は,最大負荷のスパン位置近傍で最大となった. この後縁騒音の大きさには,相対速度がその変動 22 佐々木壮一・日高央也 量よりも影響を及ぼす. trailing-edge noise model. Part I: theory, J. of Sound and Vib., 286 (2005), pp. 参考文献 477-506. (5) Stephane Moreau, Michel Roger, Back-scattering (1) 深野徹,緒方伸好,張春晩,軸流ファンの翼端漏れ流 correction and further extensions of Amiet’s れと隣接翼の干渉により発生する騒音 ,日本機械 trailing-edge noise model. Part II: Application, J. of 学会論文集(B),69-685 (2003), pp.2010-2016. Sound and Vib., 323(2009), pp. 397-425. (2) Jang C.-M., et al., JSME Int. J. Ser. B, Frequency (6) R. K. Amiet, Acoustic radiation from an airfoil in a Characteristics of Fluctuating Pressure on Rotor Blade turbulent flow, J. of Sound and Vib., 41-4 (1975), pp. in a Propeller Fan, 46-1 (2003), pp. 163-172. 407-420. (3) 深野 徹,児玉好雄,高松康生,羽根車の製作誤差 (7) M. S. Howe, A Review of the Theory of Trailing Edge によって生じる軸流送風機の離散周波数騒音,日 Noise, NASA Contractor Report 3021 (1978), 62 本機 械学 會 論文 集 ( B 編 ) ,45-400(1979)pp. pages. (8) G. M. Corcos, The structure of the turbulent pressure 1806-1815. (4) Michel Roger, Stephane Moreau, Back-scattering correction and further extensions of Amiet’s field in boundary-layer flows, Journal of Fluid Mechanics, 18 (1964), pp. 353-378.
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