1 1 一本松の邸宅 スコットランド人事業家、トーマス・グラバー 長崎歴史文化博物館所蔵 などがあった。 (1838 ~ 1911)の旧邸は日本における最古の洋 旧グラバー住宅のすぐそばで大きな松の木が 風建築として建築当初からそのままの場所に建 そびえ立っていた。この松の木にちなんでグラ っている。ちょうど 150 年前の文久 3 年 (1863) 、 バーは自宅のことを「IPPONMATSU( 一 天草の棟梁の小山秀之進によって建設され、ま 本松 )」と呼び、家の北側部分に松の樹幹を取 るで貿易と国際交流をつかさどる新時代のお城 り囲む小さな温室を造った。威厳のある古木は のように鍋冠山の中腹から長崎港を見下ろした。 後に病気にかかり枯れ、明治 38 年(1905)に切 建築当初は L 字型の平面であったこの木造住 り倒されてしまった。 宅は、端部が独特な半円形を描く寄棟式屋根、 波瀾万丈の歴史を歩んできた旧グラバー住宅。 石畳の床面に木製の独立円柱、菱型に組まれた 現在は、グラバー園の目玉として独特な雰囲気 格子の天井をもつ広いベランダを誇る。屋根は を漂わせ続けている。 彫刻を施したマントルピー 日本瓦で覆われ、壁は日本の伝統的な土壁で ス、手描きの有田焼タイル張りの暖炉、また分 あった。一方、 中は典型的な西洋風の造りになっ 厚い床板等が人語を解し、すべてを語り始めた ていて、 前方にはリビングルームとダイニングルー としたら、どのような歓喜と悲哀の物語が聞け ム、奥には英国式暖炉のある寝室と厨房や倉庫 るのだろうか――。 2013 年 4 月
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