沿岸潟湖群の水文特性と外海との関係:総説 知北和久 (北大・理) 1.はじめに 北海道のオホーツク海沿岸と十勝海岸には, それぞれ数個の沿岸潟湖が存在する.前者は, 外海に対し常時開口しており潮汐変動に対応 した海水進入が著しい.他方,後者は,常時 は砂州によって外海と隔てられているが,流 入河川の増水で湖水位が急上昇すると,その 溢流水が砂州の一部を開削して 90%以上の湖 水を排出させる「間欠開口現象」を引き起こ す(図 1).こうした間欠開放型潟湖の存在 は,世界的にも極めてまれであり,水循環に 関わる独自の水文特性を有する.ここでは, 先行研究の対象であるホロカヤントー沼と生 花苗沼について比較検討し,潟湖群全体の今 後の問題点を取り上げる. 2.流域の概要 表 1 に十勝海岸潟湖群の諸元と後背流域の土地 被覆率を示す.潟湖群の中で,生花苗沼とホロカ ヤントー沼の流域面積がそれぞれ最大,最小で ある.土地被覆率は,ホロカヤントー沼以外 75.8~92.9%が森林帯である.潟湖群を存続させ る条件としては,年間降水量が 1,100 mm 程度と 比較的小さく,潟湖への土砂供給が森林によっ て抑えられている点にある. 3.潟湖の水収支と結果 ホロカヤントー沼と生花苗沼では,現地観測 に基づき,これまで砂州の閉塞時における水収 支評価が行われている(中尾, 1990; Chikita et al., 2012, 2015).このときの水収支式は, 図 1.十勝海岸潟湖群の位置と地質図(矢印は開口部) 表 1. 潟湖群と各後背流域の諸元(土地被覆を含む) V / t h A / t P E A R Gin Gout ここで,V 沼の体積,h 水深,A 表面積,P 雨量,E 蒸発量,R 河川流入量,Gin, Gout それぞれ地下水流 入・流出量 である.結果として得た,未知量(正 味地下水流出量)Gout - Gin と沼水位との関係を図 2 に 示す.共に直線関係が得られ,砂州を通して沼水が 被 圧 地下 水流 出 して いる こ とを 示唆 す る. 中尾 (1990)は,ホロカヤントー沼の砂州の沿岸長 100 m, 幅 50 m として,被圧帯水層の透水係数 0.011 m/s, 層厚 30 m と与えている.一方,Chikita et al. (2012) は砂州の沿岸長 2000 m,幅 50 m とし,透水係数 0.011 m/s とすれば層厚 1.35 m としている.以上か ら,被圧帯水層として考える場合,その層厚は両沼 で大きな開きがある.砂州内の被圧帯水層としては レキ層の存在が考えられるが,過去の巨大津波によ るイベント堆積物がそれに相当すると考える (Chikita et al., 2016).こうしたイベント堆積物の空 間分布と透水係数をある程度の精度で求めることが 今後の課題である. 図 2. 正味地下水流出量と水位との関係 (a)ホロカヤントー沼 (b) 生花苗沼 -5-
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