第7回南河内ブロック新人症例発表会抄録集

第7回 大阪府理学療法士会
南河内ブロック 新人症例発表会
お問い合わせ:南河内ブロック新人症例発表会事務局
担当:長谷 和哉(近畿大学医学部附属病院 リハビリテーション部)
E-mail:[email protected]
(府士会ホームページもご参照ください)
大会長挨拶
第 7 回大阪府理学療法士会
南河内ブロック新人症例発表会開催にあたり
大会長 藤川 薫
今年度も平成 29 年 1 月 22 日(日)に富田林市のすばるホールにて第 7 回大阪府理学療法
士会
南河内ブロック新人症例発表会を開催することとなりました。例年通り若いスタッ
フに発表の場を与えるというコンセプトの中今年度は 15 演題の応募がありました。応募し
ていただいた先生方本当にありがとうございます。それぞれの施設で感じたこと・悩んだこ
とをまとめ、そのまとめたものを発表すること自体若い先生方には大変な作業であったと
思います。しかし、今回発表する機会を得たことは、今後の臨床へと繋がるはずです。今回
も優秀演題を選出する予定となっています。最優秀演題に選出された際は、来年度の大阪府
理学療法学術大会のブロック推薦演題に推薦される可能性が高いので、その際は宜しくお
願い致します(決定ではありません)。
今年度の新たな試みとしては、発表当日昼休憩を挟まずに連続して発表を実施すること
です。残念なことに例年昼休憩を挟むことで参加者が減少し、午後から発表する先生方には
残念な形となっていました。そのため、今年度は思い切って昼休憩を挟まないこととしまし
た。参加する先生方のご理解が必要にはなると思いますが、諸事情をご理解して頂ければと
思います。また、昨年度同様中堅スタッフの成長につなげるべく、3 名の先生方に座長の依
頼をかけさせていただきましたが、快諾して頂きありがとうございました。発表する先生方
だけでなく、座長をする先生方に対しても温かく対応していただけるとありがたいです。今
年度も昨年度同様に活発な質疑応答が出来ればと思います。
今年度より南河内圏域でも地域ケア会議が開催されています。各市町村によりばらつき
はありますが、確実に広がりつつあります。今後は所属する施設だけでなく、広い視野で地
域を見ていく必要があります。地域の中で理学療法士がリーダーシップを発揮するために、
「何が必要なのか?」
「何をすべきか?」を1人1人が考え、それを実行していく行動力が
必要になってくると思います。そのためには、様々な考え方を学ぶ必要があります。新人症
例発表会も1つの考え方を学ぶ機会になるのではないでしょうか?そのような学ぶ姿勢を
持ったモチベーションの高い先生方の参加をお待ちしています。
新人症例発表会を今後も継続していくためには、南河内ブロック会員の先生方のご協力
が必要不可欠となります。顔の見える関係性を築き、今後も実りある新人症例発表会を開催
していきたいのでご協力宜しくお願い致します。また、昨年度もお願いはしましたが、所属
長の先生方のご理解とご協力があってこそよりよいブロック活動を継続することが可能と
なります。是非、先生方の施設スタッフに様々な経験をさせてあげてください。よろしくお
願い致します。
1
目
次
1.大会長挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
2.目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
3. ご参加の皆様へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
4.演題発表要領・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
5.すばるホールアクセス概要図・・・・・・・・・・・・・
5
6.会場配置図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
7.大会タイムテーブル・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
8.大会プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
9.演題抄録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
10.大会運営委員一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・
26
2
ご参加の皆様へ
1.
参加費について
無料
2.
参加者受付について
受付は 9 時 10 分より行います。
3.
質疑応答について
1)症例発表時の質問については、座長の進行・指示に従ってください。指名されましたら、
必ず先に施設名と氏名を告げてから、簡潔明瞭に質問するように心掛けて下さい。
2)質疑応答時間は限られていますので、時間内に終えられない場合等はセッション終了後に
演者へ個別に質疑をお願いします。
4.
新人教育プログラム、生涯学習プログラムについて
本大会は新人教育プログラム、生涯学習ポイントの対象外です。発表者については新人教
育プログラム「症例発表」ポイントが履修となります。
5.
留意事項について
1)発表会場内での飲食はご遠慮ください。
3 階の会議室での飲食は可能ですのでそちらをご利用ください。
2)発表会場内での携帯電話のご使用はご遠慮ください。
3)ごみは各自、持ち帰りいただくようお願い致します。
6.
その他
1)ネームカードの携帯について
会場に入場の際は、必ずネームカードの入ったホルダーを首から下げ、確認できるように
してください。また、大会終了後にはホルダーを回収しますのでご協力お願い致します。
2)アンケート用紙について
受付の際に配布しますアンケート用紙は、お帰りの際に回収致しますのでご協力お願い致
します。
3
演題発表要領
演者へのお願い
1.発表者は自身のセッション開始の 10 分前までに「次演者席」にお越し下さい。不測の事
態で発表時間が間に合わない場合は、速やかに大会受付までご連絡ください。ご連絡がなく発
表時間までに来られない場合は、発表を放棄したものと判断致します。
2.発表時間は 7 分以内、質疑応答は 8 分以内で時間設定しています。進行については座長の指示
に従って下さい。
3.発表時間終了 1 分前にベルが 1 回、終了時にベルが 2 回鳴ります。ベルが 2 回鳴りましたら、
速やかに発表を終了してください。
4.発表規定について
①発表データをCD−R 、もしくはUSBメモリーで提出して下さい。受付終了後、所定の機器にて試写と
動作確認を致します。
、プロジェクターは準備致します。
②発表機材 Windows PC
持ち込み PC による発表は出来ませんので、ご了承下さい。
③使用ソフト パワーポイント 2010 バージョンをご使用下さい。
④注意点
・必ず事前にご自身でウィルスチェックを行って下さい。
・発表データは、必ず作成した PC 以外で画像などを確認してからお持ち下さい。
・コピーしたデータは、発表終了後、主催者側で責任を持って消去致します。
5.演者は新人教育プログラムのうち「症例発表」の単位が認められます。申請希望される方は新人症例
発表運営委員までお問い合わせ下さい。
座長へのお願い
1.大会当日は、座長も受付を行ってください。
2.座長は、該当セッション開始の 10 分前までに「次座長席」にお越し下さい。
3.発表時間は 1 演題につき 7 分間の口述発表と、8 分間の質疑応答を設定しています。担当セ
ッションの進行に関しては、座長にすべて一任致します。
4. 発表の内容が抄録と大幅に異なる場合は、その場で建設的指導を行い、セッションを進行して
下さいますようお願い致します。
5. 該当セッション以外は控え室をご利用下さい。
4
すばるホール アクセス概要図
住所:〒584-0084 大阪府富田林市桜ケ丘町 2 番 8 号
お問い合わせ先:Tel:0721-25-0222
Fax:0721-25-0550
●最寄り駅: 近鉄長野線
「川西駅」徒歩 8 分
南海高野線南海「金剛駅」下車、南海バス 「小金台二丁目」下車、徒歩 8 分
●高速道路: 南阪奈道路
「羽曳野」
: 阪和自動車道 「美原南」
●駐車場のご案内(すばるホール内)
料金
:1 時間ごとに 100 円(最初の 2 時間は無料)
駐車場営業時間:8:30~22:00(臨時に営業を短縮する場合あり)
収容台数
:収容台数 266 台
・屋内駐車場
1F 屋内駐車場 56 台(内 身体障害者専用 7 台)・B1 屋内駐車場 59 台・B2 屋内駐車場 33 台
・屋外駐車場
118 台(内臨時駐車場 21 台)
● 駐輪場:駐輪場は、すばるホール東側に併設しております。
5
会場配置図
受付
正面玄関
6
大会タイムスケジュール
9:10
会場・受付開始
9:30
開会式
9:40
第1セッション
座長:渡邊 明 先生 (大阪府済生会 富田林病院)
・左膝前面痛を呈しスポーツ活動の参加を目標とした一症例
医療法人永広会 島田病院
重里 悠介
・プリズム順応療法により ADL が向上した一例
社会医療法人さくら会 さくら会病院
玉置 英里
・人工膝関節置換術施行後,術創部痛が遷延し独歩獲得に難渋した一症例
医療法人春秋会 城山病院
西出 将馬
・慢性閉塞性肺疾患の急性増悪における患者教育に対し認知行動療法を
用いた症例
医療法人宝生会 PL 病院
中川 允
・機能予後予測と比較して早期に改善を認めた Guillain-Barre 症候群の
一症例
近畿大学医学部附属病院
麻野 紗也加
10:55
休憩
11:05
第 2 セッション
座長:濱野
雪久
先生 (永広会 島田病院)
・既往の脳梗塞が基本動作の再獲得を阻害した大腿骨頸部骨折術後の一症例
~立ち上がり動作に着目して~
医療法人昌円会 高村病院
大塚
菜生
・左大腿骨内顆骨折抜釘術後、左膝関節に着目し立位での浴槽跨ぎ動作を
獲得した一症例
大阪府済生会 富田林病院
田中
友貴
・腫瘍用人工関節術後に歩行動作獲得を目指した症例
~超音波診断装置を用いて~
近畿大学医学部附属病院
木本
祐太
・複合靱帯損傷術後の膝関節可動域制限に対し、腱振動刺激が有効であった
一症例
大澤 春花
医療法人春秋会 城山病院
・人工股関節全置換術後,継続した歩容へのアプローチにより歩容の改善を
認めた症例
社会医療法人さくら会 さくら会病院
大久保 千絵
12:20
休憩
7
12:30
第 3 セッション
座長:永吉 理香
先生 (近畿大学医学部附属病院)
・非麻痺側肩関節の疼痛を認め、麻痺側からの起居動作獲得に至った一症例
~体幹機能を考慮した麻痺側上肢へのアプローチ~
福島 凌
医療法人春秋会 城山病院
・自己効力感の向上により活動量が拡大した一症例
社会医療法人さくら会 さくら会病院
辻下 聡馬
・左足関節外果骨折を呈し、早期職場復帰を果たすも疼痛が消失せず難渋した一症例
医療法人昌円会 高村病院
坂原 雅代
・両側人工膝関節全置換術後、右臀部痛が生じた一症例
大阪府済生会 富田林病院
伴 由衣菜
・上行性運動連鎖に着目した足部障害に対する運動療法
医療法人永広会 島田病院
13:50
大会長あいさつ・優秀演題発表・表彰式
14:00
閉会式
8
寺尾 翔太
大会プログラム
第 1 セッション
<9:40~10:55>
座長: 渡邊 明 先生(大阪府済生会
富田林病院)
・左膝前面痛を呈しスポーツ活動の参加を目標とした一症例
医療法人永広会 島田病院
重里 悠介
社会医療法人さくら会 さくら会病院
・人工膝関節置換術施行後、術創部痛が遷延し独歩獲得に難渋した一症例
医療法春秋会 城山病院
玉置 英里
・プリズム順応療法により ADL が向上した一例
西出 将馬
・慢性閉塞性肺疾患の急性増悪における患者教育に対し認知行動療法を用いた症例
医療法人宝生会 PL 病院
中川 允
・機能予後予測と比較して早期に改善を認めた Guillain-Barre 症候群の一症例
近畿大学医学部附属病院
第 2 セッション
麻野 紗也加
<11:05~12:20>
座長:濱野 雪久 先生(医療法人 永広会 島田病院)
・既往の脳梗塞が基本動作の再獲得を阻害した大腿骨頸部骨折術後の一症例
~立ち上がり動作に着目して~
医療法人昌円会 高村病院
大塚
菜生
田中
友貴
・左大腿骨内顆骨折抜釘術後、左膝関節に着目し立位での浴槽跨ぎ動作を獲得した一症例
大阪府済生会 富田林病院
・腫瘍用人工関節術後に歩行動作獲得を目指した症例
~超音波診断装置を用いて~
近畿大学医学部附属病院
・複合靱帯損傷術後の膝関節可動域制限に対し、腱振動刺激が有効であった一症例
医療法人春秋会 城山病院
木本 祐太
大澤 春花
・人工股関節全置換術後,継続した歩容へのアプローチにより歩容の改善を認めた症例
社会医療法人さくら会 さくら会病院
第 3 セッション
大久保 千絵
<12:30~13:45>
座長: 永吉 理香 先生(近畿大学医学部附属病院)
・非麻痺側肩関節の疼痛を認め、麻痺側からの起居動作獲得に至った一症例
~体幹機能を考慮した麻痺側上肢へのアプロローチ~
医療法人春秋会 城山病院
福島 凌
・自己効力感の向上により活動量が拡大した一症例
社会医療法人さくら会 さくら会病院
・左足関節外果骨折を呈し、早期職場復帰を果たすも疼痛が消失せず難渋した一症例
医療法人昌円会 高村病院
辻下 聡馬
坂原 雅代
・両側人工膝関節全置換術後、右臀部痛が生じた一症例
大阪府済生会 富田林病院
伴 由衣菜
医療法人永広会 島田病院
寺尾 翔太
・上行性運動連鎖に着目した足部障害に対する運動療法
9
演題抄録
【
座 長
】
渡邊
明
先生 (大阪府済生会富田林病院)
濱野
雪久 先生 (医療法人永広会 島田病院)
永吉
理香 先生 (近畿大学医学部附属病院)
10
左膝前面痛を呈しスポーツ活動の参加を目標とした一症例
1)医療法人永広会
島田病院
重里
【key word】膝蓋下脂肪体炎
スポーツ活動
リハビリテーション部
悠介
1)
石川
大輔
1)
社会参加
【はじめに】
今回、左膝蓋下脂肪体炎(以下脂肪体炎)を呈し趣味であるスポーツ活動が制限された症例
を担当した。日常生活だけでなく 希望で あるス ポ ーツ活動 の参加 に向け て 理学療法 を実施 し、
良好な結果を得たので報告する。
【症例紹介】
54 歳女性で趣味は週 1 回テニスをしている。平成 28 年 2 月初旬のテニス中にボールを拾う
動作で左膝前面に疼痛出現した。その後、2 週間テニスを中止し、疼痛軽減したので再度テニ
ス復帰するが疼痛増悪した。日常生活で支障が出たため 3 月 5 日に当院受診し、理学療法を開
始となった。
【理学療法評価と治療経過】
初期評価時、左膝蓋骨下縁に安静時痛があり、強制伸展ストレステストが陽性、膝伸展位で
の膝蓋下脂肪体(以下脂肪体)、腸脛靱帯(以下 ITB)、外側広筋(以下 VL)に圧痛があった。
静的立位は左骨盤後方回旋位で左膝軽度屈曲位となっていた。左下腿は外旋位であった。関節
可動域(以下 ROM)は左膝関節伸展-10°、徒手筋力検査(以下 MMT)は左大腿四頭筋 3 で
あった。治療として左膝へのアイシングと脂肪体、ITB、VL へのマッサージと ROM 訓練を実
施し介入 4 週後に安静時痛と左脂肪体の圧痛が 消失した。ROM は左右差が無くなり、MMT
は左大腿四頭筋 4 となった。しかし、左 ITB、VL の圧痛が残存し、ボールを拾う動作や階段
降段時の左下肢での支持で痛みがあった。そこで左 single-squat 動作評価を行うと、左骨盤後
方回旋へと崩れ、下腿の外旋強制される動作となっていた。また、MMT は左大殿筋 3 であっ
た。それらの動作不良の改善を目的に左大腿四頭筋と大殿筋群の筋力強化と squat を実施した。
介入 8 週後には左 ITB、VL の圧痛が消失し、MMT は左大腿四頭筋 5、大殿筋 4 となってい
たが、テニス動作である左 Side- Step(以下 SS)時の痛みが残存していた。左 SS では左股関
節外転位の Toe-out で、重心位置は左外側後方に偏位し母趾-足底内側面の浮き上がりが確認で
きた。機能不全として MMT は左内転筋群 3 であった。そこでテニス復帰に向けて左内転筋群
の筋力強化、左 SS の緩衝時に左下腿の外旋制御した支持方法の動作練習を実施した。段階的
に左ステップ幅を狭くした左 SS、不良がなければステップ幅を広くして進めた。その結果、
介入 4 ヶ月半後に左 single-squat、テニス時の左 SS の不良が改善され、テニス完全復帰とな
った。
【考察・まとめ】
理学療法評価において、立位保持・動作時に左下腿外旋が生じやすく、このことから膝蓋骨
の可動性が全方向に制限され脂肪体への圧縮ストレスとなり疼痛が出現したと推察される。そ
のため左大腿四頭筋と大殿筋の強化を図り日常生活動作時痛が消失したが、テニス動作で疼痛
が残存していた。そこでテニス動作を評価し、段階的に動作練習を進めたことでテニス動作時
痛が消失し、テニス完全復帰に至ったと考える 。
今回、本人の希望であるスポーツ活動の参加まで理学療法を実施し、日常生活だけでなく ス
ポーツ活動と高い活動量であるが、社会参加の支援まで考え関わることの重要性を感じた。
11
プリズム順応療法により ADL が向上した一例
玉置英里
1) 社会医療法人
【Key words】左半側空間無視
さくら会さくら会病院
プリズム順応療法
1)
神農沙里
1)
木下篤
1)
リハビリテーション科
ADL
【はじめに】
左半側空間無視(unilateral spatial neglect 以下 USN)を呈した患者に対する,プリズム順応
(prism adaptation 以下 PA)療法が有効であるとの報告は多い.一方,机上の左 USN の検査で
は改善を認めるが,実際の日常生活(activities of daily living 以下 ADL)場面での改善を認める
報告は少ない.今回,くも膜下出血後に左 USN を呈した症例に対し,PA 療法を実施し ADL
の向上を認めたため報告する.
【症例紹介】
く も 膜 下 出 血 と 右 脳 出 血 を 呈 し た 70 歳 代 女 性 で あ る . 脳 血 管 攣 縮 に よ り 右 中 大 脳 動 脈 領
域・右前大脳動脈領域の脳梗塞を発症し,45 病日目に回復期病棟に入棟した.PA 療法実施前
(発症後約 4 ヶ月)の身体機能は,MMT 左上下肢 3 レベル・右上下肢 4 レベルで,歩行は軽介
助であった.高次脳機能障害は左 USN,注意障害,記銘力低下,構成障害,病識低下を認め
た.左 USN による歩行時の左側への衝突や食事時の左側の食べ残しが問題であった.
【方法】
PA 療法は外的刺激がない環境で右に視野が 12°偏移するプリズム眼鏡を装着し,前方約 50
㎝に配置した目印に向かってリーチ動作を反復 する方法を用いた.先行研究に従い,自らの手
の軌跡が見えない環境下で実施した.リーチはできるだけ素早く行うように指示し 50 回反復
した.発症後約 4 ヵ月に開始し 1 日 1 回を 2 週間実施した.休止 1 ヶ月の間に症状の逆戻りが
生じたため,その後再度 2 週間実施した.初めに実施した時期を PAⅠ期,2 度目に実施した
時 期 を PA Ⅱ 期 と し , 評 価 は ADL で の 無 視 症 状 の 重 症 度 を 評 価 す る Catherine Bergego
Scale(以下 CBS)を用いた.
【結果】
PAⅠ期前は 17 点,PAⅠ期後は 13 点(変化項目:3,6,8,9)であった. PAⅡ期前は 15 点(変
化項目:8,9),PAⅡ期後は 13 点(変化項目:8,9)であった.PAⅠ期Ⅱ期とも CBS の改善を認
めた.
【考察】
PAⅠ期Ⅱ期ともに介入後には CBS の改善がみられた.従来の PA 療法の介入は治療期間が
1 回と単発的に行っている報告が多いが,本症例では 2 週間継続して実施した.Frassinetti
らは PA 療法を 2 週間実施し,日常生活を想定したテストにおいて USN の改善を認めたと報
告している.このことから,継続した PA 療法が ADL の改善に繋がったと推察される.
PA 療法による CBS への効果は,項目 8 の「左側にいる人や物にぶつかる」と項目 9 の「よ
く行く場所やリハビリ室に曲がるのが困難である」で特にみられた.この 2 項目は視覚空間の
注意を評価しているものである.PA 療法は視覚のずれに適応する過程で体性感覚を利用した
視覚空間認知の再学習を行うとされている.よって PA 療法の効果が ADL に汎化した可能性
がある.
PA 療法は実施条件や対象者も未だ明確に定まっていないのが現状である .今後は PA 療法を
効果的な介入方法として確立するために ,どのような条件,対象者であればより効果が期待で
きるか症例数を増やし検討していきたい.
12
人工膝関節置換術施行後、術創部痛が遷延し独歩獲得に難渋した一症例
西出
1)医 療 法 人
将馬
春秋会
1) 、 高 見
城山病院
武志
1) 、 藤 川
薫
1)
リハビリテーション科
【 Key words】 術 創 部 痛 、 TKA、 糖 尿 病
【はじめに】
今回 、右変 形性 膝関 節症に より 人工 膝関 節 置換術( 以下
TKA) を 施 行 さ れ た 症 例 を 経
験した。本症例は併存疾患に糖尿病があり術創部痛が遷延し独歩獲得までの経過に難渋し
た。疼痛への配慮を行い運動負荷量に注意して理学療法を施行した結果、術創部痛は消失
し独歩の獲得に至った為、報告する。
【症例紹介】
70 歳 代 、女 性 。術 前 は 独 居 で 日 常 生 活 動 作 は 自 立 、主 な 移 動 手 段 は 独 歩 で あ っ た 。右 膝
内 側 部 痛 に よ り 歩 行 、階 段 昇 降 が 困 難 と な り 、TKA 施 行 。術 前 よ り 血 糖 コ ン ト ロ ー ル 不 良
で HbA1C: 7.2%と 高 値 で あ っ た 。 術 後 翌 日 よ り 急 性 期 理 学 療 法 開 始 も 術 創 部 痛 が 強 く 実
施 が 困 難 で あ っ た 。術 後 20 日 目 よ り 回 復 期 理 学 療 法 開 始 し 担 当 と な っ た 。Hope は「 痛 み
が な く な っ て ほ し い 」、 Need は 独 歩 自 立 を 挙 げ た 。
【理学療法評価】
術 後 20 日 目 で の 膝 関 節 JOA ス コ ア は 35 点 。術 創 部 周 囲 に は 腫 脹 、熱 感 を 認 め て お り 、
安 静 時 は 術 創 部 に Numerical Rating Scale( 以 下
NRS) 8、 平 行 棒 内 歩 行 で は 右 立 脚 中
期 に 右 膝 外 反 、反 張 膝 を 呈 し 術 創 部 に NRS:10 の 疼 痛 を 認 め た 。10m 歩 行 テ ス ト は T-cane
歩 行 に て 23.56 秒 で あ っ た 。 血 液 デ ー タ は CRP: 0.88mg/dl 血 糖 値 : 133mg/dl と 高 値 で
あ っ た 。関 節 可 動 域( 以 下
ROM)は 右 膝 関 節 屈 曲 自 動 92°他 動 96°伸 展 は 他 動 に て - 5°
筋 力 は ア ニ マ 社 製 μ tasF-1 に て 右 膝 伸 展 平 均 7.13kg/f extension lag20°で あ っ た 。
【理学療法】
術創部痛軽減を目的にアイシング、超音波療法、術創部周囲の皮膚に対しモビライゼー
シ ョ ン 実 施 し 、 疼 痛 の 状 態 に 合 わ せ 右 膝 ROM 訓 練 、 右 大 腿 四 頭 筋 筋 力 増 強 訓 練 、 ス テ ッ
プ・段差昇降・歩行訓練を実施した。
【結果】
術 後 62 日 目 に 独 歩 獲 得 、 膝 関 節 JOA ス コ ア 85 点 と 改 善 を 認 め た 。 疼 痛 は 安 静 時 、 歩
行 時 と も に NRS:0 と 疼 痛 は 消 失 し 術 創 部 周 囲 の 腫 脹 、熱 感 も 認 め な か っ た 。10m 歩 行 テ
ス ト は 9.74 秒 と 改 善 し た 。 右 膝 屈 曲 ROM は 自 動 115°他 動 118°伸 展 は 自 動 、 他 動 と も
に 0° で あ っ た 。 筋 力 は 右 膝 伸 展 平 均 12.9kg/f と 向 上 認 め た が 、 血 液 デ ー タ は CRP:
0.47mg/dl、 血 糖 値 : 161mg/dl と 依 然 高 値 で あ っ た 。
【考察】
糖尿病患者は感染・壊死組織・血行障害・乾燥・低栄養・蛋白質不足などの合併症を呈
しやすく高血糖状態が続くと創傷治癒遷延を引き起こすと言われている。本症例は血糖コ
ントロール不良であり創傷治癒遷延が起こり術創部痛が遷延していた。創傷治癒遷延が考
えられたため、炎症反応の軽減を目的に術創部にアイシングを実施。術創部の癒着・瘢痕
化による皮膚の伸張性低下の改善を目的に超音波療法、術創部周囲の皮膚に対しモビライ
ゼーションを実施した。また蛋白質不足状態ということを加味し、右大腿四頭筋筋力増強
訓練や動作訓練を中心に実施した。結果、安静時・動作時ともに疼痛は消失し独歩獲得に
至った。本症例を通じ糖尿病患者は創傷治癒遷延が予測でき、翌日に疲労・疼痛が残らな
いよう負荷量調節を行いながら負荷量調節をした上での筋力増強訓練、動作訓練を実施す
る必要があると考えた。
13
慢性閉塞性肺疾患の急性増悪における患者教育に対し認知行動療法を用いた症例
中川 允
医療法人宝生会 PL 病院 リハビリテーション科
[Key Word] COPD 認知行動療法 患者教育 行動変容
[はじめに]
10 年来の慢性閉塞性肺疾患(以下 COPD)に気管支炎を発症し、COPD の急性増悪で入院
した患者を担当した。理学療法(以下 PT)介入にて運動耐容能、下肢筋力の改善がみられ
たが、急性増悪に陥る要因となった生活習慣の改善を目的に病態の自己管理や運動継続が
できるように認知行動療法(以下 CBT)を導入し、自動思考の改善を認めたので報告する。
[症例紹介]
年齢 60 代、男性。病名 COPD、GOLD 病期分類Ⅲ。10 年前に COPD と医師から診断され、
2 年前から安静時1L、労作時 3L の在宅酸素療法(以下 HOT)を処方されていたが、HOT
を使用する理由が分からず使用していなかった。ADL は自立していたが呼吸苦から極端に
運動量が少なく、ディコンディショニングに陥っていた。今回、気管支炎を発症し即日入
院。投薬治療後、呼吸状態が安定しリハビリ開始となる。
[理学療法評価]
介入当初からリハビリを行う理由が理解できず拒否され、病棟 ADL では酸素を使用しない
事が多々見られる。長崎大学呼吸器日常生活活動表(NRADL)37/100 点、修正 MRC スケ
ール Grade5、大腿四頭筋筋力は右 37.2kg、左 34.0kg(60 代・男性脚伸展筋力基準値:39.0
㎏)
、長谷川式スケール(HDS-R)22/30 点、6 分間歩行距離は 90mだった。
[理学療法及び結果]
標準的な呼吸理学療法に加え、随時運動と酸素の必要性を説明した。退院時には 6 分間歩
行が 195m、大腿四頭筋筋力では右 41.1kg、左 38.5kg と改善したが、行動変容としては入
院期間中に酸素未使用な事が多くあった。炎症症状が落ち着き、自宅内 ADL 動作獲得のた
め退院となったが、再度ディコンディショニングに陥る危険があると考え、外来でのリハ
ビリを継続。その際に本症例の自動思考について着目し、認知と行動を変える事でディコ
ンディショニングを防ぎ、感情や身体機能の改善を期待し CBT(セルフモニタリング法)
を導入した。独自で作成したホームワークシートを用い、1日のスケジュールとその時の
出来事に対する認知、気持ち、行動、結果を書いて頂いた。その結果「しんどい。やめよ
う。
」という自動思考から「体に良いことをしている」という変化が見られ酸素の使用と運
動の継続ができるようになった。外来終了時には 6 分間歩行距離が 211mと改善がみられた。
[考察]
植木は行動変容は指導だけでなくセルフモニタリングを行い行動を評価することが有用で
あると報告している。今回、ホームワークシートを用いる事で心理面を視覚化し、本人自
身でもフィードバックを行い、療法士と患者間で情報を共有することで現状を理解しやす
く、生活習慣の改善に繋がったと考える。
14
機能予後予測と比較して早期に改善を認めた Guillain-Barre 症候群の一症例
麻野紗也加
1) 、中路一大 1) 、長谷和哉 1) 、武田優子 1) 、寺田勝彦 1) 、福田寛二 2)
1)近畿大学医学部附属病院
リハビリテーション部
2)近畿大学医学部リハビリテーション科
【Key words】Guillain-Barre 症候群、機能予後、歩行
【はじめに】
Guillain-Barre 症候群(GBS)は、 急速な運動麻痺を主徴とする多発末梢神経障害である。筋
力低下は遠位筋、近位筋の両方に生じ、数日の経過で起立・歩行困難となる。機能予後
は良好であり、6
ヶ月程で自然治癒する症例が多い。今回、入院後に症状が進行し、歩行予
後不良と予測された GBS 症例を担当した。年齢や社会復帰などを考慮し、積極的な離床訓練、
足関節での重心制御に着目して介入し、day23 で独歩獲得となったので以下に報告する。
【症例紹介】
40 歳代後半、男性。下痢を先行症状として 四肢の筋力低下を認め、当院神経内科に入院。
入院翌日より歩行困難、臥床状態となる。球麻痺症状は認めず、IgG、GM1
抗体陽性から 脱髄
型 GBS と診断。day2 より免疫グロブリン静注療法(IVIg 療法)を 5 日間施行、day4 よりリハ
ビリテーション(リハ)介入した。
【理学療法評価】
介入当初、筋力は徒手筋力検査(MMT)において上下肢 2-~2、体幹 2 で、寝返りにも介助を
要す状態であった。Hughes の機能尺度では Grade4、modified Erasmus GBS outcome score
(mEGOS)における機能予後の評価では自立歩行不能の割合が 4 週間 95%、3 ヶ月 70%と予測
された。リハ開始時の機能的自立度評価法(FIM)62
点であり、日常生活動作(ADL)はほぼ全介
助の状態であった。起居動作は全介助であるが、端座位保持は見守りで可能であった。
【理学療法と経過】
day4 より PT・OT 介入し、2 単位/日を週 6 回実施した。初期は過負荷に注意して自動介助
運動から筋再教育を実施し、徐々に筋力回復を認めた。個別筋の筋力回復に沿って、共同的な
筋 収 縮 、 動 作 獲 得 を 目 的 と し て 、 早期から Closed kinetic chain(CKC)による荷重下での運動
にて姿勢制御機能を高め、下肢の協調性・固定性向上を図った。また、ご家族の協力を得て病
室での可動域訓練を実施、病棟との連携により積極的に離床を進めた。day12 より車椅子自走、
day15より病棟内歩行器歩行見守り、day23より独歩自立となった。その後day32に自宅退院
となり、上下肢体幹筋力は MMT4、FIM126 点、Hughes の機能尺度 Grade1 へと改善した。
【考察】
本症例は、mEGOS の機能予後より、4 週間での自立歩行不能の割合は 95%とされていたが、
day23 で独歩獲得となった。今回、CKC による足関節での重心制御に着目して介入した。足関
節戦略は微細な制御が可能で、重心移動に対する安定性が高いため、歩行機能への影響も大き
いとされている。また、足部からの感覚情報を生かして運動制御系を利用できることから、共
同筋活動の収縮が得られ、動作獲得に直接繋がると考えた。薬物療法による回復に沿ったリハ
の 介入により、不要な廃用症候群の予防、機能回復の促進を図ることができ、A D L 向 上 に 繋 げ
る ことができたと考える。
15
既往の脳梗塞が基本動作の再獲得を阻害した大腿骨頸部骨折術後の一症例
~立ち上がり動作に着目して~
大塚 菜生
医療法人昌円会 高村病院
1)
【Key word】大腿骨頸部骨折・片麻痺・大脳基底核
【はじめに】
片麻痺を呈する脳梗塞患者では 2~4 倍も高率に大腿骨頚部骨折を合併するとの報告 があ
り、骨折側は 80%が麻痺側と言われている。しかし今回、非麻痺側に大腿骨頸部骨折を呈
し、大腿骨頸部骨折術後のプロトコルに順じて離床・荷重を進めたが、立ち上がり動作困
難であり、その後の荷重位での動作訓練に移行することに難渋した症例を報告する。
【症例紹介】
80 歳代女性。現病歴:外出中に転倒し右大腿骨頸部骨折と診断、受傷 4 日目に理学療法介
入、受傷 11 日目に人工骨頭置換術を施行。既往歴:前年度 5 月に他院で右大脳基底核の
微小梗塞と診断。入院前 ADL:夫と 2 人暮らしで基本的動作は全動作自立、屋外歩行時に
は 4 点杖を使用していた。
【理学療法評価】
初期評価(受傷 15 日目):ROM(右/左)股関節屈曲 90°p/120°足関節背屈-20°/-10°、荷
重時痛 VAS3/10、MMT(右/左)股関節屈曲 3+/3、膝関節伸展 3+/3、麻痺側(左)Brunstrom
上肢 StageⅢ・下肢Ⅲ、座圧(右/左)13.2N/2.3N、基本動作:全動作全介助
最終評価(受傷 68 日目):ROM(右/左)股関節屈曲 110°/120°足関節背屈-5°/-10°、荷重
時痛 VAS0/10、MMT(右/左)股関節屈曲 3+/3+、膝関節伸展 3+/3+、座圧(右/左)9.2N/6.3N
基本動作:寝返り・起き上がり修正自立、立ち上がり・移乗軽介助、歩行中等度介助
【治療経過】
立ち上がり動作困難の原因として①座位時の麻痺側殿部への荷重量低下➁骨折側の努力性
で麻痺側の筋緊張亢進③体幹伸筋群筋緊張亢進・骨折側股関節屈曲 ROM 制限による体幹
前傾困難④殿部離床時の伸筋群の筋発揮のタイミング不良と考えた。それぞれに対し(1 )
姿勢鏡の使用・麻痺側臀部への感覚入力(2)骨折側足底に段差をつけ立ち上がり動作練習(3)
上肢のリーチ動作、股関節屈筋群の収縮促進(4)殿部離床時のタイミングを徒手にて誘導な
ど(1)~(4)を中心に実施した。そのほかにも、精神面へのアプローチ・環境設定を工夫する
など動作面以外での工夫を行った。
【考察】
Thorngen らは年齢、受傷前歩行能力、認知機能が予後の因子と報告している。本症例は
術前歩行能力、認知機能が高かったにも関わらず、大腿骨頸部骨折を呈したことで術後せ
ん妄・恐怖心が動作時の身体機能に大きく影響し、基本的動作の再獲得を阻害したと考え、
骨折側へのアプローチだけでなく、大脳基底核症状に対して考慮し、動作練習の方法・環
境設定・精神的なアプローチなどを実施することにより、基本動作能力の向上に至ったと
考える。
16
左大腿骨内顆骨折抜釘術後、左膝関節に着目し
立位での浴槽跨ぎ動作を獲得した一症例
田中友貴 1 ) 和正直人 1 ) 前田和輝 1 )
1)大阪府済生会 富田林病院 リハビリテーション科
【Key Word】
立位での浴槽跨ぎ動作・左膝関節屈曲可動域・左股関節周囲筋力
【はじめに】
左大腿骨内顆骨折を受傷し左膝関節可動域制限の為、立位での浴槽跨ぎ動作が困難にな
った。今回左大腿骨内顆骨折抜釘により理学療法を実施した結果、立位での浴槽跨ぎ動作
を獲得したのでここに報告する。
【症例紹介と経過】
60 歳代女性、既往に両人工股関節全置換術(以下 THA)施行。左 THA 再置換術を施行
し左坐骨神経麻痺を合併。昨年転倒し左大腿骨内顆骨折を受傷。今回頸椎症性脊髄症と左
大腿骨内顆骨折抜釘術目的で入院。頸椎症性脊髄症による下肢症状は認めなかった。左母
指から中指の痺れがあったが術後に改善。左大腿骨内顆骨折受傷後は浴槽跨ぎ動作は浴槽
縁に座位になり実施していたが時間を要していた。また跨ぎ動作時に後方重心になり転倒
に至る危険がある為、立位での浴槽跨ぎ動作に着目し理学療法を介入した。
【理学療法評価】
関節可動域は左股関節伸展 5°左膝関節屈曲 90°筋力は左股関節屈曲 2 伸展 2 左膝関節
屈曲 2 エリーテストで左尻上がり現象を認め左大腿直筋の短縮を認めた。
浴槽跨ぎ動作は右下肢から浴槽を跨ぎ、右上肢は反対側の浴槽縁を把持する。左下肢の
跨ぎ動作時は左股関節屈曲位、次に左膝関節を屈曲するが不十分で左下腿が引っ掛かる。
その為、右足関節底屈し左下肢を持ち上げ跨ぐがふらつきを認め実用的ではなかった。
【治療と結果】
左大腿直筋の短縮に対しストレッチ及びリラクゼーションを実施。左膝関節屈曲時に左
股関節が屈曲する為左股関節屈曲の拮抗筋として左大臀筋の筋力増強訓練を実施。また左
大腿二頭筋、左腸腰筋の筋力増強訓練も並行し実施。結果、左大腿直筋の短縮は軽減し左
膝関節屈曲可動域 115°股関節伸展 10°に改善。筋力は左股関節伸展 4 へ向上、左膝関節
屈曲 2 であった。左下肢の跨ぎ動作時は左股関節軽度屈曲位、次に左膝関節 90°まで自動
屈曲が可能になった。左下腿の引っかかりが軽減し立位での浴槽跨ぎ動作獲得に至った。
【考察】
左大腿直筋の短縮により左膝関節屈曲制限、立位で膝関節屈曲すると左股関節屈曲が見
られた。また左大臀筋、左大腿二頭筋筋力低下の為、左下腿が浴槽に引っ掛かったと考え
る。理学療法介入により左大腿直筋の短縮の改善、左大臀筋の筋力向上により左膝関節屈
曲した際に左股関節屈曲が軽減した。また同時に左大腿二頭筋の筋力が向上し立位での左
膝関節自動屈曲角度が増加した。その為、左下腿の引っ掛かりが軽減し立位での跨ぎ動作
獲得に至ったと考える。
17
腫瘍用人工関節術後に歩行動作獲得を目指した症例
~超音波診断装置を用いて~
○木本祐太 1),白石匡 1),坂井寛充 1),木下敬詩 1),木村保 1),寺田勝彦 1)
1)近畿大学医学部附属病院
リハビリテーション部
【key word】腫瘍用人工関節,超音波診断装置,歩行動作
【はじめに】大腿骨病的骨折後に腫瘍用人工関節置換術(以下:Kotz)を施行し大転子の脱転
を生じたが,術後早期に T 字杖歩行を獲得した症例を経験したため報告する.
【症例紹介】60 代女性.診断名は大腿骨転子部病的骨折.既往歴として 2009 年に右殿部軟部
腫瘍の切除術行われている.その後,肺への転移を認めるも,経過観察にて著明な増大傾向は
なく,予後も 1 年以上見込まれるとして Kotz 施行となった.手術は後側方アプローチにて中・
小殿筋から外側広筋の股関節外転筋群の連続性を維持したまま,大転子を骨切りした.骨切り
した大転子はインプラントに逢着され,腫瘍と外旋筋群を広範に切除された.
【理学療法経過】術後 3 日後より理学療法開始.術後 21 日目に車いす移乗を開始.術後 26
日目に患者自身で円座を引き抜いた際に大転子の脱転を生じたが,疼痛,腫脹などの増悪を認
めず,主治医指示のもと理学療法継続となった.荷重練習より開始して,術後 28 日目より歩
行練習を開始した.
【初期評価】術後 31 日目,徒手筋力検査(Manual Muscle Test:以下 MMT)
(右/ 左)では股
関節屈曲 5/2,伸展 4/3,外転 3/2,膝関節伸展 5/3 であった.X 線画像上でも脱転の増悪は認
めず,股関節外転運動時に中殿筋中部線維,外側広筋をエコーにて観察すると筋収縮を認めた.
ADL は FIM:108 点であり,ロフストランド杖歩行は軽介助レベルであり,立脚期における骨
盤の傾斜が観察された.
【理学療法アプローチ】床上安静期間の後,安静度の拡大に伴い,X 線画像,エコーの結果よ
り,段階的に中殿筋への負荷量を考慮し,Closed kinetic chain(以下: CKC)にて筋力増強運動,
動作練習を実施した.
【最終評価】術後 53 日目,MMT(右/ 左)では股関節屈曲 5/3,伸展 5/4,外転 3/2,膝関節
伸展 5/4.ADL は FIM:116 点であった.歩行動作では立脚期における骨盤の傾斜は改善し T
字杖歩行を獲得.術後 53 日目に自宅退院となった.
【考察】最終評価時において外転筋力の改善は見られなかったが,立脚期における骨盤の傾斜
は改善した.本症例に対する手術手技では股関節外転支持機構を温存しており,大転子の脱転
が生じでも機能低下を防ぐことができるとされている.本症例において中殿筋・外側広筋の連
続性が保たれていることで,中殿筋の筋収縮は認めているも,脱転により張力は低下している
ものと想定できる.中殿筋に加えて,大腿筋膜張筋および大殿筋上部線維は,立位や歩行など
の荷重時における骨盤の安定に寄与する.また股関節内転筋力が骨盤傾斜に影響する可能性も
指摘されている.このことから本症例において,大腿筋張筋および大殿 筋上部線維での代償に
よるもの,内転筋・外転群の共同的な活動が促進されたことで歩容が改善したと考える. がん
リハビリテーションは生活機能と QOL の改善を目的とし,がんとその治療による制限を
受けた中で,患者に最大限の身体的,社会的,心理的,職業的活動を実現させることであ
るとされている. 施設により報告は異なるが,先行研究では T 字杖歩行獲得までの日数は 92
日程度とされている.本症例は術後 46 日目に T 字杖歩行動作を獲得でき,早期に歩行動作を
獲得できた.X 線画像上やエコーを用いて脱転状況や筋動態を確認しながら運動療法を施行す
ることで早期社会復帰に寄与することができた.
18
複合靭帯損傷術後の膝関節可動域制限に対し,腱振動刺激が有効であった一症例
大澤 春花 1),熊原 啓 1),藤川 薫 1)
1)医療法人 春秋会 城山病院 リハビリテーション科
【key word】複合靭帯損傷,腱振動刺激,防御性収縮
【はじめに】
膝関節複合靭帯損傷は膝関節外傷の中で最も治療に難渋する疾患の一つであり,膝関節不安定性や関節可
動域(以下:ROM)制限が残存すると言われている.今回,左膝関節複合靭帯損傷後に半腱様筋を用いた前十字
靭帯(以下:ACL)再建術を施行した症例を経験した.防御性収縮により膝関節屈曲角度の改善に難渋したが,
腱振動刺激を治療に取り入れた結果,膝関節 ROM の改善が得られたので報告する.
【症例紹介】
30 歳代後半男性.仕事中に重機の下敷きになり救急搬送され,ACL 断裂,内側側副靭帯断裂,外側側副靭帯
断裂,後十字靭帯一部損傷,外側半月板の損傷,顆間隆起部骨折の診断で入院となる.約 2 週間の安静後,ACL
再建術(術式:一重束再建術)を施行し長下肢オルソグラスによる外固定となった.6週間の免荷,0°〜90°範
囲内での膝関節 ROM 練習指示の下,翌日より理学療法を開始した.術後 4 日目で両松葉杖にて自宅退院し,
術後 7 日後より外来理学療法開始となり,週 3 回~4 回の頻度で理学療法を実施した.
【理学療法評価・経過】
術後翌日の初回評価にて疼痛検査(以下:NRS)で,安静時痛は 0/10,運動時・膝関節 ROM 練習時に,膝関節
周囲に 5/10 を認めた.膝関節周囲は健側と比較し最大約 6cm の周径差があり腫脹を認めた.表在感覚,深部感
覚の低下は認めなかった.ROM は膝関節伸展 0°,屈曲 25°,徒手筋力テストは伸展・屈曲 2 と可動域制限・
筋力低下を呈した.治療として,患部アイシングとリンパドレナージによる腫脹管理を中心に実施し,腫脹・熱
感は改善を認めた.外来理学療法開始時に医師より ROM 練習は膝関節伸展−20°,屈曲制限なしの追加指示
があったが,屈曲時に大腿四頭筋の防御性収縮が強く出現し,術後 26 日目の ROM は膝関節伸展−20°屈曲
55°,運動時・ROM 練習時 NRS:4/10 と,膝関節屈曲 ROM・疼痛に大きな改善は認めなかった.大腿四頭筋
部の防御性収縮が制限因子と考え,ハンドマッサージャーによる腱振動刺激を治療に取り入れた.
【治療介入と結果】
腱振動刺激装置には THRIVE ハンディマッサージャーMD-011(60Hz)を用いた.治療肢位は,閉眼座位に
て下肢下垂し,術側膝蓋腱に振動刺激を与えた.振動刺激プロトコルは安静 10 秒-振動刺激 30 秒とし,3 回連
続で実施した.腱振動刺激による介入は,ストレッチ等の通常の理学療法後に 1 日 1 回行った.振動刺激入力
時の運動錯覚強度を Verbal Rating Scale(以下:VRS)を用い 6 段階で評価.初期は VRS:4 であった.振動刺激
後の即時効果として運動時・ROM 練習時 NRS:0/10 に軽減し膝関節屈曲 ROM は 5~10°改善した.
この治療を術後 26 日目から 16 日間継続することで術後 42 日目には,安静時・運動時痛は消失し,ROM
練習時に NRS:1~2/10,ROM は膝関節伸展−20°屈曲 95°と膝関節屈曲 ROM・疼痛に大きく改善を認め,
防御性収縮も消失した.その時期の運動錯覚強度は VRS:1 と,初回に比べ減少していた.腱振動刺激による介
入終了後は軟部組織の伸張を中心に行い,術後2ヶ月で ROM は膝関節伸展−20°屈曲 125°,ROM 練習時
NRS:1~2/10 と膝関節屈曲 ROM に改善が得られた.
【考察】
本症例は強い防御性収縮が大きな制限因子となり ROM 制限が生じた.腱振動刺激により筋紡錘の発射活
動を引き起こし,筋の伸張を知覚することで運動が生じたような錯覚が起こる.その反復による運動学習に
て,痛みや運動に対する不安を軽減できた.その結果,制限因子であった防御性収縮が軽減し,軟部組織の柔軟
性低下などの問題点に対する治療を行えた為,ROM 改善に至ったと考えられる.
19
人工股関節全置換術後,継続した歩容へのアプローチにより
歩容の改善を認めた症例
大久保千絵
1)社会医療法人さくら会
【Key word】人工股関節全置換術
股関節外転筋力
1)
福原康平
さくら会病院
1)
豊浦尊真
1)
リハビリテーション科
歩容へのアプローチ
【はじめに】
今回,変形性股関節症(以下股 OA)に対し前側方アプローチ(以下 Dall 法)による人工股関節
全置換術を施行された症例を担当した.Dall 法は中殿筋と外側広筋の筋線維の連続性を温存す
る術式であり,先行文献では股関節外転筋力の向上は術後 6 週間認めたと述べている.本症例は
術後 6 週目にかけて股関節外転筋力の向上を認めたが,歩容の改善に至らなかった.退院後も継
続して歩容へのアプローチを行ったことにより術後 8 週目に歩容の改善 を認めたため報告す
る.
【症例紹介】
左股 OA を呈した 64 歳の女性で BMI20.4kg/m 2 ,術前に疼痛を認めておらず,ADL は自立し
ていた.術前評価では術側 Sharp 角 42°,CE 角 20°,棘果長は非術側に比べ 2.5cm 短縮してい
た . 術 側 関 節 可 動 域 ( 以 下 ROM) は 股 関 節 伸 展 0 ° , 外 転 10 ° , 股 関 節 外 転 筋 力 測 定 に は
Hand-held Dynamometer を使用し,非術側 1.83N/kg,術側 1.32N/kg であった.歩容は術側 Mst
時骨盤側方傾斜,Tst 時骨盤後方回旋を認めた.独歩での 10m 歩行は速度 1.31m/s,15 歩であっ
た.
【経過】
手術により脚長差はなくなった.術後翌日から全荷重・歩行訓練を開始し,術後 4 週目より術
側股関節外転運動を開始した.歩行訓練では,術側 IC から Mst にかけて骨盤傾斜を修正しなが
ら踵接地を意識したステップ運動の反復を行った.術後 4 週目では術側股関節 ROM 伸展 0°,
股関節外転筋力 1.88N/kg であり,術後 6 週目では術側股関節 ROM 伸展 5°,股関節外転筋力
3.15N/kg であった.筋力の向上を認めたが,歩容は術側 Mst 時骨盤側方傾斜,Tst 時骨盤の後方回
旋が残存していた.10m 歩行は速度 1.25m/s,15 歩であった.退院前にセルフエクササイズとし
て,術側股関節伸展ストレッチと股関節外転筋の筋力増強訓練を指導し ,術後 6 週目に退院とな
った.
退院後,週 1-2 回の外来リハビリテーションを実施し,セルフエクササイズの確認と歩容への
アプローチを継続して行った.術後 8 週目では 6 週目と比較し,股関節 ROM・股関節外転筋力と
もに変化は認めなかったが,歩容は術側 Mst 時骨盤側方傾斜の軽減,Tst 時骨盤後方回旋の軽減
を認めた.10m 歩行は速度 1.34m/s,15 歩であった.
【考察】
対馬らは股 OA 患者において十分な股関節外転筋力が得られても跛行が残存する原因として
外転筋活動開始時期の遅延や速筋線維の減少を挙げている .本症例も術後 6 週目にかけて術側
股 関 節 外 転 筋 力 の 向 上 を 認 め た が ,歩 容 の 改 善 に は 至 ら な か っ た .今 回 ,意 識 下 で の ス テ ッ プ 運
動の 反復 を継 続し たこ と で股 関節 外転 筋の 筋収 縮 のタ イミ ング を学 習し た .ま た踵 接 地時 の床
反 力 刺 激 が 速 筋 線 維 を 含 め た 股 関 節 外 転 筋 の 筋 活 動 を 高 め た こ と で 股 関 節 の 安 定 化 が 得 られ
た.そのため,術後 6 週目と 8 週目では股関節外転筋力に変化はなかったが,歩容の改善を認めた
と考える. 股 OA 患者の歩容の改善には,筋力向上だけでなく筋収縮のタイミングを考慮した歩
容へのアプローチが重要であると学ぶことができた.
20
非麻痺側肩関節の疼痛を認め、麻痺側からの起居動作獲得に至った一症例
〜体幹機能を考慮した麻痺側上肢へのアプローチ〜
福島
1)医療法人
春秋会
凌
1)
、三木
城山病院
康佑
1)
、藤川
薫
リハビリテーション科
【key word】起居動作、体幹機能、右肩関節痛
【はじめに】
今回、左片麻痺を呈した症例を担当した。入院中、右肩関節周囲炎を併発し、非麻痺側か
らの起居動作は困難となり、麻痺側からの起居動作を選択した。麻痺側上下肢に加え、特に
体幹機能に着目することで、麻痺側からの起居動作獲得に至ったので以下に報告する。
【症例紹介】
88 歳女性、発症前 Activities of Daily Living(以下 ADL)自立。右放線冠、大脳基底核
周囲のラクナ梗塞により左片麻痺を発症。回復期転棟後、 右肩関節周囲炎の診断を受けた。
【経過】
回復期転棟前から右肩関節痛を認め、発症後 19 病日目より担当開始。36 病日目で右肩関
節周囲炎の診断を受け、起居動作時に右肩関節痛増大。78 病日目で起居動作獲得に至る。
【理学療法評価】
初期評価(36 病日目)で Brunnstrom Recovery Stage Test(以下 BRS-T)左上肢•手指
StageⅢ、左下肢 StageⅣ、関節可動域(以下 ROM)は右肩関節屈曲 70°、外転 80°、体
幹伸展-10°、粗大筋力は左上下肢 3、右下肢 4、右上肢は疼痛により測定困難、体幹 2、
Functional Assessment for Control of Trunk(以下 FACT)3/20、Stroke Impairment
Assessment Set(以下 SIAS)56/76 であった。Modified Ashworth Scale(以下 MAS)は
両肩関節内転•肘関節屈曲に 2 を認めた。右肩関節痛は Numerical Rating Scale( 以 下 NRS)
で屈曲•外転時に 9/10。寝返り動作は肩甲帯離床相で介助を要する状態であった。 最終評価
(78 病日目)時、BRS-T 左上肢•手指 StageⅣ、左下肢 StageⅤ、ROM は右肩関節屈曲120°、
外転 130°、粗大筋力は左上下肢 4、右上下肢 4、体幹 4、FACT14/20、SIAS66/76、右肩
関節痛は訴え無し。MAS においても改善を認め、起居動作は自立可能となった。
【アプローチ及び考察】
介入当初、麻痺側への起居動作は、肩甲帯離床相より介助を要した。原因として、支持基
底面側となる肩甲帯は運動麻痺による肩甲骨挙上•外転位のアライメント不良、共同運動パ
ターンにより肩甲帯を後方へ引き込み、またリーチ動作側となる非麻痺側上肢は右肩関節周
囲炎の影響による疼痛で肩関節の可動域制限が生じ、リーチ動作時に肩甲骨の前方突出が困
難な為、上部体幹の回旋運動が継続し難い環境となったと 考える。八谷らは「体幹機能は起
き上がりの動作の可否に影響を及ぼす重要な機能であることが示された」とし、また背臥位
および側臥位からの起き上がり時に腹直筋の活動が認めたと報告している。本症例に対して
腹直筋へのアプローチを中心に行ったが大きな改善には至らなかった為、内•外腹斜筋を中
心にアプローチを行った。外腹斜筋と前鋸筋下部線維が筋連結を有している事から、肩甲帯
離床相での前鋸筋の促通が内•外腹斜筋の筋活動の波及に繋がったと推測する。石井らは寝
返り•起居動作において前鋸筋下部線維の活動が外腹斜筋の活動を誘発し、on elbow になる
ことを助けるとしている。また内•外腹斜筋を促通する事で、相反神経抑制による筋緊張亢
進筋群の抑制に至ったと考える。上記らを踏まえ、寝返り•起居動作にて頭部離床、肩甲帯
離床、体幹離床、on elbow と分節的に訓練を実施した。分節的な動作を反復して行い、各相
での筋活動の促通が集中的に行え、さらに病棟では介助方法等の統一を図った結果、BRS-T
や FACT、粗大筋力の改善の一因となり、起居動作獲得に繋がったものと考える。
21
1)
自己効力感の向上により活動量が拡大した一症例
辻下聡馬
1)社会医療法人さくら会
さくら会病院
1)
吉川昌太
1)
リハビリテーション科
【Key Words】脳出血,自己効力感,他職種との情報共有
【はじめに】
自己効力感と実際の動作能力との乖離が,その後の転倒や閉じこもり の要因となりうると報
告されている. また脳血管障害患者において自己効力感と ADL の自立度は関連性があるとい
われている.今回,自己効力感や意欲の低下があり,実際の歩行能力と病棟歩行自立度に乖離
を生じた脳出血患者を担当する機会を得た.他職種と情報共有し治療に反映したことで病棟歩
行自立に至ったため,以下に報告する.
【症例紹介】
60 歳代男性.診断名は左視床出血. 当院にて保存的加療.19 病日目に回復期病棟転棟とな
る.既往歴に統合失調症があるが,投薬コントロールはされていない.
56 病日目の身体機能は,BRS 右上肢Ⅲ手指Ⅴ下肢Ⅳ,MMT 左上下肢 5・右上下肢 4,表在 ・
深部感覚は右上下肢中等度鈍麻.高次脳機能障害は注意障害・失語症を認めた.精神障害とし
て,注意散漫・理解能力低下・病識低下・幻覚・妄想・辻褄の合わない発言などの症状が見受
けられた.歩行能力は独歩可能であり,歩行練習に対して意欲的であったが,病棟生活では臥
床時間が長く,自己によ る運動は行っていない状 況であった. 本人の目標 は,「トイレに行け
るようになりたい」という発言を認めた .
【経過及び治療】
56 病日目に独歩は可能であるが,注意障害や病識低下を考慮し,トイレへの移動を手引き
歩行で行うことを提案した.しかし,トイレには「車椅子で行きたい」という希望があり,
「ま
だ歩くのは無理」「あと 1 カ月は掛かりそう」と歩行への自信がない発言を認め, 手引き歩行
に対しては拒否的であった.そこで,他職種とカンファレンスを行った結果,①自己効力感・
意 欲 の 低 下 か ら 車 椅 子 で の 移 動 を 本 人 が 希 望 し て い る こ と ② 介 助 に よ る 歩 行 に は 拒 否 が ある
ことが考えられた.
そこで,理学療法として独歩での歩行の量・時間を増やし,実際に病棟でも繰り返し歩行練
習を実施することとした.また,歩行練習後には正のフィードバックを行うことで歩行への自
己効力感を高められるように声掛けを行った.作業療法士・言語聴覚士にも短距離であれば独
歩での移動を依頼した.さらに病棟生活の移動は 看護師による独歩見守りで行った.看護師か
ら日中・夜間にも危険行 為なく移動できていると 報告を受け, 本人からも 「歩くのは大丈夫」
「トイレは行けるようになったよ」などという発言の変化があり, 63 病日目に病棟内独歩自
立となった.
【考察】
本症例においては,自己効力感・意欲の低下により ADL と実際の動作能力とに乖離が生じ
た.個人の自己効力感を 高めるためには,成功体 験が重要であると言われ ている.そのため,
生活場面を含めた歩行練習から「成功体験」を増やし,歩行練習後には正のフィードバック効
果をもたらす言葉掛けを行った.その結果,1 週間という短期間で独歩自立となり ,活動量・
範囲を拡大させることに繋がったと考える.
22
左足関節外果骨折を呈し、早期職場復帰を果たすも疼痛が
消失せず難渋した一症例
坂原
1)
医療法人昌円会
雅代 1)
高村病院
【Key word】疼痛・背屈制限・扁平足
【はじめに】
左足関節外果骨折を呈し職場に迷惑をかけたくないという強い意思から、早期職場復帰を目指
しリハビリを開始。職場復帰を果たしたが、疼痛が消失せず難渋。後に扁平足による影響が大
きかった事に気付いた症例について報告する。
【症例紹介】
対象は 54 歳男性。H28/5/7 に自宅にて、カーペットに左側小趾を躓き転倒し受傷。
AO 分類では B type-B1。Lauge-Hansen 分類では SER の stageⅡである。
H28/5/13 観血的固定術(後方プレート固定)施行、職場復帰まで は6週間(H28/5/9~6/19)。
【理学療法評価】
足関節と足趾の ROM、MMT、ストレステスト、LHA、HFT、FPI-6を実施し、初期評価
時(5/14-5/19)、疼痛(VAS:6)、発赤、熱感、腫脹の炎症症状と浮腫が著明で、底背屈角度:40/25°
(p)・ 15/-5°(p)(右/左)。 MMT左 足関節 の底屈 /背屈:3/3。ス トレステ ス ト(回内外 /前 方引き 出
し):陽性、LHA:荷重時・非荷重時 15/20°・15/20°(右/左)、HFT:強陽性、FPI-6:陽性(回
内位)。動作性として立位保持まで自立、歩行は両松葉杖歩行(荷重は疼痛自制内)。
【プログラム・結果】
術後の炎症症状(特に外果周囲)に対してアイシングや、足部の浮腫に対して遠位より徒手圧
迫を行い、背屈可動域制限に対して他動運動での ROM 訓練・姿勢強制板を利用した自重によ
る ROM 訓練、術創部の癒着に対する軽擦法、下腿三頭筋や前脛骨筋 、足底筋に対しては、筋
力トレーニングを行った。
2016/5/31 退院時全荷重可にて片松葉杖+足関節サポーターを装着し退院。炎症症状は軽減
も痛みは軽度残存(VAS:2),背屈角度は 15/10°(右/左)左足関節の筋力は底屈4背屈4となった。
背屈角度が向上した要因は術創部の癒着軽減、下腿三頭筋の伸長性の改善と思われる。退院後、
外来リハ開始。片脚立位やTUGの時間も向上し、片松葉杖歩行から独歩になり、背屈角度も
15°となり職場復帰を果たした。
結果、最終評価時(6/17-6/20)にて痛み以外の炎症症状は消失したが、痛みは軽度残存(VAS:1)、
足部の浮腫の軽減、背屈 ROM の改善、術創部周囲の皮膚・皮下組織の柔軟性の向上による癒
着緩和、各筋力の向上はみられた。
【考察】
足関節背屈可動域が 15°まで拡大されたにも関わらず疼痛が残存している原因として、病前
からの偏平足の影響や、足関節サポーターの自己抜去による足部の不安性、通勤 1 時間、職場
での労働条件(管理/巡回 業務による階段 過多)の ため、夕方には 疼痛(VAS:2)が再燃す る結果と
なっている。偏平足によるアーチの低下に加え、受傷後の足関節アライメント不良、プ レート
による長短腓骨筋に対する 侵害受容性疼痛など原因はさまざまであるが、ADL 指導やインソ
ールなどを利用し、いかに疼痛を軽減できるかで ADL 向上に繋がると考える。
23
両側人工膝関節全置換術後、右臀部痛が生じた一症例
伴 由衣菜¹⁾、内野 裕介¹⁾、斉藤 繁樹¹⁾
1)大阪府済生会 富田林病院 リハビリテーション科
【key word】両側人工膝関節全置換術後,歩行,右臀部痛
【はじめに】
本症例は右 γ-nail 施行 2 ヵ月後,両側人工膝関節全置換術(以下 TKA)を施行した.両側
TKA は片側 TKA と比較して歩行・ADL の自立獲得と退院までの経過は大きくは変わらな
いと先行研究で散見されるが,術後 T 字杖歩行時に右臀部痛が生じ歩行に影響した.歩行
の実用性向上を目的として右臀部痛に着目し,また術後の疼痛増強を考慮した筋力強化・
応用動作練習を行った結果,歩行の改善が認められたため報告する.
【症例紹介・経過】
70 歳代女性.X-2 月に転倒され右大腿骨転子部骨折を呈し他院にて γ-nail を施行した
が,両側変形性膝関節症による荷重時痛が強いため歩行困難であった.転倒前は疼痛自制
内にて独歩・ADL は全て自立.X-1 月に両側 TKA を施行する目的にて当院へ転院.術
前および両側 TKA を施行した翌日より術後理学療法を行い,術後 6 日目より T 字杖歩行
練習を開始した.
【理学療法評価】
転院直後は車椅子移乗見守り.術前理学療法後は病棟内セーフティアーム歩行自立(10
m歩行 52 秒).
術後 9 日目では歩行時に創部痛 NRS4/10(右<左),術後 12 日目には NRS0/10.
膝関節可動域屈曲/伸展 右 115°/0°,左 110°/0°.筋力(右/左)は膝関節伸展 4<4,股関
節伸展 3/4,外転 3/4,外旋 3/5 と術前と同様.右大殿筋に圧痛あり.術後 9~12 日目,T
字杖歩行(10m歩行 82 秒)50m程で右荷重応答期~立脚中期に体幹屈曲・右側屈・左回旋,
骨盤右下制・左回旋,右股関節外旋位で右臀部痛(NRS2/10)が出現.
【治療・治療結果】
術前後から筋力強化練習として股関節伸展・外転・外旋筋の Open Kinetic Chain トレ
ーニング,術後 12~16 日目から座位での股関節荷重練習とバランスボードを用いた立位
での応用荷重練習,術後 21 日目は立ち座り動作の Close Kinetic Chain トレーニングを実
施.結果,術後 22 日目には股関節筋力(右/左)伸展 4/5,外転 4/4,外旋 4/5 と向上.左 T
字杖歩行(10m歩行は 37 秒)時の右臀部痛は消失し右立脚期の体幹・骨盤動揺は軽減した.
【考察】
先行研究より股関節深層筋は歩行時の股関節の安定性に関与するといわれている.しか
し本症例は術前より右 γ-nail 施行による切開および廃用性の筋力低下が股関節深層・浅層
筋ともに認められていたため,T 字杖歩行において右大殿筋の過活動を強いられ疼痛が生
じたと考える.術後の疼痛を考慮した筋力強化練習や右下肢への応用荷重練習を行ったこ
とで両膝の疼痛増強を引き起こさなかったと考える.また右股関節周囲筋の筋力が向上し
右臀部痛が消失したことで歩行は改善したと考える.
24
上行性運動連鎖に着目した足部障害に対する運動療法
1)医療法人永広会
島田病院
寺尾
key word:距骨下関節過回内
運動連鎖
長母趾屈筋
リハビリテーション課
翔太
1)
岡田
直之
1)
内側縦アーチ
【はじめに】距骨下関節過回内(以下 OP)に関しては下行性運動連鎖の問題に対し、骨盤帯
周囲の機能向上や装具療 法が一般的に行われてい る。成人を対象とした足 部の研究結果から、
相関する多くの項目は報告されているが児童の扁平足障害を対象とした報告は少なく、治療方
針が明確ではない。足趾把持力と長母趾屈筋(以下 FHL)の筋断面積は前足部荷重と相関が
あるといわれており、上行性運動連鎖に着目して前足部機能を向上したことにより、良好な治
療結果を得ることができた。そのため、若干の考察を加え ここに報告する。
【症例紹介】ジャズダンススクールに通う 10 歳の女児で練習頻度は週 3~4 回(各 3~5 時間)、
経験年数は 3 年である。そのスクール生 徒らに よ る発表会 が数ヶ 月後に 数 回予定さ れてい た。
【経過】2015 年 6 月より練習量が増大し、同年 12 月に疼痛を自覚して整骨院へ通院したが改
善を認めなかった為、2016 年 3 月に当院を受診した。担当医師により両扁平足・左足関節周
囲炎と診断され、指示の下に運動制限は行わず週 1 回の外来理学療法開始となった。
【評価】主訴は右方回転動作時の疼痛で、この動作は左片脚踵挙げ動作となるが足関節底屈角
度 が 乏 し く 、 前 足 部 荷 重 が 不 十 分 な 状 態 で あ っ た 。 疼 痛 部 は 距 舟 関 節 お よ び 後 脛 骨 筋 ( 以下
TP)の腱部であり、圧痛や収縮時痛、荷重時痛など不規則であった。筋機能は徒手筋力検査(以
下 MMT)にて左股関節外転と足部内返しは 4 であり、片脚立位時に Duchenne`s sign かつ
OP を認めた。足部の機能においては Leg heel alignment で著明な左右差はなく、内側縦アー
チの低下に伴い Arch curl ability は左で低下していた。また、Paper grip test も左は陽性で
長母趾屈筋の筋力低下を認め、安静時の左母趾 IP 関節は過伸展位で荷重時も同等であり、長
趾屈筋による代償が生じていた。
【治療結果】まずは骨盤帯周囲の機能に着目し、下行性運動連鎖の改善を目的に介入した 。左
股関節外転と足部内返しは MMT5 に向上し、Duchenne`s sign を陰性化できたが疼痛は残存
した。その後、前足部の筋機能を主とした上行性運動連鎖 に着目し、介入することで Arch curl
ability と内側縦アーチは改善した。また、Paper grip test が陰性化し、FHL の筋力も向上し
た。十分な前足部荷重と足関節底屈角度が保持でき、主訴の改善 に至った。
【考察】治療結果から、FHL の機能低下が前足部荷重の制限因子となり、OP が助長され主訴
に繋がったと考える。内側縦アーチ低下の原因といわれている TP の筋力低下や OP に対する
下行性運動連鎖を改善すること以外にも、FHL の機能評価と上行性運動連鎖に着目する必要
があると示唆された。また、今後の臨床では複数の問題点に対し、同時に着目することで加速
的介入が可能になると考えられる。
25
第7回
大阪府理学療法士会
南河内ブロック新人症例発表会
大
会
運営委員一覧
長
藤川
薫
(医療法人春秋会
準 備 委 員 長
小栢
進也 (大阪府立大学)
城山病院)
演題部
吉川 昌太 (社会医療法人さくら会 さくら会病院)
長谷 和哉 (近畿大学医学部附属病院)
広報部
瀬尾 充弘 (医療法人永広会 島田病院)
内野 裕介 (社会福祉法人大阪府済生会 富田林病院)
抄録集
濱野 雪久
表彰部
場谷 玲
(医療法人医仁会 藤本病院)
伊藤 勇輝 (医療法人春秋会 城山病院)
(医療法人永広会 島田病院)
赤畠 小百合(医療法人正雅会 辻本病院)
26