けいざい早わかり(2016 年度第 13 号)

2017 年 1 月 23 日
経済レポート
けいざい早わかり(2016 年度第 13 号)
トランプ大統領就任
〜就任演説からみる今後の見通し
調査部 研究員 尾畠 未輝
【目次】
Q1.トランプ大統領の就任演説で、新しい材料は出てきましたか?・・・・・・・p.2
Q2.どのような政策が示されましたか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.3
Q3.金融市場はどう反応しましたか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.5
Q4.今後の注目点を教えて下さい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.6
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1/8
Q1.トランプ大統領の就任演説で、新しい材料は出てきましたか?

1月 20日 、 ド ナ ル ド ・ ト ラ ン プ 氏 が 第 45代 ア メ リ カ 大 統 領 へ 正 式 に 就 任 し ま し た 。 就 任
式 当 日 は 、会 場 の あ る ワ シ ン ト ン 周 辺 で 反 対 派 に よ る 大 規 模 な 抗 議 活 動 が 行 わ れ 、現 在
のアメリカが分断された状況にあることが伺えます。

約 1 8 分 の 就 任 演 説 で は 、1 1 月 の 勝 利 宣 言 演 説 と 同 様 に 過 激 な 主 張 が 抑 え ら れ 、国 民 の 団
結 を 促 し な が ら 強 い ア メ リ カ を 取 り 戻 そ う と す る 姿 勢 が 打 ち 出 さ れ ま し た ( 図 表 1) 。

ま た 、ト ラ ン プ 大 統 領 は 自 身 の 支 持 者 で あ る 労 働 者 層 へ の 配 慮 を 上 手 く 織 り 込 み な が ら 、
こ れ ま で の 海 外 へ の 富 の 流 出 を 批 判 し 、国 内 雇 用 の 拡 大 を 目 指 す こ と を 強 く ア ピ ー ル し
ま し た 。「 ア メ リ カ 製 品 を 買 い 、 ア メ リ カ 人 を 雇 用 す る 」と も 述 べ た よ う に 、ア メ リ カ
第一主義を印象付ける演説でした。

通 商 、外 交 問 題 へ の 言 及 が 多 か っ た 一 方 、特 に 経 済 、財 政 政 策 に つ い て は 具 体 的 な 内 容
に つ い て は ほ と ん ど 語 ら れ ま せ ん で し た 。例 え ば イ ン フ ラ 投 資 の 拡 大 に つ い て も「 新 た
な 道 、高 速 道 路 、橋 、空 港 、ト ン ネ ル 、鉄 道 を 建 設 す る 」と い う 発 言 に と ど ま り 、注 目
された就任演説でしたが、特に目新しい材料があったわけではありません。
図 表 1.ト ラ ン プ 大 統 領 就 任 演 説 の ポ イ ン ト
権限をワシントン(の政治)からアメリカ国民へと移す。
We are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the American People
これまで長い間、国民は守られてこなかった。アメリカ合衆国は皆の国だ。
The establishment protected itself, but not the citizens of our country. This, the United States of America, is your country.
私たちは1つの心と故郷、そして栄光ある運命を共有している。
We share one heart, one home, and one glorious destiny.
何十年もの間、自国の産業を犠牲にして他国の産業を豊かにしてきた。
数兆ドルをも海外に費やしているうちに、自国のインフラは衰退し崩壊してしまった。
(アメリカの)中間層の富が奪われ世界に再分配された。
For many decades, we’ve enriched foreign industry at the expense of American industry;
Spent trillions of dollars overseas while America's infrastructure has fallen into disrepair and decay.
The wealth of our middle class has been ripped from their homes and then redistributed across the entire world.
この瞬間から“アメリカ第一”が始まる。
貿易、税、移民、外交…全てにおいてアメリカの労働者その家族に利益をもたらすような決断を下す。
From this moment on, it ’s going to be America First. Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to
benefit American workers and American families.
私たちは雇用を、国境を、富を、そして夢を取り戻す。
We will bring back our jobs. We will bring back our borders. We will bring back our wealth. And we will bring back our dreams.
私たちの素晴らしい国土に、新たな道、高速道路、橋、空港、トンネル、鉄道を建設する。
We will build new roads, and highways, and bridges, and airports, and tunnels, and railways all across our wonderful nation.
従うのは2つのシンプルなルール、―アメリカ製品を買い、アメリカ人を雇用する。
We will follow two simple rules: Buy American and Hire American
世界の国との友情と親善を求めていく。
しかし、それは各国が自国の利益を最優先する権利があると理解した上でのことだ。
We will seek friendship and goodwill with the nations of the world – but we do so with the understanding that it is the right of all nations to
put their own interests first.
古い同盟を再強化して新たなものへと変化させる。
そして、文明化された世界を一つにして過激なイスラムテロを地球上から完全に根絶やしにする。
We will reinforce old alliances and form new ones – and unite the civilized world against Radical Islamic Terrorism, which we will eradicate
completely from the face of the Earth.
皆はもう決して無視されることない。もう一度、強く、富んだ、誇り高き、安全なアメリカを一緒に作っていこう。
そして、共に再びアメリカを偉大にしよう。
You will never be ignored again.
Together, We Will Make America Strong Again. We Will Make America Wealthy Again.
We Will Make America Proud Again. We Will
Make America Safe Again. And, Yes, Together, We Will Make America Great Again
( 出 所 ) ロ イ タ ー 「 情 報 B O X : ト ラ ン プ 新 大 統 領 の 就 任 演 説 全 文 ( 英 語 )」( 2 0 1 7 年 1 月 2 1 日 )
を基に筆者意訳、まとめ
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2/8
Q2.どのような政策が示されましたか?

大 統 領 就 任 と 共 に 更 新 さ れ た ホ ワ イ ト ハ ウ ス の ホ ー ム ペ ー ジ 上 で は 、 6つ の 分 野 に つ い
て 基 本 的 な 政 策 の ポ イ ン ト が 掲 げ ら れ ま し た ( 図 表 2) 。

事 前 に 想 定 さ れ て い た 通 り 、大 統 領 就 任 後 す ぐ に T P P( 環 太 平 洋 連 携 協 定 )か ら の 撤
退を表明しました。また、NAFTA(北米自由貿易協定)についても再交渉を行い、
公平な取り決めが成されない場合は離脱する方針を示しました。

さ ら に 、ト ラ ン プ 大 統 領 は 医 療 保 険 制 度 改 革 法( オ バ マ ケ ア )関 連 の 規 制 緩 和 に つ い て 、
自身初となる大統領令に署名し関係機関への指示を行いました。

一方、トランプ大統領が最も重点を置いている雇用創出については、これまでと同様、
「 今 後 1 0 年 間 で 2 5 0 0 万 人 の ア メ リ カ 人 の 雇 用 を 創 出 す る 」と 示 す に と ど ま っ て お り 、ど
の分野でどうやって増やすのか等については明確に書かれていません。

ま ず は 税 制 改 正 に 取 り 組 む 方 針 こ そ 示 さ れ ま し た が 、そ の 規 模 に つ い て も 不 透 明 な ま ま
で す 。特 に 、減 税 や イ ン フ ラ 投 資 と い っ た 予 算 の 調 整 が 必 要 な 政 策 に つ い て は 、財 政 規
律 を 重 視 す る 議 会 共 和 党 と ど こ ま で 歩 み 寄 る こ と が 出 来 る か が 焦 点 と な り ま す( 図 表 3 )。
図 表 2.発 表 さ れ た 新 政 権 の 政 策
エネルギー計画
America First Energy Plan
気候行動計画や水質ルールといった有害で不要な政策を排除する。
これらの規制撤廃により今後7年間で300億ドル以上の賃金増加に繋がる。
シェール革命を進め推定50兆ドルの価値がある埋蔵エネルギーを利用する。
エネルギー産業からの収入を道路等のインフラ再構築に充てる。
国内のエネルギー生産を高めることは国家安全保障上もメリットである。
同時に、湾岸諸国と反テロ戦略の一環として積極的なエネルギー関係の構築を進める。
大気と水の保護に向けてEPAを重視する。
外交政策
America First Foreign Policy
ISISや他のイスラム過激主義のテロ組織の壊滅を最優先する。必要なら連合を組み軍事作戦に取り組む。
次に軍の再建に取り組む。最後にアメリカの国益に基づいた外交政策を進める
TPPから撤退する。NAFTAも再交渉し公平な取り決めが拒否されれば離脱する。
自国の利益を害するような通商合意への違反を厳しい措置を講じる。
大統領は商務長官に対し、全ての貿易違反を特定し、あらゆる方法によりこれらを排除するよう指示する。
雇用回復と経済成長
Bringing Back Jobs And Growth
今後10年間で2,500万人のアメリカ人の雇用を創出し、年4%成長を回復させる。
まずは税制改正に着手。所得税と法人税について、税率の引き下げと簡素化を行う。
新たな規制の導入を一時的に止め、悪影響のある雇用規制を特定し撤廃する。
製造業を支えるため、違法または不公平な貿易慣行の国を特定し、既存の貿易協定について厳しい姿勢で再交渉に挑む。
軍の強化
Making Our Military Strong Again
防衛予算の自動削減を中止し新たな予算を議会へ提出。軍隊の再建計画を明らかにする。
イランや北朝鮮などの国からのミサイル攻撃を防ぐ最新のミサイル防衛システムを開発する。
サイバー戦争に関して、サイバー司令部における防衛的かつ攻撃的なサイバー能力の開発を最重要課題とする。
退役軍人に対するケアを厚くする一方、腐敗した無能な(corrupt and incompetent)幹部を解雇する等の改革を行う。
法治社会の強化
Standing Up For Our Law Enforcement Community
暴力犯罪の削減への取り組みを続ける。
全ての国民が銃を保有する権利を支持する。
不法入国や薬物の流入等の阻止に向け、国境に壁を建設する。
法執行の強化により国境付近の不法移民を追放する。
貿易取引
Trade Deals Working For All Americans
(※概ね外交政策と同様)
( 出 所 ) ホ ワ イ ト ハ ウ ス の ホ ー ム ペ ー ジ ( h t t p s : / / w w w. w h i t e h o u s e . g o v / a m e r i c a - f i r s t - e n e r g y )
を基に筆者仮訳

ト ラ ン プ 大 統 領 の 掲 げ る 政 策 に 対 す る 評 価 は 分 か れ て お り 、そ の 効 果 に つ い て も 見 方 が
分 か れ て い ま す 。例 え ば 、民 間 の 調 査 機 関 で あ る T a x F o u n d a t i o n は ト ラ ン プ 大 統 領 の 掲
げ る 税 制 改 革 に よ っ て 、今 後 1 0 年 間 で 歳 入 は 4 . 4 〜 5 . 9 兆 ド ル 程 度 減 少 す る も の の 、雇 用
が 増 加 し 、実 質 G D P は + 6 . 9 〜 8 . 2 % 押 し 上 げ ら れ る と 試 算 し て い ま す 。一 方 、超 党 派
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3/8
の シ ン ク タ ン ク で あ る Tax Policy Centerは 、 税 制 改 革 に よ っ て 10年 間 で 歳 入 が 6.2兆 ド
ル 程 度 減 少 す る 上 、 減 税 の 恩 恵 が 富 裕 層 に 集 中 し 、 長 期 的 に は 実 質 G D P を 年 − 0.5%
ずつ押し下げることになると予測しています。

短 期 的 に は 、法 人 税 や 所 得 税 の 減 税 は 投 資 や 消 費 を 促 し 、景 気 を 押 し 上 げ る 効 果 が あ る
と 考 え ら れ ま す 。ま た 、イ ン フ ラ 投 資 の 拡 大 も 、一 部 を 民 間 需 要 と 相 殺 し て し ま う 可 能
性 が あ り ま す が 、直 接 的 に 景 気 を 刺 激 す る こ と に な る で し ょ う 。し か し 、比 較 的 早 期 に
取 り 組 ま れ る と み ら れ る 減 税 や イ ン フ ラ 投 資 の 拡 大 で あ っ て も 、そ れ が 実 現 し 効 果 が 本
格 的 に 現 れ る の は 、 2017年 後 半 以 降 に な る と み ら れ ま す 。

一 方 、極 端 に 保 護 主 義 が 強 ま れ ば 、コ ス ト 高 を 通 じ て イ ン フ レ が 進 み 、実 質 所 得 を 低 下
さ せ る こ と に な り か ね ま せ ん 。さ ら に 、中 長 期 的 に は 財 政 赤 字 の 拡 大 が 悪 い イ ン フ レ に
繋 が り 、金 利 が 急 上 昇 す る リ ス ク も あ り ま す 。ま た 、外 交 面 で は 各 国 と あ つ 轢 を 生 む こ
とになりかねません。まずは政策がどこまで実現するかの見極めが重要です。
図 表 3.主 な 政 策 の 影 響 と 見 通 し
内容
・法人税率(現35%)の引き下げ
税
制
・
財
政
優先度
/実現度
◎
トランプ大統領、共和党とも強い主張であり優先的に取り組まれる見込みだが、トランプ
氏の掲げる15%までは下げられず、20%台で落ち着く見込み
・所得税率の引き下げ、税率区分の変更
○
トランプ氏は「子供2人以上の中産階級家族に35%の減税」と主張するが、共和党の姿勢
はそれほど強くなく、「簡素化+最高税率の小幅な引き下げ」にとどまるか
・歳出及び将来の債務に上限を設定
△
経済への影響
企業では利益拡大を受けた投資
増加による経済押し上げ効果が
見込まれることに加え、家計で
も消費増加が期待される一方、
格差拡大に繋がる懸念
また、税収減による財政赤字か
らドル高や悪い金利上昇に繋が
る可能性
共和党の主張だが、トランプ氏が財政拡大の政策を維持する中では見通しが立ちにくい
イ
投ン
資フ
ラ
・インフラ投資の拡大
・「気候変動行動計画」の撤回
ー
エ
ネ環
ル境
ギ・
◎
短期的には最も景気押し上げの
効果が出やすい
一方、減税同様、長期的な財政
赤字の拡大が問題
◎
各種の規制緩和はエネルギー分
野での雇用創出や投資促進と共
に、コスト低下が企業収益の改
善と消費の活性化に繋がること
が期待される
インフラの老朽化は深刻であり早期に取り組まれる可能性が高いが、共和党が財政規律を
重視する中、トランプ氏の主張する「10年間で1兆ドル」よりも大幅減額となる見込み
ハイウェイ・トラスト・ファンド(高速道路信託基金)の拡大等が中心か
既に方針を発表、「クリーン・パワー・プラン」については24州がプランに対して訴訟を
起こしており、当面はその行方を見守ることも重要に
・キーストーンXLパイプラインの建設
○
トランプ、共和党とも主張しており、既に素地が出来上がっていることから比較的実現は
容易だが、原油価格の低迷が続く中、優先度がやや低いか
・パリ協定からの脱退
△
2019年11月までは離脱表明が出来ず実現は困難、努力目標を無視し続ける形か
医
療
通
商
・
外
交
移
民
・オバマケアの廃止
・TPP交渉からの離脱/NAFTA再交渉もしくは離脱
オバマケアと大きな違いがなく
影響は軽微
◎
国内雇用の確保の一方、輸出低
迷および輸入価格上昇による収
益悪化で経済押し下げ効果も
さらに、輸入価格の上昇はイン
フレを加速させる可能性
既に方針を発表、TPPからの撤退は確実だが、既に発効しているNAFTAの離脱は悪影響も
大きいことから避けられる見通し
・中国からの輸入に45%、メキシコからの輸入に35%の関税を一律賦課
△
一部の輸入に対する関税の引き上げは議会の承認が無くても可能だが、一律の高関税賦課
は経済への悪影響が大きいことから、個別の関税引き上げが限界か
メキシコとの国境に壁を建設
○
労働力不足に陥れば、賃金上昇
圧力が掛かり、インフレに繋が
る可能性
△
リーマンショックにより強まっ
た規制の緩和は、金融機関の収
益改善に繋がるとみられるもの
の、バブルの懸念も強まる
トランプ氏の主張に共和党も賛成しており、メッセージ性も高いため、簡素な形であって
も実現させるとみられるが、メキシコの費用負担は非現実的
・ドッド・フランク法の見直し、1933年グラス・スティーガル法の復活
金
融
◎
就任当日に大統領令に署名したが、ほぼ同様の制度が再度策定されることになる見通し
共和党が強く主張しているが、トランプ氏の真意が不明であり、優先度は低いとみられる
・FRBに年1回の監査を導入、イエレン議長の再任却下
△
トランプ氏は一貫してFRBを批判しているが、具体的な方針は無いとみられる
( 注 ) 2 0 1 7 年 1 月 2 3 日 時 点 。「 優 先 度 / 実 現 度 」 は 各 種 報 道 等 を 基 に し た 筆 者 に よ る 判 断 。
( 出 所 ) ト ラ ン プ 大 統 領 ホ ー ム ペ ー ジ ( h t t p s : / / w w w. d o n a l d j t r u m p . c o m / ) や 各 種 報 道 を 基 に 筆 者 作 成
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Q3.金融市場はどう反応しましたか?

昨 年 1 1 月 の 大 統 領 選 以 降 、ほ ぼ 一 貫 し て 進 ん で き た 金 利 高 ・ 株 高 ・ ド ル 高 は 、2 0 1 7 年 に
入 っ て 一 服 し て い ま す ( 図 表 4) 。

当 選 後 初 と な る 記 者 会 見 ( 1月 11日 ) で は 、 ト ラ ン プ 大 統 領 が 具 体 的 な 経 済 政 策 を 示 さ
な か っ た こ と に 加 え 、過 激 な 姿 勢 に 変 化 も 見 ら れ な か っ た こ と か ら 市 場 は 失 望 し 、ド ル
売りと一時的な債券買い(金利は低下)が進みました。

さ ら に 、1 月 上 旬 に ト ラ ン プ 氏 は マ ス メ デ ィ ア の イ ン タ ビ ュ ー で 、ド ル が「 高 す ぎ る( t o o
s t r o n g )」と 批 判 し た こ と で 、直 後 に は ド ル が 下 落 し 、長 期 金 利 も 低 下 し ま し た 。大 統
領が為替について発言をするのは非常に異例です。

も っ と も 、株 価 に つ い て は 、企 業 業 績 が 好 調 な こ と も あ っ て 大 き く 下 落 す る こ と は な く 、
足元でも高水準を維持しています。

今 回 も 、演 説 の 前 後 は 為 替 相 場 が や や 不 安 定 に な り ま し た が 、演 説 の 内 容 に 目 立 っ た 材
料 が な か っ た こ と か ら 、結 果 的 に 市 場 は そ れ ほ ど 大 き く 動 き ま せ ん で し た 。既 に 市 場 は
トランプ大統領の掲げる大胆な政策が一朝一夕には進まないことを織り込んでいると
考 え ら れ 、し ば ら く は 不 安 定 な 動 き が 続 く 可 能 性 も あ り ま す が 、今 後 は 緩 や か に 期 待 が
はく落していく過程で、株安・ドル安が進み、金利が低下する可能性があります。
図 表 4.マ ー ケ ッ ト 動 向 ( 短 期 )
(ドル)
(%)
3.0
20,000
2.8
19,500
2.6
19,000
2.4
18,500
2.2
18,000
2.0
NYダウ工業株30種
17,500
17,000
2016/11/01
10年物国債利回り:右軸
1.8
1.6
2016/12/01
2017/01/01
(出所)Bloomberg

(円/ドル)
20,500
(年、日次)
(ドル/ユーロ、逆目盛)
120
1.02
115
1.04
110
1.06
105
1.08
対円
100
1.10
対ユーロ:右軸
95
2016/11/01
1.12
2016/12/01
(出所)Bloomberg
2017/01/01
(年、日次)
な お 、ト ラ ン プ 大 統 領 が ド ル 高 を 批 判 し た 直 後 、新 財 務 長 官 の ム ニ ュ ー チ ン 氏 が 承 認 公
聴 会 で「 ド ル の 長 期 的 な 力 強 さ が 重 要 に な る 」と 述 べ 、ド ル 高 を 支 持 す る 姿 勢 を 見 せ ま
し た 。大 統 領 の 発 言 に 対 す る 火 消 し の 意 味 も あ っ た で し ょ う が 、こ れ ま で も 1 9 8 0 年 代 後
半 か ら 1990年 代 前 半 を 除 き 、 歴 代 の 財 務 長 官 は 基 本 的 に 強 い ド ル を 支 持 し て い ま す 。

も っ と も 、実 際 の 為 替 相 場 の 推 移 を 見 る と 、近 年 で は 珍 し く オ バ マ 前 政 権 は 就 任 時 と 比
べ 退 任 時 の 方 が ド ル 高・円 安 と な っ て い ま す が 、長 期 的 に み る と 徐 々 に ド ル 安 が 進 ん で
い ま す ( 図 表 5) 。

ト ラ ン プ 大 統 領 の 掲 げ る 財 政 拡 大 や 保 護 主 義 と い っ た 政 策 は 、景 気 を 刺 激 し 、イ ン フ レ
加 速( 金 利 上 昇 )を 通 じ て ド ル 高 に 繋 が り や す い も の が 多 く あ り ま す 。こ の た め 、大 統
領による口先介入でそうした動きをけん制することは市場を混乱させるばかりであり、
かえって経済を悪化させかねません。
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図 表 5.マ ー ケ ッ ト 動 向 ( 長 期 )
(ドル)
①
②
③
④
⑥ (ドル/円)
⑤
300
25,000
NYダウ工業株30種
20,000
250
対円レート:右軸
15,000
200
10,000
150
5,000
100
0
75
80
政権
為
替
最安値
最高値
就任時→退任時の変動率
最高値
株
最安値
就任時→退任時の変動率
(注)グラフは月次、表は日次。
85
90
①
カーター
290.4
177.1
▲30%
1,005
742
+1%
95
00
05
②
③
④
レーガン
H .W.フ ゙ ッ シ ュ クリントン
277.7
159.9
147.3
121.1
119.3
80.6
▲35%
▲2%
▲6%
2,722
3,413
11,723
777
2,218
3,242
+136%
+46%
+227%
10
50
15 (年)
⑤
ブッシュ
134.7
87.2
▲23%
14,165
7,286
▲25%
⑥
オバマ
125.6
75.8
+28%
19,975
6,547
+148%
(出所)Bloomberg
Q4.今後の注目点を教えて下さい。

足 元 で は 大 統 領 が 指 名 し た 主 要 閣 僚 人 事 の 承 認 が 進 ん で い ま す 。次 の 大 き な イ ベ ン ト と
し て は 、ま ず 大 統 領 に よ る 一 般 教 書 演 説 が 挙 げ ら れ ま す( 図 表 6 )。1 月 最 後 の 火 曜 日 に
行 わ れ る こ と が 多 い で す が 、 大 統 領 就 任 の 年 は 2月 に ず れ 込 む 傾 向 に あ り ま す 。

「 一 般 教 書 」で は 、政 権 の 政 策 目 標 が ま と め ら れ 、大 統 領 自 身 に よ る 政 策 提 案 も 組 み 込
ま れ ま す 。通 常 で あ れ ば 、一 般 教 書 を 読 め ば 優 先 的 に 取 り 組 ま れ る 政 策 や そ の 方 向 性 が
お お よ そ 分 か り ま す 。し か し 、こ こ で も ト ラ ン プ 大 統 領 に よ る 具 体 的 な 政 策 の 内 容 が 全
く見えてこなければ、市場が本格的に失望してしまう可能性があります。

続 い て 、翌 会 計 年 度 ( 今 回 で あ れ ば 2 0 1 7 年 1 0 月 〜 )の 予 算 方 針 を 示 す 「 予 算 教 書 」が 議
会 に 出 さ れ ま す 。実 際 に は 大 統 領 の 指 示 を 受 け 、行 政 管 理 予 算 局( O M B )が 作 成 し た
も の で す 。2 月 の 第 1 月 曜 ま で に 議 会 へ 提 出 す る こ と に な っ て い ま す が 、例 年 遅 れ が ち で
す 。予 算 案 の 成 立 に は 、議 会 に よ る 可 決 と 大 統 領 の 署 名 が 必 要 で す が 、予 算 教 書 に よ っ
て、財政支出の大体の規模が見えてきます。

そ し て 最 後 に 、 予 算 教 書 の 提 出 か ら 10日 以 内 に 「 大 統 領 経 済 報 告 」 が 議 会 へ 提 出 さ れ 、
大 統 領 に よ る 「 三 大 教 書 」 が 出 揃 い ま す 。 予 算 教 書 の 提 出 が 遅 け れ ば 、 3月 半 ば 頃 に な
る見込みです。

こ の 間 に 行 わ れ る F O M C に も 注 視 が 必 要 で す 。 12月 時 点 で は 、 F R B は 年 内 に 3度 の
利 上 げ を 見 込 ん で お り 、 ま ず は 3月 1 4 ・ 1 5 日 の F O M C で 利 上 げ が 行 わ れ る か が 注 目 さ
れています。

ま た 、ト ラ ン プ 大 統 領 は 、現 在 空 席 と な っ て い る 2 名 の 理 事 に つ い て の 指 名 を 就 任 3 カ 月
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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6/8
以内に行うと述べています。実際に理事に就任するためには議会の承認が必要ですが、
F O M C で の 投 票 権 を 持 つ こ と か ら 、ど う い っ た 人 物 が 起 用 さ れ る か が 重 要 に な っ て き
ます。
図 表 6.今 後 の 主 な ス ケ ジ ュ ー ル
日程
1月
1、2月
1月
2月
3月
米国日程
20日
第45代大統領就任式 (議会は3日に開会済)
31日、1日 FOMC
フランス大統領選
31日(予定) 両院議会演説(一般教書演説)
(決選投票は5月7日)
上旬
予算教書、大統領経済報告提出
未定
閣僚人事議会承認完了
14、15日 FOMC (議長会見有り)
15日
連邦債務上限適用停止の終了
4月
29日
大統領就任100日経過
5月
2、3日
未定
6月
7月
<参考>世界
4月23日
FOMC
G7
5月25日
OPEC総会
9月24日
ドイツ連邦議会選挙
シチリア・サミット
13、14日 FOMC (議長会見有り)
7、8日
G20
ハンブルク・サミット
25、26日 FOMC
9月
19、20日 FOMC (議長会見有り)
10月
1日
10、11月
31、1日
12月
2018会計年度開始
FOMC
12、13日 FOMC (議長会見有り)
(出所)FRB、各種報道等

就 任 直 前 の 世 論 調 査 に お け る ト ラ ン プ 大 統 領 の 支 持 率 1は 約 40% と 、 同 時 期 の オ バ マ 元
大 統 領 の 支 持 率 が 8割 を 上 回 っ て い た こ と と 比 べ て も 、 非 常 に 低 水 準 で す 。 大 統 領 選 で
は 人 々 の 格 差 問 題 へ の 不 満 が ト ラ ン プ 氏 を 勝 利 に 導 い た と み ら れ て い ま す が 、現 時 点 で
想 定 さ れ て い る よ う な 新 政 権 の 政 策 が す ぐ に 格 差 を 解 消 す る と は 考 え ら れ ま せ ん 。就 任
式 の 際 の 大 規 模 な 抗 議 行 動 に み ら れ た よ う に 、今 後 、米 国 社 会 の 亀 裂 が 一 段 と 深 刻 に な
ってしまう点に注意があります。

さ ら に 、 ト ラ ン プ 大 統 領 は 1月 11日 の 記 者 会 見 で 、 質 問 し よ う と し た 大 手 テ レ ビ 局 の 記
者 に 向 か っ て 「 黙 れ ( Quiet) 」 「 偽 ニ ュ ー ス だ ( You are fake news) 」 な ど と 批 判 す
る 等 、マ ス メ デ ィ ア と の 対 立 が 目 立 っ て い ま す 。大 統 領 就 任 後 も ト ラ ン プ 氏 は S N S を
多 用 し て 情 報 発 信 を 続 け て い ま す が 、マ ス メ デ ィ ア が 大 き な 影 響 力 を 持 つ 米 国 で は 、こ
れ 以 上 対 立 が 深 刻 化 す る と 自 分 で 自 分 を 追 い 込 む こ と に な り か ね ず 、支 持 率 が さ ら に 低
下 し て し ま う 可 能 性 が あ り ま す 。2 0 1 8 年 に は 中 間 選 挙 が 控 え て い ま す が 、国 民 の 支 持 を
どれだけ保てるかが重要になるでしょう。

日 本 に 対 し て は 、 現 在 、 2月 上 旬 を 目 途 に ト ラ ン プ 新 政 権 と 安 倍 首 相 、 麻 生 副 総 理 と の
日 米 首 脳 会 談 の 開 催 を 目 指 し て 調 整 が 進 め ら れ て い ま す が 、為 替 や 二 国 間 F T A 等 の 通
商戦略について圧力を掛けてくる可能性があり、注視が必要です。
1
CNN及 び調 査 機 関 ORCによる調 査 。支 持 率 とは、政 権 移 行 へ向 けた仕 事 ぶりを支 持 する人 の割 合 」。
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