2016 年 12 月 15 日 経済レポート けいざい早わかり(2016 年度第 11 号) 米国における利上げの影響と今後の見通し 調査部 研究員 尾畠 未輝 【目次】 Q1.米国で利上げが行われましたね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.2 Q2.なぜ利上げを行うのですか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.3 Q3.米国の景気にはどう影響しますか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.4 Q4.今後も利上げが続くのでしょうか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.6 Q5.トランプ大統領の下で金融政策は何か変わりますか?・・・・・・・・・・p.7 ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 TEL:03-6733-1070 E-mail:[email protected] 1/8 Q1.米国で利上げが行われましたね。 1 2 月 1 3 日 、1 4 日 に 開 か れ た 米 連 邦 公 開 市 場 委 員 会( F O M C )で 、米 連 邦 準 備 制 度 理 事 会( F R B )は フ ェ デ ラ ル フ ァ ン ド( F F )金 利 の 誘 導 目 標 を 年 0 . 2 5 ∼ 0 . 5 0 % か ら 年 0 . 5 0 ∼ 0.75% へ と 引 き 上 げ る こ と を 決 定 し ま し た ( 図 表 1) 。 今 回 、F R B が 1 年 ぶ り の 利 上 げ に 踏 み 切 っ た 背 景 に は 、米 国 経 済 の 拡 大 が 順 調 に 続 い て い る こ と が あ り ま す 。 F O M C 後 に 発 表 さ れ た 声 明 文 に は 、「 労 働 市 場 の 引 き 締 ま り が 続 い て お り 、今 年 半 ば 以 降 、経 済 活 動 が 緩 や か な ペ ー ス で 拡 大 し て い る 」と 記 さ れ て お り 、イ エ レ ン 議 長 も 会 見 で「 利 上 げ の 決 定 は 、こ れ ま で み ら れ た よ う な 経 済 の 拡 大 が 今 後 も 続 く と い う 我 々 の 自 信 ( c o n f id e n c e ) を 反 映 し た も の だ 」 と 述 べ て い ま す 。 実 際 、 足 元 で 発 表 さ れ て い る 経 済 指 標 は 景 気 の 好 調 を 示 す も の が 増 え て い ま す 。 7∼ 9 月 の 実 質 G D P 成 長 率 ( 改 訂 値 ) は 季 調 済 前 期 比 年 率 + 3.2% と 高 い 伸 び だ っ た こ と に 加 え 、 2016 年 11 月 の 失 業 率 は 4.6% と 、 リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク に よ っ て 急 速 に 悪 化 す る 前 の 水 準 に ま で 改 善 し て い ま す 。 さ ら に 、 11 月 の 大 統 領 選 挙 後 に 株 価 が 大 き く 上 昇 し た こ と も 、追 加 利 上 げ へ の 追 い 風 と な り ま し た 。こ う し た 状 況 を 受 け て 、F O M C 直 前 には利上げが市場で完全に織り込まれていました。 も っ と も 、 前 回 の 利 上 げ ( 2015 年 12 月 ) 時 点 で は 、 F O M C の 委 員 は 2016 年 中 に 4 回 の 利 上 げ を 見 込 ん で い ま し た 。し か し 、年 明 け 以 降 、中 国 を 中 心 と し た 世 界 経 済 の 弱 さ を 背 景 に 企 業 収 益 や 設 備 投 資 が 伸 び 悩 む な ど 米 国 景 気 が 減 速 し た た め 、利 上 げ が 見 送 ら れ て き ま し た 。ま た 、先 行 き 不 透 明 感 の 強 い 中 、利 上 げ を す る こ と で 世 界 経 済 を 一 段 と 悪 化 さ せ る 懸 念 も あ り ま し た 。夏 場 に は 景 気 が 持 ち 直 し に 転 じ た も の の 、原 油 安 と ド ル 高 に よ り 物 価 上 昇 圧 力 が 弱 い 中 で 、物 価 が F R B の 目 標 と す る 2 % に な か な か 近 付 い て こ な か っ た た め 、利 上 げ に 至 り ま せ ん で し た 。さ ら に 、大 統 領 選 挙 が 徐 々 に 近 付 い て きたこともあって、様子見の姿勢が強まりました。 今 回 の 利 上 げ ペ ー ス を 過 去 と 比 較 す る と 非 常 に ゆ っ く り で あ り 、か な り 慎 重 に 情 勢 を 見 極 め た 上 で の 判 断 だ っ た と い え ま す ( 図 表 2 )。 図 表 1.F F 金 利 と 失 業 率 の 推 移 10 図 表 2.利 上 げ ペ ー ス の 比 較 (%) 4.5 9 FF金利 4.0 8 失業率 3.5 7 (利上げ直前月の水準からの差、%ポイント) ② FF金利 ① 3.0 6 2.5 5 2.0 4 3 1.5 2 1.0 1 0.5 0 ③ 今回 0.0 85 90 95 00 05 10 15 0 (年、月次) (出所)FRB、労働省 TEL:03-6733-1070 10 15 20 25 (利上げからの月数、ヶ月) ( 注 )① は 9 4 年 2 月 = 1 、利 上 げ 前 の 水 準 は 3 % 、 ② は 99 年 6 月 = 1、 同 4.75% 、 ③ は 04 年 6 月 = 1、 同 1% 。 (出所)FRB ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 5 E-mail:[email protected] 2/8 Q2.なぜ利上げを行うのですか? F R B が 今 、利 上 げ を 行 う 主 な 目 的 は 、景 気 の 過 熱 を 抑 制 し バ ブ ル の 発 生 を 防 ぐ こ と だ と 考 え ら れ ま す 。大 統 領 選 以 降 の 株 価 上 昇 は 利 上 げ へ の 追 い 風 と な っ た 一 方 、資 産 バ ブ ル の 懸 念 が 強 ま っ て い ま す ( 図 表 3 )。 ま た 不 動 産 市 場 で も 、 雇 用 ・ 所 得 環 境 が 好 調 な 中 で 住 宅 ロ ー ン 金 利 が 過 去 最 低 水 準 に あ る こ と か ら 活 況 が 続 い て お り 、S & P ケ ー ス ・ シ ラ ー 住 宅 価 格 指 数 は 、リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク の 引 き 金 と な っ た 不 動 産 バ ブ ル の 頃( 2 0 0 6 年頃)の水準にまで近付いています。 図 表 3 . 株 価 と住 宅 価 格 300 (00年1月=100) (ドル) S&Pケースシラー住宅価格指数 20,000 NYダウ平均株価:右軸 250 15,000 200 10,000 150 5,000 100 0 02 04 06 08 10 12 14 16 (年、月次) (注)シャドウ部分は利上げ局面。 (出所)S&P、Dow Jones も っ と も 、 物 価 は 足 元 で も 目 標 と す る 水 準 ( 2% ) に は 達 し て お ら ず 、 イ ン フ レ 懸 念 が 強 ま っ て い る わ け で は あ り ま せ ん 。 2015 年 後 半 に は 原 油 価 格 が 一 段 と 下 落 し 、 物 価 に 対 す る 下 押 し 圧 力 が 強 ま り ま し た 。ま た 、長 い 目 で 見 る と 、世 界 的 に 低 金 利 政 策 が 長 期 化 す る 中 で 景 気 が 回 復 し て い る 時 で さ え 期 待 イ ン フ レ 率 は 低 下 し 、長 期 金 利 も じ わ じ わ と 下 が っ て き ま し た ( 図 表 4 )。 図 表 4 . 長 短 金 利 と期 待 イ ン フ レ 率 4.0 (%) FF金利 長期金利 期待インフレ率 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 08 09 10 11 12 13 14 15 (年、月次) (注)期待インフレ率は、長期金利とインフレ連動債の差。 ( 出 所 ) Bloomberg ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 TEL:03-6733-1070 E-mail:[email protected] 3/8 む し ろ 物 価 の 低 迷 が 利 上 げ の 判 断 を 慎 重 に さ せ て い た ほ ど で し た が 、そ れ で も F R B が 利 上 げ を 進 め る 理 由 は 、な る べ く 早 く 金 融 政 策 を「 正 常 化 」さ せ た い と い う 考 え が 強 く あ る た め で す 。リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク 後 の 大 幅 な 利 下 げ に よ っ て 、現 在 で は F F 金 利 の 低 下 余 地 が ほ と ん ど 無 く な っ て い ま す 。日 本 で は 、同 じ よ う な 状 況 の 中 で 更 な る 緩 和 が 必 要 と な っ た 結 果 、マ イ ナ ス 金 利 の 導 入 へ と 踏 み 切 り ま し た 。し か し 、そ の 副 作 用 は 決 し て 小 さ く な く 、将 来 の 景 気 悪 化 時 の 緩 和 に 備 え 金 利 を 正 常 な 水 準 に 戻 し 、利 下 げ 余 地 を 確保しておきたいと考えているのです。 な お 、リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク 後 に は 、F R B は 金 利 を 引 き 下 げ た だ け で な く 、米 国 国 債 や 政 府 機 関 債 に 加 え リ ス ク 資 産 の 買 い 取 り と い っ た 量 的 緩 和 も 行 い ま し た 。こ の 結 果 、マ ネ タ リ ー ベ ー ス が 大 幅 に 増 加 し 、F R B の バ ラ ン ス シ ー ト の 規 模 は 足 元 で 4 . 5 兆 ド ル と 、 リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク 前 と 比 べ 5 倍 に 膨 ら ん で い ま す 。当 初 、F R B は 金 融 政 策 の 正 常 化 に あ た り 、償 還 期 限 の 来 た 保 有 債 券 へ の 再 投 資 を 止 め て バ ラ ン ス シ ー ト を 縮 小 さ せ る 方 法 を 検 討 し て い ま し た 。し か し 、債 券 市 場 を 通 じ た 経 済 へ の 悪 影 響 が 大 き い と の 判 断 か ら 、F F 金 利 の 水 準 が 正 常 化 す る ま で( u n t il n o r ma l iz a t io n o f th e le ve l o f th e f e d e ra l f u n d s ) 再投資政策を続けるとしています。 Q3.米国の景気にはどう影響しますか? 通 常 、利 上 げ を 行 う と 、調 達 コ ス ト や 借 入 コ ス ト が 高 ま る た め 企 業 の 設 備 投 資 や 家 計 の 消 費 が 抑 制 さ れ 、景 気 に 下 押 し 圧 力 が 掛 か り ま す 。実 際 、前 回 ま で の 利 上 げ 局 面 を 見 る と 、利 上 げ を 機 に 株 価 の 上 昇 が 一 服 し て お り 、市 場 の 景 気 に 対 す る 見 方 が 慎 重 に な っ た こ と が 見 受 け ら れ ま す ( 図 表 5 )。 一 方 、失 業 率 の 推 移 を み る と 、利 上 げ 後 も 改 善 ペ ー ス が 維 持 さ れ て い ま す 。通 常 、景 気 と 失 業 率 に は タ イ ム ラ グ が あ り 、利 上 げ 後 す ぐ に 労 働 市 場 が 悪 化 す る こ と は あ り ま せ ん で し た 。も っ と も 、過 去 3 回 の 利 上 げ 局 面 に お い て 、2 度 目 の 利 上 げ を 行 っ た 後 も 実 質 G D P 成 長 率 の 伸 び は ほ と ん ど 低 下 し て お ら ず 、F R B は 実 体 経 済 を 悪 化 さ せ な い よ う にコントロールしながら利上げを行ってきたと言えます。 図 表 5 . 利 上 げ前 後 の 株 価 ( 左 ) と失 業 率 ( 右 ) 110 (利上げ直前月=100) (利上げ直前月の水準からの差、%ポイント) 0.8 ① ② ③ 0.6 105 0.4 100 0.2 95 0.0 90 -0.2 85 -0.4 75 改 善 -0.6 ① ② ③ 80 -0.8 -1.0 70 -1.2 -12 利上げ 12 (利上げからの月数) -12 利上げ 12 (利上げからの月数) ( 注 ) そ れ ぞ れ の 利 上 げ 時 期 は 、 ① が 94 年 2 月 、 ② が 99 年 6 月 、 ③ が 04 年 6 月 。 株価はNYダウ平均。 (出所)Dow Jones、労働省 ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 TEL:03-6733-1070 E-mail:[email protected] 4/8 今 回 も 、利 上 げ 決 定 直 後 に 米 国 株 価 が 下 落 し ま し た 。利 上 げ 前 か ら 史 上 最 高 値 の 更 新 が 続 く 中 で 高 値 警 戒 感 が 出 て い た こ と に 加 え 、ト ラ ン プ 氏 の 経 済 政 策 の 具 体 案 が 決 ま っ て い な い 状 況 で は 期 待 先 行 で 押 し 上 げ ら れ て い る 面 が 強 い こ と も あ り 、今 後 、株 価 が 調 整 局面に入る可能性があります。 一 方 、実 体 経 済 に つ い て は 、労 働 市 場 が 完 全 雇 用 に 近 づ く 中 で 賃 金 は 堅 調 に 増 加 し て お り、企業や消費者のマインドも年初に比べると高い水準にまで回復していることから、 今 後 も 拡 大 傾 向 を 維 持 出 来 る と み ら れ ま す 。さ ら に 、利 上 げ の ペ ー ス が 従 来 よ り も ゆ っ く り で あ る 上 、利 上 げ 後 の 金 利 水 準 も ま だ 低 く 、景 気 へ の 影 響 は 限 定 的 で あ る と 考 え ら れます。 ま た 、一 般 的 に 利 上 げ は 金 利 差 の 拡 大 を 通 じ て そ の 国 の 通 貨 を 増 価 さ せ る 圧 力 に な り ま す 。 例 え ば 、 ド ル 円 レ ー ト を み る と 、 前 回 ( 04 年 5 月 ∼ ) の 利 上 げ 局 面 に お い て も 、 徐 々 に ド ル 高 が 進 み ま し た 。 長 期 的 に み る と 、 1990 年 代 後 半 以 降 、 ド ル 円 レ ー ト は 長 期 金 利 の 差 と 連 動 し て 動 い て い ま す 。し か し 、今 回 は 最 初 の 利 上 げ か ら の 1 年 弱 、大 幅 な ド ル 安 と な り ま し た( 図 表 6 )。利 上 げ の 幅 が 小 さ か っ た 上 、追 加 利 上 げ の 観 測 が 徐 々 に 後 退 し た こ と で 金 利 の 先 高 感 が 生 じ ず 、長 期 金 利 は 低 下 し ド ル 高 圧 力 が 掛 か ら な か っ たのです。 足 元 で は 、大 統 領 選 後 の 長 期 金 利 の 上 昇 を 受 け て 、ド ル は 各 国 通 貨 に 対 し て 大 き く 上 昇 し て い ま す 。さ ら に 今 回 、追 加 利 上 げ の ペ ー ス が 速 ま る と の 観 測 が 強 ま っ た こ と で 、一 段 と ド ル 高 が 進 み そ う で す 。し か し 、急 な ド ル 高 は 企 業 業 績 の 悪 化 を 通 じ 、米 国 景 気 に 悪 影 響 を 及 ぼ す こ と に な り か ね ま せ ん 。こ う し た 状 況 で は 、今 後 、ト ラ ン プ 氏 が 口 先 介 入などのけん制に動く可能性もあります。 図 表 6 . ドル 円 レ ー ト と 名 目 実 効 レ ー ト 110 (円/ドル) (1973年3月=100) 名目実効レート 105 120 ドル円レート:右軸 100 130 110 100 90 90 85 80 ドル高 95 80 75 利上げ 70 70 60 50 12 13 14 15 16 (年、日次) (注)名目実効レートは対主要通貨。 (出所)FRB ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 TEL:03-6733-1070 E-mail:[email protected] 5/8 Q4.今後も利上げが続くのでしょうか? 今 回 の F O M C で 新 た に 発 表 さ れ た 「 経 済 見 通 し 」 で は 、 委 員 に よ る 2017 年 の 実 質 G D P 成 長 率 見 通 し( 中 央 値 )は 2.1% と 、前 回( 9 月 )か ら + 0.1% ポ イ ン ト と 、わ ず か に 上 昇 し て い ま す 。 11 月 28 日 に O E C D が 発 表 し た 「 世 界 経 済 見 通 し 」 で も 、 同 年 の 米 国 の 成 長 率 見 通 し は 2 . 3 %( 9 月 時 点 = 2 . 1 % )と 上 方 修 正 さ れ て お り 、現 時 点 で は ト ランプ政権の下で景気に刺激的な政策が採られる可能性もあって経済の力強さが増す との見方が強まっています。 こ う し た 中 、委 員 に よ る 2 0 1 7 年 年 末 時 点 の F F レ ー ト 誘 導 目 標 は 1 . 2 5 ∼ 1 . 5 0 % が 最 も 多 く な り ( 6 人 )、 前 回 よ り も 利 上 げ の ペ ー ス が や や 速 ま り ま し た ( 図 表 7 )。 一 回 の 上 げ 幅 が こ れ ま で と 同 様 の 0.25% ポ イ ン ト ず つ で あ れ ば 、 2017 年 は 3 回 の 利 上 げ を 見 込 んでいることになります。 図 表 7 . F O M C委 員 に よ る F F 金 利 見 通 し 4 (%) <参考>2017年FOMC日程 1月31日、2月1日 3 3月14、15日 * 5月2、3日 2 6月13、14日 * 7月25、26日 1 9月19、20日 * 10月31日、11月1日 0 2017 2018 2019 長期 (年末時点) 12月12、13日 * (*は議長の記者会見有り。) (出所)FRB た し か に 、完 全 雇 用 に 近 づ く 中 で 労 働 需 給 は 引 き 締 ま っ た 状 態 に あ る こ と に 加 え 、原 油 価 格 の 下 落 に よ る 下 押 し 圧 力 が は く 落 し 、物 価 が 上 が り や す い 状 態 と な っ て い る こ と か ら、利上げを進めやすい環境が整っているといえるでしょう。 し か し 、 実 際 に ト ラ ン プ 政 権 の 政 策 効 果 が 表 わ れ る の は 17 年 半 ば 以 降 と み ら れ 、 そ れ ま で に 株 価 が 調 整 局 面 に 入 る こ と で 企 業 や 家 計 の マ イ ン ド が 委 縮 し て し ま う と 、F R B は 利 上 げ に 踏 み 切 り に く く な る と 考 え ら れ ま す 。そ の 場 合 、年 後 半 の 短 い 間 に 3 度 の 利 上 げ を 行 う こ と は 難 し く 、利 上 げ は 年 半 ば と 年 末 の 2 回 が せ い ぜ い と 考 え ら れ ま す 。い ず れ に せ よ 、今 後 も F R B は 雇 用 の 拡 大 と 物 価 の 上 昇 を 中 心 に 実 体 経 済 を 見 極 め な が ら 、 利上げペースを柔軟に変更していくものとみられます。 な お 、F O M C で は 投 票 権 を 持 つ 委 員( 地 区 連 銀 総 裁 )が 1 年 ご と に 4 名 ず つ 入 れ 替 わ り ま す 。9 月 の F O M C で F F 金 利 の 据 え 置 き に 反 対( 利 上 げ を 支 持 )し て い た ジ ョ ー ジ 氏( カ ン ザ ス シ テ ィ )、メ ス タ ー 氏( ク リ ー ヴ ラ ン ド )、ロ ー ゼ ン グ レ ン 氏( ボ ス ト ン ) の 3 名 全 員 が 2016 年 を も っ て 委 員 か ら 外 れ る こ と に な り ま す 。 現 時 点 で は 、 新 た に 投 票 権 を 持 つ 委 員 の 顔 ぶ れ は 、「 ハ ト 派 」 と 呼 ば れ る 経 済 や 金 融 政 策 に 慎 重 な 姿 勢 の 委 員 が 多 い と み ら れ て い ま す が 、過 去 に も 就 任 中 に ハ ト 派 か ら タ カ 派( 強 気 の 姿 勢 )に 変 わ った委員もいることから、今後の発言などには注視が必要です。 ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 TEL:03-6733-1070 E-mail:[email protected] 6/8 Q5.トランプ大統領の下で金融政策は何か変わりますか? 選 挙 戦 で ト ラ ン プ 氏 は 、 低 金 利 政 策 へ の 批 判 を 繰 り 返 し て い ま し た ( 図 表 8 )。 一 方 で 、 「 自 分 は 低 金 利 支 持 者( lo w -in te re st -r a t e -p e r so n )だ 」と 語 っ て も い ま す 。ま た 、他 国 の 為 替 政 策 を 非 難 し て ド ル 高 に つ い て も 否 定 的 な 考 え を 示 し て は い ま す が 、金 融 政 策 に 対 する明確な考えを持っているわけではないようです。 こ れ に 対 し 、イ エ レ ン 議 長 は 大 統 領 選 挙 後 に 開 か れ た 議 会 証 言 の 場 で 、政 策 決 定 に お い て 政 治 の 介 入 は な く F R B は 独 立 性 を 保 つ こ と を 改 め て 主 張 し た 上 で 、行 き 過 ぎ た 財 政 拡 大 を 牽 制 し ま し た 。ま た 、F O M C 後 の 会 見 で も 、自 ら が 大 統 領 の 政 策 に 対 し て 助 言 す る こ と は な い と し た 上 で 、「 F R B の 独 立 性 の 強 い 信 奉 者 だ ( I' m a s t ro n g b e l ie v e r in th e in d e p e n d e n c e o f th e Fe d )」 と 述 べ て い ま す 。 図 表 8 . ト ラ ン プ 氏 の 選 挙 戦 での 金 融 政 策 に 関 わ る 主 な発 言 2016年 媒体 2月 自身のtwitter 4月 フォーチュン誌 5月 ロイター CNBCテレビ 9月 CNBCテレビ エコノミスト誌 第1回テレビ討論会 発言内容(一部要約、抜粋) FRBを監査することが非常に重要だ。テッド・クルーズ氏はそれを実現させ る法案の採決に出席しなかった。 イエレンの再任についてコメントすることは控えたいが、どちらかといえ ば別の人物の起用に傾くだろう。 FRBの権限を「断固として」取り除き、議会がFRBの政策判断を監査するこ とも容認する。 われわれにとって最高なのは、現在の金利が極めて低いことだ。政策金利 が3~4%になれば恐ろしい。 ドッド・フランク法は非常にネガティブな要因であり、極めて不評を買っ ている。ほぼ廃止するものになる。 私はイエレンの敵ではない。 ドッド・フランク法は撤廃か、大幅に改定する必要がある。 私は低金利主義者だ。金利が上がり、ドル高になれば大問題だ。 イエレンは非常に有能な人物だが共和党員ではない。 イエレンは政治的で、オバマ大統領が株高を望んでいるから低金利政策を 続けている、恥を知るべきだ。 友人がコマツのトラクターを買ったのは、性能差ではなくドル高だから だ。このレベルの円安誘導をされると競争は出来ない。 FRBは政治的。イエレンは政治的に金利を今の水準に維持している。FRBは 自分の仕事をしていない。 (出所)各種報道資料 尚 、 ト ラ ン プ 氏 は 、 イ エ レ ン 議 長 に 対 し て 2018 年 以 降 の 再 任 を 認 め な い と い っ た 発 言 も し て い ま す 。現 在 、F R B で は F O M C で の 投 票 権 を 持 つ 理 事 2 名 が 空 席 に な っ て い ま す が 、報 道 に よ る と 、ト ラ ン プ 氏 は 大 統 領 就 任 3 カ 月 以 内 に 空 席 を 埋 め る た め の 指 名 を 行 お う と し て い る よ う で す ( 就 任 に は 議 会 の 承 認 が 必 要 )。 当 然 、 自 身 の 意 向 を 汲 ん で く れ る よ う な 人 物 を 選 ぶ は ず で す か ら 、イ エ レ ン 議 長 に と っ て は 政 権 か ら の 圧 力 が 一 段と掛かることになるでしょう。 さ ら に 、今 年 1 月 に 上 院 で 否 決 さ れ た も の の 、 共 和 党 か ら は 、政 府 監 査 院 ( G A O )が F R B の 金 融 政 策 を 監 査 の 対 象 と す る「 F R B 監 査 法 」と い う 案 が 出 て い ま し た 。ト ラ ンプ氏もFRBの持つ金融政策の実行力を抑制したいという考えを持っているとみら れ て お り 、今 後 、同 様 の 法 案 の 提 出 が 検 討 さ れ る 可 能 性 が あ り ま す 。も っ と も 、共 和 党 の 議 席 数 は 、 上 院 で 確 実 に 法 案 が 通 る た め に 必 要 な 60 議 席 を 下 回 っ て い る こ と か ら 、 実現は難しいとみられます。 ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 TEL:03-6733-1070 E-mail:[email protected] 7/8 今 回 の F O M C で は 、ト ラ ン プ 政 権 の 下 で の 経 済 政 策 の 変 化 や 経 済 へ の 影 響 に つ い て 議 論 が あ っ た よ う で す 。数 名 の 委 員 は 、ト ラ ン プ 政 権 に お け る 財 政 政 策 の 変 更 、つ ま り 財 政支出拡大によるインフレ加速を考慮して先行きのFF金利見通しを引き上げたとさ れています。 し か し 、ト ラ ン プ 氏 が 大 統 領 に な っ た か ら と い っ て 、F R B の 独 立 性 が 損 な わ れ た り 金 融 政 策 の 方 向 が 大 き く 変 わ っ た り す る こ と は な く 、今 後 も F R B は 雇 用 の 拡 大 と 物 価 の 安 定 と い う 2 つ の 使 命( d u a l ma n d a te )を 果 た す た め 粛 々 と 政 策 を 進 め る と み ら れ ま す 。 − ご利 用 に際 して − 本 資 料 は、信 頼 できると思 われる各 種 データに基 づいて作 成 されていますが、当 社 はその正 確 性 、完 全 性 を 保 証 するものではありません。 また、本 資 料 は、執 筆 者 の見 解 に基 づき作 成 されたものであり、当 社 の統 一 的 な見 解 を示 すものではありませ ん。 本 資 料 に基 づくお客 様 の決 定 、行 為 、及 びその結 果 について、当 社 は一 切 の責 任 を負 いません。ご利 用 にあ たっては、お客 様 ご自 身 でご判 断 くださいますようお願 い申 し上 げます。 本 資 料 は、著 作 物 であり、著 作 権 法 に基 づき保 護 されています。著 作 権 法 の定 めに従 い、引 用 する際 は、必 ず出 所 :三 菱 UFJリサーチ&コンサルティングと明 記 してください。 本 資 料 の全 文 または一 部 を転 載 ・複 製 する際 は著 作 権 者 の許 諾 が必 要 ですので、当 社 までご連 絡 ください。 ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。 (お問い合わせ)調査部 TEL:03-6733-1070 E-mail:[email protected] 8/8
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