『意識はいつ生まれる

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当会会員 藤本
意識はいつ生まれるのか。
いつもそこにあって気に留める
こともない自分の意識。物体
やコンピューターとは全く違う
真由美(64期) ●Mayumi Fujimoto
『意識はいつ生まれる
のか 脳の謎に挑む
統合情報理論 』
判断方法ではないようです。
さらに、意識の有無は、単
に脳内の電気信号の量やニュ
ーロンの数では測れないという
はずの心を持つ人間の意識と
解説が続きます。意識がない
は一体何なのか。昔から、漠
脳でも、意識がある脳と同じ
然と、自分の頭に浮かぶ考え
位、脳内の電気信号が発信さ
や気持ちはどこからくるのだろ
れていることや、小脳には大
うと、掴みどころのない疑問を
脳皮質・視床の4倍ものニュー
感じることがありました。学生
ロンがあるものの、小脳がな
時代からずっと文系で、漠然
い人にも意識は存在すること
とした疑問のまま深く考えるこ
が紹介されています。
ともなかったのですが、この疑
問を表題にした本書を見つけ、
ジュリオ・
トノーニ/
以上の検討を経て、結論と
マルチェッロ・マッスィミーニ 著
しては、脳の大脳皮質・視床
亜紀書房
において「豊富な情報を統合
2,376円
(税込)
することができる場合」に意
興味を引かれました。
本書は、医師である著者ら
識があることが明かされます。
が、脳科学の観点から、意識
と意識でないものの違いは何
臨床では、ある刺激に対して
結論だけを言葉で表現すると
かを解明したものです。導入
その人が反応するか否かを見
伝わりにくいかもしれません
部で、著者らは、医学生の解
るそうですが、意識があったと
が、本書では、より詳細な説
剖実習を舞台に、掌に乗る小
しても、刺激した部分の体の
明とともに、脳に直接衝撃を
さく脆い脳が、少し前までは、
機能障害が原因で反応できな
与える実験で、意識がある脳
自分たちと同様に広大な宇宙
い場合があるという問題があ
とない脳の違いを明らかにして
ります。
いますので、意識がある脳に
いたという事実への驚きを表
では、脳内の何らかの変化
ついて何となく理解することが
現するとともに、肉体に宿る意
を測定すればいいのでしょう
できます。意識は、ニューロン
識とは何かという疑問を投げ
か。本書では、ニューロンによ
を通る電気信号の絶妙なバラ
かけます。
る酸素消費量の測定実験が紹
ンスの上に成り立っており、ち
前半では、まず、意識を解
介されています。昏睡状態に
ょっとした物質の変化で簡単
明することがいかに難しいかと
ある患者に特定の場面を想像
に消えてしまうようです。
いう話が続き、その試行錯誤
するように伝え、ニューロンに
医学の専門的な話や哲学の
の過程で問題の所在が明確化
よる酸素消費量を測定して意
話には難解なものもあります
されていきます。例えば、昏
識の有無を判断するそうです。
が、人の意識とはどういうもの
睡状態の人に意識があるか否
もっとも、これも、失語症等に
かを解明し、改めて人の体の
かを、ほかの人はどのように
よりその場面を想像できない
精巧さを感じさせてくれる1冊
判断すればいいのでしょうか。
場合があることから、万全な
です。
(多くの記憶や感情)を宿して
NIBEN Frontier●2017年1・2月合併号
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