Economic Indicators 定例経済指標レポート

EU Trends
イタリアもいざ出陣
発表日:2017年1月26日(木)
~欧州選挙イヤーに新たな不安~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 政治混乱の続くイタリアでは、議会の解散権を持つ大統領が上下両院の選挙制度が食い違うまま総選
挙を行なうことに否定的。憲法裁判所による下院選挙制度の修正提案が明らかとなったことを受け、
早ければ年央にも前倒し総選挙が行なわれる可能性が高まった。二回投票制なしの選挙制度の下では、
連立に否定的な反体制派政党「五つ星運動」が議会の過半数を掌握するのは困難。他方、選挙結果次
第では、現与党「民主党」とベルルスコーニ元首相が率いる「フォルツァ・イタリア」による大連立
でも過半数に届かない可能性がある。反体制派政党が連携する可能性も完全には排除できない。
イタリアの憲法裁判所は25日、下院の選挙制度の一部が違憲であるとの判決を下した。現在の下院の選
挙制度(通称italicum)は、短命政権と改革停滞の打破を目指したレンツィ前首相の議会制度改革の一環
で昨年7月に施行されたが、実際に利用されたことはない。その特徴は、①比例代表制、②二回投票制、
③プレミアム議席、④阻止条項。具体的には、初回投票で40%以上の票を集めた政党に54%の議席を配分
し、残り46%の議席を3%以上の票を獲得した政党間で比例配分する。初回投票で40%以上の票を集めた
政党がいない場合、2週間後に上位2党による決選投票を行い、その勝者に54%の議席を配分し、残り
46%の議席を初回投票で3%以上の票を獲得した政党間で比例配分する。憲法裁判所は初回投票で40%以
上の票を集めた政党に54%の議席を配分する点を合憲とした一方、二回投票制の部分が違憲に当たるとの
判断を下した。さらに、二回投票制をなくした憲法裁判所による修正提案は、新たな立法を待たずに即座
に法的効力を持つことも明らかにした。
憲法裁判所の判決を受け、議会の早期解散・前倒し総選挙の可能性が高まった。事実上の政権の信任投
票と位置づけられた昨年12月の国民投票が大差で否決されたことを受け、反体制派のポピュリズム政党
「五つ星運動」や右派政党「北部同盟」などの野党勢は早期の解散・総選挙を求めている。また、投票否
決で首相の座を退いたレンツィ前首相は、中道左派の与党「民主党」の書記長(党首)にとどまっており、
次期総選挙での首相返り咲きを目指し、早期の解散・総選挙を画策しているとされる。議会の解散権を持
つマッタレラ大統領は、上下両院の選挙制度が食い違ったままで総選挙を行なえば、安定政権の樹立が困
難とし、これまで早期の解散・総選挙を否定してきた。上院の立法権限を制限する昨年12月の国民投票が
否決されたことで、これまで同様に政権発足には上下両院の信任投票が必要となる。上下両院の議会構成
が大きく食い違わない形の選挙制度に改正したうえで、総選挙を行なう方針を示唆してきた。
現在の上院の選挙制度は阻止条項つきの比例代表制を採用する。今回憲法裁判所が二回投票制を違憲と
したことで、下院の選挙制度は阻止条項つき・プレミアム議席つきの比例代表制となる(前述の通り、新
たな立法は必要ない)。各種世論調査では現在40%以上の票を獲得できる政党はいないことから(1958年
の選挙を最後に単独で40%以上の票を獲得した政党はいない)、選挙区割りの関係で両院の議会構成に多
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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少の差が出ることはあっても、両院の選挙制度に大きな隔たりはなくなる。両者の差が十分に小さいと大
統領が判断すれば、来年春の議会任期満了を待たずに、年内に総選挙が行なわれる可能性がある。憲法裁
判所の判決を受け、議会は近く選挙制度を再改正するか否かの検討に入ることが予想される。憲法裁判所
の修正提案のまま総選挙に臨むのが有利か、上院の選挙制度を下院に合わせたうえで総選挙に臨むのが有
利か、憲法裁判所の判決の趣旨を踏まえた新たな選挙制度を下院または両院で立法化したうえで総選挙に
臨むのが有利か、各党の水面下での攻防が開始する。
総選挙の時期として考えられるのは、①今年の6月頃、②今年の秋、③来年春の3つ。憲法裁判所の修
正提案で総選挙を行なう場合や新たな選挙制度が早期にまとまれば、年内総選挙の可能性が高まろう。過
去の議会解散から総選挙までには平均で65日を要している。3月25日にローマ条約調印60周年記念式典、
5月26・27日にはG7首脳会議が開かれ、いずれもイタリア政府がホスト役を務める。また、このところ
イタリア各地で大規模地震が頻発しており、震災直後の選挙実施も回避される可能性が高い。こうした日
程を考慮すれば、総選挙が行なわれるのは最短で6月頃と考えられる。夏場の総選挙実施の前例はなく、
選挙制度改正の議会審議が長引けば、選挙日程は秋にずれ込むことになる。ただ、秋は来年度予算案の審
議日程と重なる。イタリアは欧州委員会から財政規律違反を問われる可能性があり、予算審議への影響を
考慮すれば、結局来年春の議会任期満了を待って総選挙が行なわれることも考えられる。
憲法裁判所の修正提案に基づいて総選挙が行なわれた場合、各種の世論調査が示唆する主要政党の予想
獲得議席は、民主党が約32%でトップ、五つ星運動が約30%で続き、北部同盟が約14%、ベルルスコーニ
元首相が率いる中道右派の「フォルツァ・イタリア」が約13%、右派系ナショナリスト政党の「イタリア
の同胞」が約5%、民主党政権を連立パートナーとして支える中道会派「みんなの場所」が約4%、民主
党と距離を置く左派系会派「イタリアの左派」が約3%を獲得する見込み(表)。ちなみに、選挙区割り
の関係で上院の獲得議席は上記の世論調査結果に比べて民主党に有利に、五つ星運動に不利となる傾向が
ある。何れの政党も単独での過半数獲得は困難で、政権発足には連立を組む必要がある。政党政治批判や
既存政党批判を党の重要な政策として掲げる五つ星運動は他党との連立に否定的。そのため、政権の組み
合わせとしては、①「民主党+フォルツァ・イタリア+みんなの場所」による右派・左派大連立(32.1%
+13.1%+3.5%=48.7%)、②「フォルツァ・イタリア+北部同盟+みんなの場所」の右派政権(13.1%
+13.7%+3.5%=30.3%)などが考えられるが、選挙結果次第では過半数に届かない恐れがある。今のと
ころ他党との連立に否定的な五つ星運動だが、これまでも必要に応じて党の方針を変えてきた。反EUを
除けば政策面での共通項は少ないが、「五つ星運動+北部同盟+イタリアの同胞」の反体制勢力による連
携(29.5%+13.7%+4.8%=48.0%)の可能性も完全には排除できない。
(表)イタリア総選挙での政党別予想獲得票率(%)
フォル
五つ星運
イタリア みんなの イタリア
北部同盟 ツァ・イ
動
の同胞
場所
の左派
タリア
30.6
28.1
13.0
12.5
4.6
3.3
3.1
32.1
29.5
13.7
13.1
4.8
3.5
3.3
民主党
今年に入ってからの世論調査の平均
3%以上の票を獲得する政党で再集計
出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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