連携 最前線 糖尿病地域連携クリティカルパスシステム ICTと疾病管理マップで重症化を抑制 香川県は糖尿病受療率ナンバー1の汚名を返上するために 「糖尿病ワースト1位 脱出事業」 を立ち上げた。香川大学医学部附属病院の糖尿病センターもこの事 業の一翼を担う。遠隔医療ネットワークで病診連携を進め、重症化のリスクが 高い患者を抽出して予防する戦術を同センター長の村尾孝児氏に伺った。 の糖尿病センターもその一翼を担うこ 香川大学医学部附属病院 糖尿病センター長 村尾 孝児 とになりました。 氏 糖尿病専門医と かかりつけ医の連携を築く ――香 川 県 の 糖 尿 病 地 域 連 携クリ 「ワースト1位脱出」に 糖尿病センターが協力 緒におにぎりも食べます。菓子パン ティカルパスシステムは、具体的には 消費量も全国有数です。さらに、野 どのようなものなのでしょう? ――香川大学医学部附属病院の糖尿 菜の摂取量は全国最低レベルで、炭 村 尾 氏 県 の 人 口100万 人 弱 に対 病センターが糖尿病対策に取り組む 水化物中心の食事と言えます。加え し、糖尿病患者は10万人、予備軍は ことになった経緯からお聞かせくださ て、移動に自家用車を使うので、運 その倍と見積もられました。一方、日 い。 動不足になりがちです。だから、糖 本糖尿病学会の専門医は県内に約 村尾孝児氏 都道府県別の糖尿病の 尿病を発症しやすいとされています。 40人しかいません。そのため、合併 受療率(人口10万人対)調査で、香 この状況を憂慮した県は、2012年 症などを精査して治療方針を立てる 川県は常に首位争いをしていました から 「糖尿病ワースト1位脱出事業」 を 専門医と、実際に治療に関わるかか (図1) 。多くの方が名物のうどんと一 立ち上げ、香川大学医学部附属病院 りつけ医の連携は不可欠でした。 そこで、 両者の連携を図るため、 県内で構築・運用されていた 「かがわ 図1 香川県の糖尿病受療率(人口10万人対) と 47都道府県での順位の推移 香川県 350[人] 全国平均 250 8位 4位 2位 2位 5位 います。K-MIXは、インターネットに 接続できる環境さえあれば利用でき ます。 50 K-MIXを使えば、連携する医療機 2011年 2008年 2005 年 2002年 1999年 1996年 特に2008年以降は全国平均からの乖離が大きく、 47都道府県中1位あるいは2位となっている。 Excellent Hospital されたもので、県と医師会がバック 以上の医療機関がK-MIXに参加して 100 02 リティカルパス用に香川大学で開発 アップして全県に広め、今では120 150 0 携ツールとして活用する計画を立て ました (図2)。K-MIXは、周産期のク 1位 300 200 遠隔医療ネットワーク (K-MIX) 」を連 関が記載した診療情報を読めるだけ でなく、書き込みもできるし、医用画 像のやりとりも可能です。既に、脳 卒中などの地域連携パスがK-MIX上 図2 糖尿病地域連携クリティカルパスシステムのイメージ 運動療法 食事療法 で稼働しています。 ―― 糖 尿 病 の 地 域 連 携 パ スで は 定期的な通院及び 運動療法 食事療法 投薬や入院に よる治療 K-MIX上でどのようなデータが蓄積さ れ、やりとりされるのですか? 村尾氏 専門医療機関の検査、かか 中核病院 重度 糖尿病 軽度 りつけ医で行う血液検査のデータな どが自動で取り込まれます。また、 診療所/クリニック/リハビリ病院 フットケアをした場合は説明指導の 内容を選択肢から選んで入力します。 家 庭 システム普及には面倒でないことが 何より大事です。だから、入力の手 間を減らすために電子カルテと連動 毎月、 かかりつけ医で日常診療(血液検査、 尿検査)、 治療、 投薬などを行う。 1年に1回、 香 川大学医学部附属病院などの中核病院で検査、 診断、 指導などを行い、 必要に応じて合併症な どの治療計画を立てる。 させて、そのデータを取り込みます。 患者が自分で測定した体重や血 圧、血糖値もスマートフォンから入力 図3 疾病管理マップのもととなる糖尿病患者の病態ポジショニング してもらえるので、様々なデータがど 血糖コントロール HbA1c んどん集積していくでしょう。 最終的には、合併症評価や年間の 検査のスケジュールなども盛り込ん 高血糖でマクロアンギオパチーが問題 ▶血糖コントロール改善 ▶高血糖に伴う易血栓状態の治療改善 ▶MDCTで冠動脈狭窄評価 ▶必要に応じてPCI で、患者さんごとの診療計画書を作 成することをゴールにしています。糖 尿病のパスは一方向でなく、専門医 とかかりつけ医が患者を交互に診る 血糖コントロールのみ問題 ▶病態に応じた薬剤選択 ▶内臓脂肪過多の有無 高血糖で腎症・網膜症が問題 ▶血糖コントロール改善 ▶網膜症の段階により改善速度調節 ▶CKDのステージに応じた介入 ▶降圧剤・塩分制限・蛋白制限 腎症・網膜症のみ問題 ▶CKDのステージに応じた介入 ▶降圧剤・塩分制限・蛋白制限 マクロアンギオパチーのみ問題 ▶MDCTで冠動脈狭窄評価 ▶必要に応じてPCI 循環型パスです。 専門治療が必要な患者に 早めの介入で重症化予防 大血管症 IMT、LDL-C ――糖尿病は患者さんそれぞれの血 細小血管症 eGFR、u-alb、網膜症 マクロアンギオパチーと腎症・網膜症 ▶CKDのステージに応じた介入 糖値コントロールが重要ですが、そ ▶降圧剤・塩分制限・蛋白制限 ▶腎不全のため血管造影検査に制限 れでも合併症を起こすなど重症化す 血糖コントロールをHbA1c、大血管症をIMTとLDL-C、細小血管症をeGFRとu-albなどの値 から評価し、それぞれの重症度に応じて治療計画を立てる。 る方も出てきてしまいますね。 村尾氏 以前は、かかりつけ医から 病態が悪化した患者さんを紹介され ても、直近のデータしか分かりません ます。 これも、透析に進みそうな患者さんを でした。これからはK-MIXで長期間 例えば、背景も病状も様々な糖尿 ピックアップし、早めの介入で予防も の経過が詳細に分かるようになるの 病の患者さんを、血糖コントロール、 できるようになるでしょう。 で、治療方針を立てやすくなります。 大血管合併症、細小血管合併症とい 専任の医師、看護師、管理栄養士 さらに、糖尿病地域連携パスでは、 う3軸の最小限のデータに基づいて の三者が透析予防について指導管理 層別化し、本当に専門治療が必要な を行った場合に算定できる 「糖尿病透 ています (図3) 。「疾病管理マップ」 人を抽出できるので、専門医の数が 析予防指導管理料」の申請に必要な は、 円滑な地域連携のための情報 少なくても対応できるようになるで アウトカム評価も容易になります。 ツールで、入力データを項目ごとに しょう。 今後は「疾病管理マップ」 とK-MIX 並べ替えたり、検査や指導などの実 人工透析の費用は各自治体にとっ によるパスの両輪で、香川県の糖尿 施状況も一覧できたりするようになり てとても大きな負担となっています。 病対策を進めていきます。 「疾病管理マップ」 との連動を企図し Excellent Hospital 03
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