巻頭言:大学の活動と GE SURGE 会員へのお願い 森 正樹 土岐先生と私が教授に就任して 8 年が経過し、平成 28 年度は 9 年目に入ります。関連病院の先生方の協力 と医局員の活躍で、この 8 年間大過なく過ごせてきたことに感謝申し上げます。 さて、私は日本外科学会で専門医制度委員会副委員長を拝命しているため、この一年は新しい専門医制度 構築の準備に忙殺されました。大阪大学では大学病院を基幹施設として、60 余りの関連病院を連携施設とす る専門医プログラムを作成しました。阪大の外科系全体で一年 70 名の定員を予定しています(若干減らされ ると思いますが) 。この新専門医制度を追い風にして、阪大とその関連病院がますます力強く前進できるよう にしていくことが、何より大切と考えています。その充実は関連病院における医師不足の解消にもつながる 可能性が高く、実際の動向を注視したいと思います。 主に大学でのこの一年の動きを顧みたいと思います。まず、臨床面ですが、上部、下部、肝胆膵・移植の 3 グループともに順調に推移しています。特筆すべきは食道癌手術症例が 100 例を超えたことです。土岐教授 のネームバリューがあってのことで、大変に喜んでいます。他方、永野君、山本君、竹政君が教授就任のた めに抜けた穴は大変に大きかったのですが、下部グループ、肝胆膵・移植グループの残ったスタッフのがん ばりで、症例数を減らすことなく経過しています。今後は大学独自の取り組みや強みをアピールしてさらに 症例数を伸ばしていくことが肝要です。 研究面では 5 つの分科会からの情報発信が活発に続いています。たとえば下部グループからは抗癌剤使用 時の制吐剤に関する SENRI Trial の成果が Eur J Cancer に掲載され、日本の制吐剤使用のガイドラインに収 載されることになりました。貝塚病院の辻中先生が縫合糸と感染の研究で Lancet に成果を発表して以来、質 の高い共同研究成果が間断なく出ていることを、大変喜んでいます。各分科会ともに、多くの共同研究を続 けており、今後も世界のガイドラインを決める成果が出続けることを期待しています。 医局には常時 100 名近い外科医がいますので、彼らの研究を維持するための研究費獲得は最大の課題です。 科研費申請資格のある人は、全員が申請をするように義務付けていますが、採択に関して現実はそう甘くは ありません。基盤 C や若手 B,C などの獲得はもちろんですが、大型研究費の獲得が必須です。講師は基盤 B、 准教授と教授は基盤 A 以上を獲得することが求められます。また、AMED 関係の研究費は文科省科研費よりも 大型であるため、地道に獲得を模索する必要があります。幸い土岐教授と私がそれぞれ二つの大型研究費を 獲得でき、何とか凌げている状況ですが、継続に向けて成果を出していかなければなりません。 このような中で、西塔卓郎君の癌免疫に関する成果が Nature Med に掲載されることになりました。また、 澤田元喜君の癌ゲノム研究成果が Gastroenterology に掲載されました。さらには石井秀始先生のグループか らは癌幹細胞に関する成果が Scientific Report などいくつかのトップジャーナルに掲載されました。短い 研究期間の中で成果を挙げるには、本人のがんばりの他に指導者の力が問われます。スタッフは忙しい臨床 の合間に自分自身の研究を行うこと、さらには後輩の研究を指導することが必須で、大変に忙しい毎日を送 っています。無理をし過ぎるな、と言っても難しいですが、できる限りスタッフの健康面をサポートしてい く必要があるため苦慮しています。 教育に関しては医学部学生の消化器外科に対する評価は、他科に比して大変に良い状況で喜んでいます。 医学部学生の机上と病棟での教育は、私どもが最も力を入れないといけないと考えているものです。真摯な 教育は、必ずや志の高い学生の心に響くと考えています。なお、学外実習をお願いしている関連病院では、 施設間で学生評価に差があることが分かりました。懇切丁寧に指導してくれる施設と、そうでもない施設が あるらしいです。評価が低かった施設には改善をお願いし、教育は大学のみではなく、関連施設を含めた大 きな枠組みで行うことが何より大切という気持ちを共有してもらいたいと願っています。また、消化器外科 の大学院希望者の大学院合格率は高くありません。英語論文の抄読会を必須にして、日頃から英語論文に慣 れ親しむ環境を作って欲しいと願っています。 前述のように、昨年は永野浩昭君、竹政伊知郎君、山本浩文君の 3 名が教授に就任しました。大変に喜ば しいことで、今後の活躍を楽しみにしたいと思います。苦労が多いと思いますが、苦労を喜ぶくらいの度量 で新しい道を作って欲しいと願っています。さらに、この 4 月から西田俊朗君が国立がんセンター中央病院 の院長に就任しました。東病院での実績が評価されての抜擢と思いますが、大変な重職です。これから日本 のがん研究を担う中心になりますので、同門として心から喜ぶと同時に頼りにしているところです。また、 これらの方の活躍は後輩の最適な見本になりますので、一層の活躍を期待しています。 最後になりましたが、2018 年に私が日本癌学会を、そして 2019 年に土岐教授が日本外科学会を主催する ことが内定しました。大阪大学消化器外科の活動が多くの皆様に支持されての結果と思います。その活動は 医局員と関連病院の同門の皆さんによりなされたもので、心から感謝申し上げます。土岐教授と私は一樹百 穫の思いを共有して、後輩を育てることに全力を挙げています。それが大阪大学消化器外科をますます強い 存在にしていくと確信しています。今後とも皆さんとともに、そのような気持ちで後輩の育成に努めて行き たいと思いますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。
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