生徒の興味・関心に即した題材を用いた関係代名詞 which のスピーキング・ライティングの指導例 相沢 隆二 東京都文京区立第十中学校 1. はじめに とと,「生徒の発達の段階及び興味・関心に 学習指導要領では,複数の領域を使った活 即する」つまり,生徒の日常生活や普段の学 動について「『聞くこと』や『読むこと』を 校生活の話題などを通して,生徒が普段考え 通じて得た知識等について,自らの体験や考 ていることなどを自己表現できるタスクを設 えなどと結び付けながら活用し,『話すこと』 定することである。これは「言いたいこと」 や『書くこと』を通じて発信することが可能 「伝えたいこと」「聞きたいこと」「読みたい となるよう,4 技能を総合的に育成する指導 こと」などが明確になっていなければ生徒の を充実する。」とある。また,扱う教材につ 関心や学習意欲を引き出すことにはつながら いては「コミュニケーション能力を総合的に ないからである。 育成するため,実際の言語の使用場面や言語 以上を踏まえて本稿では,生徒の発達段階 の働きに十分配慮したものを取り上げるもの や興味・関心に即したタスクを用いて行った, とする。 」とあり,特に「生徒の発達の段階 4 技能を総合的に育成する新出言語材料の定 及び興味・関心に即して適切な題材を変化を もたせて取り上げるもの」とも記述されてい る。(下線は筆者) これらの学習指導要領の文言を意識した上 着を図る指導例を中心に報告したい。具体的 に取り上げる言語材料は関係代名詞 which (主格)である。 2. 関係代名詞 which を用いたペアワークに で,私が普段の授業の中で留意しているのが 潜む落とし穴 次のようなことである。 主格の関係代名詞 which の用法の定着を図 ①新出の言語材料の導入と練習においてはペ るペアワークなどのタスクとしてはどのよう アワークなどのスピーキング活動からター な も の が 考 え ら れ る だ ろ う か。“This is the ゲットの文法事項を用いた 2,3 文程度のラ イティング活動とその発表活動を必ず行う。 tool which tells us time. What is it? — It’s a watch(clock).” “What is the animal which runs ②教科書の各セクションの英文読解において the fastest in Africa? — It’s a cheetah.” などの語 は,タスクを用いた大まかな内容理解,T/ 彙について定義した英文を用いたペア活動な F な ど を 経 た 上 で の Q&A と い っ た ラ イ どを練習に用いる先生方も多いのではないだ ③上述の言語活動を通して,新出の言語材料 詞の文法事項を定着させる練習としては有効 や教科書本文の理解をさせた後で行う教科 である。しかし,実際の言語の使用場面を想 書の暗唱をベースとした retelling や,簡単 定しているとは言い難い。同じ会話を日本語 をなるべく取り入れること。 け ?—時計でしょう。」「アフリカで一番早く ティング活動を行うこと。 ろうか。確かにこのようなタスクは関係代名 な summary writing などの post reading 活動 にしてみると「時間を教える道具って何だっ ところで,これらの複数の領域を使った活 走る動物って何 ?—チーターだよ。」となる。 動を行う上で特に大切となるのが「実際の言 果たしてこのような会話を中学生が普段の生 語の使用場面を想定すること」すなわち,コ 活の中でするとは到底思えない。さらに言え ミュニカティブバリューの高い教材を選ぶこ ばこれらの練習で関係代名詞の which を用い 教科研究 TOTAL ENGLISH No.128 教研英語128b.indd 11 11 2016/09/22 11:45 [特集]統合的な活動 た英文の運用力を高めることにつながるとは 英文を作らせるスピーキング活動にも取り組 思えない。なぜならば,授業で取り上げられ んだ。例えば芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の本 た英文の題材が生徒の日常生活からはあまり の 表 紙 を 見 せ て “This is the book which was にかけ離れているからである。 3. 中学生の普段の会話として自然かどうか がカギ それでは,関係代名詞の which を用いた英 written by Akutagawa Ryunosuke.” という英文 を作らせるという具合にである。3 つのジャ ンルについて 5 ~ 6 の題材,合計 15 ~ 18 く らいを準備しておくと,対抗戦が盛り上がる。 文で生徒にとって「伝えたい」「聞きたい」 また一度英文を発表した生徒は,その後は と思える題材にはどのようなものが考えられ チームメイトを助けるのみで発表はできない るだろうか。私がここ数年ペアワークの言語 とルールを決めておけば,ほぼ全員の生徒を 材料として用いているのは国民的人気を博す 活動に巻き込むことができる。 るアニメの主人公が様々な場面で用いる道具 ところで,これらの言語活動を設定する上 である。これならばどんな生徒の関心も引く で常に大切にしているのが「実際の言語の使 ことができるし,意外と答えを知らない生徒 用場面」として妥当かということである。こ もいたりするので,英語を通して教え合うと れは言いかえれば,授業で練習している生徒 いう言語活動につなげることができる。 同士,あるいは教師と生徒との会話の内容や キャラクターの道具を用いたペアワーク例 流れが自然なものになっているかどうかとい A: This is the tool which helps you to memorize うことである。 anything. What is it? B: Mmmm…. I think it is “○○○.” A: That’s right. B: This is the tool which takes you everywhere. What is it? A: Mmmm…. I think it is “□□□.” B: No. It is “△△△.” 具体的に私は,ペアワークなどで用いられ る会話を必ず,一度全て日本語に直してその 会話が自然であるかを確認する。前述のペア ワークの例であれば,「(アニメの××が)も のを暗記するときに使う道具,何て言うか 知ってる ?」 「○○だと思うよ。」となるが, これらの会話はそのアニメを知っている生徒 実際にペアワークを行った際にはワーク と知らない生徒の会話としては日本語,英語 シートにこれらの道具のイラストやヒントと 関係なく自然であろう。このように生徒の生 なる言い回しを載せて,生徒が英文を作るた 活体験の中から自然に湧き出てくるような会 めの助けとした。 話ができる言語活動をいかに作り出していく この活動のバリエーションとして考えられ かが,生き生きとした授業の創出に不可欠だ るのが,作家や音楽家が創りだした作品や映 と私は考えている。 画の登場人物などが使っている道具などにつ 4. スピーキング活動と関連づけたライティ いてのリスニング活動である。“What is the ング活動 「自分が欲しいと思う道具や機 Botchan.” “What is the tool which is used to さて,これらのペアワークなどのスピーキ book which was written by Soseki? — It is 械についての英作文と発表」 move in the air? — It is the tool which is used by ング活動を中心としたタスクを行った後に取 ○○.” などの英文が考えられる。 り組んだライティング活動について述べたい。 なお,私はこれらのリスニング活動を行っ た後で,電子黒板にそれらの道具や本や作品 などを映し出し,グループまたはペア対抗で 関係代名詞の which を用いて道具や機械など を説明しあうという活動をスパイラルに発展 させた課題として取り上げたのが,「自分が 12 教研英語128b.indd 12 2016/09/22 11:45 欲しいと思う機械や道具を考えて発表する」 調したい。中学生の今の自分が考えているこ というものである。この発表活動の指導の流 と,伝えたいことを言語材料としてうまく機 れは次の通りである。 能させることができると,英語の授業は実に ①自分が欲しいと思う機械や道具を考えて英 生き生きと盛り上がるのである。 文に表す。それが欲しい理由も加える。 以上,関係代名詞 which の導入後に行った 例)I want a machine which can take me to the スピーキング・リスニング・ライティングの parents. きた。少しでもお役に立つことがあれば幸い past because I want to meet my younger I want a machine which can tell me my friend’s secret because I always want to help my friend. 3 つの領域を使った活動例について報告して である。 5. どんなに小さい活動も他の領域の活動に ②出来上がった英文についてペア同士で発表。 つなげる姿勢を持つ ③ 4 ~ 5 人のグループ発表(それぞれ一番人 次に,普段の授業作りの中で複数の領域を 気があるものを決める)。 使った活動を充実させるために取り組んでい ④各グループ代表による発表会。 ることについて言及したい。それは,50 分 ⑤オークション形式でクラスで一番人気があ の授業中のいかなる時と場合においても,他 る発表を決定。 の領域の活動につなげる姿勢を持ちながら臨 ※それぞれの発表後に,Do you want to buy む, と い う こ と で あ る。 例 え ば,TOTAL ここに掲げた指導例はクラス一斉指導を想 グ活動が用意されているが,この活動もただ 〇〇’s tool(machine)? と尋ねて票決を取る。 ENGLISH にはセクション毎のミニリスニン 定したものだが,本校では少人数指導を行っ のリスニングとしてのみ行うのはもったいな ているので,実際には生徒全員の発表を行い, い。 教師が MC を担当して票決を取るだけでは “Look at Picture A. What is this boy doing? — らに活動を膨らませた。 D. Will Jack catch something? — Yes, he will.” なく,その道具を選んだ生徒にも質問してさ 例)T:(選んだ生徒に)OK, you want to buy 〇〇’s machine, right? Why do you want to buy his(her)machine? S1: Because I want to see my younger parents, too. T:(別の生徒に)How about you? Why do you want to buy his(her)machine? S2: I want to buy his(her)machine because I really want to meet T-Rex and I want to meet Sakamoto Ryoma, too. このように,生徒の発表を活用して再び生 He’s watching a soccer game.” “Look at Picture (Book 2 Lesson 3 Section A, B のリスニング活 動より)のように,リスニング問題のイラス トをピクチャーカードとして用いて復習のス ピーキング活動を行えば,生徒の活動量も増 えるし,この活動がリスニング活動のウォー ムアップ,言いかえれば生徒のスキーマの活 性化につながる。ちょっとしたひと工夫で, ある領域の活動を別の領域の活動につなげる ことができるのである。 6. 外国語の授業である前にことばの授業 最後に,中学生にとって英語の授業は外国 徒とのインタラクションを増やしていくと, 語の授業である以前に「ことば」の授業であ さらにリスニングやスピーキング活動につな ることを再認識して欲しいと思う。学習者同 げることができる。なお,ここで挙げられて 士で考えや気持ちを伝え合う場面がない授業 いる会話例は中学生の日常の生活の中でごく は「ことば」の授業であるとは言えないので 自然に行われるものだということも改めて強 ある。 教科研究 TOTAL ENGLISH No.128 教研英語128b.indd 13 13 2016/09/22 11:45
© Copyright 2024 ExpyDoc