伊丹市都市農業振興基本計画(案)の概要 第1 はじめに 1.伊丹市都市農業振興基本計画策定の趣旨 平成27年4月に施行された「都市農業振興基本法」 (以下、 「基本法」という。 )に基づく、国の「都市農業振興基本 計画」 (以下「国基本計画」という。 )では、都市農業の多様な機能が再評価されるとともに政策課題として明記され農 地の位置付けが「宅地化すべきもの」から都市に「あるべきもの」として大きく転換された。本市においても、平成 23 年4月に策定した“伊丹市「農」の振興プラン” (以下、 「振興プラン」という。 )を見直し、基本法等の趣旨を踏まえた 新たな「伊丹市都市農業振興基本計画」 (以下、 「基本計画」という。 )を策定することとする。 2.基本計画における都市農業の定義 「市内で行われる全ての農業」をいうものとする。 3.基本計画の位置付けと計画期間 基本計画は、基本法第10条に基づき定めるものであり、国・県の地方計画として位置付ける。 計画期間については、振興プランの施策を反映した地方計画として、平成29年度から32年度までの取り組みにつ いて定めるものとする。 第2 関係する団体等の役割と期待されること 1.行政等 市は、地域に最も身近な地方公共団体として、地域において主導的な役割を発揮しつつ、関係団体と連携して地域の ニーズに応じた施策を展開していくことが求められる。また、少子高齢化や人口減少が進行する中、地域活力やコミュ ニティ機能の一層の低下が見込まれることから、農作物の供給だけでなく、農業体験などを通じた交流機会の創出や教 育、福祉と連携した農業の展開など、地域社会の活性化に向けた施策を主導的に推進することが期待される。 2.農業協同組合等関係団体 農業協同組合等関係団体は、国や県、市、関係機関と連携し、地元直売所の振興や小売業との連携など、販売チャン ネルの多角化や開拓による販売力の強化、安定的な農業経営の育成に努めることが求められる。 3.農業者 農業者は、市民への安全・安心・新鮮な農作物の供給、防災空間の確保や身近な農業体験機会の提供など、良好な都 市生活環境の形成にも重要な役割を果たしている。本市の農地は小規模かつ分散化しており、生産に特段のコストが発 生しているため、身近に多くの消費者を抱えるという利点を活かした販売や、食品事業者との連携よる新商品や販路拡 大など、高付加価値な農業を展開していくことが求められる。 4.市 民 農業者との交流や農作業体験への参加等により、農地が貴重な地域資源であることを認識し、営農への理解・協力と いった意識向上により、営農環境の確保や農地の保全に対する協力が求められる。 第3 都市農業の現状・課題 1.都市農業をめぐる状況の変化 (1)都市計画地域 高度経済成長期の宅地需要等に対応するため、昭和43年に新都市計画法が制定された。同法に基づき、市街化 区域は「概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とされ、その区域内の農地については「宅 地化すべきもの」として位置付けられた。 (2)生産緑地と宅地化農地 昭和60年代に入り、三大都市圏を中心として地価が高騰する中、市街化区域内農地について、その宅地化が強 く求められることとなった。これを受け、本市を含む三大都市圏の特定市においては、平成4年以降、宅地化する 農地と保全する農地の区分が行われ、宅地化する農地は、固定資産税が宅地並に課税され、相続税の納税猶予制度 を不適用とするといった措置により、宅地化の促進が図られた。一方保全する農地については、生産緑地地区とし て指定され、長期間にわたり農地としての管理が求められることとなった。 (3)都市農業に係る情勢の変化 平成27年4月、基本法が成立、施行された。基本法では、都市農業を「市街地及びその周辺の地域において行 われる農業」と定義し、平成28年5月に閣議決定された国基本計画では、これまで「宅地化すべきもの」とされ てきた市街化区域内農地の位置付けを「あるべきもの」へと転換、環境共生型の都市を形成するうえで、農地を重 要なものとして位置付ける方向が示された。都市農業振興の大きな転換点になったと言える。 2.本市における都市農業の現状 (1)市内の状況 農地が住宅地と隣接する消費地内という立地を活かし、トマト、葉物野菜が中心に生産されている。また、六次 産業化による「いちじくジャム」 、 「干し芋」などの商品開発も行われている。市民が「農」に親しむ機会として、 市民農園、体験農園、観光農園等が一定充実しており、福祉事業者などが農園の運営を行う事例も見受けられる。 このように、消費者の食や農への関心が高まる一方、農業者の高齢化や後継者確保が問題点として挙げられる。 (2)農業者のすがた 農業者は近隣住民への配慮や、相続の発生による農地の小規模化に伴うコスト増といった都市農業特有の課題に 対応しつつ、農業経営の継続を図っているが、小規模零細、自給的農家が大半を占め、家計における農業経営への 依存度は低いものの、固定資産税、都市計画税、相続税などの負担が大きいことが支障となっている。 (3)市民の意向 農地は市民にとって身近な存在であり、農作物の供給という本来の役割以外にも、生活にやすらぎをもたらす緑 地空間、農業体験や学習の場として、また、防災空間としての機能を有していることから、都市農業の必要性が認 識されつつある。 3.都市農業振興における課題 (1)生産振興 小規模ながらも収益性の高い農業者に対し、より積極的な支援が必要である。 (2)農地保全 農地の保全のため、自給的農家が営農を継続できるような支援策が必要である。 (3)担い手確保・育成 営農事業継承のため、後継者への支援が必要である。 (4)市民との共生 市民との話し合いや交流による、相互理解の推進が必要である。 (5)多様な機能の発揮 災害時の避難場所、火災時の延焼防止、ゲリラ豪雨時の貯水機能等、防災上の役割を活用することが必要である。 (6)税制・生産緑地等 生産緑地の条件である長期営農や,相続税納税猶予の終身営農が事業継承のハードルとなっていることから税制 面での措置が必要である。 (7)その他 福祉分野と農業分野が連携するには、相互理解が必要である。取り組みを始めようとしても、両分野の知識や情 報を得る機会がないことから、その対策を講じていくことが必要である。 第4 本市の都市農業振興の基本施策、施策項目及び目標像 本市は平成23年4月に策定した振興プランで掲げた、基本施策を基に、 「農を活かしたまちづくり」に取り組んでき た。 今後は、国基本計画、県基本計画に基づき、伊丹市総合計画(第5次)の政策目標の主要施策(3) 「都市農業の振興」 とも整合性を図りながら、振興プランを引き継ぐ形で見直し、今回策定する「基本計画」を基に、都市農業の振興を行 うものとする。 都市農業の振興にあたっては、営農意欲の高い農業者のみではなく、自給的農家や自営困難な農地所有者も対象とす ることが必要である。また、都市農業の振興には市民の理解と協力が不可欠であることから、市民に必要とされる都市 型の農業とならなければならない。これらを踏まえ、基本計画では、 「農業者、市民、関連事業者などをパートナーとし、みんなで伊丹の価値を高める「農」の振興」 を目標像とし、この実現が図られるよう、5つの基本施策と、7つの施策項目を提示する。 (次ページのとおり) 第5 都市農業振興施策の推進のために必要な事項 1.税制等の措置 相続税の支払いのため、農地の一部を宅地化し、不動産経営を行っている都市農業者は多い。また、世代を超えて農 地を継承するには、現在の相続制度は負担が大きい。 ↓ 都市農業の振興及び保全には、税負担の公平性に配慮しつつも、 土地利用の在り方を踏まえた税制措置などの見直しが不可欠であり、 生産緑地制度の充実や農地保有に係る負担軽減など、関係機関に対し、 必要な措置を働きかけていく。 2.農地の貸し借りの仕組み作り 農業従事者の高齢化や後継者不足が深刻化し、相続を契機とした売却・転用の進行が危惧される。 ↓ 新たな担い手を確保するには、新規就農希望者や農業参入を希望 する企業等が、都市農業に関与することが必要で、農地の貸し手と 借り手を結びつける体制の構築が必要である。 また、教育や福祉などの農業分野以外の民間企業の農業への参入により、 市民農園の農業体験サービスの提供や農福連携事業など、多様化する市民 ニーズに対応した事業展開ができるよう、体制整備の推進が必要である。 3.土地利用に関する計画への位置付け 高度成長に伴う都市化に対応するため制定された現行の都市計画法は、増加する人口の受け皿として、計画的な市街 地の開発に重点が置かれてきた。人口減少により、農地の宅地化による都市の拡大から、人口規模や地域の特性に応じ た都市政策へ転換されるなど、社会情勢の変化に対応した持続可能な土地利用への転換が求められるため、新たな視点 による土地利用策を確立することが必要であり、計画的な農地の保全・活用を図ることが重要となる。 基 本 施 策 1 持 続 可 能 な 環 境 を つ く る 都 市 農 業 活 か し た 都 市 農 業 の 推 進 基 本 施 策 2 伊 丹 ら し さ を 施策項目①生産性及び所得の向上 (1)農作物の生産拡大 収益性の高いトマトや葉物野菜等の農作物の生産拡大を図るため、農機具等、パイプハウス 等生産施設の導入を支援する。 (2)生産性の向上 生産性の向上を目的に整備する園芸施設や設備等の支援を検討する。 (3)新規品目の導入 既存の品目の経営の安定化に加え、新規品目の導入を支援する。 (4)企業との連携 スーパーマーケット等の量販店や小売店とタイアップした料理レシピの提案、観光業との連携 による産地への誘致を支援する。 (5)ブランド化の推進 地域ブランド化の育成を支援する。 (6)農業技術の継承 農業技術等の取得や継承に向けた各種研修の実施を支援する。 (7)地産地消の推進 地産地消推進の取り組みを支援する。 (8)営農意欲の向上 意欲の高い優秀な農業者を表彰し、営農継続を促進する。 (9)中核農家登録制度の充実 中核農家登録制度の推進を充実させる。 施策項目② 担い手・後継者の確保 (1)担い手確保 農業者の高齢化が深刻化し、家族経営の維持が困難になる農家が増加するため、農地の貸 借等、担い手確保を支援する。 (2)農地の貸し手と借り手のマッチング 農業団体等と連携し、専門家による新規就農者や営農の相談窓口の設置を推進するととも に、福祉事業者や教育機関、食品事業者など、新たな担い手と農地所有者を結びつける仕 組みづくりを検討する。 (3)若手農業者支援 新たに就農する若手農業者への支援を検討する。 (4)女性農業者支援 農作業及び農作物を加工する女性農業者を支援する。 施策項目③ 経営の強化 (1)基本構想の策定 「農業経営基盤強化促進法」にかかる「基本構想」を策定し、効率的かつ安定的な農業経営者 を育成する。 施策項目① 販路拡大・直売所の充実 (1)販路拡大 食品事業者、飲食店と連携し、地元産農作物の新たな販路拡大を支援する。 (2)直売所の支援 地元農作物や加工品を購入できるよう、直売所等の活動を支援する。 (3)情報発信 HP等を通じて直売所のPRを支援する。 (4)販売機会の充実 インショップ・マルシェ等販売機会の拡大を支援する。 (5)食育の推進 学校給食における地元産農作物の使用については、農業者、学校、給食センター、流通業 者、自治体が連携し、地域の実態を踏まえた供給体制の整備等を支援する。 基 本 施 策 3 市 民 が 広 く 親 し め る 農 業 の 推 進 推農基 進福本 連施 携策 の4 基 本 施 策 5 防 災 機 能 の 推 進 施策項目① 市民の理解向上・消費者教育の推進 (1)市民と農業者の相互理解 都市農業の継続には、市民の理解と協力だけでなく、農業者の歩み寄りも不可欠であること から、農業者による出前授業や農作業体験を通じて、都市農業や地域の農作物への理解促 進を支援する。 (2)市民との共生 消費地内にあることが経営のメリットであるが、一方、市民の住環境に配慮した営農が求めら れるため、市民と共生する農業経営を支援する。 (3)環境に配慮した農業の推進 自然環境維持のため、環境負荷の軽減や生物多様性を配慮した「人と環境にやさしい農業」 を支援する。 (4)農に親しむ機会の充実 市民農園や体験農園、観光農園等、農業体験型のサービスの提供を支援するとともに、市民 の憩いの場や交流の拠点となるよう運営・管理を支援する。 (5)学校教育との連携 教育における農業体験・食育のへの取り組みを支援する。 (6)後継者育成の取組 農業者の高齢化等に備え、担い手の育成に努める。 施策項目① 農福連携への支援 (1)農福連携 自治体、福祉機関、農業者等が情報を共有し、福祉分野が農業分野に進出する際の課題を 明らかにし、福祉事業者など関係機関と連携し、遊休農地対策及び営農による就労を支援す る。 施策項目① 防災空間としての活用推進 (1)保全と活用 農地を防災面から再評価し、保全・活用する。 (2)認識の向上 防災空間としての農地の役割を市民に理解してもらうため、セミナー等の開催による知識を得 る機会作りや、ビニールハウス等を用いた防災訓練等を行うことで、防災機能を体験できる機 会を作り理解を促進する。 (3)災害に備えた取り組み 災害発生時に、自治体と農業者が、その農地を防災空間、災害対応及び復旧に資する用地 等として利用する内容の協定の締結を推進する。 目 標 像
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