土木学会 土木広報センターの活動報告 - 一般社団法人 全日本建設技術

特集 土木の魅力が伝わる広報へ 土木学会 土木広報センターの活動報告
やま
もと
よし
まさ
山 本 佳 正*
土木学会では、2015年6月に土木広報センターを設置して以降、土木界が一体となって取り組む広報の
中核となる、さらなる組織を整えながら「土木広報アクションプラン」(土木学会2013年7月)に基づき、
これまでの1年間でさまざまな活動を行ってきた。本稿では、土木広報活動の背景から現在の広報体制を
紹介し、土木広報センターが主体的に行っているこれらの広報活動について報告する。
1.はじめに
隊、警察の活躍はさまざまな方面で紹介され、市民
なぜ土木界における広報「土木広報」が必要なの
の大きな支持を得たのに対比して、これらの活躍を
か。「土木」が暮らしと経済活動を支えているとい
支えた道路や港湾を短期間に切り啓いた土木関係者
う理解と信頼感を、土木広報により市民の中に醸成
の活動の扱いは小さく、土木広報の戦略的な情報発
することで、市民の暮らしを守っていくことにつな
信・広報の不在が大きく影響した。このことが土木
げるためではないだろうか。
広報アクションプランの検討を始めた契機となり、
土木学会ではかねてより土木広報について着目し、
土木界の広報インフラ(戦略と施策・組織体制・仕
体制を整えてきた(表−1)。1987年には土木の日
組み)の構築が始められ、大きく推進されることと
(11月18日)が制定され、市民交流の場として、
なった。
青函トンネルの現場見学会が開催され、大盛況で
あったと聞く。しかし、
「土木広報アクションプラン
【最終報告書】
」
(土木学会2013年7月)にあるよ
うに、根拠の曖昧な「無駄な公共事業」「土建国家」
2.土木広報組織体制の整備
土木広報センターは、土木広報インフラの運営・
推進を担うために設置されたものである。
といった表現で、社会資本整備を負のイメージとと
まず段階的な組織体制の構築を図り、2016年初
らえる論が当時から根強くあり、イメージに流され
めに、土木界が一体となって取り組む広報戦略及び
ず議論を行うためには、正しい知識を持ってもらう
ための広報が不可欠であった。また、未曽有の大災
害となった東日本大震災においては、自衛隊、消防
表-1 土木学会における土木広報体制経緯
1984 年
広報委員会設置
土木の日・土木の週間制定
土木の日実行委員会設置
社会コミュニケーション委員会へ移行
2004 年
コミュニケーション部門編成
(2011 年)
(東日本大震災発生)
土木広報アクションプラン最終報告書
2013 年
土木広報インフラ構築検討準備会
2014 年 土木広報戦略委員会設置
2015 年 土木広報センター設置
土木広報連絡会設置
2016 年
土木広報戦略会議設置
1987 年
*公益社団法人 土木学会 土木広報センター センター長補佐 03-3355-3448
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図-1 土木広報に関する組織関連図
基本方針を策定する横断的な場として「土木広報戦
略会議」
、土木学会内の広報活動の連携強化を図る
⑵ 土木コレクション HANDS&EYES
土木コレクションとは土木界が保有する歴史資料、
場として「土木広報連絡会」を学会内に設置した。
図面、写真など普段目にすることができない各種コ
これら組織の関連性を図−1に示す。この組織体
レクションを展示公開するものである。手書きの図
制は、事務局を土木学会内に置くものの、土木界全
面を中心に展示を行っているのがHANDS、新しい
体が一元化された戦略で一般市民への土木広報を実
コ ン セ プ ト の プ ロ ジ ェ ク ト を 展 示 し て い るのが
施できる仕組みを目指したものである。
EYES、として公開している。2015年度も恒例と
3.土木学会100周年記念事業の継続
多くの土木と市民との交流事業が展開された100
周年事業のうち、その大きな効果が確認できた事業
なっている新宿駅西口広場イベントコーナーで開催
した(写真−2)。常駐する展示会担当者が、図録
に関する質問や図録集の購入について問合せの対応
に追われるなど、今までと同様に反響が大きかった。
については継続していくこととしている。100周年
記念事業ということで潤沢な資金を集めることが出
来た2014年とは大きく違い、限られた予算で同じ
目的を達成するための工夫を凝らすのに各行事は苦
労したが、2015年度に実施したこれら継続事業に
ついて紹介する。
⑴ 市民普請大賞
『市民が主導的な役割を果たしながら、地域を豊
写真-2 土木コレクション 2015(新宿駅西口広場)
⑶ どぼくカフェ
かにするために実践する公共のための取り組み』そ
どぼくカフェは閉鎖的な空間ではなく、市民に対
れが“市民普請”である。このような活動を賞揚する
してオープンな空間で、いろいろな角度から土木に
ため、全国から市民普請に係わるさまざまな取組み
関連する話題提供をするものであり、開催場所は商
を紹介してもらい、市民普請の可能性について議論
店街や駅前空間、役所前など、市民が往来する場所
し、優れた取組みを顕彰するのが市民普請大賞であ
を選定している。関西支部から生まれ、100周年事
る。コンテストは2年おき(次回は2016年度)に
業の一環とされてから全国の支部に水平展開されて
実施し、2015年度は初代グランプリに輝いたグラ
いる活動である。一般の方の興味を掴んで離さない
ウンドワーク三島の取組みを現地でのエクスカー
ような観点からの話題選定に担当者は腕を振るう。
ション※にて視察し、その後開催された全国交流会
関 西 支 部 で は、2016年 4 月 に「 京 都 国 際 マ ン ガ
議2015を通して「市民普請」の役割と可能性につ
ミュージアム」にて開催し、
「どぼく+マンガ」がテー
いて学んだ(写真−1)
。市民団体により見事に再
マとされた(写真−3)。意外なところ(マンガ)
生された小川の水の冷たさを実感した後で、活発な
にも舞台や風景として出てくる土木の話に、親子連
意見交換がされた2日間であった。
れも含めた100人を超す方々が聞き入っていた。
写真-1 市民普請大賞グランプリの現地エクスカーション
写真-3 どぼくカフェ(京都国際マンガミュージアム)
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4.土木広報アクションプランの実行
100周 年 記 念 継 続 事 業 の 他 に、
「土木広報アク
ションプラン【最終報告書】」に提案された33項目
のアクションプランについても、国土交通省の各地
方整備局や土木広報戦略会議に参画している業界団
体により、今後さらにプラン実施を進めていくとこ
ろである。ここでは、アクションプランのうち、土
木広報センターが主体的に行っているものを一部で
写真-4 中学校での土木教室(模型実験)
⑶ 番組制作会社へのはたらきかけ
2016年2月に放映された「未来を拓く土木の力〜
あるが紹介したい。
⑴ SNS公式アカウントによる情報提供
ドボジョが見た!世界 震災復興 未来〜」
(BS朝日)
SNSを用いた気軽な情報発信を通じて、土木界の
(資料−2)の番組制作にあたっては、女性土木技
認 知 度 を 高 め る こ と を 目 標 に、 土 木 学 会 で は
術者が活躍する海外・震災復興などの現場で、取材
“Facebook”公式アカウントを取得し、2011年8
に応じてもらえるところを探すことから協力できた。
月から試行を開始した(資料−1)
。新しい情報の
土木の魅力を伝える質の高い番組制作に協力できた
発信を継続的に行うこ
こととともに、番組制作会社とのパイプを構築でき
とで、確実にファンを
たことは、世の中に土木の必要性を理解してもらう
増 や し、2016年 4 月
ための地道な活動の一歩となった。
に は、「 い い ね!」 獲
得数(フォロワー数)
が20,000人 を 超 え る
こととなった。ただし、
日々新しい情報を更新
し続けることは非常に
高度な作業であり、今
資料-2 土木特番制作への協力(BS 朝日ホームページより)
5.おわりに
土木広報センターが活動を始めて1年ばかりであ
資料-1 SNS による情報提供 後は管理者の育成が課
(2012 年5月のチラシ)
題となる。
るが、本稿にて報告させていただいた土木広報活動
⑵ 土木技術者を講師とした土木教室の開催
について、今後も継続して実施していくことこそが
2015年10月には、小・中学校の児童や生徒に建
重要であると実感している。そのためにも、より多
設産業の魅力を伝える学校訪問型キャラバンの一環
くの業界団体には土木広報関連組織への参画につい
として「建設産業戦略的広報推進協議会」に協力し、
て、またみなさまにはさまざまな市民交流行事への
地すべり模型を使った授業を行った(写真−4)。
参加など、ぜひともご賛同、ご協力いただけるよう
生徒からは、
「模型の実験が印象に残った。勉強に
お願い申し上げる次第である。
なった。
」
「おばあちゃんに電話して地すべりのこと
を教えてあげたい。
」などといった感想が聞け、分
かりやすい模型実験の効果が表れていた。
<参考文献>
(いずれも土木学会 Web サイトで閲覧可)
1)土木広報アクションプラン最終報告書
2)土木学会 100 周年記念アーカイブサイト
【用語解説】
※エクスカーション
……従来の見学会や説明を受けるタイプの視察とは異なり、訪れた場所で案内の解説に耳を傾けながら参加者も意見を交わし、
地域の自然や歴史、文化など、さまざまな学術的内容で専門家の解説を聞くとともに、参加者も現地での体験や議論を行
い社会資本に対する理解を深めていく「体験型の見学会」のこと。
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