(14-5)不動産の評価

14 -5
● 相続・贈与に欠かせない財産評価
不動産の評価
公社債等の評価の例
〔例1〕利付債(上場債の場合)
・相続等の日 平成27年6月1日
・発行価額 額面100円につき99円50銭 ・利率 3%
・利払日 3月20日、9月20日
・額面総額 1,000万円
・市場価格 99円
・評価額の計算
⑴ 経過日数 3月21日から6月1日まで(73日)
⑵ 既経過利息(額面100円あたり)
73
×(1−0.20315)
=0.47811円
100円×3%×
365
⑶ 評価額
1,000万円
(99.00+0.47811)×
=9,947,811円
100 〔例2〕転換社債(非上場転換社債の場合)
もっとも、生活の基盤となる居住地の
の貸地などに分けられ、評価方法が細か
確保と事業承継の円滑化を図るため、一
く定められています。宅地の評価は、市
定の場合には小規模宅地等の特例が認め
街地にあるものは路線価方式、それ以外
られています。これに該当すると、評価
の地域にあるものは倍率方式が原則で
額が、
80%または50%減額されますので、
す。路線価方式は、評価する宅地が面す
非常に有利となります(次のページの
る路線に付された標準価額(路線価)を
Q&A参照)。
もとに、宅地の状況や形態に応じて修正
その他の土地や、借地権などの土地の
した額で評価する方式です。倍率方式は、
上に存する権利についても、細かく評価
課税台帳に登録された固定資産税評価額
方法が定められています。くわしくは税
に国税局長の定める倍率を乗じた額で評
理士などの専門家にお尋ね下さい。
価する方式です。
●土地等の評価原則一覧表
宅 貸
土 地
地
①市街地的形態を形成する地域にあるもの
路線価を基準に、宅地の状況や形態に応じ修正した価額(路線価方式)
②その他
固定資産税評価額×国税局長の定める倍率(倍率方式)
①借地権の目的となっているもの
自用地としての評価額×(1−借地権割合)
*借地権の取引慣行がない地域においては、借地権割合を20%とする
②定期借地権等の目的となっているもの
地 自用地としての評価額−定期借地権等の評価額
自用地としての評価額×(1−権利の残存期間の区分別に定められる割合)
のうち少ない額(上記の算式によらない評価額も認められる場合がある)
③地上権の目的となっているもの
自用地としての評価額×(1−地上権等割合)
宅
貸 家 建 付 地 自用地としての評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
純農地・中間農地
固定資産税評価額×国税局長の定める倍率
純山林・中間山林
〔
〕
宅地としての1㎡ 国税局長の定める1㎡あ
×面積
−
たりの宅地転用造成費
市 街 地 農 地 あたりの評価額
市 街 地 山 林 *国税局長の定める倍率がある地域内のもの
固定資産税評価額×国税局長の定める倍率
財産評価
農地・山林
・相続等の日 平成X年7月10日
・発行価額 97円10銭
・発行日 平成X年2月14日
・償還日 平成X+1年2月14日
・市場価格 97円80銭
・額面総額 1,000万円
・評価額の計算
⑴ 経過日数 2月15日から7月10日まで(146日)
⑵ 既経過償還差益(額面100円あたり)
146
(100−97.10)×
=1.16円
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⑶ 評価額
1,000万
(97.10+1.16)×
=9,826,000円
100 土地は、宅地、農地・山林、宅地以外
・相続等の日 平成X年8月24日
・発行価額 額面100円につき100円
・転換価格 1,000円
・利率 1.5%
・利払日 3月31日、9月30日
・株価 1,250円(財産評価額)
・転換社債の市場価格 140円
・額面総額 500万円
・評価額の計算
⑴ 転換価格<株価なので、320ページの表の転換社債型新株予約権付社債②
但書の算式に従って評価します。
⑵ 評価額
100円
500万円
1,250円×
×
=6,250,000円
1,000円 100 〔例3〕割引債
(非上場割引債または基準気配銘柄に選定されていない割引債の場合)
土地等の評価
市 街 地 周 辺 農 地 市街地農地としての評価額×80%
宅地以外(農地・山林等)の貸地 自用地としての評価額−耕作権等・賃借権等の権利の評価額
生
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産
緑
地
〔
生産緑地でないもの
行為制限期間の区分
× 1−
として評価した価額
別に定めてある割合
〕
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土地の上に 存 す る 権 利
借
地
権
借地権の目的となっている宅地の自用地としての評価額×借地権割合
*借地権の取引慣行がない地域の借地権は評価しない
● 相続・贈与に欠かせない財産評価
じて、限度面積および減額割合が以
定期 借 地 権 等
定期借地権等の目的となってい
×
(定期借地権等割合×逓減率)
る宅地の自用地としての評価額
*上記の算式によらない評価額も認められる場合がある
A特定事業用等宅地等
貸家建付借地権等
借地権または定期借地権等の評価額×
(1−借家権割合×賃貸割合)
B特定居住用宅地等の場合
地上権、永小作権
地上権・永小作権の設定
×権利の残存期間の区分別に定めてある割合
されている土地の時価
C貸付事業用宅地等の場合
〔定義および注意事項〕
借地権 建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権(定期借地権等を除く)
定期借地権等 借地借家法上の定期借地権・事業用借地権・建物譲渡特約付借地権・一時使用目的の借地権
地上権 他人の土地において工作物または竹木を所有するためにその土地を使用する権利(借地権・区
分地上権を除く)
永小作権 小作料を支払って他人の土地において耕作または牧畜を行う権利
耕作権 農地法による解約等の制限の課された農地等の上に存する賃借権
賃借権 借地権・定期借地権等・耕作権に該当するものを除く
貸宅地 宅地の所有者が借地権者等に使用収益させている宅地
貸家建付地 宅地の所有者が建物も所有しており、建物を賃貸して借家人に宅地を間接的に使用収益させて
いる場合の宅地
借地権割合 国税局長が定める割合
権利設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
権利設定時における宅地の通常の取引価額
相続等の日における権利の残存期間年数に応ずる基準年利率※による複利年金現価率
逓減率 権利の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
定期借地権等割合 借家権割合 国税局長が定める割合
地上権等割合 相続税法第23条に、権利の残存期間に応じて定めてある割合
※ 基準年利率は年数または期間に応じ、日本証券業協会において、売買参考統計値が公表される利付国債の複利
利回りを基に計算した年利率によります。
小規模宅地等の特例
同居していた親から宅地を相続したのですが、どのよう
な場合に小規模宅地等の特例が認められますか?
相続等により、居住用や事
地等の評価額の50%または80%を減
業用に用いられていた宅地
額する特例(小規模宅地等の特例)
等で一定の建物または建築物の敷地
を受けることができます。この制度
の用に供されているものを取得した
の概要は下記の通りです。
場合、一定限度の面積まで、その宅
◆ 適用対象宅地と限度面積および減額割合
う宅地等とは、一定の建物または構
被相続人もしくは被相続人と生計を
築物の敷地の用に供され、棚卸資産
一にしていた被相続人の親族の事業
およびこれに準ずる資産に該当しな
の用または居住の用に供されていた
い宅地等のことを指します。
宅地等が対象となります。ここでい
適用対象となる宅地等の種類に応
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の場合
※1
限度面積
減額割合
400㎡
80%
330㎡
80%
200㎡
50%
※1 国営事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等を含みます。
※2 平成27年1月1日以後の相続等では、特例の適用を選択する宅地等が以下のいずれに該当す
るかに応じて、限度面積を判定します。
① Aを選択する場合又はBを選択する場合
A≦400㎡であること。また、B≦330㎡であること。
② C及びそれ以外の宅地等(A又はB)を選択する場合
A×200/400+B×200/330+C≦200㎡であること。
◆ 適用を受けるための要件
小規模宅地等の特例を受けるため
なお、不動産貸付の用に供されて
には以下の要件を満たす必要があり
いた宅地等については、貸付事業を
ます。取得者ごとに要件を判定、以
継承した場合に限り50%の減額が認
下のイ〜ニのいずれかに該当する場
められます。
合、減額が適用されます。
適用対象宅地
イ 特定事業用宅地等(不
動産貸付等の用に供さ
れていた宅地等を除
く)
①②に共通
ロ
特定居
住用宅
①被相続人の居住
地等
の用に供されてい
た宅地等※2
②被相続人と生計を一
にする被相続人の親族
の居住の用に供されて
いた宅地等
ハ 国営事業用宅地等
ニ 特定同族会社事業用宅
地等
取得者の要件
取得者が被相続人の事業を引き継ぎ、相続税の申告期限までその
事業を営み、かつその宅地等を保有している親族である
取得者が被相続人と生計を一にしていた者で相続開始直前から相
続税の申告期限まで自己の事業の用に供し、かつその宅地等を保
有している親族である
取得者が被相続人の配偶者である
取得者が被相続人と同居していた者で※1、相続開始時から相続
税の申告期限まで居住し、かつ申告期限までその宅地等を保有し
ている親族である
取得者が相続開始前3年以内に自己または配偶者所有の家屋に居
住したことがないなどの要件を満たす一定の親族である
取得者が被相続人と生計を一にしており、相続開始直前から相続
税の申告期限まで居住し、かつその宅地等を保有している親族で
ある
取得者が親族であり、引き続き5年以上国の事業の用(特定郵便
局の敷地)に供される見込みがある※3
取得者が相続税の申告期限においてその会社の役員であり、かつ
申告期限までその宅地等を保有している親族である
※1 一棟の二世帯住宅で構造上区分されたものに住んでいた場合、平成26年1月1日以後の相
続等においては「同居」とみなします。
※2 被相続人が老人ホームの終身利用権を有していた場合、平成26年1月1日以後の相続等に
おいては、原則として「居住の用に供されていた」とみなします。
※3 特定の郵便局の敷地の用に供されていた宅地等については、平成19年10月1日以後の相続
等からは、適用できません。ただし、郵政民営化法の規定により、一定の要件を満たすとき
は、適用対象となります。
財産評価
この特例は、相続開始の直前に、
適用対象宅地
下のように定められています。
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16.10.31 5:02:01 PM
● 相続・贈与に欠かせない財産評価
マンションの評価額
定期借地権等の目的となっている貸宅地
定期借地権等の評価額は、自用地としての評価額に定期借地権等割合と逓
減率を掛け合わせた額となります。一方、定期借地権等の目的となっている
マンションを相続したのですが、マンションの評価額は
どのように計算されるのですか?
貸宅地の評価額は、原則として次の二つのいずれか小さい方の価額で評価し
ます。
①自用地としての評価額−定期借地権等評価額
②自用地としての評価額×
(1−権利の残存期間の区分別に定めてある割合
(下表参照)
)
残存期間が5年以下のもの
残存期間が5年を超え10年以下のもの
残存期間が10年を超え15年以下のもの
残存期間が15年を超えるもの
5%
10%
15%
20%
マンションは、土地と建物
それを合計した額がマンションの評
の専有部分から成り立って
価額となります。両者の評価額はそ
いるので、それぞれを別々に評価し、
れぞれ以下のようになります。
●マンションの評価額
建物の専有部分
固定資産税評価額
土地部分
敷地全体の評価額を計算し、それに持分割合をかけた額
ただし、一般定期借地権(存続期間が50年以上の借地権で、存続期間後
延長などがなされないもの)の目的となっている貸宅地については、課税上
弊害がない限り、以下の計算式で求められた額で評価することもできます。
定期借地権等の目的となっている貸宅地=自用地評価額−一般定期借地権相当額
一般定期借地権相当額=自用地評価額×(1−底地割合)×逓減率
(底地割合は、借地権割合に応じて55%〜75%と定められています)
土地・家屋等の負担付贈与や低額譲渡の特例
贈与を受ける人に一定の義務を負わせる贈与を負担付贈与といいます。た
とえば、贈与者の借金を引き受けることを条件とした贈与や、第三者に金銭
を支払うことを条件とした贈与のことです。負担付贈与があった場合には、
贈与された財産の価額から負担額を差し引いた価額に贈与税が課されます。
建物等の評価
土地等や家屋等について負担付贈与があった場合の財産評価には特例があ
家屋、附属設備等、借家権、構築物な
さします。構築物とは、アスファルト、
どについても評価方法が細かく定められ
橋、ガソリンスタンド、プールなどをさ
ています。附属設備等とは、ガス設備、
します。細かい評価方法は下表を参照し
給排水設備など家屋と構造上一体となっ
て下さい。
ている設備や、門や庭園といったものを
●建物等の評価原則一覧表
ります。すなわち、前ページの表による財産評価額ではなく通常の取引価額
(時価)によって土地等・家屋等を評価します。ただし、土地等・家屋等の贈
与をした人の取得価額が贈与時において通常の取引価額(時価)に相当する
と認められるときは、取得価額によって評価することもできます。この特例
は、贈与税を計算する際の不動産の財産評価額と通常の取引価額(時価)との
開きに着目した税負担の不当な回避を防ぐために設けられている措置です。
たとえば、5千万円の借金がある人がマンションを1億1千万円(注)で購
建 物 等
家
屋
固定資産税評価額
入し、そのマンションを借金を引き受けることを条件として、長男に贈与し
貸
家
家屋の評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)
た場合を考えてみます。負担付贈与ですから、長男の支払うべき贈与税額は
①家屋と構造上一体となっている設備(電気・給排水設備等)
家屋の価額に含めて評価する
②門・塀等の設備
〔附属設備の再建築価額−建築時から課税時期までの期間(1年未満の端数があるときは1年)の償却費
または減価の額(定率法)〕×70%
③庭園設備(庭木・庭石・あずまや・庭池等)
調達価額(相続等の日の現況により取得する場合の価額)×70%
マンションの価額から負担額である借金を差し引いた金額をもとに計算しま
附属設備等
〔定義〕
築
物 {再建築価額−建築時から課税時期までの期間(1年未満の端数があるときは1年)の償却費または減価の額(定率法)}
×70%
賃貸割合=
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Aのうち課税時期において賃貸されている各独立部分の床面積の合計
当該家屋の各独立部分の床面積の合計(A)
(時価)が1億2千万円であったとすると、マンションの価額は、財産評価
財産評価
構
す。このとき、マンションの財産評価額が1億円、贈与時の通常の取引価額
額(1億円)ではなく通常の取引価額(1億2千万円)と評価されます。した
がって、1億2千万円から負債の5千万円を引いた7千万円の贈与があった
ものとして贈与税額が計算されることになります。
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負担付贈与設例図
贈与時
取得時
長 男 の
課税価格
7,000万円
負担付贈与
11,000万円
(父親の 取得費)
借入金
5,000万円
10,000万円
(財産評価額)
12,000万円
(時価)
父 親 の
譲渡価額
5,000万円
時価に比べ著しく低い価額で土地等・家屋等の譲渡(低額譲渡)を受けた
場合、通常の取引価額(時価)と譲渡の対価との差額分の贈与があったもの
と評価されます。低額譲渡にあたるかどうかは個別の取引ごとに判定するこ
とになります。たとえば、価格の下落などの合理的な理由がないのに譲渡者
の取得価額より低い価額で譲渡があった場合などがこれにあたることになる
でしょう。
(注)取得時から課税時期までの期間の減価は考慮していません。
外貨建資産等の円換算
外貨建ての資産を相続したのですが、これはどのように
評価されるのですか?
外貨建ての資産は、外貨に
には、相続等の日前で最も近い日の
よって算定された評価額を
レートで換算します。
円換算する必要があります。このと
先物外国為替契約を結ぶことによ
きに用いられる為替レートは、原則
り為替レートが確定している場合に
として、相続等の日における、相続
は、前記の換算方法によらないで、
人等の取引金融機関が公表する対顧
その為替レートにより換算を行う必要
客直物電信買相場(TTB)または証券
があります。
会社等で公表するTTBに準ずる為替
相続等によって外貨建の債務を引
レートとなります。外貨建預金など
き継いだ場合についても、対顧客直
のように取引先の金融機関が特定さ
物電信買相場(TTB)ではなく対顧
れている場合には、その金融機関の
客直物電信売相場(TTS)を用いる
公表するレートを用いる必要があり
点を除き、
同様の取扱いとなります。
ます。相続等の日に相場がない場合
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