実地研修レポート 平成28年度実地研修会 震災復興の現状 〜復興に向けた現在の取り組み〜 (宮城県気仙沼市〜仙台市)レポート 一般社団法人 全日本建設技術協会 杉 戸 直 樹 1.はじめに 構宮城・福島震災復興支援本部気仙沼復興支援事務 本研修会は、東日本大震災から5年4カ月が経っ 所担当役)より、 「CMを活用した復興まちづくり」 た被災地の現状を視察するとともに、復旧・復興の について説明を受けました。本事業においては、従 さまざまな手法(CM方式や事業促進PPP等の活用) 来方式の総価一括請負、総合評価方式等では早期着 や、復旧・復興に携わる方々の貴重な体験について 工、人的資源等に課題があり、スピーディーに復興 学ぶことを目的としたものです。平成28年7月14 事業を成し遂げることは困難であったことから、 (木)〜15日(金)の日程で、全国より45名のご CM方式を活用することで、民間技術力の早期活用 参加のもと開催いたしました。1日目には、翌日の や事業期間の短縮を期待しているとのことです。 ししおり 現場視察について理解をより深めるため、各現場ご なお、鹿折地区、魚町・南町地区については、佐々 担当の方々より講演をいただき、また、聴講終了後 木 氏、日野智之 氏(独立行政法人都市再生機構宮 には講師の方々を交え、参加者同士の交流会を開催 城・福島震災復興支援本部気仙沼復興支援事務所市 いたしました。 街地整備課長)にバスに同乗していただき、道中車 窓より見える事業実施の様子などをご説明いただき ました。 写真-1 聴講の様子 2.気仙沼市被災市街地復興土地区画整理事業 佐々木守 氏(気仙沼市建設部都市計画課長)から、 安全な居住系市街地の整備等についての説明を受け ました。本事業は「気仙沼市震災復興計画」に基づ 写真-2 気仙沼中央公民館屋上より南気仙沼地区を望む 3.三陸沿岸道路気仙沼道路「(仮称)気仙沼 く盛土嵩上げゾーンでの今次津波と同規模の津波で 湾横断橋」建設事業 も浸水しない地盤の高さ(T.P+3.0m〜5.5m)を 阿部進一 氏(国土交通省東北地方整備局仙台河 基本とした整備であること。また、当時の話として、 川国道事務所気仙沼分室建設監督官)から、復興道 市職員自身が被災者である中で震災対応を最優先に 路・復興支援道路である三陸沿岸道路の概要と整備 動いたこと、地元合意形成の苦労したこと等をお話 効果、そして気仙沼港IC(仮)と大島IC(仮)と しいただきました。 をつなぐ、気仙沼市復興のシンボルとしても完成が 続いて、忠藤重行 氏(独立行政法人都市再生機 期待される「(仮称)気仙沼湾横断橋」建設事業に 月刊建設16−09 63 ついて説明を受けました。 川砂防第一班技術次長)から、工事について説明を 復興道路の早期整備にあたっては、事業促進PPP 受けました。州崎地先海岸は、特別名勝松島の「第 を導入し、従来、発注者が行ってきた協議調整等の 一種保護区域」に指定されているため、復旧には擬 施工前業務を、民間技術者チームが一体となって実 石ブロックを使用するなど景観に配慮すること、ま 施するなど、官民が連携して新規事業化区間の業務 た海水浴場として利用されていることから、砂浜の を実施しています。また、事業促進PPPを進めるに 確保・利用に配慮することなどが復旧方針として定 あ た り、 週 1 回、 現 場 常 駐 者 を 交 え た 官 民 間 で められていることなどのお話がありました。 WEB会議の定期開催を必須とし、進捗報告や問題・ 課題等の早期共有を行っています。 また、震災後、時間の経過とともに回復傾向が見 られる動植物も確認されていることから、各分野の 専門家及び学識者からなる「環境アドバイザー制度」 を設け、助言を受けながら環境へ配慮した復旧事業 を実施しています。 現場では、軟弱地盤の圧密沈下対策として、サン ドコンパクション工法による地盤改良の様子を見学 しました。日本に数台しかない、高さ50mを超え 写真-3 (仮称)気仙沼湾横断橋についての説明の様子 4.南三陸町防災対策庁舎 る大型の施工機械の迫力を間近で体感できる貴重な 機会となりました。 3階建て庁舎屋上を2mも上回る津波に襲われ、 屋上へ避難した町職員や住民のほとんどが犠牲と なった現場です。ニュース映像等で何度も目にした はずの防災対策庁舎ですが、実際に目の当たりにす ると、 津波の凄まじさ、避難のため屋上へ上った方々 の恐怖が伝わって来るようでした。参加者の方々は 言葉少なに、一人、また一人と献花台の前で手を合 わせる姿が印象的でした。 写真-5 サンドコンパクション工法の視察 6.仙台市南蒲生浄化センター災害復旧工事 聴講では、小野寺修 氏(仙台市建設局下水道事 業部南蒲生浄化センター整備係主査)から説明を受 けました。南蒲生浄化センターは、仙台市内から発 生する汚水の約7割の処理を担う東北最大の下水処 理場ですが、地震と津波により処理機能に甚大な被 害を受けました。 処理機能の回復に向けた対応として、まずは流れ 写真-4 南三陸町防災対策庁舎 5.州崎地先海岸災害復旧工事 聴講では伊藤良樹 氏(宮城県東部土木事務所河 64 月刊建設16−09 てきた水を放流するため、人力やバキューム車等で ガレキや汚泥を撤去し流水機能を確保、また最初は 固形塩素による消毒を施し放流するなど、簡易処理 により対応し、市民のトイレ利用継続、都市内環境 実地研修レポート 衛生の保持に努めたとのことです。 現場では加藤公優 氏(仙台市建設局下水道事業 部南蒲生浄化センター所長)にご案内いただき、被 害の様子や復旧した施設の様子を見学しました。津 の説明を受けながら地震発生当時の状況や現在のま ちづくりの様子等を、熱心に見学していました。 8.参加者同士・講師との交流会について 波の直撃を受けたポンプ棟は、圧力により壁面が大 今回の実地研修会には、北は青森から南は鹿児島 きく湾曲しており、津波の破壊力を物語っていまし まで、年齢・所属機関・分野さまざまな方にご参加 た。復旧にあたっては、災害復旧の原則である原形 いただきました。1日目に開催した参加者同士の交 復旧ではなく、機能復旧として方針を定め、地震や 流会には講師3名を含む35名の参加により、大い 津波に強く、環境にも配慮した未来志向型の下水処 に盛り上がり、終了後2次会に向かう姿や、翌日の 理場として、平成28年4月には全施設で運転を再 現場視察の最中に意見を交わす姿も見られたことか 開しました。 らも、有意義な交流会になったと言えるのではない でしょうか。 写真-6 南蒲生浄化センターの視察の様子 写真-9 交流会の様子 9.おわりに 震災復興の現状を肌で感じ、積極的に学ぼうとい 写真-7 完成した南蒲生浄化センター 7.震災復興のパネル展示について 初日の聴講に先立ち、宮城県震災復興・企画部震 う参加者の姿勢はもちろん、震災当時の状況、復旧・ 復興が進む被災地の今を伝えたいという現地の方々 の想いが感じられる、たいへん密度の濃い実地研修 会となりました。 災復興推進課のご協力を得て、 「震災復興のパネル また、 「震災復興」というテーマを通じて、国・県・ 展示」がありました。参加者のみなさんは、担当者 政令市・市・機構といった異なる機関の実施事業を 視察でき、また、道路・住宅・砂防・下水道等、異 なる分野について横断的に学習できる、全建ならで はの研修会となりました。参加者のみなさまにとっ ては、自身がお勤めの機関、担当分野に限らず、幅 広く学ぶよい機会となったのではないでしょうか。 全建では今後も、会員のみなさまにとって魅力あ る講習会・実地研修会を企画・開催して参ります。 写真-8 震災復興のパネル展示 積極的なご参加をお待ちしております。 月刊建設16−09 65
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