金融資本市場 2016 年 12 月 28 日 全 12 頁 地域視点でみた家計のリスク資産保有の状況 「貯蓄から資産形成」の地域差を生み出す要因は何か 金融調査部 研究員 森 駿介 研究員 菅谷 幸一 [要約] 我が国家計の資産形成の状況を見るとき、国全体で測ることが多いだろう。しかし、そ れは必ずしも全国一様ではなく、地域差が存在している。例えば、三大都市圏でリスク 資産保有世帯の割合や世帯当たりのリスク資産シェアが相対的に高い一方、北海道・東 北や九州・沖縄におけるこれらの指標は相対的に低い、といった差である。 このような地域差をもたらす要因として、 「貯蓄残高」 「年齢」 「職業」 「金融リテラシー (知識)」 「金融アクセス」等が考えられる。例えば、貯蓄残高が大きい世帯の割合が高 い都道府県においてはリスク資産保有世帯の割合や世帯当たりのリスク資産シェアが 高い傾向にある。 また、世帯主が農林・漁業従事者の世帯、官公職員の世帯が多い地域では、リスク資産 保有世帯の割合が低くなる傾向があり、金融リテラシーが高いと思われる世帯の割合が 高い地域や金融機関が集積しており情報が集まりやすい都市部では、リスク資産保有世 帯の割合や世帯当たりのリスク資産シェアが高い傾向にある。 1.地域差が見られる家計の資産形成の状況 2016 年 9 月に公表された金融庁「平成 27 事務年度 金融レポート」では、日本の家計の資産 形成やリスク資産の保有が他国と比べ進んでいないことが指摘されている。その中では国単位 で見た資産形成の動向の分析がなされているが、家計のリスク資産保有状況は全国一様ではな く地域差がある。 図表1は都道府県別の家計のリスク資産保有状況である。本稿ではリスク資産について、 「株 式」と「株式投資信託」と定義し、各都道府県の全世帯に占める株式・株式投資信託を保有す る世帯の割合を「株式等保有世帯割合」、世帯当たりの株式・株式投資信託保有額が貯蓄現在高 に占める比率を「世帯当たり株式等シェア」とした。 株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2 / 12 図表1 株式等保有世帯割合(上図)、世帯当たり株式等シェア(下図) 35% 株式等保有世帯割合 地域圏平均 30% 25% 20% 15% 10% 5% 全国平均 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 山梨 長野 新潟 富山 石川 福井 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄 0% 北海道・東北 関東 北陸 中部 近畿 中国 四国 九州・沖縄 18% 16% 世帯当たり株式等シェア 地域圏平均 14% 12% 10% 8% 6% 4% 2% 全国平均 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 山梨 長野 新潟 富山 石川 福井 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄 0% 北海道・東北 関東 北陸 中部 近畿 中国 四国 九州・沖縄 (注)二人以上世帯。2014 年。 (出所)総務省「全国消費実態調査」より大和総研作成 これを見ると、三大都市圏で株式等保有世帯割合や世帯当たり株式等シェアが相対的に高い 一方、北海道・東北や九州・沖縄におけるこれらの指標は相対的に低いことがわかる。また、 細かく見ると香川県のように三大都市圏以外でも株式等保有世帯割合が高い都道府県や、新潟 県のように株式等保有世帯割合が他の地域に比して高いが、世帯当たり株式等シェアは相対的 に低い都道府県も確認でき、地域差は小さくない。本稿では、どのような家計がリスク資産の 保有に関してより積極的なのかということを概観するとともに、どのような要因で地域差が生 じているかを検討する。 3 / 12 2.家計のリスク資産保有行動とその要因 家計のリスク資産保有行動に影響を与える主な要因として、 (1)貯蓄残高、 (2)年齢、 (3) 職業、 (4)金融リテラシー(知識)、 (5)金融アクセス等が考えられる1。以下、それぞれの要 因について説明しつつ、リスク資産保有状況の地域差を見ていくことにする。 (1)貯蓄残高 家計のリスク資産保有行動に影響を与える要因として、第一に貯蓄残高が考えられる。これ は、余裕資産が多いほど、資産運用においてリスクテイクする余裕が高まると予想できるため である。実際に、総務省「平成 26 年 全国消費実態調査」を基に全国レベルで見ると、二人以 上の世帯全体の株式等保有世帯割合は 20.9%だが、貯蓄現在高 3,000 万円以上の世帯に限定し てみると 50%強となる。さらに、図表2は貯蓄現在高を基準に5グループに分けたそれぞれの 世帯当たり貯蓄現在高とその内訳だが、貯蓄現在高が高い層ほど世帯当たり株式等シェアも高 くなる傾向が確認できる。 図表2 貯蓄現在高五分位階級の 1 世帯当たり貯蓄現在高と世帯当たり株式等シェア (万円) 6,000 5,000 4,000 15% 預貯金 生命保険等 有価証券 その他金融資産 世帯当たり株式等シェア【右軸】 1,077 1,015 10% 3,000 2,000 470 1,000 0 Ⅰ (下位20%) Ⅱ 173 259 659 1,289 Ⅲ Ⅳ 3,305 5% 0% Ⅴ (上位20%) (注)二人以上世帯。2015 年。 (出所)総務省「家計調査」より大和総研作成 都道府県別で見ても、全世帯に占める貯蓄高 3,000 万円以上世帯の割合(以下、富裕層比率) が高い地域で株式等保有世帯割合が高くなる傾向が確認できる(図表3)。さらに、都道府県別 1 他にも、世帯構成(単身世帯であれば養う家族が少ないと思われることからリスクテイクしやすい)やインター ネット習熟度(高いほど情報収集コストが低く、リスク資産を保有しやすい)等、要因が考えられるが、地域間 で比較できるデータの乏しさ等から本稿では議論の対象としない。 4 / 12 で見た富裕層比率と世帯当たり株式等シェアも正の関係が見受けられる(図表4)。従って、地 域間で見ても、貯蓄残高の大きさは、リスク資産保有状況に影響を与える要因だと推測できる。 図表3 都道府県別 富裕層比率と株式等保有世帯割合の関係 33% 東京 28% y = 1.1518x + 0.0244 R² = 0.6421 株 式 23% 等 保 有 18% 世 帯 割 13% 合 愛知 大阪 富山 和歌山 新潟 香川 山梨 福井 石川 鹿児島 8% 島根 福島 沖縄 3% 3% 5% 7% 9% 11% 13% 15% 17% 19% 貯蓄高3,000万円以上世帯比率 (注1) 二人以上世帯。2014 年。 (注2) 点線は全国平均。 (出所)総務省「全国消費実態調査」 、 「国勢調査」より大和総研作成 図表4 都道府県別 富裕層比率と世帯当たり株式等シェアの関係 東京 15% y = 0.4429x + 0.0156 R² = 0.4526 世 13% 帯 当 た 11% り 株 式 9% 等 シ ェ 7% ア 愛知 大阪 沖縄 香川 福井 富山 石川 鳥取 5% 山梨 鹿児島 北海道 3% 4% 6% 8% 10% 12% 島根 福島 新潟 14% 16% 18% 20% 貯蓄高3,000万円以上世帯比率 (注1) 二人以上世帯。2014 年。 (注2) 点線は全国平均。 (出所)総務省「全国消費実態調査」 、 「国勢調査」より大和総研作成 ただし、後者すなわち都道府県別で見た富裕層比率と世帯当たり株式等シェアの間の相関関 係はやや弱くなっている。その理由の一つは、富裕層比率の高さに比べ世帯当たり株式等シェ 5 / 12 アが低い地域の存在である2。特に、北陸4県(新潟・富山・石川・福井)は共通して散布図(図 表4)の傾向線の下側に位置しており、何かしらの地域性があるようにもうかがえる。この点 については後述する。 (2)年齢 次に考えられるのは「年齢」要因である。住宅購入や教育支出等、大きな支出をし終え貯蓄 残高も大きい高齢世帯の方がよりリスク資産を保有する傾向にあるといわれている。こちらも、 総務省「平成 26 年 全国消費実態調査」を基に全国レベルで見ると、世帯主の年齢別の世帯当 たり株式等シェアは 30 歳未満・30 歳代・40 歳代でそれぞれ 3.7%、5.2%、6.3%であるのに対 し、50 歳代・60 歳代はそれぞれ 8.2%、9.6%と高くなっている。この傾向はそれぞれの地域内 で見ても当てはまる。図表5は地域別の世帯当たり株式等シェアについて全年齢平均と高齢(60 歳以上)世帯平均を比較したものだが、いずれの地域でも高齢世帯の方が全年齢平均よりも高 い。 図表5 地域別 世帯主の年齢別の 世帯当たり株式等シェア 図表6 60歳以上 全年齢平均 全年齢平均(全国平均) 15% 都道府県別 60 歳以上人口比率と 世帯当たり株式等シェア 15% 世 帯 当 た 10% り 株 式 等 シ 5% ェ ア 10% 5% y = -0.4845x + 0.2718 R² = 0.4021 0% 35% 0% 北海道・ 東北 関東 北陸 中部 近畿 中国 四国 九州 40% 45% 60歳以上人口比率 50% (注1)二人以上世帯。 (注2)60 歳以上人口比率は 2015 年。その他は 2014 年。 (注3) 60 歳以上人口比率は 15 歳以上人口に 60 歳以上人口が占める割合で表している。 (出所)総務省「全国消費実態調査」、 「国勢調査」より大和総研作成 しかし、これと異なり地域間で見ると、高齢者比率が高い地域の方が世帯当たり株式等シェ アは低くなる傾向にある(図表6)。つまり、家計のリスク資産保有状況の地域差に関して、年 齢要因は必ずしも強くは影響していないと推測される。 2 沖縄県の存在も相関係数を弱める要因だろうが、異常値である可能性が高い。理由は、①55-59 歳の世帯当た り株式等シェアだけが 27.5%と突出しており、②2004 年、2009 年の調査における世帯当たり株式等シェアはそ れぞれ 2.8%、4.1%とそこまで高くないためである。 6 / 12 (3)職業 次に職業も収入の変動性などの要因から、リスク資産保有行動に影響を与えると思われる。 そこで、世帯主の職業別にリスク資産保有状況を見ると、民間職員と比べ官公職員や農林漁業 従事者の世帯は貯蓄残高が大きいにもかかわらず、株式等保有世帯割合や世帯当たり株式等シ ェアが低いことがわかる(図表7) 。官公職員に関しては、あくまで推論ではあるが一般的にリ スク回避的な性格を有する者が相対的に多いとみられることがその背景にあるかもしれない。 農林漁業従事者は貯蓄現在高が民間職員よりも高いが、収入の変動が相対的に大きいことが、 資産運用におけるリスクテイクを阻んでいる可能性が考えられる。また、個人営業主の株式等 保有世帯割合が民間職員より低いのも同様の理由が考えられる。 これらリスク回避的な傾向を持つ職業に従事する世帯の割合と株式等保有世帯割合の関係を 地域間で見たものが図表8である。これを見ると想定通り、農林・漁業・公務有業者比率が高 い地域ほどリスク資産を保有する世帯の割合が低い傾向にあることがわかる3。このことから、 職業も株式等保有世帯割合の地域差に一定程度影響を与えていると思われる4。 図表7 図表8 世帯主の職業別 リスク資産保有状況 (万円) 3,500 世帯当たり貯蓄現在高【右軸】 40% 株式等保有世帯割合 世帯当たり株式等シェア 3,000 30% 2,500 20% 2,000 10% 1,500 0% 1,000 民 間 職 員 官 公 職 員 農 林 漁 家 個 人 営 業 勤 労 者 以 外 法 人 経 営 者 都道府県別 農林・漁業・公務 有業者比率と株式等保有世帯割合 30% y = -0.9549x + 0.2474 R² = 0.5703 25% 株 式 20% 等 保 有 15% 世 帯 10% 割 合 5% 0% 0% 5% 10% 15% 20% 農林・漁業・公務有業者比率 (注1) 二人以上世帯。 (注2) 農林・漁業・公務有業者比率は 2012 年。それ以外は 2014 年。 (出所)総務省「全国消費実態調査」 、 「就業構造基本調査」より大和総研作成 (4)金融リテラシー(知識) 次に考えられるのは金融リテラシー(知識)の要因である。金融知識が不足していることは リスク資産保有の妨げになる可能性が考えられる。例えば、金融庁「平成 27 事務年度 金融レ 3 ここでは、農林・漁業有業者と公務有業者の世帯比率と株式等保有世帯割合の関係を見たが、それぞれの職業 の世帯比率と株式等保有世帯割合にも負の相関関係は確認できた。 4 ただし、世帯当たり株式等シェアと農林・漁業・公務有業者比率の間の関係は弱かった。 7 / 12 ポート」に掲載されたアンケート調査の結果によると、有価証券投資が必要だと思うのに投資 をしない理由のうち「投資の知識がないから」などいくつかの理由は、金融知識の不足による ものだと推察される(図表9) 。 金融リテラシーをどのように測定するのかは困難だが、大卒者は相対的に金融リテラシーが 高い層だとみなし、リスク資産保有行動と教育水準の関係を都道府県別に見たものが図表 10・ 図表9 有価証券投資が必要だと思うのに投資をしない理由(投資未経験者) 投資未経験者(n=1,135) まとまった資金がないから 73 投資の知識がないから (投資は難しいものだと思うから) 47 投資は損をしそうで怖いから 金融知識要因 38 どのように有価証券を購入したら 良いのか分からないから 37 取引を行う時間的ゆとりがないから 30 投資とは金持ちがやるもの だと思うから 22 投資はギャンブルのようなもので、 イメージが良くない (%) 19 0 20 40 60 80 (注) 金融庁が 2016 年に外部委託により行ったアンケート調査。複数回答。 (出所)金融庁「平成 27 事務年度 金融レポート」より大和総研作成 図表 10 都道府県別 教育水準と株式等保有世帯割合の関係 33% 東京 三重 28% 株 式 等 保 有 世 帯 割 合 23% 新潟 福井 18% 神奈川 香川 大阪 富山 京都 山梨 石川 13% 8% 秋田 y = 1.1782x + 0.005 R² = 0.6251 沖縄 3% 8% 10% 12% 14% 16% 18% 大卒以上人口比率 (注1)二人以上世帯。 (注2)大卒以上人口比率は 2010 年。株式等保有世帯割合は 2014 年。 (注3)点線は全国平均。 (注4)大卒以上人口比率の分母は 15 歳以上人口。 (出所)総務省「全国消費実態調査」 、 「国勢調査」より大和総研作成 20% 22% 24% 26% 8 / 12 11 である。これを見ると、大卒以上人口比率の高い地域ほど株式等保有世帯割合や世帯当たり 株式等シェアが高い傾向にあることがわかる。 また、金融広報中央委員会(2016)「金融リテラシー調査」によれば、金融に関する正誤問題 の正答率の高い県は株式や投信を保有する世帯の比率が高い傾向にあり、これには奈良県や香 川県が当てはまる。特に香川県は、富裕層比率がそれほど高くないものの株式等保有世帯割合 が比較的高く、その背景には、こうした金融リテラシーの高さがある可能性が考えられる。 図表 11 都道府県別 教育水準と世帯当たり株式等シェアの関係 17% 東京 15% 世 帯 当 た り 株 式 等 シ ェ ア y = 0.5217x - 0.002 R² = 0.5841 13% 11% 9% 三重 福井 富山 7% 神奈川 大阪 香川 石川 5% 秋田 山梨 新潟 3% 8% 10% 12% 14% 16% 18% 20% 22% 24% 26% 大卒以上人口比率 (注1)二人以上世帯。 (注2)大卒以上人口比率は 2010 年。世帯当たり株式等シェアは 2014 年。 (注3)点線は全国平均。 (注4)大卒以上人口比率の分母は 15 歳以上人口。 (出所)総務省「全国消費実態調査」 、 「国勢調査」より大和総研作成 (5)金融アクセス さらに、金融機関の身近さや投資に関する情報の得やすさといった「金融アクセス」要因も リスク資産を保有するハードルを引き下げると考えられる。各都道府県の中でも「金融アクセ ス」が相対的に良い地域と考えられる県庁所在地と各都道府県全体の世帯当たり株式等シェア の平均値の差分を見たものが図表 12 である。これを見ると、都道府県において、県庁所在地の 家計の方がリスク資産割合は高いことが確認できる。都道府県の中でも金融機関が集積してお り、情報も集まりやすい地区の方が相対的にリスクテイクに積極的なことが示唆される5 。 5 都市の方がリスク資産をより保有しているのは、都市の方が平均的な教育程度や富裕層比率が高いためだ、と いう解釈もありうる。そこで、大卒以上人口比率や富裕層比率の影響を取り除いた上で、総務省「全国消費実 態調査」における「経済圏」を単位に、都市度(人口密度)と世帯当たり株式等シェアの関係を見ると、両者の 間には有意に正の相関が見られた。 9 / 12 図表 12 県庁所在地と各都道府県全体の世帯当たり株式等シェアの平均値の差分 8% 県庁所在地の方が 世帯当たり株式等シェアが高い 6% 4% 2% 0% -2% 県庁所在地の方が 世帯当たり株式等シェアが低い -4% 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 埼玉 千葉 東京 神奈川 山梨 長野 新潟 富山 石川 福井 岐阜 静岡 愛知 三重 滋賀 京都 大阪 兵庫 奈良 和歌山 鳥取 島根 岡山 広島 山口 徳島 香川 愛媛 高知 福岡 佐賀 長崎 熊本 大分 宮崎 鹿児島 沖縄 -6% 北海道・東北 関東 北陸 中部 近畿 中国 四国 九州・沖縄 (注1) 二人以上世帯。2014 年。 (注2) 「県庁所在地の家計の世帯当たり株式等シェア」-「県全体の家計の世帯当たり株式等シェア」で算出。 (出所)総務省「全国消費実態調査」より大和総研作成 3.お金に関する「地域性」はあるのか ここまで、地域視点でみると、 「貯蓄残高」 「年齢」 「職業」 「金融リテラシー」 「金融アクセス」 がリスク資産保有行動に影響を与えている可能性を指摘した。しかし、これらですべてが説明 できる訳ではない。例えば北陸4県(新潟・富山・石川・福井)は、富裕層比率が相対的に高 いにもかかわらず世帯当たり株式等シェアが低い傾向が見られる(図表4)。これは「地域性」 によるものだろうか。そこで、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(以下、 家計金融世論調査)」を基に、お金に関する「地域性」はあるのかを検討する6。 金融資産選択基準 まず、金融資産を選択する際の基準が地域で異なる可能性を検討する。そこで、地域別の金 融資産選択基準の傾向を見ると、 「収益性」を求める家計の割合が北海道・東北・北陸・九州で 相対的に小さいことがわかる(図表 13) 。このうち北海道・東北・九州に関しては、全国平均に 比べて貯蓄残高が少ないため、リスクを取りにくいと考えられるが、北陸に関しては先述のよ うに富裕層比率も相対的に高く、やや異質な傾向と言える。 6 ただし、家計金融世論調査は、都道府県別のデータは公表していないため、都道府県レベルで見た「県民性」 は把握できない。そのため、個別の都道府県単位の分析は本稿では行うことはできなかった。 10 / 12 貯蓄残高の目標金額の達成度 北陸地域の世帯において、金融資産に「収益性」を求める割合が相対的に低い理由の一つと して、現状の貯蓄残高に満足している可能性が考えられる。家計金融世論調査より、各地域の 貯蓄残高目標金額達成度(世帯当たりの現在の貯蓄残高÷貯蓄残高の目標金額で算出)を見る と、北陸ではこの達成率が全国で最も高い水準であることがわかる(図表 14)。一方で、相対的 に世帯当たり株式等シェアが高い水準である関東・中部・近畿では貯蓄残高目標金額達成率が 他の地域より低い水準となっている。つまり北陸地域の世帯には現状の貯蓄残高に比較的満足 しており、収益を確保するため敢えてリスク資産に投資しなくてもよいと考える家計が多いの ではないかと推察される。 図表 13 地域別・金融資産選択基準で「収益 性」を選択した家計の割合 図表 14 地域別・貯蓄残高目標金額達成率 (現在の貯蓄残高÷貯蓄残高目標金額) 全国平均 全国平均 20% 80% 15% 75% 10% 70% 5% 65% 0% 北 海 道 東 北 関 東 北 陸 中 部 近 畿 中 国 四 国 九 州 60% 北 海 道 東 北 関 東 北 陸 中 部 近 畿 中 国 四 国 九 州 (注)地域単位で見ると調査年ごとにブレが見られたため、 「短期的には地域性に変化はない」という仮定のも と、2007 年から 2015 年の9年間の平均値を採用している。 (出所)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」より大和総研作成 4.まとめ 以上、家計のリスク資産保有行動の地域差をもたらす要因として、 「貯蓄残高」 「年齢」 「職業」 「金融リテラシー」 「金融アクセス」に加え、 「金融資産選択基準」や「貯蓄残高の目標金額の達 成度」を挙げた。こうした要因を踏まえて、地域ごとにいかなる取り組みが必要なのかを考え ていくことが重要だろう。資産形成の必要性はどの地域でも変わらず存在すると考えられるた めだ。 図表 15 は地域別の老後に対する考え方を見たものであるが、北陸地域でも老後が心配だとい う世帯(「多少心配である」もしくは「非常に心配である」と回答した世帯)の割合は約8割と 高い。北陸以外の地域でも、概ね8~9割の家計が老後に対して不安を感じており、これは全 11 / 12 国共通の傾向といえる。その老後の重要な資金源の一つは年金だが、年金に対しても家計は不 安を感じている。家計金融世論調査では、年金に対する考え方も質問しているが、全世帯の約 半数が年金では「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と回答しているのである(図表 16)。 このような年金への不安も全国共通の傾向である。 図表 15 地域別 老後に対する考え方 それほど 心配していない 多少心配である 非常に心配である (%) 北海道 16.6 東北 41.1 10.5 関東 19.3 北陸 17.6 中部 41.7 45.3 43.9 41.9 37.8 38.3 22.1 44.0 37.7 39.2 近畿 19.4 40.7 38.9 中国 18.7 44.0 37.3 四国 18.3 39.1 40.9 九州 18.3 40.4 40.4 0% 20% 40% 60% 80% 100% (注)二人以上世帯。2015 年。 (出所)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」より大和総研作成 図表 16 地域別 年金に対する考え方 年金でさほど不自由なく 暮らせる ゆとりはないが、 日常生活費程度はまかなえる 日常生活費程度も まかなうのが難しい (%) 北海道 43.6 52.8 東北 51.9 関東 45.7 47.4 北陸 47.7 46.1 中部 45.0 47.0 近畿 44.2 45.9 中国 48.1 56.0 四国 40.0 37.4 九州 54.8 45.7 0% 20% 48.3 40% 60% 80% (注)二人以上世帯。2015 年。 (出所)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」より大和総研作成 100% 12 / 12 ここまで見てきた分析をもとに、各地域で資産形成を促すための方策をどう考えたらよいだ ろうか。考えられるアプローチとして3つ挙げられる。一つは、リスク資産を保有する可能性 の高い家計に対して働きかけることだ。本稿では、貯蓄残高や教育水準の高い世帯、民間企業 で働く世帯などがリスク資産をより保有する傾向にあることを示したが、このような特徴を持 つ家計をさらに後押しすることである。 次に公務員世帯に焦点を当てた施策も検討すべきだろう。本稿では公務員世帯はリスク資産 保有に消極的である可能性を示したが、近年は退職金引き下げや公的年金の支給開始年齢引き 上げ等、退職後の生活の不安定化にもつながりかねない厳しい制度改正に直面している。すで に、個人型確定拠出年金制度の整備など自助努力の資産形成を促す制度改正がなされているが その利用について積極的な啓発を行うなどの施策は検討するべきだろう。 また、図表9で見た通り、有価証券投資が必要と思うのに投資をしない家計がその理由とし て挙げるものの中には「投資の知識がないから」 「どのように有価証券を購入したら良いのか分 からないから」等、金融リテラシーを高めることにより解消されると思われるものも少なくな い。さらに、回答対象の家計の 73%が「まとまった資金がないから」を投資しない理由として 挙げているが、平成 29 年度税制改正で導入される予定の積立 NISA など、少額の資金でも資産 形成を行える制度が整いつつあり、そうした存在を広く国民に知ってもらうことも積極的に検 討すべきではないだろうか。 (以上)
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