マクロ経済学の系譜と アベノミクスの評価 エール⼤学名誉教授、内閣官房参与 浜⽥ 宏⼀ お断り 本稿に含まれる政策提⾔は、純然たるわたくし個⼈のものであり、安倍内閣の 政策⽅針とは独⽴である。 東京の街の印象とGDP統計 ビルラッシュの東京、地⽅都市もやや同様 20年オリンピックに、空気のきれいな都市東京を宣伝できる。 どうして公式統計とギャップがあるのか? ⽇銀調査⽉報:分配国⺠所得(過⼤評価としか思えない税務統計)を⽤いると 2014年度のGDPは30兆円増加 内閣府が2008年基準SNA 8兆円の増加 で2013年度の統計を試算すると約19. ⼀億総活躍社会はすでに6割がた達成し ている GNPとGDP 成⻑率に2.5-0.7=1.8%の差、8.5兆円 で国⺠は豊かになっている。 ⾜し合わせてよいとすると、⾜し合わせて60兆円⾜らず。 ⼀億総活躍社会の⽬標額600兆円と現⾏GDP 500兆円の差の100兆円の 約60%はすでに達成されている。 今はマクロ経済学の変⾰期 Keynesの⼀般理論〈1936〉 合理的期待⾰命 〈1972〉から 2008年のリーマン危機を経て「価格決定の財政理論(※FTPL)]に基本的なパ ラダイムが移りつつある。 ジャクソン・ホールの基調講演が(数年前Michael Woodford) 今年Christopher Sims であることが象徴的 シムズ講演「財政政策、⾦融政策と中央銀⾏の独⽴性」は緩い仮定の下で、き わめて印象的に現在のマクロ経済学を⿃瞰し、⽇本のQEやマイナス⾦利政策の 適格の評価を⽰し、さらには⽇本の消費税の将来に対する具体的な提⾔までし ている。わたくしは⽬から鱗が落ちる感を持ち、⽇本の政策に対する評価につ いての以下に述べるような修正を強いられた。 ※FTPL:Fiscal Theory of Price Level ⼀般均衡(各経済主体のバランスシートに忠 実な)モデルでマクロ経済における主体の⾏ 動を考える。 ⺠間主体からなるマクロ経済主体は異時点間のバランスシート〈所得制約式と いってもよい〉の制約のもとに⾏動を⾏う。 外国部⾨を捨象すると、国⺠のバランスシートは、中央銀⾏と、政府のバラン スシートの裏側〈符号を変えたもの〉に他ならない。 これは予想が適応的であろうと、合理的であろうと成り⽴つ。完全雇⽤であろ うと不完全雇⽤であろうと成り⽴つ。 マネタリズムとFTPLの極端な姿 リカード中⽴命題が完全になり⽴てば、⺠間の保有する公債は富ではない。そこで マネタリズムが議論しやすい。 マネタリズム(フリードマン)流動性の落とし⽳を避ける他にインフレ期待を使お うとした岩⽥規久男バージョン) マンデルの体系と資産選択の⼀般⾦融理論。(浜⽥バージョン) アベノミクスの初期段階では⿊⽥政策〈岩⽥バージョンのマネタリズムがよく効い た〉 今はゼロ⾦利制約でQEが伸び悩み、為替市場を通ずるリバランス効果も⾏きどまり の感がある。 FTPLの極端な形は、財政⽀出のすべてがヘリマネのようにマネタイズされる世界を 考えればよい。その仮定の下では、物価⽔準は財政で決まる。 FTPLはいまの⽇銀の袋⼩路に置かれてい る状態を良く説明できる。 ゼロ⾦利制約があるところでは、QEはだんだん効かなくなる。イールド・カー ブの⾦利体系と、量的緩和を達成するのは、同時に量と率のどちらを決めるの かという窮屈な選択となる。 ⿊⽥レジーム以前に戻らないためには、財政⽀出でかすかな⾦利上昇をもたら して、それを⾦融緩和が中和する形にすればよい。財政政策を使って⾦融、財 政のヨットの帆の全開運航が望ましい。 マイナス⾦利はイールドカーブには、⽇欧で効いている、しかし⾦融機関、な いし国⺠の⺠間主体に対する潜在的マイナス効果無視できない。FTPLで考える と、なぜ⽇本の株価がマイナス⾦利で上がらないのかがよくわかる。 いわば代替効果が働いても、所得効果が⺠間の予算制約を(潜在的に)棄損し ている。 シムズの政策提⾔ マイナス⾦利には、⺠間主体のバランス・シートを損なう効果があるので、財 政政策でそれを防ぐ政策とともにやらねばならない。 ⽇本の過去の消費税引き上げも⺠間のバランスシートに⾷い込んでくる。 だから将来の消費税引き上げは⼀応棚上げにすべきである。 財政政策も、⾦融政策も、⺠間の消費、投資等の⽀出決定に与える効果を⼗分 ⾒てから⾏うべきである。 ⽇本の財政再建論との対⽐、公債がマイナスの富であるか、(リカードはゼ ロ)、⺠間にとってプラスであるかとの差 あくまでも政府〈財務省〉のバランスに⽴つ再建論、(Tea Partyも同じ) ⺠間の保有公債はプラスの富であるというのがFTPL 私の政策提⾔ (1)為替レートの乱⾼下に対しては財務当局は介⼊で投機者を懲らしめるべ きである。 (2)企業で過度の流動資産を保有する企業に対し政府は財政措置によってお ⾦にしがみつくのを防ぐインセンティブを与えるべきである。 FTPLの意味するところは、⾦融政策には財政政策の裏付けが必要ということで ある。 政府がインフレ⽬標2% ないし⽇銀物価基調1.5%)が達成されない限り、将来の消費税引き上げは 凍結すべきである。それが満たされれば、毎年1%ずつ段階的に引き上げる。 これがインフレに対する⻭⽌めと機能するであろう。 (あるいはエネルギーと⽣鮮⾷品を除くcore-core
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