Global Market Outlook 2017年USD/JPY見通し 2016年12月19日(月) 第一生命経済研究所 経済調査部 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 USD/JPY 見通し(先行き 12 ヶ月)を 113 で据え置き、これをもって 2017 年の USD/JPY 予想とする。 2017 年の USD/JPY は米経済の回復期待を背景に 120 を突破する場面が予想される一方、USD 高による米 経済への悪影響、新興国不安(含む人民元安)、原油価格下落が再発する可能性があり、そうした局面 では 105 程度まで下落するとみられる。2016 年と同様、年間の値幅はかなり大きくなりそうだが、中心 的な予想は 113 が妥当と判断する。 2017 年に予想される USD/JPY 上昇・下落シナリオは以下のとおり。 <USD/JPY 上昇シナリオ> ・新政権下で米経済の成長率が上向き、「強い米国・強いUSD」が正当化される。 ・FEDが「高圧経済」実現に向けて極めて緩やかな引き締め姿勢を貫くことで投資家の楽観が続く。 ・USD 高とコモディティ価格上昇が併存し、新興国経済への不安が抑制される。 ・日銀が現行パッケージを維持した上で、株式市場・債券市場への介入を続ける。 ・中国の人民元相場、マクロファンダメンタルズ、各種金融環境が安定を保つ。 ・欧州諸国で「ユーロ離脱」が現実味を帯びないこと。 <USD/JPY 下落シナリオ> ・新政権の政策不透明感が増幅し、米経済が減速する。 ・FEDが過度に楽観的になり、市場参加者の予想を上回る引き締めを断行する。 ・USD 高によって米国の企業収益が蝕まれ、企業支出(設備投資・人件費)が減少する。 ・USD 高・米金利上昇が新興国経済への打撃となり、2016 年2月と同様の惨事を招く。 ・日銀がマイナス金利を深掘する、或いは 10 年金利の誘導目標を引き下げる。 ・人民元相場の下落を起点に中国経済の不安が噴出。 ・欧州で「ユーロ離脱の国民投票」が現実味を帯びる。 USD/JPY 140 130 120 110 100 90 予想(先行き12ヵ月) 80 70 10 11 12 13 14 (備考)Thomson Reutersにより作成 15 16 17 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 上記の楽観・悲観シナリオはそれぞれ実現する可能性が高いが、最重要ポイントは米国経済およびF EDの動向となる。弊社米国担当は米経済の実質GDP成長率を 2017 年+2.5%、2018 年+2.4%と潜 在成長率を上回る伸びを予想。完全雇用に近い状態で更なる景気刺激策が発動されれば、潜在成長率の 達成は容易だろう。新政権の舵取りは不透明感が強いものの、FEDが過度な引き締めを断行するよう なことがなければ、米経済は成長加速が見込まれ、世界経済を牽引しよう。こうしたファンダメンタル ズ改善を伴っていれば「強い米国、強いUSD」が正当化されるだろう。 米 実質GDP成長率 (前期比年率、%) 8 6 4 2 0 -2 -4 -6 00 02 04 06 08 10 12 14 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 太線:4四半期平均 このように楽観的な展開となった場合、USD/JPY は 120 突破はおろか 125 を超えても不思議ではない。 筆者は USD/JPY が 125-130 レベルに到達する可能性を現時点で 10%程度と小さく見積もっているものの、 イエレン議長が「高圧経済」を目指すと明確に打ち出せば、その確率は上昇する。一般的に完全雇用下 における財政刺激は、中銀にとって許容できないレベルのインフレ圧力を生じさせ得るため、強い金融 引締めを意識させるが、イエレン議長が「高圧経済」を目指すとのシグナルを発すれば、景気引き締め の優先順位が劣後することを投資家が織り込むので、リスクテイク志向が強まる。そうした下では、世 界的な株価上昇を横目に先進国マイナス金利通貨が全面安となる一方、資源・新興国通貨が堅調に推移 するのが基本。日米金利差はさほど拡大せずとも、USD/JPY は鋭く上昇すると予想される。なお高圧経 済とは、その実現が金融危機後の長期停滞からの脱出手段として有力であるとの考えに基づいており、 最近になってFED内部で真剣に議論されているとみられるものである。 失業率・平均時給 (平均時給、前年比、%) 5 (失業率、%) 12 11 平均時給(右) 10 4 9 3 8 7 2 6 5 1 4 失業率 3 0 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 一方、USD 高による米国経済への打撃、新興国不安(含む人民元安)、原油価格下落が再発すること が十分に想定され、そうした局面では世界的株安の中で USD/JPY は下落が想定される。FEDが過度に 景気を楽観視することで、米長期金利上昇・新興国通貨安が顕著になった時は特に警戒モードを強める べきだろう。USD/JPY 上昇を望む向きは、FEDの利上げパス引き上げを歓迎しがちだが、既に米金利 上昇・USD高傾向が顕著になっている現段階において、その傾向に拍車をかけるようなシグナルは却 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 って投資家のリスク許容度低下に繋がりかねない。それが引き金となって米経済が減速したり、新興国 不安が惹起されたりすれば、「FEDの引き締め→円安」というストーリーは台無しになる。リスクオ フ下では、経常黒字・マイナス金利という逃避通貨の条件を満たす JPY が買われ易く、実際、2016 年1 月から2月中旬にかけてのグローバルリスクオフ局面ではそうした傾向が顕著になった。今回もそのパ ターンに陥る可能性に注意したい。筆者は USD/JPY 下値メドとして 105 程度を想定している。 世界株(MSCI AC WORLD) エマージング通貨 100 440 95 420 90 400 85 80 380 75 360 70 340 65 320 60 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 JPMエマージング通貨インデックス 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 16 (㌦/バレル) 120 JPY 6 HUF 75 4 EUR 80 DXY(右) DKK NOK CHF 2 80 85 IDR PLN SEK 0 CAD 90 60 TRY GBP -2 KRW -4 100 -6 WTI 105 10 11 12 13 14 15 16 17 (備考)Thomson Reutersにより作成 DXY:ドルインデックス -8 20 BRL ZAR AUD NZD 95 40 17 (対USD、%) 8 (DXY) 70 100 16 INR RUB MXN (10年金利、%) -10 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 (備考)Bloombergにより作成 2016/1/1-2016/2/11 主要20通貨 ドットの大きさは経常黒字(対GDP比、過去5年平均) の大きさをあらわす。白抜きは経常赤字。 当時との比較で中国経済の不安が抑制されていることは安心材料だが、その反面、FEDの引き締め 効果を減殺していたECBと日銀の追加緩和(観測)がないことは盲点になりがちだ。2016 年秋頃まで はECB、日銀の追加緩和によって溢れ出た資金が米債市場に向かうことで米長期金利に低下圧力がか かり、それが間接的に米経済をサポートしていたが、もはやそうした資金フローは期待できない。この ことは、日米金利差拡大を通じた USD/JPY 上昇を意識させる一方、米長期金利上昇による引き締め効果 をより強く意識させ、最終的に USD/JPY 下落要因になるとみられる。米経済への打撃、新興国不安が惹 起されれば、USD/JPY は日米金利差拡大で説明できない下落を示すだろう。 65 中国 PMI(Markit) (前年比、%) 25 中国 主要経済指標 20 60 サービス業 55 (前年比、%) 50 15 40 自動車販売台数(右) 30 10 20 5 10 0 50 -10 45 製造業 鉄道貨物輸送量 -20 12 13 14 15 -30 -40 00 16 -10 -20 -15 40 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 0 発電量 -5 02 04 06 08 10 12 14 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 12ヵ月平均 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3 (兆円) 25 本邦投資家による中長期債累計買い越し額(2月以降) 20 15 10 5 0 16/02 16/04 16/06 16/08 16/10 16/12 (備考)Thomson Reutersにより作成 4週平均 最後に日銀の金融政策の影響を考えたい。日銀は2016年9月21日にイールドカーブコントロール、オ ーバーシュート型コミットメントを導入し、2%目標達成に向けた「長期戦」へと移行した。10年金利 を0%に誘導し、米金利主導の日米金利差拡大を狙うことでUSD/JPY上昇に繋げようという試みは目下 のところ成功裏に終わっているように見える。こうした取組みは少なくとも2017年一杯は続くとみられ、 日銀はそのための技術的調整のみに終始するだろう。これまで日銀は円高局面で「救世主」的な役割が 期待され、実際、それに応えるような形で追加緩和を講じてきたが、もはや追加緩和は見込まれない。 このようにUSD/JPYは米国主導の展開が見込まれ、FEDの金融政策次第で大幅な変動が予想される。 2016年と同様、年間の値幅はかなり大きくなりそうだが、現時点での中心的予想は113が妥当と判断す る。また、今後、この予想に修正を加えるタイミングとしては3月FOMC前後が考えられる。その頃には 3月FOMCにおける追加利上げの有無が市場の中心的な話題となっている可能性が高く、FED高官 も、今よりもはっきりとしたシグナルを発することが見込まれるからだ。そして、その頃にはトランプ 新政権の経済政策も一部明らかになっていることだろう。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4
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