1 周波 GNSS 受信機 RTK の考古学調査への応用

1 周波 GNSS 受信機 RTK の考古学調査への応用
Single-Frequency GNSS RTK for Archaeology
海老沼拓史
Takuji Ebinuma
渡部展也
Nobuya Watanabe
中部大学
Chubu University
1.はじめに
現在,海外における考古学調査は,これまで以上に世界
情勢の影響を受ける状況下にある.紛争における遺跡の破
壊や盗掘,あるいは急速な都市開発により十分な調査もな
いまま貴重な文化財が消滅している.こうした状況におい
て,遺跡や遺物の情報を可能な限り記録し,共有するこが
極めて重要かつ緊急の課題となっている.
これまでにも,考古学資料の記録・共有において,レー
ザースキャナやデジタル写真測量などによる高精度な 3D
計測が効果をあげてきた.さらに,こうした 3D 計測を加
速する有力な候補として,近年ではドローンによる SfM
(Structure from Motion)が注目を集めている.SfM は,従
来のデジタル写真測量をベースに,コンピュータビジョン
の自己位置定位技術を取り込んだ画像計測技術であり,計
測や処理が容易であること,テクスチャと形状が同時に取
得できることから,ここ数年で大きくその応用範囲を広げ
ている.
しかし,ドローンによる空撮画像だけでは,3D モデリ
ングの位置合わせや精度を確保するのは困難である.その
ため,撮影画像上で高精度な位置情報が確認できるよう,
撮影範囲内に GCP(Ground Control Point)と呼ばれる標識
を複数設置し,その位置を事前に測量することになる.
GCP の測量には,一般に測量用 GNSS 受信機による RTK
測位が用いられてきた.しかし,海外での遺跡調査では,
近隣に基準局がなく,Starfire などの商用サービスを利用し
ても十分な測位精度が得られないことが多い.また,機材
が高額であることから,GCP の測量手段として十分に普及
していない.
一方で,遺跡調査における 3D 計測では,対象物の調査
領域における高精度な絶対位置は必要とされておらず,あ
くまでも領域内における高精度な相対位置で十分であるこ
とが多い.そのため,調査領域内に自前の基準局を設置す
ることで,ローカルに高精度な測量を実施することが可能
となる.さらに,対象とする遺跡の広さは 1km 四方以下で
あることが多く,基準局からの基線長も短い.
このような条件であれば,高価な測量用 GNSS 受信機で
はなく,安価で小型な 1 周波 GNSS 受信機による RTK で
も十分な測位精度が得られると考えられる.そこで,本研
究では,この夏に行われた中東の遺跡調査において,最新
の 1 周波 GNSS 受信機を持ち込み,現地における GCP の
測量を通じて,その精度と運用性の検証を実施した.
2.計測機材
1 周波 GNSS 受信機として,基準局,移動局ともに ublox 社の NEO-M8T 受信機を採用した.中東においても
BeiDou 衛星が数多く観測できることから,GPS と BeiDou
による RTK を試みる.NEO-M8T は USB シリアルを通じ
てノート PC に接続され,観測された RAW データは一旦
HDD に保存される.その後,RTKLIB による後処理で
Kinematic 測位を実施している.なお,GNSS アンテナとし
て,Tallysman 社の TW3710 を選択した.図 1 に現地にお
ける測量の様子を示す.
図 1: 1 周波 GNSS 受信機による GCP の測量
3.測量結果
今回調査を実施した遺跡は 500m 四方程度の広さであり,
ドローンによる SfM のために 15 点の GCP を準備した.測
位結果の精度だけでなく,安定性も評価するために,1 か
月に渡る調査期間中に,日を置いて計 6 回の計測を実施し
ている.いずれの観測点においても,1 回の測位結果のば
らつきは 5mm 程度であり,すべての測位結果が 3cm 以内
に納まる良好な成果が得られた.さらに,従来の光学測量
との高度方向の比較では,2cm の精度で一致することが確
認された.GCP の測量精度としては 5cm を目標としてお
り,1 周波 GNSS 受信機による RTK であっても十分な精度
が得られることが確認された.
さらに,基線長が短いことに加えて,GPS と BeiDou を
利用することで多数の GNSS 衛星が同時に観測され,
Kinematic 測位の FIX 解への収束も 1 分以下と安定してい
た.GCP の測量に必要な作業時間も短縮でき,SfM による
効率的な 3D 計測が可能となっている.
4.まとめ
従来,高価な測量用 GNSS 受信機が使用されていた GCP
の測量において,安価で小型な 1 周波 GNSS 受信機で同等
の精度が安定して得られる結果は,現地の調査員に広く歓
迎された.今後は,現地での要求が最も高かった携帯可能
なロガーも開発し,より運用性の高い測量装置によるさら
なる効率化を図りたい.