『音楽の科学∼音楽の

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当会会員 行方
音楽は私の趣味の1つであ
る。最近は専ら聴くだけにな
ってしまったが、時折、音楽
関係の本や楽譜を見にいき、
美彦(37期) ●Yoshihiko Namekata
『音楽の科学∼音楽の
何に魅せられるのか? 』
えた不協和音が次第に快感に
(THE MUSIC INSTINCT)
裏切られる快感をもっと味わ
変わるという経験は誰にでも
あるはずである。その結果、
面白そうなものを購入してい
いたくなる。「もっと裏切っ
る。この一冊も偶然手にした
て!」と。快感を提供する側
ものである。ジャンルの相違
は大変である。ただ、本書で
はあるだろうが、音楽に興味
も触れているが、いわゆる大
がない人はおそらくいないと
作曲家たちは霊感によって作
思う。音楽の何がいいのか。
曲をしたと語っている。霊感
副題は「音楽の何に魅せられ
と音楽については、大作曲家
るのか?」である。
へのインタビュー記事が掲載
私は、類書ある中、結論が
フィリップ・ボ−ル 著
されており(『大作曲家が語る
出そうもないこの難問を、著
夏目 大 訳
音楽の創造と霊感』アーサー・
者がよく言えば多角的に、悪
河出書房新社
M・エーブル著、吉田幸弘訳、
く言えばああでもない、こう
4,104円
(税込)
出版館ブック・クラブ)
、彼ら
でもないと論じていること自
は、神の啓示や霊感と自らに
体に大変興味を覚えた。
どの問題についても論じられ
備わった「至高の技芸」によ
内容は多岐にわたるが、ま
ている。
って作曲したと述べている。
ず音楽とは何か(楽音、メロ
さて、音楽が人を感動させ
年の瀬も迫り、『第9』、『メ
ディ、和音、リズム、音色な
る大きな要素として、「予測
サイア』、クリスマスソング、
ど)について例を挙げて説明
と裏切り」が挙げられている。
紅白歌合戦、忘年会のカラオ
されている。退屈だった音楽
「次の展開をほのめかしては、
ケなど音楽のシーズンであ
の授業よりずっと面白い。続
そのとおりに展開したり、裏
る。演歌〈艶歌〉も歌われる
いて本題ともいえる音楽の魅
切ったり、音楽はその連続で
が、演歌といえば、石川さゆ
力の原因につき、「音楽を聴
なりたっている」。聴く者は
りの『天城越え』はプロにし
く と、 脳 は ど う 活 動 す る の
予測が当たっても、はずれて
か歌いこなせない難しい曲と
か」、「音楽はなぜ人を感動さ
も快感を覚えるのである。
いうコンセプトで作られたそ
せるのか」という2章が置か
そこで快感を与えるため作
うだ(『創られた「日本の心」
れ、さらに、音楽の言語性、
曲家はいろいろな手法を使い
神話』輪島裕介著、光文社新
音楽の意味・条件という本質
予測を操ることになる。本書
書)。プロ並みに歌いこなす
的問題に触れている。
ではその手法も具体例を挙げ
私の知る当会会員は、今年度
自動的なジャンル分け機能
て紹介されている。面白い。
は理事者として多忙を極めて
や、人工知能による作曲など
音楽に限らず、経験を積む
おり、拝聴できそうにない。
が最近話題に上るが、そもそ
と何事もある程度予測がつく
音楽に魅せられた私としては
も音楽のジャンルとは何かな
ようになる。当初違和感を覚
とても残念である。
NIBEN Frontier●2016年12月号
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