関西・中部地区 文楽観劇会 (国立文楽劇場)

平成28年12月10日
(HP掲載)
関西・中部地区 文楽観劇会
(国立文楽劇場)
関西地区の文楽観劇会は去る11月4日国立文楽劇場にて実施し、恒
例の「錦秋文楽公演」を楽しんだ。参加者は12名。異口同音に「素晴
らしかった」
「面白かった」とすこぶる好評であった。
演目は三題。第一の演目は「花上野誉碑(はなのうえのほまれのいしぶ
み)」
。これは長編で定番の仇討の物語。この日演じられたのは「志度寺
の段」
。父民谷源八を闇討にされた坊太郎が身を寄せている讃岐国の志度
寺で敵である森口源太左衛門と見まえる場面である。見どころの一つは
「前」の源太左衛門の不敵な憎々しさと貫禄を的確に表現していく豊竹咲甫太夫の語りである。また「奥」
では、口のきけない病を装う坊太郎の乳母・お辻が金毘羅権現に坊太郎の病気平癒を祈り、水垢離をす
るくだりが見事で鶴澤清介の激しい撥さばきが印象に残る。尚、この坊太郎は文楽の子役の中で代表的
な大役の一つとされているとのこと。
第二の演目は「恋娘昔八丈(こいむすめむかしはちじょう)」。大名家が
家宝の「茶入」を騙し取られたことに始まったお家騒動を絡めた伝統的
な勧善懲悪物語である。一段目は「城木屋の段」江戸の老舗材木商の城
木屋で評判の一人娘お駒に、嫌がるのを無理やり経営不振の城木屋を支
援してくれた佃屋喜蔵を婿入りさせる場面から始まる。そこへお駒と恋
仲の大名家執権の息子尾花才三郎が姿を見せ、二人が気持ちが変わらな
いことを確かめ合う。そしてお駒は才三郎のためと喜蔵に毒薬を盛る覚
悟を固めるに至る。この段ではお駒に横恋慕する城木屋の番頭丈八の存
在も面白く、舞台に彩りを添えている。
二段目は「鈴ヶ森の段」才三郎のため喜蔵を手に掛け夫殺しの罪人となったお駒が鈴ヶ森の刑場で処
刑されようとする場面である。あわや処刑となる寸前に、丈八に縄をかけた才三郎が現れる。喜蔵と丈
八が「茶入」を騙し取った仲間と知れ、才三郎が「茶入」を取り戻した結果、お駒の赦免状が下されて
無罪放免となり、物語は大団円となる。
この演目では浄瑠璃の豊竹呂勢太夫、人形では番頭丈八の吉田蓑二郎、才三郎の吉田幸助の評判が高
い。
第三の演目は「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」。安珍と清姫の伝説を題材にした一段物
「渡し場の段」である。愛しい安珍を追って日高川にたどり着いた清姫は渡し守に船を出すよう頼むが、
既に安珍にいる渡し守は相手にしないので、思い余った清姫は川に飛び込み、蛇体と化して道成寺に向
かう。清姫の強い情念を表現する為「かしら」に娘が一瞬に鬼に変化する「角出しガブ」を使い、衣裳
の帯を蛇の尾に見立てる等の工夫を凝らして川渡りの迫力ある舞台が広がる。人形の動きと太夫の語り、
三味線の音の三味一体の文楽ならではの世界を堪能した。
今回の座席は上手前方の席。舞台に近く、しかも太夫と三味線を演奏する床(ゆか)のすぐ前の申し分
ない場所であった。観劇はイヤホーンガイド付きに加
え、舞台上方のスクリーンに台本に当たる「床本(ゆか
ほん)」の文章が横書きで 2 行づつ投影され、太夫の語
りと緩急ぴったりと合わせられており舞台の動きを理
解するのに大いに参考になった。文楽も見やすく、わ
かりやすくなった。
歌舞伎に比べて観劇の機会が少ないと思われる文楽であるが、日本の伝統文化であり、ユネスコ無形
文化資産でもある人形浄瑠璃文楽がこれからもますます愛好者が増えることを期待したい。
昼食は休憩時間30分の間、やや慌しかったが、評判の文楽茶屋の芝居弁当を座席やロビーで美味し
く頂いた。
(関西・中部地区運営委員長
1
増田光一記)